物理 > 第1編 力と運動 > 第3章 運動量の保存

③ 反発係数

🏀 1. 反発係数(はねかえり係数)

「テニスボールはよく弾むが、粘土は弾まない」——はねかえりの程度を0から1の数値で表すのが反発係数です。

テニスボールを1mの高さから床に落としたら80cmまで跳ね返った。反発係数はいくつ?
0.80
約0.89
0.64
つい「80cm/100cm = 0.8」と答えたくなりますが、反発係数は速度の比です。\(e = \sqrt{h'/h} = \sqrt{0.8} \fallingdotseq 0.89\) が正解。高さの比にルートをかける点がポイントです。

床との衝突

小球を床に落としたとき、衝突直前の速さ \(|v|\) と衝突直後の速さ \(|v'|\) の比を反発係数(はねかえり係数)\(e\) といいます。

\(e = \frac{|v'|}{|v|} = \)\(-\frac{v'}{v}\)
\(e\):反発係数(\(0 \leq e \leq 1\))
\(v\):衝突直前の速度、\(v'\):衝突直後の速度

2物体の衝突

2物体A, Bの衝突では、反発係数は次のように定義されます。

\(e = \)\(-\frac{v_1' - v_2'}{v_1 - v_2}\)
衝突後の相対速度と衝突前の相対速度の比(符号を反転)
\(e\) の値衝突の種類特徴
\(e = 1\)弾性衝突運動エネルギーも保存。最もよく弾む。
\(0 < e < 1\)非弾性衝突運動エネルギーの一部が熱・音に変換。
\(e = 0\)完全非弾性衝突衝突後くっつく。弾まない。
📌 ここが超重要

落下高さの実験から反発係数を求める公式 \(e = \sqrt{\dfrac{h'}{h}}\) は入試頻出。高さ \(h\) から落として跳ね返り高さ \(h'\) を測れば,速度を直接測らなくても \(e\) が求まる。

📐 公式の導出:落下高さと反発係数の関係

ステップ1:高さ \(h\) から自由落下させたとき、衝突直前の速さは \(v = \sqrt{2gh}\)(エネルギー保存)。

ステップ2:跳ね返り直後の速さを \(|v'|\) とすると、最高点 \(h'\) まで上がるので \(|v'| = \sqrt{2gh'}\)。

ステップ3:反発係数の定義に代入すると:

$$ e = \frac{|v'|}{|v|} = \frac{\sqrt{2gh'}}{\sqrt{2gh}} = \sqrt{\frac{h'}{h}} $$

したがって \(h' = e^2 h\)。高さの比から反発係数を実験的に測定できます

🧮 計算例:落下実験から反発係数を求める

条件:テニスボールを 1.25 m の高さから床に落としたところ、0.80 m まで跳ね返った。

反発係数は高さの比の平方根で求まる。

$$ e = \sqrt{\frac{h'}{h}} = \sqrt{\frac{0.80}{1.25}} = \sqrt{0.64} = 0.80 $$

検算:衝突直前の速さ \(v = \sqrt{2 \times 9.8 \times 1.25} = \sqrt{24.5} \fallingdotseq 4.95\) m/s。跳ね返り直後の速さ \(v' = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.80} = \sqrt{15.7} \fallingdotseq 3.96\) m/s。\(e = v'/v = 3.96/4.95 \fallingdotseq 0.80\) で一致。

答え:反発係数 \(e = 0.80\)。

🧮 計算例:運動量保存と反発係数の連立

条件:質量 2.0 kg の物体 A(速度 5.0 m/s、右向き)が静止した質量 3.0 kg の物体 B に衝突。反発係数 \(e = 0.60\)。

運動量保存:\(2.0 \times 5.0 + 3.0 \times 0 = 2.0 v_1' + 3.0 v_2'\) より

$$ 10 = 2v_1' + 3v_2' \quad \cdots (1) $$

反発係数の式:\(e = -(v_1' - v_2')/(v_1 - v_2)\) より

$$ 0.60 = -\frac{v_1' - v_2'}{5.0 - 0} \quad \therefore\ v_1' - v_2' = -3.0 \quad \cdots (2) $$

(2) より \(v_1' = v_2' - 3.0\)。(1) に代入して

$$ 10 = 2(v_2' - 3.0) + 3v_2' = 5v_2' - 6.0 \quad \therefore\ v_2' = 3.2 \text{ m/s} $$

この値を (2) の式に戻すと \(v_1'\) が求まる。

$$ v_1' = 3.2 - 3.0 = 0.20 \text{ m/s} $$

答え:衝突後 A は右向きに \(0.20\) m/s、B は右向きに \(3.2\) m/s。

床との斜めの衝突

なめらかな床に物体が角度 \(\theta\) で斜めに衝突する場合を考える。 床は鉛直方向にのみ抗力を及ぼすので,水平方向と鉛直方向を分けて扱う。

したがって,衝突後の速度は水平成分が保存され,鉛直成分だけが \(e\) 倍になる。 入射角と反射角は一般に等しくならない(\(e < 1\) のとき反射角が小さくなる)

📌 ポイント

斜めの衝突は「水平方向:そのまま」「鉛直方向:反発係数」と分けて考える。 \(e = 1\) のときだけ入射角 = 反射角が成立する。

⚾ 豆知識:プロ野球のボールの反発係数

プロ野球の公式球は反発係数が厳密に規定されています(日本では e ≒ 0.41〜0.44)。「飛ぶボール」問題は反発係数のわずかな違いが打球の飛距離に大きく影響することを示しています。

なめらかな床に小球が斜めに衝突した(\(e = 0.5\))。衝突後の小球について正しいのは?
水平方向・鉛直方向どちらの速度成分も \(e\) 倍になる
速さ全体が \(e\) 倍になる
水平成分は変わらず、鉛直成分だけが \(e\) 倍になる
入射角と反射角は常に等しい
なめらかな床は鉛直方向にのみ力を及ぼすので、水平成分は変化しません。鉛直成分だけが \(e\) 倍になります。入射角=反射角が成り立つのは \(e = 1\) のときだけです。

⚡ 2. 弾性衝突とエネルギー

これまで学んだ反発係数を使うと,運動量保存と組み合わせて衝突後の速度が完全に決まります。特に \(e = 1\)(弾性衝突)のとき,運動エネルギーも保存されるという重要な性質があります。

粘土の塊を壁にぶつけるとベチャッとくっつく。この衝突の反発係数 \(e\) は?
\(e = 1\)
\(e = 0.5\)
\(e = 0\)
くっついて跳ね返らない = 衝突後の相対速度がゼロなので \(e = 0\)(完全非弾性衝突)です。弾性衝突(\(e = 1\))とは真逆で、運動エネルギーの損失が最大になります。

弾性衝突(\(e = 1\))では、運動量保存則とエネルギー保存則の2式から衝突後の速度が完全に決まります

\(v_1' = \dfrac{(m_1 - m_2)v_1 + 2m_2 v_2}{m_1 + m_2}\)

\(v_2' = \dfrac{(m_2 - m_1)v_2 + 2m_1 v_1}{m_1 + m_2}\)
弾性衝突(\(e = 1\))の衝突後速度
📐 導出:弾性衝突後の速度の公式

運動量保存:\(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) ... (i)

反発係数 \(e=1\):\(v_1' - v_2' = -(v_1 - v_2)\) ... (ii)

(ii) より \(v_1' = v_2' - v_1 + v_2\)。これを (i) に代入:

\(m_1(v_2' - v_1 + v_2) + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) を整理すると

\(v_2' = \frac{2m_1 v_1 + (m_2 - m_1)v_2}{m_1 + m_2}\)、同様に \(v_1' = \frac{(m_1 - m_2)v_1 + 2m_2 v_2}{m_1 + m_2}\)。

📌 ポイント

同じ質量の弾性衝突(\(m_1 = m_2\), \(v_2 = 0\))→ 速度が完全に交換される:\(v_1' = 0\), \(v_2' = v_1\)。
ニュートンのゆりかごはこの原理を利用しています。

🤔 豆知識:「完全弾性衝突」は現実にはほぼない

反発係数 \(e = 1\) の完全弾性衝突は理想的な状況です。実際のスーパーボール(\(e \ fallingdotseq 0.9\))でも完全ではありません。ビリヤードの球(\(e \ fallingdotseq 0.95\))は非常に弾性的です。唯一、分子・原子レベルの衝突では完全弾性衝突が実現します。

🧮 豆知識:等質量の弾性衝突は「速度交換」

同じ質量の2物体が \(e = 1\) で正面衝突すると、速度が完全に入れ替わります。静止している物体に同じ質量の物体が衝突すると、衝突した方が止まり、された方が元の速度で動き出します。ニュートンのゆりかご(カチカチボール)はこの現象の連続で動いています。

🎱 豆知識:ニュートンのゆりかご

金属球を並べて一端を持ち上げて離すと、反対端の球だけが飛び出す「ニュートンのゆりかご」。同質量の弾性衝突で速度が次々と伝わっていく現象です。2個持ち上げれば反対から2個飛び出し、運動量とエネルギーが両方保存されます。

弾性衝突(\(e = 1\))で保存される物理量の組み合わせとして正しいのはどれ?
運動量と運動エネルギーの両方
運動量のみ(運動エネルギーは減少)
運動エネルギーのみ(運動量は変化)
弾性衝突(\(e = 1\))では運動量と運動エネルギーの両方が保存されます。\(e < 1\) の非弾性衝突では運動量は保存されますが、運動エネルギーの一部が熱や音に変わって減少します。「運動量保存は常に成立、エネルギー保存は \(e = 1\) のときだけ」がポイントです。

🎯 3. 入試対策

大学入試では、反発係数に関する計算問題が頻出である。以下の3つの典型パターンを押さえよう。

🧮 ① 入試で頻出の「エネルギー損失の計算」

反発係数 \(e\) が 1 未満の衝突では運動エネルギーが失われます。衝突前後の運動エネルギーの差を \(\Delta K\) とすると:

$ \Delta K = $\(\frac{1}{2}\frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}(1-e^2)(v_1 - v_2)^2\)

この式は運動量保存と反発係数の定義から導出できます。\(e = 0\)(完全非弾性衝突)のとき損失が最大、\(e = 1\)(弾性衝突)のとき損失 0 です。

📐 ② 公式の導出:エネルギー損失の式

ステップ1:運動量保存 \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) ... (i)

ステップ2:反発係数 \(v_1' - v_2' = -e(v_1 - v_2)\) ... (ii)

ステップ3:(i)(ii) を連立して \(v_1', v_2'\) を求め、衝突前後の運動エネルギーの差を計算する。

$ \Delta K = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 - \frac{1}{2}m_1 v_1'^2 - \frac{1}{2}m_2 v_2'^2 $

整理すると \(\Delta K = \frac{1}{2}\frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}(1-e^2)(v_1-v_2)^2\) を得る。\((1-e^2)\) の因子が \(e=1\) で 0、\(e=0\) で 1 となることから、弾性衝突では損失なし、完全非弾性衝突で損失最大と分かる。

🧮 ③ 典型問題:床でn回跳ねたときの高さ

高さ \(h_0\) から反発係数 \(e\) の床にボールを落とす。

【立式】1回跳ねた後の高さは \(h_1 = e^2 h_0\)(\(e = \sqrt{h'/h}\) の関係から)。2回跳ねると \(h_2 = e^2 h_1 = e^4 h_0\)。同様に繰り返すと、\(n\) 回跳ねた後の最高点の高さは:

$ h_n = e^{2n} h_0 $

例えば \(e = 0.8\) なら、3回跳ねると高さは \(0.8^6 h_0 \ fallingdotseq 0.26 h_0\) まで減少します。

🧮 ④ 典型問題:質量比が極端な弾性衝突

\(m_1 \gg m_2\)、\(v_2 = 0\) の弾性衝突では:

\(v_1' \ fallingdotseq v_1\)(重い物体はほぼ変わらない)

\(v_2' \ fallingdotseq 2v_1\)(軽い物体は約2倍の速さで飛ぶ)

逆に \(m_1 \ll m_2\) なら \(v_1' \ fallingdotseq -v_1\)(跳ね返り)、\(v_2' \ fallingdotseq 0\)。壁への衝突はこの極端なケース。

🔑 まとめ