物理 > 第1編 力と運動 > 第4章 円運動と万有引力
惑星の動きを長年記録した先に見つかった、3つの規則。
この章で学ぶことは、「どう動くか」を突き止めた人(ケプラー)と、「なぜそう動くか」を突き止めた人(ニュートン)の仕事がつながったものです。さらにその式に入る定数を実際に測るまでに、あと100年かかりました。
| 年 | 人物 | やったこと |
|---|---|---|
| 1543 | コペルニクス | 太陽が中心だと考えた(地動説)。ただし軌道は円だと思っていた |
| 1576〜1601 | ティコ・ブラーエ | 望遠鏡なしで火星を20年以上観測。角度で約2分(満月の1/15)の精度 |
| 1609 | ケプラー | ティコの観測から第一法則(だ円)・第二法則(面積速度一定) |
| 1619 | ケプラー | 第三法則 \(T^2 \propto a^3\)。第一・第二法則から10年かかった |
| 1687 | ニュートン | 「なぜそうなるか」に答えた。万有引力ひとつで3法則すべてが導ける |
| 1798 | キャベンディッシュ | 実験で \(G\) を測定。おかげで地球の質量が分かった |
ケプラーは法則を「見つけた」だけで、理由は説明していません。理由を与えたのがニュートンです。この単元は「観測 → 規則 → 原因 → 定数の測定」という順に進みます。
ケプラーは観測データを何年も眺めて規則を見つけた(データ → 規則)。ニュートンは逆に、万有引力という1本の式から3つとも導いてみせた(原因 → 規則)。同じ3法則を、正反対の向きから通ったことになります。
| 法則 | ケプラーはどう見つけたか | ニュートンはどう説明したか |
|---|---|---|
| 第一 だ円 |
火星の観測が円軌道と8分だけ合わない。この差を誤差にせず追い続けてだ円に到達(1609) | 逆二乗の引力のもとでの運動を解くと、軌道はだ円(または放物線・双曲線)になる |
| 第二 面積速度一定 |
実は第一法則より先に気づいていた。「太陽に近いほど速い」を面積で言い切った | 中心力でありさえすれば成り立つ。逆二乗であることは使わない |
| 第三 \(T^2 \propto a^3\) |
周期と距離の数表を10年いじり続けて発見(1619)。理由は最後まで分からなかった | 逆二乗の引力を向心力とする運動方程式から出る。しかも定数の中身が \(k = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) と分かる |
この表の右列を見ると、第二法則だけ「中心力」しか使っていないことが分かります。第一・第三法則は力が距離の2乗に反比例することに固有で、第二法則はもっと広い条件で成り立つ——この違いは入試で問われます。
ニュートンがしたことは、順に3つです。
この3つのうちいちばん大きかったのは2番目です。天と地では別の法則が働くと信じられていた時代に、りんごと月を同じ式で書いたのが『プリンキピア』(1687)の核心でした。「万有」とは質量をもつあらゆるものの間ではたらくという意味で、地球と月だけでなく机とあなたの間にもはたらいています(小さすぎて感じないだけ)。
鋭い人はここで引っかかります。1番目では第三法則を使って力の形を出したのに、3番目ではその力から第三法則を導いている——ぐるぐる回っているだけではないか、と。
循環に見えるのは、2つを「何を入れて、何が出てきたか」で見比べていないからです。並べてみます。
| 入れたもの | 出てきたもの | |
|---|---|---|
| 1番目 推測 |
第三法則 +円と仮定 |
\(F \propto \dfrac{1}{r^2}\) という候補 |
| 3番目 検証 |
万有引力 円の仮定なし |
ケプラー3法則 +だ円 |
① 決めつけを1つ捨てたのに、結論は増えた。1番目は最初から円だと置いているので、だ円は逆立ちしても出てきません。3番目はその決めつけを外して解くので、軌道の形(第一法則)まで答えが出ます。出発点が弱くなったのに結論は強くなった——これが「同じ場所に戻っていない」証拠です。
② 定数の中身が分かった。1番目の \(k\) は「観測で決まる、なにかの数」でしかありません。3番目では \(k = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) と正体が出ます。おかげで周期と半径を測るだけで中心天体の質量 \(M\) が量れるようになりました。地球や太陽の重さを知る方法が手に入ったわけで、1番目のままでは決してできないことです。
③ そもそも仕事がちがう。1番目は法則を見つける作業、3番目はその法則を認めたら何が言えるかを調べる作業です。ここが肝心なのですが、物理の法則そのものは「証明」できません。法則はあくまで推測であって、それを支えるのは2番目のような、まったく別のところから持ってきた事実(月とりんごが同じ式に乗る)です。だから2番目がいちばん大きい仕事なのです。
「まず当たりをつけて、あとで決めつけを外して確かめる」——物理はいつもこの順で進みます。
3番目の「だ円になることまで出てきた」を、少しだけ覗いてみます。ふつうは微分方程式を解きますが、速度ベクトルの動きに目を移すと、ほとんど計算せずに見えてきます。
使う道具は 2 つだけです。向心方向の運動方程式と、面積速度一定。
$$ \frac{\Delta \vec v}{\Delta t} = -\frac{GM}{r^2}\hat r, \qquad r^2 \frac{\Delta\theta}{\Delta t} = h\ (\text{一定}) $$
\(\hat r\) は太陽から惑星へ向かう単位ベクトル、\(h\) は面積速度の 2 倍です。ここで「時間あたり」ではなく「角度あたり」で速度の変化を見ます。上の 2 式を割り算すると \(r^2\) が消えて、
$$ \frac{\Delta \vec v}{\Delta \theta} = -\frac{GM}{h}\,\hat r $$
右辺の大きさは \(\dfrac{GM}{h}\)。距離 \(r\) が式から完全に消えて、定数になりました。これが逆二乗の指紋です。力が \(1/r^2\) だからちょうど \(r^2\) が打ち消えたのであって、\(1/r^3\) や \(1/r\) ではこうなりません。
意味を読み取りましょう。\(\theta\) が同じだけ進むごとに、速度ベクトルは同じ長さだけ、太陽の向きへ倒れる。惑星が 1 周する間に \(\hat r\) はぐるりと 1 回転するので、速度ベクトルの先端もぐるりと 1 周して円を描きます。式で書けば、ある固定ベクトル \(\vec c\) を使って
$$ \vec v = \vec c + \frac{GM}{h}\,\hat\theta $$
(\(\hat\theta\) は \(\hat r\) に垂直な単位ベクトルで、\(\theta\) と一緒に回ります。)速度の先端が描くこの円をホドグラフといいます。
あとは 2 行です。速度の \(\hat\theta\) 方向の成分は、動径に垂直な速度そのものなので \(\dfrac{h}{r}\)。上の式の \(\hat\theta\) 成分をとって、\(\vec c\) の向きを基準に角を測ると
$$ \frac{h}{r} = \frac{GM}{h} + c\cos\theta \quad\Longrightarrow\quad r = \frac{h^2/GM}{1 + \dfrac{ch}{GM}\cos\theta} $$
これは焦点を原点にした円錐曲線の式そのものです。\(\dfrac{ch}{GM}\) が離心率 \(e\) にあたり、\(e<1\) ならだ円、\(e=1\) なら放物線、\(e>1\) なら双曲線。初速の与え方(\(\vec c\) の大きさ)だけで軌道の形が決まることも、この式から読み取れます。
ファインマンが講義でこの筋を紹介しています。「時間あたり」をやめて「角度あたり」で見ると \(r\) が消える——見る変数を取り替えるだけで問題が解けてしまう、物理の気持ちのよい一例です。
ケプラーの法則は「経験則」、万有引力の法則は「原因」です。だからケプラーの法則を使って解ける問題は、万有引力から立式しても必ず解けます。逆に、万有引力を使わないと解けない問題(脱出速度・人工衛星・地球の質量)はたくさんあります。迷ったら運動方程式に \(F = G\dfrac{Mm}{r^2}\) を入れるのが原則です。
「りんごが頭に当たって万有引力を思いついた」という話は、後世の脚色です。ニュートン本人が晩年に語った話では、庭でりんごが落ちるのを見ていて、「りんごは落ちるのに、なぜ月は落ちてこないのか」と考えた、という筋になっています。
答えは「月も落ちている」でした。ただし横向きに十分速く動いているので、落ちながらも地面に届かない。ニュートンはこれを「山の上から水平に大砲を撃つ」思考実験で説明しています(このページのあとの方でシミュレーションが出てきます)。
なお1665〜66年はペストの流行でケンブリッジ大学が閉鎖され、ニュートンは故郷に帰っていました。この2年間に微積分・光学・万有引力の着想がまとまったとされ、「驚異の年」と呼ばれています。当時23歳。ただし『プリンキピア』の出版はその21年後でした。
ケプラーは最初、火星の軌道を円だと仮定して計算しました。観測とよく合うのですが、どうしても8分(0.13°)だけ合わない。当時の他の天文学者なら「観測の誤差」で片づける差です。
しかしケプラーはティコの腕を知っていました。「ティコが8分も間違えるはずがない」——このズレを本物だと信じたことが、円を捨ててだ円にたどり着く出発点になりました。のちにケプラー自身が「この8分が天文学を作り直した」と書いています。
ちなみにティコは、決闘で鼻を失って金属の付け鼻をしていた、自分の島に城と天文台を持っていた、といった逸話の多い人物でもあります。ケプラーは彼の助手でした。
惑星は、太陽を1つの焦点とするだ円軌道上を運動する。太陽はだ円の中心ではなく「焦点」にあります。
用語を整理します。つぶれた円をだ円、だ円の内部にある2つの特別な点を焦点といい、太陽はその一方の焦点にあります。惑星が太陽に最も近づく点を近日点、最も遠ざかる点を遠日点、だ円の長い方の半径(中心から端まで)を半長軸 \(a\) と呼びます。これらは以降のカードでもくり返し使う基本用語です。
コペルニクスの地動説は太陽を中心とする円軌道を考えていました。しかしティコ・ブラーエの精密な観測(とくに火星)は円軌道とわずかに合わず、ケプラーはそのズレを捨てずに追い続けてだ円にたどり着きます。火星の離心率は 0.093 と惑星の中では大きい方で、円との差が観測にはっきり現れる相手でした。
太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に描く面積(面積速度)は一定。だから近日点では速く、遠日点では遅く動きます。
\(\theta\) は動径 \(r\) と速度 \(v\) のなす角。面積を掃くのは \(v\) の動径に垂直な成分 \(v\sin\theta\) だけです。なぜ垂直成分だけなのかを確かめておきましょう。
短い時間 \(\Delta t\) のあいだに、惑星が \(\mathrm{P}\) から \(\mathrm{P}'\) へ動いたとします。掃いた図形は三角形 \(\mathrm{SPP}'\)(\(\mathrm{S}\) は太陽)で、その面積は
$$ \triangle \mathrm{SPP}' = \frac{1}{2} \times (\text{底辺 } \mathrm{SP}) \times (\text{高さ}) $$
底辺を \(\mathrm{SP} = r\) にとると、高さは「\(\mathrm{P}'\) から直線 \(\mathrm{SP}\) までの距離」です。ここで、移動 \(\overrightarrow{\mathrm{PP}'}\)(大きさ \(v\Delta t\))を動径にそう向きと動径に垂直な向きに分けます。
三角形の面積は「底辺 × 高さ」で決まり、頂点を底辺と平行に動かしても面積は変わらない——中学で習ったこの事実がそのまま効いています。だから
$$ \triangle \mathrm{SPP}' = \frac{1}{2}\, r \cdot v\sin\theta \,\Delta t \quad\Longrightarrow\quad \frac{\Delta S}{\Delta t} = \frac{1}{2} r v \sin\theta $$
ここまでに近似は 1 つも入っていません。三角形の面積としては \(\dfrac12 rv\sin\theta\,\Delta t\) はぴったり正しい値です。下の図で \(\mathrm{P}'\) を動かして、動径にそって動かしたときだけ面積が変わらないことを確かめてください。
近似が入るのは「掃いた図形を三角形とみなす」ところだけです。ほんとうに掃いた図形の外側の縁はまっすぐな線分 \(\mathrm{PP}'\) ではなく、少しふくらんだ軌道の弧なので、三角形と弓形(弧と弦のあいだ)のぶんだけ差が出ます。また \(r\) も \(\Delta t\) のあいだに少し変わります。
この差がどれくらいかを、いちばん簡単な円軌道で見積もってみます。\(\Delta t\) のあいだに中心角 \(\Delta\varphi\) だけ回ったとすると、
$$ \text{扇形} = \frac{1}{2}r^2 \Delta\varphi, \qquad \text{三角形} = \frac{1}{2}r^2 \sin\Delta\varphi $$
その差は \(\dfrac12 r^2(\Delta\varphi - \sin\Delta\varphi)\)。\(\Delta\varphi\) が小さいとき \(\sin\Delta\varphi \fallingdotseq \Delta\varphi - \dfrac{(\Delta\varphi)^3}{6}\) なので、差は \(\Delta\varphi\) の3 乗に比例します。一方、面積そのものは \(\Delta\varphi\) の1 乗に比例します。
つまり \(\Delta t\) を半分にすると、面積は半分になるのに、ずれは 8 分の 1 になる。両者の比は \(\Delta t\) を小さくするほど 0 に近づきます。数で見ると、\(\Delta\varphi = 10^\circ\) でずれは面積の 0.5%、\(1^\circ\) なら 0.005% です。
ですから \(\dfrac{\Delta S}{\Delta t}\) を「ごく短い時間での値」として考えるかぎり、\(\dfrac12 rv\sin\theta\) は近似ではなく厳密な値になります。速度そのものが「ごく短い時間での位置の変化率」として定義されているのと、まったく同じ約束です。
\(\dfrac{1}{2}rv\) という簡単な形が使えるのは、近日点と遠日点だけです。この2点でだけ速度が動径と垂直(\(\sin\theta = 1\))になります。途中の点では必ず \(\sin\theta\) を残すか、動径に垂直な速度成分を使ってください。
まず、力がまったくはたらかない場合で考えてみます。物体が等速直線運動をしているとき、勝手に決めた定点 \(\mathrm{O}\) と物体を結ぶ線分が掃く三角形は、底辺(\(\Delta t\) に進む距離 \(v\Delta t\))も高さ(\(\mathrm{O}\) から直線までの距離)も毎回まったく同じです。だから面積速度は一定になります。力が 0 でありさえすれば、面積速度一定はひとりでに成り立つ——まずこれを押さえてください。
では惑星の場合。太陽が惑星を引く力はつねに太陽の方を向いています(これを中心力といいます)。中心を向いた力は、惑星を太陽に近づけたり遠ざけたりするだけで、太陽のまわりに回そうとする働きをもちません。剛体のつりあいで学んだ言い方をすれば、太陽まわりの力のモーメントが 0 ということです(力の作用線が太陽を通るので、うでの長さが 0)。
つまり第二法則は「万有引力だから」ではなく「中心力だから」成り立つ規則です。力が逆二乗でなくても、中心を向いてさえいれば成立します。第一法則・第三法則は逆二乗であることに固有なので、そこが性質としてはっきり違います。入試ではこの違いを問う問題が出ます。
いま「太陽のまわりに回る勢い」と言ったものは、大学では角運動量とよび \(L = mrv\sin\theta\) と書きます。式を見ると分かるとおり、面積速度は角運動量を \(2m\) で割ったものにすぎません。
$$ \frac{\Delta S}{\Delta t} = \frac{1}{2}rv\sin\theta = \frac{L}{2m} $$
惑星の質量 \(m\) は変わらないので、\(L\) が一定であることと面積速度が一定であることはまったく同じ主張です。「中心力なら角運動量が保存する」という定理を、ケプラーは観測から先に見つけていた、ということになります。
円運動のときは \(\theta = 90^\circ\)、\(v = r\omega\) なので \(L = mr^2\omega\) と書けます。教科書によってはこの形で載っています。
では、なぜ「モーメントが 0 なら角運動量が変わらない」のか。これは運動量と力積の関係とまったく同じ形をしています。まず直線運動のほうを思い出してください。
$$ \Delta (mv) = F\,\Delta t \qquad(\text{運動量の変化} = \text{力積}) $$
力が 0 なら右辺が 0、だから運動量は変わらない——これが運動量保存でした。回転でも同じことが起こります。動径に垂直な向きの成分だけを取り出して書くと、
$$ \Delta (m v_{\perp}) = F_{\perp}\,\Delta t $$
となります。ここで両辺に太陽からの距離 \(r\) をかけると、左辺は \(\Delta(m r v_{\perp}) = \Delta L\)、右辺の \(r F_{\perp}\) はまさに太陽まわりの力のモーメント \(N\) です。つまり
「角運動量の変化 = モーメントの力積」。だから \(N = 0\) なら \(\Delta L = 0\)、つまり \(L\) は変わりません。運動量に対する力が、角運動量に対してはモーメントにあたる——この対応をつかんでおくと、剛体の問題でも同じ道具が使えます。
| まっすぐの運動 | まわる運動 | |
|---|---|---|
| 保存する量 | 運動量 \(mv\) | 角運動量 \(mrv\sin\theta\) |
| それを変えるもの | 力 \(F\) | 力のモーメント \(N = rF_{\perp}\) |
| 関係式 | \(\Delta(mv) = F\Delta t\) | \(\Delta L = N\Delta t\) |
| 保存する条件 | \(F = 0\) | \(N = 0\)(中心力ならこれ) |
なお、上で「両辺に \(r\) をかける」と書きましたが、\(r\) 自体も動いているので、厳密にはその分の項も出てきます。この項がなぜ消えるのかを見ておきましょう。
\(L = m r v_{\perp}\) は2 つの量のかけ算なので、短い時間で変わる量は「\(v_{\perp}\) が変わる分」と「\(r\) が変わる分」の 2 つに分かれます。
$$ \Delta L = \underbrace{m\,r\,\Delta v_{\perp}}_{①\ v_{\perp}\text{ が変わる分}} + \underbrace{m\,\Delta r\, v_{\perp}}_{②\ r\text{ が変わる分}} $$
①は上で計算したとおり \(N\Delta t\) になります。問題は②です。ここで \(\Delta r\) は「動径にそう向きの移動」そのもの——つまり惑星が太陽に近づいた/遠ざかった分です。
そして動径にそう向きの移動が掃く面積は 0 でした。この節の最初の図(\(\mathrm{P}'\) を動径にそって動かしても三角形の面積が変わらない、というあの図)で確かめたとおりです。角運動量は面積速度の \(2m\) 倍でしたから、面積を変えないものは角運動量も変えません。だから②は角運動量に効いてきません。
ベクトルの外積を使うと、この事情は \(\vec v \times \vec v = \vec 0\)(同じ向きのベクトル同士の外積は 0)という 1 行で書けます。「動径にそう動きは回転に効かない」を式で言い直したもので、中身はまったく同じです。大学で外積を学んだときに、この節を思い出してください。
公転周期 \(T\) の2乗は、軌道の半長軸 \(a\) の3乗に比例する。言いかえれば、太陽から遠い惑星ほど1周に時間がかかり、その関係が \(T^2\) と \(a^3\) できっちり結ばれている、ということです。
式に出てくる半長軸 \(a\) は、だ円の中心から長い方の端までの距離で、円でいう半径にあたる量です。太陽からの距離でいえば、近日点距離と遠日点距離のちょうど平均になります。下の図で位置を確かめてください。[2つの惑星をくらべる]に切り替えると、半長軸の大きい外側の惑星ほどゆっくり回る様子も見られます。
実際の惑星の値を並べると、\(\dfrac{T^2}{a^3}\) が本当にそろっていることが分かります。
| 惑星 | 半長軸 \(a\)〔天文単位〕 | 周期 \(T\)〔年〕 | \(\dfrac{T^2}{a^3}\) |
|---|---|---|---|
| 水星 | 0.387 | 0.241 | 1.00 |
| 金星 | 0.723 | 0.615 | 1.00 |
| 地球 | 1.000 | 1.000 | 1.00 |
| 火星 | 1.524 | 1.881 | 1.00 |
| 木星 | 5.203 | 11.86 | 1.00 |
| 土星 | 9.537 | 29.46 | 1.00 |
| 天王星 | 19.19 | 84.01 | 1.00 |
| 海王星 | 30.07 | 164.8 | 1.00 |
\(k\) は宇宙共通の定数ではありません。あとで示すとおり \(k = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) で、\(M\) は中心天体の質量です。だから「太陽のまわりの惑星」と「地球のまわりの衛星」では \(k\) が別の値になります。同じ中心天体を回るもの同士でしか \(\dfrac{T^2}{a^3}\) を等号で結べません。
第一・第二法則は「1つの惑星の軌道の形と速さ」の規則でしたが、第三法則は複数の惑星をまたいで成り立つ点が違います。そしてこの「共通の比が存在する」という事実こそが、次のカードでニュートンが逆二乗の法則 \(F\propto\dfrac{1}{r^2}\) を導き出す鍵になります。ケプラーは観測から規則を見つけただけで、その理由までは説明できませんでした。
上の表で半長軸の単位に天文単位を使いました。これは太陽系の距離をはかるための単位です。
なぜ m のままにしないのか。理由は 2 つあります。
ひとつは桁が大きすぎること。海王星までの距離を m で書くと \(4.5 \times 10^{12}\ \text{m}\) ですが、天文単位なら 30 です。惑星同士をくらべるのに、こちらのほうが圧倒的に見やすい。
もうひとつは第三法則がそのまま使えることです。\(\dfrac{T^2}{a^3} = k\) の \(k\) は中心天体で決まる定数でした。太陽系で距離を天文単位、周期を年で測ると \(k = 1\) になります(地球が \(a=1,\ T=1\) だから)。つまり
$$ T^2 = a^3 \qquad (\,a\ \text{は天文単位、}\ T\ \text{は年}\,) $$
と、定数なしで書けてしまう。上の表の \(\dfrac{T^2}{a^3}\) がどれも 1.00 になっていたのは、この単位の取り方のおかげです。ハレー彗星の計算例もこの形を使っています。
| 距離 | 天文単位で | メートルで |
|---|---|---|
| 地球 — 太陽 | 1 | \(1.5 \times 10^{11}\ \text{m}\) |
| 海王星 — 太陽 | 30 | \(4.5 \times 10^{12}\ \text{m}\) |
| いちばん近い恒星(プロキシマ) | 約 27 万 | \(4.0 \times 10^{16}\ \text{m}\) |
表のいちばん下を見ると、恒星までの距離になると天文単位でも桁が大きすぎることが分かります。そこから先は光年(光が 1 年で進む距離、約 6 万 3000 au)を使います。はかる対象の大きさに合わせてものさしを取り替える——単位はそのために選ぶものです。
天文単位はもともと「地球の軌道の半長軸」という観測で決まる量でした。つまり測定の精度が上がるたびに 1 au の値が変わってしまう、落ち着かない単位だったのです。
そこで 2012 年、国際天文学連合が 1 au = 149 597 870 700 m と数値で定義し直しました。いまの天文単位は「地球の距離」ではなく、この決められた長さそのものです。地球の軌道が今後わずかに変わっても、1 au は動きません。
ちなみに太陽の光が地球に届くまでは約 8 分 20 秒。いま見えている太陽は 8 分前の姿です。「1 au」は光で 8 分 20 秒の距離と覚えておくと、太陽系の大きさが実感しやすくなります。
条件:ハレー彗星の軌道の半長軸は約 \(a = 18\) 天文単位。地球(\(a=1,\ T=1\) 年)を基準に第三法則から周期 \(T\) を求める。
第三法則より \(\dfrac{T^2}{a^3} = \dfrac{1^2}{1^3} = 1\) なので \(T^2 = a^3\)。よって
$$ T = \sqrt{a^3} = \sqrt{18^3} = \sqrt{5832} \fallingdotseq 76 \text{ 年} $$答え:約 76年。実際のハレー彗星の周期(約76年)とよく一致します。半長軸さえ分かれば、はるか遠くの天体の周期まで予言できるのが第三法則の威力です。
1840年代、天王星の軌道は万有引力の計算とわずかに合いませんでした。ルヴェリエは「その外側に未知の惑星があるはずだ」として位置を計算で予言し、1846年にベルリン天文台が予言位置から1°以内でそれを発見します。海王星です。
面白いのは、同じ論法が外れることもあった点です。水星の近日点移動も「バルカン」という未知の惑星で説明しようとしましたが、こちらは見つからず、正解は一般相対性理論でした。「理論と観測が合わないとき、理論を捨てるか・未知のものを想定するか」——その判断の難しさが科学の面白さです。
ケプラーの規則が「なぜ成り立つか」を考えた先に、惑星を回す力の正体があります。
ケプラーは観測から3つの規則を見つけましたが、なぜそうなるのかは説明できませんでした。ニュートンは逆から考えます——「惑星をその軌道に保つ力は、どんな形をしていなければならないか」と。
惑星の軌道はだ円ですが、つぶれ方は小さいので半長軸 \(a\) を半径 \(r\) とする円軌道で近似します(円は最もつぶれの小さいだ円で、本質は変わりません)。太陽のまわりを質量 \(m\) の惑星が半径 \(r\)・角速度 \(\omega\) で回り、太陽が及ぼす力 \(F\) は中心を向いている——という状況です。
半径を大きくすると、回り方が遅くなると同時に、中心を向く矢印が急激に短くなります。この「急激さ」の正体を、運動方程式とケプラーの第三法則から突きとめましょう。向心方向の運動方程式は
$$ mr\omega^2 = F $$
角速度は周期 \(T\) を使って \(\omega = \dfrac{2\pi}{T}\) と書けるので、代入して
$$ mr\left(\dfrac{2\pi}{T}\right)^2 = F \quad\Longrightarrow\quad F = \dfrac{4\pi^2 m r}{T^2} $$
ここへケプラーの第三法則 \(T^2 = k r^3\) を代入すると \(T^2\) が消えて
$$ F = \dfrac{4\pi^2 m r}{k r^3} = \dfrac{4\pi^2}{k}\cdot\dfrac{m}{r^2} $$
つまり惑星にはたらく力は質量に比例し、距離の2乗に反比例します。ケプラーの3つの規則から、力の形がここまで絞り込めました。
ただし、ここまでで分かったのは「太陽が惑星を引く力」の形だけで、太陽の質量 \(M\) がまだ式に出てきていません。どこから入ってくるのでしょうか。
直感では見当がつきます。もし力が \(M\) と無関係なら、太陽がもう1個ぶん重くなっても引力は変わらないことになり、さすがにおかしい。引く側が2倍なら力も2倍のはずです。これを筋道立てて示しましょう。
手がかりは上の式の比例定数 \(\dfrac{4\pi^2}{k}\) です。\(k\) は惑星ごとの値ではなく、太陽のまわりを回るものすべてに共通の定数でした。つまりこの係数は太陽だけで決まり、惑星の側は一切効いていません。そこで太陽だけで決まる定数を \(A\) とおくと
$$ F = A\,\dfrac{m}{r^2} $$
——引かれる側の質量に比例し、引く側で決まる係数がかかる、という形です。
ここで作用反作用の法則を使います。惑星も太陽を同じ大きさ \(F\) で引き返しているので、まったく同じ力を「惑星が太陽を引く力」として見直せます。今度は引かれる側が太陽(質量 \(M\))、引く側が惑星です。木星のまわりの衛星でも同じ形の第三法則が成り立つように、この議論は中心が誰であっても通ります。そこで惑星だけで決まる定数を \(B\) とおけば
$$ F = B\,\dfrac{M}{r^2} $$
2つの式は同じ1つの力を表しているので、等号で結べます。\(r^2\) を払って整理すると
$$ A\,m = B\,M \quad\Longrightarrow\quad \dfrac{A}{M} = \dfrac{B}{m} $$
左辺は太陽だけ、右辺は惑星だけで決まる量です。それがどの惑星をもってきても等しいのだから、この比は相手によらない共通の定数でしかありえません。\(\dfrac{A}{M}\) が一定ということは、すなわち \(A\) が \(M\) に比例するということ。したがって
$$ F \propto \dfrac{Mm}{r^2} $$
が確定します。\(M^2\) でも \(\sqrt{M}\) でもなく、ちょうど1乗で入るのはこのためです。残ったこの共通の定数には、次で名前を付けます。
万有引力は距離の2乗に反比例(逆二乗)。\(r\) が2倍で力は \(\dfrac{1}{4}\) 倍、3倍で \(\dfrac{1}{9}\) 倍です。
ここまでで力の「形」——何に比例し、何に反比例するか——は決まりました。あとは比例定数を1つ決めれば式が完成します。この定数を 万有引力定数 \(G\) と呼びます。
\(G = 6.67\times10^{-11}\) N·m²/kg²。2物体は互いに等しい大きさの力で引き合います(作用反作用)。
下のシミュレーションで質点 \(m\) をドラッグして距離を変えてみましょう。2つの矢印はつねに同じ長さ(作用反作用)で、距離が半分になると力は4倍になります。
なお \(r\) は「2物体の中心間の距離」です。地球のような大きさのある球でも、外部の点に及ぼす引力は全質量が中心に集まっているとみなして計算できます(球殻定理)。ニュートン自身がこの定理の証明に苦労し、『プリンキピア』の出版が遅れたと伝えられています。
条件:太陽の質量 \(M = 2.0\times10^{30}\) kg、地球の質量 \(m = 6.0\times10^{24}\) kg、距離 \(r = 1.5\times10^{11}\) m、\(G = 6.67\times10^{-11}\) N·m²/kg²。
$$ F = G\dfrac{Mm}{r^2} = \dfrac{6.67\times10^{-11}\times 2.0\times10^{30}\times 6.0\times10^{24}}{(1.5\times10^{11})^2} $$分子:\(6.67\times2.0\times6.0 = 80.0\) → \(80.0\times10^{43}\)。分母:\((1.5)^2 = 2.25\) → \(2.25\times10^{22}\)。よって
$$ F = \dfrac{80.0\times10^{43}}{2.25\times10^{22}} \fallingdotseq 3.6\times10^{22} \text{ N} $$答え:約 \(3.6\times10^{22}\) N。この巨大な引力が向心力となって、地球を太陽のまわりに回し続けています。
1798年、キャヴェンディッシュは細い糸につるした棒の両端に鉛球をつけたねじりばかりで \(G\) を測定しました。測ったのは鉛球どうしの \(10^{-7}\) N オーダー——蚊の重さの1万分の1程度の力です。
当時これは「\(G\) を測った」ではなく「地球の重さを量った実験」と呼ばれました。\(g\) と \(R\) は既知だったので、\(G\) さえ分かれば \(M = \dfrac{gR^2}{G}\) で地球の質量が出るからです。
面白いことに、\(G\) は200年以上たった今も最も精度の低い基礎物理定数で、相対精度は \(2\times10^{-5}\) 程度しかありません。電子の質量が \(10^{-10}\) の精度で分かっているのに、最も身近な力の定数がいちばん曖昧——重力がそれだけ弱いことの裏返しです。
地上で感じる「重さ」の正体も、地球全体から受ける万有引力です。
ここではまず地球の自転による遠心力を無視して考えます。このとき地表の物体にはたらく重力 \(mg\) は、地球(質量 \(M\)、半径 \(R\))から受ける万有引力そのものです。自転を入れるとどうなるかは、このすぐあとで扱います。
$$ mg = G\dfrac{Mm}{R^2} \quad\Longrightarrow\quad g = \dfrac{GM}{R^2} $$
両辺の \(m\) が消えるので、\(g\) は物体の質量によらない——「軽い物も重い物も同じように落ちる」理由です。
変形した \(GM = gR^2\) は、このあと何度も使う置きかえです。\(G\) や \(M\) の値を知らなくても、身近な \(g = 9.8\) と \(R\) さえあれば \(GM\) をまるごと \(gR^2\) に置き換えられます。以降の宇宙速度の計算でも使い続けます。
私たちが重力と呼ぶのは、万有引力と自転の遠心力の合力です。ただし遠心力は赤道でも万有引力の約 \(\dfrac{1}{290}\)(わずか0.3%程度)なので、多くの問題では「重力 ≒ 万有引力」と近似します。
緯度 \(\theta\) の地点では自転軸からの距離が \(R\cos\theta\) なので、遠心力の大きさは \(f = mR\omega^2\cos\theta\) です(\(\omega\) は自転の角速度)。赤道(\(\theta=0\))で最大、極(\(\theta=90^\circ\))でゼロになります。上のシミュレーションで惑星の \(M,R\) を変えると \(g=\dfrac{GM}{R^2}\) がどう変わるか、また自転の遠心力がどれだけ小さな寄与かを確かめられます。
条件:火星の半径は地球の約0.5倍、質量は地球の約0.1倍。火星の表面重力 \(g'\) は地球の \(g\) の何倍か。
\(g = \dfrac{GM}{R^2}\) なので、質量が \(0.1\) 倍・半径が \(0.5\) 倍のとき
$$ g' = \dfrac{G(0.1M)}{(0.5R)^2} = \dfrac{0.1}{0.25}\cdot\dfrac{GM}{R^2} = 0.4\,g $$答え:火星の表面重力は地球の約 0.4倍(約3.7 m/s²)。質量が小さくても半径も小さいため、分母の効果で0.1倍まで小さくはなりません。
万有引力を「向心力」とみなすと、衛星が落ちずに回り続ける理由が式で出ます。
地球(質量 \(M\))のまわりを、半径 \(r\) の円軌道で回る質量 \(m\) の人工衛星を考えます。空気のない宇宙空間なので、衛星にはたらく力は地球からの万有引力だけです。軌道半径を変えると速さ・周期・万有引力がどう変わるか、まず動かして確かめてください。
その万有引力の向きはつねに地球の中心を向いています。一方、円運動を続けるには中心に向かう力(向心力)が必要でした。つまりこの2つは同じ1つの力——万有引力が向心力の役割をしているのです。
そこで、円運動の運動方程式 \(m\dfrac{v^2}{r} = (\text{向心力})\) の右辺に万有引力を入れます。
$$ m\dfrac{v^2}{r} = G\dfrac{Mm}{r^2} $$
これを \(v\) について解き、\(T = \dfrac{2\pi r}{v}\) を使うと次の2式が得られます。
衛星の質量 \(m\) が消えるので、速さも周期も軌道半径だけで決まります。高い軌道ほど遅く、周期は長くなります。
上の \(T\) を2乗すると \(T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3\)。これはケプラーの第三法則そのもので、しかも定数が \(k = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) と決まります。Card 1 で「\(k\) は中心天体で決まる」と書いた根拠がこれです。ケプラー → 万有引力(Card 2)と、万有引力 → ケプラー(ここ)の両方向がこれでつながりました。
両辺に衛星の質量 \(m\) が現れていたのに割り算で消える、という点は毎回意識してください。「重い衛星ほど速く回さないといけないのでは」という直感は誤りです。なお周期が地球の自転と同じ24時間になる軌道半径では、衛星が地上から止まって見えます(静止衛星)。その具体的な高度はこのあとの Card 6 で計算します。
式だけでは実感がわきません。いま実際に飛んでいるものを、低い順に並べてみます。
| 対象 | 高度 | 周期 | 速さ |
|---|---|---|---|
| ISS | 400 km | 約90分 | 7.7 km/s |
| GPS衛星 | 2.0万 km | 約12時間 | 3.9 km/s |
| ひまわり | 3.6万 km | 24時間 | 3.1 km/s |
| 月 | 38万 km | 27.3日 | 1.0 km/s |
上から下へ、高くなるほど確実に遅く、周期は長くなっています。式 \(v = \sqrt{GM/r}\)、\(T = 2\pi\sqrt{r^3/GM}\) が、そのまま現実の数字として並んでいるわけです。月も「地球の衛星」で、同じ2本の式にちゃんと乗っていることに注目してください。
高さの感じをつかむには、直径30cmの地球儀を思い浮かべるのが早いです。この縮尺だと、ISS は表面からわずか1cm——地球儀にぴったり貼りついている高さです(400 km は東京〜大阪の直線距離とほぼ同じで、「宇宙」と呼ぶには意外なほど近い)。ひまわりは84cm も離れたところ、月にいたっては9m 先になります。ISS と静止衛星では、同じ「人工衛星」でもけたがまるでちがうのです。
この表のひまわりが、天気予報で見る雲の画像を撮っている静止気象衛星です。周期が地球の自転と同じ24時間なので、地上からは空の一点に止まって見えます。その高度がなぜ3.6万kmになるのかは、Card 6 で実際に計算します。
軌道半径を地球半径 \(R\) まで下げたときの速さが第一宇宙速度 \(v_1\)。向心力は地表の重力 \(mg\) そのものです。
$$ m\dfrac{v_1^2}{R} = mg \quad\Longrightarrow\quad v_1 = \sqrt{gR} = \sqrt{\dfrac{GM}{R}} $$
数値を入れると \(v_1 \fallingdotseq 7.9\) km/s。これが地球を回り続けるための最小の速さです。
最後の等号では \(GM = gR^2\) を使いました。上のシミュレーションは「ニュートンの大砲」です。発射速度を上げていくと弾道の放物線がだんだん伸び、ちょうど地表すれすれの円軌道になる境界が第一宇宙速度にあたります。これより遅ければ弾は地面に落ちます。
条件:\(g = 9.8\) m/s²、地球の半径 \(R = 6.4\times10^6\) m。
$$ v_1 = \sqrt{gR} = \sqrt{9.8\times 6.4\times10^6} = \sqrt{6.27\times10^7} \fallingdotseq 7.9\times10^3 \text{ m/s} $$周期も見積もると \(T = \dfrac{2\pi R}{v_1} = \dfrac{2\pi\times6.4\times10^6}{7.9\times10^3} \fallingdotseq 5.1\times10^3\) s ≒ 約85分。
答え:第一宇宙速度 \(v_1 \fallingdotseq\) 7.9 km/s。時速に直すと約2.8万km/hという猛烈な速さです。
天気予報の雲の動きを撮っているのは、気象庁のひまわり9号です。東経140.7度の赤道上空、高度約3.6万kmに浮かんでいて、地球全体を10分ごと(日本付近は2.5分ごと)に撮影しています。ニュースで流れる「雲が西から東へ動く」あの映像は、この一点から撮り続けたコマ送りなのです。
なぜ赤道の上空でなければならないのか。衛星の軌道面は必ず地球の中心を通ります(万有引力が中心を向いているからです)。だから「地上のある一点の真上に居続ける」ことができるのは、その点が軌道面の上にある場合だけ——つまり赤道上空に限られます。日本の真上に静止する衛星は、原理的に作れません。
いちばん身近な静止衛星はBS・CS放送のアンテナが向いている先でしょう。東経110度の静止衛星で、東京なら南西の空・仰角およそ38度に向けて取り付けます。一度固定したら二度と動かさなくてよいのは、衛星が空の一点に止まっているからです。ベランダのアンテナがどれも同じ方角を向いているのを、一度確かめてみてください。
一方GPS衛星は高度約2万km・周期約12時間で、静止していません。空を移動しながら電波を送り、受信機は4機以上からの電波の到達時間の差で位置を割り出します。止まっていないからこそ、どこにいても複数の衛星をつかまえられるのです。
「高い所の物体がもつエネルギー」を、地表から宇宙スケールへ広げます。
無限遠を基準(\(U=0\))にとります。地表付近の \(U=mgh\) は宇宙スケールでは使えません(重力の大きさ自体が \(\dfrac{1}{r^2}\) で変わるため)。
\(U\) が負になるのは無限遠を 0 と決めたからです。井戸で考えてください。地面(=無限遠)の高さを 0 とすると、井戸の中はすべて地面より下ですから、深さを高さとして測れば値はすべてマイナスになります。\(r\) が小さいほど井戸の深いところにいるので、\(U\) はより大きなマイナスになります。つまり負号は「エネルギーが足りない」という意味ではなく、基準の無限遠より下にいる=引力に捕まっていることを表す符号です。
なぜ負になるのでしょうか。カギは力と移動の向きです。物体を外へ運ぶとき、移動の向きは外向き・万有引力は内向きで逆を向いています。だから万有引力のする仕事は負、外力のする仕事は正です。その外力の仕事が、右のグラフの面積にあたります。
では \(U = -G\dfrac{Mm}{r}\) を導きましょう。物体を \(r\) から無限遠まで、細かい区間 \(r_0(=r),\,r_1,\,r_2,\dots\) に区切ります。区間 \([r_n,\,r_{n+1}]\) では引力の大きさを両端の積を使って \(\dfrac{GMm}{r_n r_{n+1}}\) で近似すると、その区間で引力に逆らってする仕事は距離 \((r_{n+1}-r_n)\) をかけて
$$ \dfrac{GMm}{r_n r_{n+1}}(r_{n+1}-r_n) = GMm\left(\dfrac{1}{r_n}-\dfrac{1}{r_{n+1}}\right) $$
全区間で足すと、となり合う項が次々に打ち消し合う「望遠鏡和」になって両端だけが残ります。
$$ GMm\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{\infty}\right) = \dfrac{GMm}{r} $$
これは「\(r\) から無限遠へ運ぶのに必要な仕事」=正の値です。無限遠を \(U=0\) にとったので、その基準より \(\dfrac{GMm}{r}\) だけ低い位置にいることになり、位置エネルギーは負になります。
地表から高さ \(h\)(\(h \ll R\))だけ上げたときの位置エネルギーの差を取ると、\(mgh\) がそのまま出てきます。
$$ U(R+h) - U(R) = GMm\cdot\dfrac{h}{R(R+h)} \fallingdotseq \dfrac{GMm}{R^2}h = mgh $$
\(mgh\) は地表付近でしか使えない近似です(\(h \ll R\) が条件)。人工衛星の高度変化に \(mgh\) を使うと間違えます。スカイツリー 0.6 km に対し地球半径は 6400 km——だからこそ地上では \(mgh\) で十分なのです。
途中の計算はこうです。まず差を通分すると
$$ U(R+h) - U(R) = GMm\left(\dfrac{1}{R}-\dfrac{1}{R+h}\right) = GMm\cdot\dfrac{(R+h)-R}{R(R+h)} = GMm\cdot\dfrac{h}{R(R+h)} $$
ここで \(h \ll R\) より \(R+h \fallingdotseq R\) と近似し、\(GM = gR^2\) を使えば \(\dfrac{GMm}{R^2}h = mgh\) になります。「なぜ地表では \(mgh\) でいいのか」——その答えが、この \(h \ll R\) の近似です。
万有引力は保存力なので、運動エネルギーと位置エネルギーの和が保存します。
ここから第二宇宙速度——地球の引力を振り切るのに必要な、最小の打ち上げ速度——を求めます。その前に「脱出できた」とはどういう状態かをはっきりさせましょう。
万有引力は \(r\) をどれだけ大きくしても 0 にはなりません。だから「ここまで来れば圏外」という距離の線引きはできないのです。そこで無限に遠くまで行けたら脱出成功と考えます。
無限遠は \(U = 0\) と決めてありました。だから無限遠での力学的エネルギーは、運動エネルギーそのものです。無限遠での速さを \(v_\infty\) と書くと
$$ E = \dfrac{1}{2}mv_\infty^2 + 0 = \dfrac{1}{2}mv_\infty^2 \;\ge\; 0 $$
運動エネルギーは負になれないので、無限遠まで行けたのなら \(E\) は必ず 0 以上です。そして \(E\) は途中で変わりませんから、地表で持っていた \(E\) がそのまま無限遠での値になります。3通りに分けて見ましょう。
つまり脱出できる条件は \(E \ge 0\)。いま知りたいのは最小の速さなので、ちょうど境目の \(E = 0\) を選びます。「無限遠で速さ 0」とは、この \(E = 0\) という境界条件を速さの言葉で言いかえたものなのです。
ここで「速さが 0 になるなら、止まって落ちてくるのでは?」と引っかかる人がいます。もっともな疑問です。たしかに速さが 0 になる場所が有限の距離にあれば、そこが最高点で落ちてきます。しかし \(E = 0\) のときは事情がちがいます。距離 \(r\) での速さを求めると
$$ \dfrac{1}{2}mv^2 - G\dfrac{Mm}{r} = 0 \quad\Longrightarrow\quad v = \sqrt{\dfrac{2GM}{r}} $$
で、\(r\) をどれだけ大きくしても \(v\) は 0 になりません(限りなく 0 に近づくだけです)。止まる場所がどこにもないので、だんだん遅くなりながらも永久に遠ざかり続け、二度と戻りません。「無限遠で 0」は到達して止まる点ではなく、行き着く先の目安だと思ってください。
では \(E = 0\) を、地表(\(r = R\)、速さ \(v_2\))で書き下します。
$$ \dfrac{1}{2}mv_2^2 - G\dfrac{Mm}{R} = 0 \quad\Longrightarrow\quad v_2 = \sqrt{\dfrac{2GM}{R}} = \sqrt{2gR} \fallingdotseq 11.2 \text{ km/s} $$
これが第二宇宙速度(脱出速度)で、\(v_2 = \sqrt{2}\,v_1\) という関係になります。
力学的エネルギーの符号が軌道の形を決めます。
| 力学的エネルギー | 軌道 | 意味 |
|---|---|---|
| \(E < 0\) | だ円(円を含む) | 束縛されていて出られない |
| \(E = 0\) | 放物線 | ぎりぎり無限遠に届く(第二宇宙速度) |
| \(E > 0\) | 双曲線 | 余力を残して脱出する |
第一宇宙速度は運動方程式(向心力)から、第二宇宙速度はエネルギー保存から出ます。この原理の違いを意識してください。また \(v_2=\sqrt2\,v_1\) は月や火星でもそのまま使える関係です。
半径 \(r\) の円軌道では、Card 4 の \(v^2 = \dfrac{GM}{r}\) を代入すると運動エネルギーは \(K = \dfrac{GMm}{2r}\)、力学的エネルギーは \(E = \dfrac{GMm}{2r} - \dfrac{GMm}{r} = -\dfrac{GMm}{2r}\) となります。\(E\) が負であることが、衛星が地球に束縛されて周回している証拠です。この負の値の絶対値が「その軌道から無限遠へ脱出するのに必要なエネルギー」に対応します。
条件:\(g = 9.8\) m/s²、地球の半径 \(R = 6.4\times10^6\) m。
$$ v_2 = \sqrt{2gR} = \sqrt{2\times9.8\times6.4\times10^6} = \sqrt{1.25\times10^8} \fallingdotseq 1.12\times10^4 \text{ m/s} $$これは第一宇宙速度 \(v_1 \fallingdotseq 7.9\) km/s の \(\sqrt{2}\) 倍で、約11.2 km/s。あと約41%だけ速くすれば脱出できる、という関係です。
引力を中心向きに負ととった万有引力 \(F(r) = -\dfrac{GMm}{r^2}\) から、無限遠を基準とする位置エネルギーは次の積分で与えられます。
$$ U(r) = -\int_{\infty}^{r} F(r')\,dr' = -\int_{\infty}^{r}\left(-\dfrac{GMm}{r'^2}\right)dr' = -\left[\dfrac{GMm}{r'}\right]_{\infty}^{r} = -\dfrac{GMm}{r} $$
\(U(\infty)=0\) を基準にとるため、すべての有限の \(r\) で \(U<0\) となります。本文で行った「望遠鏡和」は、この積分を高校範囲の足し算で近似したものにあたります。
はやぶさ2 やボイジャーは、惑星の重力を使って加速しています(スイングバイ)。不思議なのは、惑星から見ると通過の前後で速さが変わらない(力学的エネルギー保存)のに、太陽から見ると加速していることです。惑星の公転速度を「分けてもらっている」からです。
運動量保存より、探査機が得た運動量のぶん惑星はごくわずかに減速します。地球スイングバイ1回で地球の公転が \(10^{-23}\) m/s ほど遅くなる計算です。
逆に、脱出速度 \(v_2 = \sqrt{\dfrac{2GM}{R}}\) は \(M\) が大きく \(R\) が小さいほど大きくなります。押し縮めて脱出速度が光速を超えると光さえ出られない——これがブラックホールです。
よく出てくる設定を、立式のしかたと考える順序で押さえます。
定石:周期 \(T=24\) 時間を第三法則に入れて \(r\) を出し、\(GM = gR^2\) で置き換える。
$$ r = \left(\dfrac{gR^2 T^2}{4\pi^2}\right)^{1/3} \fallingdotseq 4.2\times10^7 \text{ m} $$
高度は \(r - R \fallingdotseq\) 約3.6万km(地球半径の約5.6倍)。
この高さが、天気予報でおなじみのひまわり9号が飛んでいる場所です。3.6万km は地球一周(約4万km)とほぼ同じ距離——地球を1周する分だけ上空、と覚えると桁を間違えません。「24時間」という条件だけから、この高さが一意に決まってしまう点が、この問題の面白いところです。
【立式】ケプラーの第三法則 \(\dfrac{T^2}{r^3} = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) を \(r\) について解くと \(r = \left(\dfrac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{1/3}\)。【代入】\(G,M\) の値を使わずに \(GM\) を \(gR^2\) に置き換えます。【数値】\(g = 9.8\) m/s²、\(R = 6.4\times10^6\) m、\(T = 24\times3600 = 8.64\times10^4\) s。上のシミュレーションを[静止衛星]モードにすると、この過程が可視化されます。
定石:近日点 \((r,v)\)・遠日点 \((R,V)\) で面積速度一定とエネルギー保存を連立する。
$$ rv = RV, \qquad \dfrac{1}{2}mv^2 - G\dfrac{Mm}{r} = \dfrac{1}{2}mV^2 - G\dfrac{Mm}{R} $$
解くと次の対称な形になります。
$$ v = \sqrt{\dfrac{2GMR}{r(R+r)}}, \qquad V = \sqrt{\dfrac{2GMr}{R(R+r)}} $$
【途中の山場】第1式より \(V = \dfrac{r}{R}v\)。これを第2式に代入して \(m\) で割ると
$$ \dfrac{1}{2}v^2\left(1-\dfrac{r^2}{R^2}\right) = GM\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{R}\right) $$
両辺を通分し、左辺の分子を因数分解します。ここで展開してしまうと3次式になって詰みます。
$$ \dfrac{1}{2}v^2\cdot\dfrac{(R-r)(R+r)}{R^2} = GM\cdot\dfrac{R-r}{rR} $$
\(R \neq r\) なので \((R-r)\) で割れて \(v^2 = \dfrac{2GMR}{r(R+r)}\)。結果が \(r \leftrightarrow R\) の入れ替えで対称になっているのが検算になります。面積速度一定で速さの比を出し、エネルギー保存で大きさを決める——この2段構えが定石です。
定石:第三法則を比の形でそのまま使う。ただし中心天体が同じときだけ。
$$ \dfrac{T_1^2}{a_1^3} = \dfrac{T_2^2}{a_2^3} $$
半長軸が4倍なら \(T_2^2/T_1^2 = 4^3 = 64\) より \(T_2 = 8\,T_1\)。地球基準なら \(T = \sqrt{a^3}\) 年です。
定石:半径 \(r\) の位置では内側の質量 \(M_r\) だけが効く。すると力が \(F = -Kr\) の形になり単振動になります。
$$ F = -G\dfrac{M_r m}{r^2} = -\dfrac{GMm}{R^3}r = -\dfrac{mg}{R}r $$
単振動の \(F = -Kx\) と見比べると \(K = \dfrac{mg}{R}\)。周期の式に入れると \(m\) が消えて、物体の質量によらない値になります。
$$ T = 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{R}{g}} \fallingdotseq 84 \text{ 分} $$
地球全体の \(M\) を使って \(F=-\dfrac{GMm}{r^2}\) とすると中心で発散して破綻します。必ず「内側の質量だけ」と言えるかで差がつきます。しかもこの84分は、地表すれすれの円軌道の周期と完全に一致します(どちらも \(2\pi\sqrt{R/g}\))。
一様な密度 \(\rho\) の地球なら、半径 \(r\) の内側の質量は \(M_r = \dfrac{4}{3}\pi r^3\rho = M\dfrac{r^3}{R^3}\)。球殻定理(一様な球殻の内部では引力が打ち消し合って 0)により、外側の殻は効きません。これを代入し \(GM = gR^2\) を使うと \(F = -\dfrac{mg}{R}r\)。単振動の \(F=-Kx\) と見比べて \(K = \dfrac{mg}{R}\) なので \(T = 2\pi\sqrt{R/g} = 2\pi\sqrt{6.4\times10^6/9.8} \fallingdotseq 5.1\times10^3\) s ≒ 84分です。トンネルを落ちる物体と頭上を回る衛星が、いつも同じ側にいることになります。
定石:万有引力の距離は \(L\)、円運動の半径は重心からの距離 \(r_i\)——ここを混同しないこと。
$$ r_1 = \dfrac{m_2}{m_1+m_2}L, \qquad m_1 r_1 \omega^2 = G\dfrac{m_1 m_2}{L^2} $$
整理すると周期は次のようになります。
$$ T^2 = \dfrac{4\pi^2}{G(m_1+m_2)}L^3 $$
第三法則の \(k\) が \(\dfrac{4\pi^2}{G(m_1+m_2)}\) になる、というのが一般形です。
星1の運動方程式に \(r_1\) を代入して整理します。
$$ m_1\cdot\dfrac{m_2 L}{m_1+m_2}\cdot\omega^2 = \dfrac{Gm_1m_2}{L^2} \quad\Longrightarrow\quad \omega^2 = \dfrac{G(m_1+m_2)}{L^3} $$
中心天体が圧倒的に重い(\(m_2 \ll m_1\))ときだけ \(k = \dfrac{4\pi^2}{Gm_1}\) に戻ります。Card 1 と Card 4 で見た \(k = \dfrac{4\pi^2}{GM}\) は、この一般形の特別な場合だったわけです。いちばん多い間違いは円運動の半径に \(L\) を使ってしまうことです。図に重心を書き込む習慣をつけましょう。