物理 > 第1編 力と運動 > 第3章 運動量の保存
卵を床の上に落とすと割れるが,やわらかいクッションの上に落とすと割れないのはなぜだろうか——この節では「運動量」と「力積」がどのようなものか理解しよう。
ボウリングでは,質量の大きいボールが速く転がるほどピンを勢いよく倒す。 このような「運動の勢い」を表す物理量が運動量(momentum)である。 質量 \(m\)〔kg〕の物体が速度 \(\vec{v}\)〔m/s〕で運動しているとき,その積 \(m\vec{v}\) を運動量という。
運動量の単位は kg·m/s である。 速さが同じでも質量が大きいほど,また質量が同じでも速さが大きいほど運動量は大きくなる。
運動量はベクトル量。向きは速度と同じ向き。
条件:質量 10000 kg のトラックが時速 36 km/h(= 10 m/s)で走行。質量 0.15 kg の野球ボールが 40 m/s で飛んでいる。
トラックの運動量:
$$ p_{\text{トラック}} = mv = 10000 \times 10 = 1.0 \times 10^5 \text{ kg·m/s} $$野球ボールの運動量:
$$ p_{\text{ボール}} = 0.15 \times 40 = 6.0 \text{ kg·m/s} $$答え:トラックの運動量はボールの約 \(1.7 \times 10^4\) 倍。ゆっくり走るトラックでも、運動量は猛スピードの野球ボールの1万倍以上ある。
プロボクサーのパンチは約5000Nの力を0.01秒だけ加えます(力積 ≒ 50 N·s)。一方、掌底(てのひら)で同じ力積を与える場合、接触時間が長いため最大の力は小さくなります。KO パンチの秘訣は「短い接触時間で大きな力を伝える」ことにあります。
運動量は物体の「運動の状態」を表す量だった。では,力によって運動量はどのように変化するのだろうか——その鍵となるのが「力積」である。同じ力積でも,力を長時間加えるか,短時間に大きな力を加えるかで,物体の受け方が変わる。
卵をクッションの上に落とすと割れないのは,クッションが衝突時間を長くすることで 卵が受ける力を小さくするからである。 物体に力 \(\vec{F}\)〔N〕が時間 \(\Delta t\)〔s〕だけはたらくとき, \(\vec{F}\Delta t\) を力積(impulse)という。
単位 N·s = kg·m/s(力積と運動量の単位は同じ)。次元を確認すると \(\text{N·s} = \text{kg·m/s}^2 \times \text{s} = \text{kg·m/s}\) となり、運動量の単位と一致します。
ボールをバットで打つときのように,わずかな時間 \(\Delta t\)〔s〕の間に力が複雑に変化する場合, F-t グラフの面積が力積を表す。 平均の力 \(\bar{F}\) を使えば,面積(力積)= \(\bar{F} \cdot \Delta t\) と表せる。
運動量と力積の関係 \(m\vec{v}' - m\vec{v} = \vec{F}\Delta t\) の両辺を \(\Delta t\) で割ると:
$$ \bar{F} = \frac{m\vec{v}' - m\vec{v}}{\Delta t} = \frac{\Delta p}{\Delta t} $$
つまり、平均の力は単位時間あたりの運動量変化に等しい。接触時間 \(\Delta t\) が短いほど同じ運動量変化でも大きな力が必要になる。
力が変化する場合の力積は F-t グラフの面積に等しい。
力 \(F\) が一定のとき,力積は \(F \times \Delta t\) であり, これは F-t グラフ上の長方形の面積に等しい。 力が時刻とともに変化する場合は,ごく短い時間 \(\delta t\) に分割して考えると, 各瞬間の力積 \(F(t) \cdot \delta t\) はその瞬間の細い長方形の面積に対応する。 これらを全て足し合わせた合計(積分)が,グラフ全体の面積になる。
運動の第2法則から,力積が運動量の変化に等しいことが導かれる——これが運動量変化の基本定理だ。
速度 \(\vec{v}\) で運動している質量 \(m\) の物体に,合力 \(\vec{F}\) が 時間 \(\Delta t\) だけはたらき,速度が \(\vec{v}'\) になったとする。 ニュートンの第2法則 \(\vec{F} = m\vec{a} = m\dfrac{\vec{v}' - \vec{v}}{\Delta t}\) の 両辺に \(\Delta t\) をかけると,
すなわち,力積は運動量の変化に等しい。 このことは,力が変化する場合にも成り立つ(F-t グラフの面積が力積)。
力積 = 運動量の変化(大きさだけでなく向きも含む)。
変化後の運動量:\(m\vec{v}' = m\vec{v} + \vec{F}\Delta t\)
運動方向と力の向きが異なるとき,運動量の大きさだけでなく向きも変わる。 このような場合も,ベクトルとして \(m\vec{v}' - m\vec{v} = \vec{F}\Delta t\) が成り立つ。 ベクトル三角形(図40参照)で考えると, 初めの運動量ベクトルに力積ベクトルを加えた結果が,終わりの運動量ベクトルとなる。
条件:質量 0.20 kg のボールが 15 m/s で壁に垂直に当たり、10 m/s で跳ね返った。接触時間は 0.010 s。
壁に向かう向きを正とする。衝突前の運動量 \(p = 0.20 \times 15 = 3.0\) kg·m/s。衝突後の運動量 \(p' = 0.20 \times (-10) = -2.0\) kg·m/s。
ボールが受けた力積は
$$ I = p' - p = -2.0 - 3.0 = -5.0 \text{ N·s} $$大きさは 5.0 N·s(壁から離れる向き)。平均の力は
$$ \bar{F} = \frac{|I|}{\Delta t} = \frac{5.0}{0.010} = 500 \text{ N} $$答え:力積の大きさは \(5.0\) N·s、平均の力は \(500\) N。跳ね返る場合は運動量変化が「和」になる点に注意。
1次元の問題では正の向きを決めて符号で計算しますが、2次元ではx成分とy成分を別々に扱います。力積 \(\vec{F}\Delta t = m\vec{v}' - m\vec{v}\) を成分ごとに書けば、2つの独立な式が得られます。壁に斜めに当たるボールの問題では、壁に垂直な成分のみが変化し、平行な成分は変化しません。
力が時間とともに変化する場合、力積は積分で定義されます。
$$ \vec{I} = \int_{t_1}^{t_2} \vec{F}(t)\,dt = \Delta\vec{p} = m\vec{v}_2 - m\vec{v}_1 $$
運動方程式 \(\vec{F} = \frac{d\vec{p}}{dt}\) の両辺を \(t_1\) から \(t_2\) まで積分すると上式が得られます。F-tグラフの「面積=力積」は \(\int F\,dt\) の幾何学的な意味です。バットでボールを打つときのように力が複雑に変化しても、積分値(面積)が等しければ運動量変化は同じになります。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
「同じ運動量変化(力積一定)のとき、接触時間を長くすると力は小さくなる」——これは \(\bar{F} = \Delta p / \Delta t\) から直接導かれます。エアバッグ・クッション材・段ボールの緩衝構造など、入試では「力積一定の下で衝撃力を減らす条件」を問う問題が頻出です。
質量 \(m\) のボールが速さ \(v\) で壁に垂直に衝突し、反発係数 \(e\) で跳ね返る。壁が受ける力積を求める。
【立式】壁に向かう向きを正とする。衝突前の運動量は \(p = mv\)、反発係数 \(e\) で跳ね返るので衝突後の運動量は \(p' = -mev\)(逆向き)。
力積は運動量の変化に等しいので:
$ I = p' - p = -mev - mv = -m(1+e)v $
ボールが受ける力積の大きさは \(m(1+e)v\)。作用反作用の法則により、壁が受ける力積も同じ大きさで逆向きです。
F-tグラフが与えられたとき、グラフの面積(力積)を求め、\(\bar{F} = I / \Delta t\) で平均の力を計算する。
【立式】三角形のF-tグラフ(最大値 \(F_0\)、時間幅 \(\Delta t\))の場合、面積(=力積)は三角形の公式より:
$ I = \frac{1}{2} \times F_0 \times \Delta t = \frac{1}{2}F_0 \Delta t $
平均の力は力積を時間幅で割って:
$ \bar{F} = \frac{I}{\Delta t} = \frac{\frac{1}{2}F_0 \Delta t}{\Delta t} = \frac{F_0}{2} $