「剛体にはたらく2力を,1つの力にまとめられる?」——作用線の交点を利用した合力の求め方を学ぼう。
質点にはたらく複数の力の合力を考えたように,1つの剛体に複数の力がはたらく場合も, 並進運動や回転運動に対する効果が同じとなるような1つの力として, 合力を考えることができる。
\(\vec{F}_{\mathrm{1}}\),\(\vec{F}_{\mathrm{2}}\) が平行でない場合, これら2力をそれぞれの作用線の交点まで移動して, 平行四辺形の法則によって合成すると,合力 \(\vec{F}\) が得られる。
剛体にはたらく力は作用線上で自由に移動できるため, 2力の作用線が交わる点まで各力を滑らせることで, 通常のベクトルの合成と同じ方法で合力を求められる。
平行でない2力の合力は,作用線の交点に2力を移動させて, 平行四辺形の法則で合成する。 合力の作用線は,この交点を通る。
建設現場のクレーンでは、ワイヤーの張力と重力という「平行でない力」の合力を考える必要があります。2本のワイヤーで吊る場合、ワイヤーの角度が広がるほど各ワイヤーにかかる張力は大きくなります。角度が120度を超えると各ワイヤーの張力が荷重より大きくなり危険です。
「2力が平行だと作用線が交わらない?」——Card 1では作用線が交わる場合を扱った。ここでは,作用線が平行な場合を考えよう。日常のシーソーや天秤もこのケースである。
\(\vec{F}_{\mathrm{1}}\),\(\vec{F}_{\mathrm{2}}\) が平行で同じ向きの場合の合力 \(\vec{F}\) を考える。
合力 \(\vec{F}\) の大きさは \(F_{\mathrm{1}} + F_{\mathrm{2}}\), 向きは \(\vec{F}_{\mathrm{1}}\),\(\vec{F}_{\mathrm{2}}\) と同じ向きで,同一作用線上にある。 また,合力 \(\vec{F}\) の作用線は,線分 AB を力の大きさの逆比 \(F_{\mathrm{2}} : F_{\mathrm{1}}\) に内分する点 O を通る。
条件:棒の点 A に下向き 60 N、点 B(A から 0.80 m)に下向き 40 N の平行な力がはたらいている。合力の大きさと位置を求める。
同じ向きの平行な力なので、合力の大きさは
$$ F = F_1 + F_2 = 60 + 40 = 100 \text{ N} $$合力の作用線は AB を \(F_2 : F_1 = 40 : 60 = 2 : 3\) に内分する点 O を通る。A から O までの距離 \(l_1\) は
$$ l_1 = \frac{2}{2+3} \times 0.80 = \frac{2}{5} \times 0.80 = 0.32 \text{ m} $$検算:A まわりのモーメント \(100 \times 0.32 = 32\) N·m、B の力のモーメント \(40 \times 0.80 = 32\) N·m で一致。
答え:合力は下向き \(100\) N、A から \(0.32\) m(大きい力の方に寄る)。
点 O のまわりの力のモーメントの和について
$$ F_{\mathrm{1}} \cdot l_{\mathrm{1}} - F_{\mathrm{2}} \cdot l_{\mathrm{2}} = 0 $$
であるから,点 O は \(l_{\mathrm{1}} : l_{\mathrm{2}} = F_{\mathrm{2}} : F_{\mathrm{1}}\) となる位置にある。
\(\vec{F}_{\mathrm{1}}\),\(\vec{F}_{\mathrm{2}}\) が平行で逆向きの場合の合力 \(\vec{F}\) を考える。 ただし,\(F_{\mathrm{1}} \gt F_{\mathrm{2}}\) とする。
合力 \(\vec{F}\) の大きさは \(F_{\mathrm{1}} - F_{\mathrm{2}}\), 向きは大きい方(\(\vec{F}_{\mathrm{1}}\))と同じ向きで,同一作用線上にある。 また,合力 \(\vec{F}\) の作用線は,線分 AB を力の大きさの逆比 \(F_{\mathrm{2}} : F_{\mathrm{1}}\) に外分する点 O を通る。
平行な2力の合力の作用点は,力の大きさの逆比で決まる。 同じ向きなら内分,逆向きなら外分する位置を通る。
「大きさが等しく,平行で逆向きの2力は合成できない?」——偶力という特別な力の組み合わせを学ぼう。
大きさは等しいが,平行で逆向きの2力 \(\vec{F}\),\(-\vec{F}\) が剛体に加わっている場合には, 線分 AB を \(F : F = 1 : 1\) に外分する点は存在しない。 したがって,この2力を1つの力に合成することはできない。
このような場合,この2力を1対のものと考えて偶力(couple)という。 偶力は1つの力に合成できない。
偶力の作用線間の距離を \(l\) とすると, どの点のまわりの力のモーメントを考えても,その和は
偶力は,剛体を回転させるはたらきをもつが, 剛体を移動(並進運動)させるはたらきはもたない。
条件:蛇口のハンドル(直径 0.060 m)の両端に、互いに逆向きで大きさ 25 N の力を加える。
2力の作用線間の距離は \(l = 0.060\) m。偶力のモーメントは
$$ M = Fl = 25 \times 0.060 = 1.5 \text{ N·m} $$基準点をどこにとっても同じ値。例えば左端から \(x = 0.020\) m の点まわりで確認すると
$$ M = 25 \times 0.020 + 25 \times (0.060 - 0.020) = 0.50 + 1.0 = 1.5 \text{ N·m} $$答え:偶力のモーメントは \(1.5\) N·m(基準点によらず一定)。
偶力の作用線間の距離を \(l\),任意の点 C から一方の作用線までの距離を \(x\) とする。 点 C のまわりの力のモーメントの和は
$$ Fx + F(l - x) = Fl $$
\(x\)(C の位置)によらず,モーメントの和は常に \(Fl\) となる。
偶力のモーメント \(M = Fl\) は,基準点をどこにとっても同じ値になる。 偶力は回転の効果のみをもち,並進運動の効果はない。
「物体をどこで支えればつりあう?」——これまで学んだ平行な力の合力の考え方を使えば,物体の各部分にはたらく重力を1つの力にまとめることができる。その合力の作用点が重心である。
物体を多数の小さな部分に分けて考えるとき,各部分には鉛直下向きの重力が作用する。 これらの力の総和が物体にはたらく重力となり, この合力の作用点を重心(center of gravity)という。
物体の各部分に作用する重力は,物体全体を代表する一点, すなわち重心に作用するものとして扱うことができる。 物体の姿勢を変えても,重心は常に物体の同じ点を通る。
軽い棒で結ばれた小物体 A,B の重心を考える。 物体 A,B にそれぞれ大きさが \(m_{\mathrm{1}} g\),\(m_{\mathrm{2}} g\) の 平行な重力がはたらく(\(g\) は重力加速度の大きさ)。
この2力の合力の作用点は,線分 AB を力の大きさの逆比 \(m_{\mathrm{2}} : m_{\mathrm{1}}\) に内分する点 G であり, これが重心である。座標を用いると,
1次元(直線上)の場合は \(l_{\mathrm{1}} : l_{\mathrm{2}} = m_{\mathrm{2}} : m_{\mathrm{1}}\) に内分。 xy 平面上では,x 座標・y 座標それぞれに同じ式を適用すればよい。
条件:質量 3.0 kg の物体 A が座標 (1.0, 2.0) m に、質量 1.0 kg の物体 B が座標 (5.0, 6.0) m にある。
x 方向の重心座標は
$$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} = \frac{3.0 \times 1.0 + 1.0 \times 5.0}{3.0 + 1.0} = \frac{3.0 + 5.0}{4.0} = 2.0 \text{ m} $$y 方向の重心座標は
$$ y_G = \frac{3.0 \times 2.0 + 1.0 \times 6.0}{4.0} = \frac{6.0 + 6.0}{4.0} = 3.0 \text{ m} $$答え:重心は \((2.0,\; 3.0)\) m。質量の大きい A に寄っている。
3つ以上の小物体や,一般の剛体の重心の座標を求めるときは, 2物体の重心を求める操作をくり返せばよい。
「実際に重心はどうやって求める?」——実験による求め方と,一様な物体の重心・重心の運動について学ぼう。
糸で物体を吊るすと,糸が引く力と重力がつりあうため, 重心は糸の延長線上にある。 2つの異なる点から物体を吊るし, それぞれの糸の延長線が交わる点が重心である。
一様な物体(密度が一定)の重心は,その物体の幾何学的な中心(図心)と一致する。
大きさのある物体の運動は回転を伴い,一見複雑に見えることがある。 しかし,物体の重心の動きに注目すると, 三角定規や木槌が回転しながら飛ぶ場合でも, 重心は放物線を描いて運動していることがわかる。
重心は「質量の重みづけ平均」の位置にある。 質量が大きい物体の方が重心に近い。 xy 座標は x,y それぞれについて同じ式で計算する。
重心は「各部分にはたらく重力の合力の作用点」です。一様な物体では幾何学的な中心と一致しますが、密度が不均一な物体では重い部分に偏ります。やじろべえが倒れないのは、重心が支点の真下に来るように設計されているからです。
「物体はいつ転倒する?」——重力の作用線と支点の位置関係が,安定性を決める。
粗い水平面上に置かれた直方体の上端を指で水平に押すとき, 押す力が大きくなると物体は傾き始める。 垂直抗力と摩擦力の合力(抗力)の作用点が, 物体の下面の角(支点)に達したときが傾き始める境界である。 それ以上押すと,物体は支点のまわりに回転して傾く。
なお,傾く前に押す力が最大摩擦力を超えた場合は, 物体は傾かずに水平面上をすべり始める。
少し傾けた直方体が,もとの状態に戻るか,転倒するかは, 重力の作用線が回転の支点をこえるかどうかで決まる。
重力の作用線が,回転軸(支点)をこえると転倒する。 やじろべえは重心が支点より下にあるため安定し, 重心が支点より上にあると不安定になる。
ピサの斜塔は約5.5度傾いていますが、重力の作用線が底面(支持面)の端を越えていないため転倒しません。1990年から2001年にかけて行われた修復工事では、北側の地盤から土を除去して傾斜を約0.5度戻しました。現在の傾斜角では、重力の作用線は底面の中心から約2.3 m外側にありますが、まだ底面内に収まっています。
連続的な質量分布をもつ物体の重心は積分で求めます。
$$ x_G = \frac{\int x\,dm}{\int dm} = \frac{\int x\,\rho(x)\,dV}{\int \rho(x)\,dV} $$
一様な密度の三角形板なら重心は「各頂点から対辺の中点を結ぶ線(中線)の交点」に位置し、これは各頂点座標の平均 \(\left(\frac{x_1+x_2+x_3}{3},\, \frac{y_1+y_2+y_3}{3}\right)\) で求められます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
偶力(大きさが等しく向きが反対の2力)は物体を回転させますが、並進させません。入試では「直方体が斜面上で滑るか倒れるか」を判別する問題が出ます。重心からの垂線が底面(支持面)の外に出ると転倒します。
幅 \(a\)、高さ \(b\) の直方体が角度 \(\theta\) の粗い斜面(静止摩擦係数 \(\mu\))に置かれている。
滑り出す条件:\(\tan\theta \gt \mu\)
転倒する条件:重力の作用線が底面の角を越える → \(\tan\theta \gt a/b\)
\(\mu \lt a/b\) なら滑りが先に起きる(転倒前に滑る)。\(\mu \gt a/b\) なら転倒が先(滑る前に倒れる)。
質量 \(m_1\)(位置 \(x_1\))と \(m_2\)(位置 \(x_2\))の物体の重心を求める。
【立式】重心 \(x_G\) は重力の合力の作用点であり、重心まわりのモーメントのつりあいから:
$ m_1 g(x_G - x_1) = m_2 g(x_2 - x_G) $
両辺の \(g\) を約分して展開すると:
$ m_1 x_G - m_1 x_1 = m_2 x_2 - m_2 x_G $
\(x_G\) の項を左辺にまとめると:
$ (m_1 + m_2)x_G = m_1 x_1 + m_2 x_2 $
したがって:
$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} $
これは「質量による重みつき平均」であり、3個以上の物体にも自然に拡張できる。