物理 > 第1編 力と運動 > 第3章 運動量の保存
「テニスボールはよく弾むが、粘土は弾まない」——はねかえりの程度を0から1の数値で表すのが反発係数です。
小球を床に落としたとき、衝突直前の速さ \(|v|\) と衝突直後の速さ \(|v'|\) の比を反発係数(はねかえり係数)\(e\) といいます。
2物体A, Bの衝突では、反発係数は次のように定義されます。
| \(e\) の値 | 衝突の種類 | 特徴 |
|---|---|---|
| \(e = 1\) | 弾性衝突 | 運動エネルギーも保存。最もよく弾む。 |
| \(0 < e < 1\) | 非弾性衝突 | 運動エネルギーの一部が熱・音に変換。 |
| \(e = 0\) | 完全非弾性衝突 | 衝突後くっつく。弾まない。 |
落下高さの実験から反発係数を求める公式 \(e = \sqrt{\dfrac{h'}{h}}\) は入試頻出。高さ \(h\) から落として跳ね返り高さ \(h'\) を測れば,速度を直接測らなくても \(e\) が求まる。
ステップ1:高さ \(h\) から自由落下させたとき、衝突直前の速さは \(v = \sqrt{2gh}\)(エネルギー保存)。
ステップ2:跳ね返り直後の速さを \(|v'|\) とすると、最高点 \(h'\) まで上がるので \(|v'| = \sqrt{2gh'}\)。
ステップ3:反発係数の定義に代入すると:
$$ e = \frac{|v'|}{|v|} = \frac{\sqrt{2gh'}}{\sqrt{2gh}} = \sqrt{\frac{h'}{h}} $$
したがって \(h' = e^2 h\)。高さの比から反発係数を実験的に測定できます。
条件:テニスボールを 1.25 m の高さから床に落としたところ、0.80 m まで跳ね返った。
反発係数は高さの比の平方根で求まる。
$$ e = \sqrt{\frac{h'}{h}} = \sqrt{\frac{0.80}{1.25}} = \sqrt{0.64} = 0.80 $$検算:衝突直前の速さ \(v = \sqrt{2 \times 9.8 \times 1.25} = \sqrt{24.5} \fallingdotseq 4.95\) m/s。跳ね返り直後の速さ \(v' = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.80} = \sqrt{15.7} \fallingdotseq 3.96\) m/s。\(e = v'/v = 3.96/4.95 \fallingdotseq 0.80\) で一致。
答え:反発係数 \(e = 0.80\)。
条件:質量 2.0 kg の物体 A(速度 5.0 m/s、右向き)が静止した質量 3.0 kg の物体 B に衝突。反発係数 \(e = 0.60\)。
運動量保存:\(2.0 \times 5.0 + 3.0 \times 0 = 2.0 v_1' + 3.0 v_2'\) より
$$ 10 = 2v_1' + 3v_2' \quad \cdots (1) $$反発係数の式:\(e = -(v_1' - v_2')/(v_1 - v_2)\) より
$$ 0.60 = -\frac{v_1' - v_2'}{5.0 - 0} \quad \therefore\ v_1' - v_2' = -3.0 \quad \cdots (2) $$(2) より \(v_1' = v_2' - 3.0\)。(1) に代入して
$$ 10 = 2(v_2' - 3.0) + 3v_2' = 5v_2' - 6.0 \quad \therefore\ v_2' = 3.2 \text{ m/s} $$この値を (2) の式に戻すと \(v_1'\) が求まる。
$$ v_1' = 3.2 - 3.0 = 0.20 \text{ m/s} $$答え:衝突後 A は右向きに \(0.20\) m/s、B は右向きに \(3.2\) m/s。
なめらかな床に物体が角度 \(\theta\) で斜めに衝突する場合を考える。 床は鉛直方向にのみ抗力を及ぼすので,水平方向と鉛直方向を分けて扱う。
したがって,衝突後の速度は水平成分が保存され,鉛直成分だけが \(e\) 倍になる。 入射角と反射角は一般に等しくならない(\(e < 1\) のとき反射角が小さくなる)。
斜めの衝突は「水平方向:そのまま」「鉛直方向:反発係数」と分けて考える。 \(e = 1\) のときだけ入射角 = 反射角が成立する。
プロ野球の公式球は反発係数が厳密に規定されています(日本では e ≒ 0.41〜0.44)。「飛ぶボール」問題は反発係数のわずかな違いが打球の飛距離に大きく影響することを示しています。
これまで学んだ反発係数を使うと,運動量保存と組み合わせて衝突後の速度が完全に決まります。特に \(e = 1\)(弾性衝突)のとき,運動エネルギーも保存されるという重要な性質があります。
弾性衝突(\(e = 1\))では、運動量保存則とエネルギー保存則の2式から衝突後の速度が完全に決まります。
運動量保存:\(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) ... (i)
反発係数 \(e=1\):\(v_1' - v_2' = -(v_1 - v_2)\) ... (ii)
(ii) より \(v_1' = v_2' - v_1 + v_2\)。これを (i) に代入:
\(m_1(v_2' - v_1 + v_2) + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) を整理すると
\(v_2' = \frac{2m_1 v_1 + (m_2 - m_1)v_2}{m_1 + m_2}\)、同様に \(v_1' = \frac{(m_1 - m_2)v_1 + 2m_2 v_2}{m_1 + m_2}\)。
同じ質量の弾性衝突(\(m_1 = m_2\), \(v_2 = 0\))→ 速度が完全に交換される:\(v_1' = 0\), \(v_2' = v_1\)。
ニュートンのゆりかごはこの原理を利用しています。
反発係数 \(e = 1\) の完全弾性衝突は理想的な状況です。実際のスーパーボール(\(e \fallingdotseq 0.9\))でも完全ではありません。ビリヤードの球(\(e \fallingdotseq 0.95\))は非常に弾性的です。唯一、分子・原子レベルの衝突では完全弾性衝突が実現します。
同じ質量の2物体が \(e = 1\) で正面衝突すると、速度が完全に入れ替わります。静止している物体に同じ質量の物体が衝突すると、衝突した方が止まり、された方が元の速度で動き出します。ニュートンのゆりかご(カチカチボール)はこの現象の連続で動いています。
金属球を並べて一端を持ち上げて離すと、反対端の球だけが飛び出す「ニュートンのゆりかご」。同質量の弾性衝突で速度が次々と伝わっていく現象です。2個持ち上げれば反対から2個飛び出し、運動量とエネルギーが両方保存されます。
大学入試では、反発係数に関する計算問題が頻出である。以下の3つの典型パターンを押さえよう。
反発係数 \(e\) が 1 未満の衝突では運動エネルギーが失われます。衝突前後の運動エネルギーの差を \(\Delta K\) とすると:
この式は運動量保存と反発係数の定義から導出できます。\(e = 0\)(完全非弾性衝突)のとき損失が最大、\(e = 1\)(弾性衝突)のとき損失 0 です。
ステップ1:運動量保存 \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'\) ... (i)
ステップ2:反発係数 \(v_1' - v_2' = -e(v_1 - v_2)\) ... (ii)
ステップ3:(i)(ii) を連立して \(v_1', v_2'\) を求め、衝突前後の運動エネルギーの差を計算する。
$ \Delta K = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 - \frac{1}{2}m_1 v_1'^2 - \frac{1}{2}m_2 v_2'^2 $
整理すると \(\Delta K = \frac{1}{2}\frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}(1-e^2)(v_1-v_2)^2\) を得る。\((1-e^2)\) の因子が \(e=1\) で 0、\(e=0\) で 1 となることから、弾性衝突では損失なし、完全非弾性衝突で損失最大と分かる。
高さ \(h_0\) から反発係数 \(e\) の床にボールを落とす。
【立式】1回跳ねた後の高さは \(h_1 = e^2 h_0\)(\(e = \sqrt{h'/h}\) の関係から)。2回跳ねると \(h_2 = e^2 h_1 = e^4 h_0\)。同様に繰り返すと、\(n\) 回跳ねた後の最高点の高さは:
$ h_n = e^{2n} h_0 $
例えば \(e = 0.8\) なら、3回跳ねると高さは \(0.8^6 h_0 \fallingdotseq 0.26 h_0\) まで減少します。
\(m_1 \gg m_2\)、\(v_2 = 0\) の弾性衝突では:
\(v_1' \fallingdotseq v_1\)(重い物体はほぼ変わらない)
\(v_2' \fallingdotseq 2v_1\)(軽い物体は約2倍の速さで飛ぶ)
逆に \(m_1 \ll m_2\) なら \(v_1' \fallingdotseq -v_1\)(跳ね返り)、\(v_2' \fallingdotseq 0\)。壁への衝突はこの極端なケース。