物理 > 第1編 力と運動 > 第3章 運動量の保存

① 運動量と力積

🎳 1. 運動量

卵を床の上に落とすと割れるが,やわらかいクッションの上に落とすと割れないのはなぜだろうか——この節では「運動量」と「力積」がどのようなものか理解しよう。

時速5kmの大型トラック(10トン)と時速100kmの軽自動車(1トン)。正面からぶつかったら、押し負けるのはどちら?
軽自動車(速いから勝つ)
引き分け(ぶつかれば同じ)
軽自動車(トラックに押し戻される)
トラックの運動量は \(10000 \times 5 \fallingdotseq 50000\)、軽自動車は \(1000 \times 100 \fallingdotseq 100000\)(km/h単位の概算)。実は速度が圧倒的に大きい軽自動車の運動量の方が大きいのですが、トラックは質量20倍もあるため衝突後の減速が小さく、軽自動車は大きく押し戻されます。「運動の勢い」は質量×速度で決まります。

運動量とは

ボウリングでは,質量の大きいボールが速く転がるほどピンを勢いよく倒す。 このような「運動の勢い」を表す物理量が運動量(momentum)である。 質量 \(m\)〔kg〕の物体が速度 \(\vec{v}\)〔m/s〕で運動しているとき,その積 \(m\vec{v}\) を運動量という。

💡
運動量(momentum):質量 \(m\) と速度 \(\vec{v}\) の積。
大きさと向きをもつベクトル量で,向きは速度と同じ。単位は kg·m/s。
\(\vec{p} = \)\(m\vec{v}\)
\(m\)〔kg〕:質量
\(\vec{v}\)〔m/s〕:速度
\(\vec{p}\)〔kg·m/s〕:運動量

運動量の単位は kg·m/s である。 速さが同じでも質量が大きいほど,また質量が同じでも速さが大きいほど運動量は大きくなる。

📌 ポイント

運動量はベクトル量。向きは速度と同じ向き。

🧮 計算例:トラックと野球ボールの運動量比較

条件:質量 10000 kg のトラックが時速 36 km/h(= 10 m/s)で走行。質量 0.15 kg の野球ボールが 40 m/s で飛んでいる。

トラックの運動量:

$$ p_{\text{トラック}} = mv = 10000 \times 10 = 1.0 \times 10^5 \text{ kg·m/s} $$

野球ボールの運動量:

$$ p_{\text{ボール}} = 0.15 \times 40 = 6.0 \text{ kg·m/s} $$

答え:トラックの運動量はボールの約 \(1.7 \times 10^4\) 倍。ゆっくり走るトラックでも、運動量は猛スピードの野球ボールの1万倍以上ある。

🥊 豆知識:ボクシングのパンチと力積

プロボクサーのパンチは約5000Nの力を0.01秒だけ加えます(力積 ≒ 50 N·s)。一方、掌底(てのひら)で同じ力積を与える場合、接触時間が長いため最大の力は小さくなります。KO パンチの秘訣は「短い接触時間で大きな力を伝える」ことにあります。

質量 0.15kg のボールが 20m/s で飛んでいる。運動量の向きと大きさは?
向きは速度と逆向き、大きさ 3.0 kg·m/s
向きは速度と同じ、大きさ 133 kg·m/s
向きは速度と同じ、大きさ 3.0 kg·m/s
運動量 \(\vec{p} = m\vec{v}\) はベクトル量で、向きは速度と同じです。大きさは \(0.15 \times 20 = 3.0\) kg·m/s。「向きは速度と同じ」を見落とす人が多いので注意しましょう。

🥚 2. 力積

運動量は物体の「運動の状態」を表す量だった。では,力によって運動量はどのように変化するのだろうか——その鍵となるのが「力積」である。同じ力積でも,力を長時間加えるか,短時間に大きな力を加えるかで,物体の受け方が変わる。

キャッチボールで速い球を受けるとき、上手い人がやっている動作は?
グローブを固く構えてガッチリ受け止める
グローブを後ろに引きながら受ける
受ける瞬間にグローブを前に押し出す
グローブを後ろに引くと、ボールが止まるまでの時間が長くなります。ボールの運動量変化(力積)は同じでも、時間を延ばすことで手に加わる力が小さくなるのです。

力積とは

卵をクッションの上に落とすと割れないのは,クッションが衝突時間を長くすることで 卵が受ける力を小さくするからである。 物体に力 \(\vec{F}\)〔N〕が時間 \(\Delta t\)〔s〕だけはたらくとき, \(\vec{F}\Delta t\) を力積(impulse)という。

💡
力積(impulse):力 \(\vec{F}\) と力を加えた時間 \(\Delta t\) の積 \(\vec{F}\Delta t\)。
大きさと向きをもつベクトル量。単位は N·s(= kg·m/s)。
\(\vec{I} = \)\(\vec{F}\Delta t\)
\(\vec{F}\)〔N〕:力
\(\Delta t\)〔s〕:力を加えた時間
\(\vec{I}\)〔N·s〕:力積

単位 N·s = kg·m/s(力積と運動量の単位は同じ)。次元を確認すると \(\text{N·s} = \text{kg·m/s}^2 \times \text{s} = \text{kg·m/s}\) となり、運動量の単位と一致します。

F-t グラフと力積(力が変化する場合)

ボールをバットで打つときのように,わずかな時間 \(\Delta t\)〔s〕の間に力が複雑に変化する場合, F-t グラフの面積が力積を表す。 平均の力 \(\bar{F}\) を使えば,面積(力積)= \(\bar{F} \cdot \Delta t\) と表せる。

$$ \vec{\bar{F}} = \frac{m\vec{v}' - m\vec{v}}{\Delta t} = \frac{\Delta\vec{p}}{\Delta t} $$
\(\vec{\bar{F}}\)〔N〕:平均の力(= 単位時間あたりの運動量変化)
📐 公式の導出:平均の力

運動量と力積の関係 \(m\vec{v}' - m\vec{v} = \vec{F}\Delta t\) の両辺を \(\Delta t\) で割ると:

$$ \bar{F} = \frac{m\vec{v}' - m\vec{v}}{\Delta t} = \frac{\Delta p}{\Delta t} $$

つまり、平均の力は単位時間あたりの運動量変化に等しい。接触時間 \(\Delta t\) が短いほど同じ運動量変化でも大きな力が必要になる。

📌 ポイント

力が変化する場合の力積は F-t グラフの面積に等しい

❓ なぜ F-t グラフの面積が力積?

力 \(F\) が一定のとき,力積は \(F \times \Delta t\) であり, これは F-t グラフ上の長方形の面積に等しい。 力が時刻とともに変化する場合は,ごく短い時間 \(\delta t\) に分割して考えると, 各瞬間の力積 \(F(t) \cdot \delta t\) はその瞬間の細い長方形の面積に対応する。 これらを全て足し合わせた合計(積分)が,グラフ全体の面積になる。

2kgの物体に力を加えて速度を 3m/s から 8m/s に変えた。このとき物体が受けた力積は?
10 N·s
16 N·s
6 N·s
22 N·s
力積 = 運動量の変化 = \(m v' - m v = 2 \times 8 - 2 \times 3 = 10\) N·s。力積を「力×時間」で計算しようとして力の値を探す人がいますが、運動量の変化から直接求められます。

⚡ 3. 運動量と力積の関係

運動の第2法則から,力積が運動量の変化に等しいことが導かれる——これが運動量変化の基本定理だ。

最近の車のバンパーは、衝突するとわざとグシャッと潰れる設計になっている。その理由は?
修理費を増やすため
車を軽くして燃費を良くするため
潰れる時間だけ衝突時間が延び、乗員への力が減るため
バンパーが潰れることで衝突時間 \(\Delta t\) が長くなります。運動量変化(力積)\(F \Delta t\) は同じでも、\(\Delta t\) が大きくなれば力 \(F\) は小さくなり、乗員へのダメージが減ります。

導出

速度 \(\vec{v}\) で運動している質量 \(m\) の物体に,合力 \(\vec{F}\) が 時間 \(\Delta t\) だけはたらき,速度が \(\vec{v}'\) になったとする。 ニュートンの第2法則 \(\vec{F} = m\vec{a} = m\dfrac{\vec{v}' - \vec{v}}{\Delta t}\) の 両辺に \(\Delta t\) をかけると,

\(m\vec{v}' - m\vec{v} = \)\(\vec{F}\Delta t\)
\(m\vec{v}\)〔kg·m/s〕:変化前の運動量
\(m\vec{v}'\)〔kg·m/s〕:変化後の運動量
\(\vec{F}\Delta t\)〔N·s〕:力積

すなわち,力積は運動量の変化に等しい。 このことは,力が変化する場合にも成り立つ(F-t グラフの面積が力積)。

📌 ポイント

力積 = 運動量の変化(大きさだけでなく向きも含む)。
変化後の運動量:\(m\vec{v}' = m\vec{v} + \vec{F}\Delta t\)

平面運動への拡張

運動方向と力の向きが異なるとき,運動量の大きさだけでなく向きも変わる。 このような場合も,ベクトルとして \(m\vec{v}' - m\vec{v} = \vec{F}\Delta t\) が成り立つ。 ベクトル三角形(図40参照)で考えると, 初めの運動量ベクトルに力積ベクトルを加えた結果が,終わりの運動量ベクトルとなる。

🧮 計算例:壁に跳ね返るボールの力積と平均の力

条件:質量 0.20 kg のボールが 15 m/s で壁に垂直に当たり、10 m/s で跳ね返った。接触時間は 0.010 s。

壁に向かう向きを正とする。衝突前の運動量 \(p = 0.20 \times 15 = 3.0\) kg·m/s。衝突後の運動量 \(p' = 0.20 \times (-10) = -2.0\) kg·m/s。

ボールが受けた力積は

$$ I = p' - p = -2.0 - 3.0 = -5.0 \text{ N·s} $$

大きさは 5.0 N·s(壁から離れる向き)。平均の力は

$$ \bar{F} = \frac{|I|}{\Delta t} = \frac{5.0}{0.010} = 500 \text{ N} $$

答え:力積の大きさは \(5.0\) N·s、平均の力は \(500\) N。跳ね返る場合は運動量変化が「和」になる点に注意。

🧮 豆知識:運動量と力積のベクトル計算のコツ

1次元の問題では正の向きを決めて符号で計算しますが、2次元ではx成分とy成分を別々に扱います。力積 \(\vec{F}\Delta t = m\vec{v}' - m\vec{v}\) を成分ごとに書けば、2つの独立な式が得られます。壁に斜めに当たるボールの問題では、壁に垂直な成分のみが変化し、平行な成分は変化しません。

📐 発展:微積分で見る力積

力が時間とともに変化する場合、力積は積分で定義されます。

$$ \vec{I} = \int_{t_1}^{t_2} \vec{F}(t)\,dt = \Delta\vec{p} = m\vec{v}_2 - m\vec{v}_1 $$

運動方程式 \(\vec{F} = \frac{d\vec{p}}{dt}\) の両辺を \(t_1\) から \(t_2\) まで積分すると上式が得られます。F-tグラフの「面積=力積」は \(\int F\,dt\) の幾何学的な意味です。バットでボールを打つときのように力が複雑に変化しても、積分値(面積)が等しければ運動量変化は同じになります。

0.5kgのボールが壁に10m/sで当たり、8m/sで跳ね返った。ボールが壁から受けた力積の大きさは?
1.0 N·s
9.0 N·s
5.0 N·s
4.0 N·s
壁に向かう向きを正とすると、変化前 \(mv = 0.5 \times 10 = 5\)、変化後 \(mv' = 0.5 \times (-8) = -4\)。力積 = \(mv' - mv = -4 - 5 = -9\) N·s。大きさは 9.0 N·s。跳ね返る場合、符号が反転するので単純な引き算ではなく「足し算」になる点がポイントです。

🎯 4. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🧮 ① 入試で問われる「衝撃を和らげる工夫」

「同じ運動量変化(力積一定)のとき、接触時間を長くすると力は小さくなる」——これは \(\bar{F} = \Delta p / \Delta t\) から直接導かれます。エアバッグ・クッション材・段ボールの緩衝構造など、入試では「力積一定の下で衝撃力を減らす条件」を問う問題が頻出です。

🧮 ② 典型問題:壁に衝突するボールの力積

質量 \(m\) のボールが速さ \(v\) で壁に垂直に衝突し、反発係数 \(e\) で跳ね返る。壁が受ける力積を求める。

【立式】壁に向かう向きを正とする。衝突前の運動量は \(p = mv\)、反発係数 \(e\) で跳ね返るので衝突後の運動量は \(p' = -mev\)(逆向き)。

力積は運動量の変化に等しいので:

$ I = p' - p = -mev - mv = -m(1+e)v $

ボールが受ける力積の大きさは \(m(1+e)v\)。作用反作用の法則により、壁が受ける力積も同じ大きさで逆向きです。

🧮 ③ 典型問題:F-tグラフから平均の力を求める

F-tグラフが与えられたとき、グラフの面積(力積)を求め、\(\bar{F} = I / \Delta t\) で平均の力を計算する。

【立式】三角形のF-tグラフ(最大値 \(F_0\)、時間幅 \(\Delta t\))の場合、面積(=力積)は三角形の公式より:

$ I = \frac{1}{2} \times F_0 \times \Delta t = \frac{1}{2}F_0 \Delta t $

平均の力は力積を時間幅で割って:

$ \bar{F} = \frac{I}{\Delta t} = \frac{\frac{1}{2}F_0 \Delta t}{\Delta t} = \frac{F_0}{2} $

🔑 まとめ