物理 > 第2編 熱と気体 > 第1章 気体のエネルギーと状態変化
「温度が一定なら圧力と体積は反比例する」——気体の振る舞いを支配する基本法則を学ぶ。
気体の分子は容器の壁に衝突し,壁を押す力を及ぼす。 単位面積あたりの力の大きさを圧力(pressure)という。
圧力の単位はパスカル(記号 Pa)で,1 Pa = 1 N/m² である。 1 気圧(atm)は海面(海抜 0 m)でのおよその大気圧を基準に決めた値で, 1 atm = 1.013 × 10⁵ Pa = 1013 hPa と約束されている。天気予報では hPa(ヘクトパスカル)が使われる。
つまり 1 atm は「決めた値」であって,いま自分のいる場所の大気圧ではない。 実際の大気圧は,同じ海面でも天気によって 1 日で数十 hPa 変わり, 標高が上がるほど小さくなる(富士山頂で約 640 hPa)。 問題文に「大気圧を 1.0 × 10⁵ Pa とする」と条件が書かれるのは,そのためである。
条件:力 \(F = 100\) N、面積 \(S = 0.02\) m²
$$ p = \frac{F}{S} = \frac{100}{0.02} = 5000 \text{ Pa} = 5.0 \times 10^3 \text{ Pa} $$答え:\(p = 5.0 \times 10^3\) Pa(= 5.0 kPa)
温度を一定に保ったまま気体の体積を半分にすると、圧力は2倍になる。逆に体積を2倍にすれば圧力は半分になる。このように、温度一定のとき圧力と体積は反比例の関係にある。
条件:初期圧力 \(p_1 = 1.0 \times 10^5\) Pa、初期体積 \(V_1 = 2.0\) L、最終体積 \(V_2 = 0.5\) L
ボイルの法則 \(p_1 V_1 = p_2 V_2\) より
$$ p_2 = \frac{p_1 V_1}{V_2} = \frac{1.0 \times 10^5 \times 2.0}{0.5} = 4.0 \times 10^5 \text{ Pa} $$答え:\(p_2 = 4.0 \times 10^5\) Pa(体積が \(\frac{1}{4}\) になったので圧力は 4 倍)
温度スライダーで等温線を変化させ、グラフ上の点をドラッグして圧力と体積の反比例関係を確かめよう。右のピストンが体積に連動して動きます。
グラフ上の点をドラッグ/温度スライダーで等温線を変更
ボイルの法則は1662年にロバート・ボイルが発見しました。J字管に水銀を注ぎ、閉じ込めた空気の体積と圧力の関係を定量的に測定したのが最初の実験です。
上空は気圧が低いため、ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\) により風船内の気体の体積が膨張します。風船のゴムが伸びきる限界を超えると破裂します。気象観測用のゾンデ気球は直径1〜2mですが、高度30kmでは直径10m以上に膨張してから破裂し、パラシュートで降下します。
ボイルの法則は「温度一定」での話だった。では温度を変えたら?——シャルルの法則で体積と温度の比例関係を学び、3つの法則を比較しよう。
圧力を一定に保ったまま気体を加熱すると体積が膨張する。絶対温度を2倍にすれば体積も2倍になる。このように、圧力一定のとき体積は絶対温度に比例する。なお、絶対温度 \(T\)〔K〕はセルシウス温度 \(t\)〔℃〕を用いて \(T = t + 273\) で換算される。
条件:\(T_1 = 27 + 273 = 300\) K、\(V_1 = 3.0\) L、\(T_2 = 127 + 273 = 400\) K
シャルルの法則 \(\dfrac{V_1}{T_1} = \dfrac{V_2}{T_2}\) より
$$ V_2 = V_1 \times \frac{T_2}{T_1} = 3.0 \times \frac{400}{300} = 4.0 \text{ L} $$答え:\(V_2 = 4.0\) L
同じ法則でも、どの2つの量を軸にとったグラフで見るかによって、線の形が変わる。 次の表の右端は「どの図で見ると、どんな形になるか」をまとめたものである。
| 法則 | 条件 | 関係 | グラフ |
|---|---|---|---|
| ボイル | 温度 \(T\) 一定 |
\(pV = \text{一定}\) (反比例) |
p-V:双曲線 |
| シャルル | 圧力 \(p\) 一定 |
\(V/T = \text{一定}\) (比例) |
V-T:直線 p-V:水平線 |
| ボイル= シャルル |
なし | \(pV/T = \text{一定}\) | 1枚では 描けない |
双曲線とは、\(p\)-\(V\) 図で \(pV = \text{一定}\) を満たす点をつないだ反比例の曲線のこと。 温度を変えるとこの曲線は上下に平行移動するように移り変わるので、 1本1本の曲線が「その温度での状態の集まり」を表している。この曲線を等温曲線という。
水平線は、シャルルの法則を\(p\)-\(V\) 図に描いたときの形である。 圧力を一定に保ったまま温めると、縦軸の \(p\) は変わらず横軸の \(V\) だけが右へ伸びるので、 図の上では横に真っすぐな線分になる。 同じ現象を \(V\)-\(T\) 図で見ると、こちらは原点(正確には \(-273\)℃)を通る右上がりの直線になる。
下の図で、温度スライダーを動かしながら3つの図を見比べてみよう。
シャルルの法則は1787年にジャック・シャルルが発見しました。V-Tグラフを外挿すると体積がゼロになる温度(-273℃)が存在し、これが絶対零度の概念につながりました。
ボイルの法則は「温度一定」、シャルルの法則は「圧力一定」が前提だった。しかし現実の気体では温度も圧力も同時に変わることが多い。両方の法則を1つにまとめ、さらに気体の量(物質量)も含めた「万能の式」を導こう。
ここまでの3つの法則は、実際の気体を測って見つけた経験則である。 だから空気でも二酸化炭素でも、常温・常圧ならほぼそのまま成り立つ。 「理想気体でなければ使えない」わけではない。
ただし厳密には少しずれる。分子そのものにも大きさがあり、分子どうしが引き合う力もはたらくからである。 そのずれは高圧・低温にするほど大きくなり、やがて気体は液体になってしまう。
そこで、どんな \(p, V, T\) でもボイル・シャルルの法則がぴったり成り立つ気体を考え、これを理想気体と呼ぶ。 実在しない仮想の気体だが、こう決めておくと次の \(pV = nRT\) を近似ではなく等式として扱える。 高校物理では、特にことわりがない限り気体は理想気体として計算してよい。
ここで「一定」の値が気体の量(物質量 \(n\))に比例することが実験的にわかっている。そこで比例定数を \(R\)(気体定数)とおくと、圧力・体積・温度・物質量をすべて結ぶ1本の式が得られる。
条件:\(n = 0.50\) mol、\(T = 27 + 273 = 300\) K、\(p = 1.0 \times 10^5\) Pa
状態方程式 \(pV = nRT\) より
$$ V = \frac{nRT}{p} = \frac{0.50 \times 8.31 \times 300}{1.0 \times 10^5} = \frac{1246.5}{1.0 \times 10^5} \fallingdotseq 1.25 \times 10^{-2} \text{ m}^3 $$答え:\(V \fallingdotseq 1.25 \times 10^{-2}\) m³(= 12.5 L)
理想気体:分子の大きさ=0、分子間力=0 と仮定した気体モデル。高温・低圧ほど実在気体は理想気体に近づく。この理想化のおかげで、気体の状態を \(pV = nRT\) というシンプルな式だけで完全に記述できる。
ボイル・シャルルの法則 \(\dfrac{pV}{T} = \text{一定}\) において、この「一定」の値を求める。
標準状態(0℃ = 273 K, 1 atm = 1.013×10⁵ Pa)で 1 mol の理想気体の体積は 22.4 L = 0.0224 m³ なので
$$ \frac{pV}{T} = \frac{1.013 \times 10^5 \times 0.0224}{273} \fallingdotseq 8.31 \text{ J/(mol·K)} = R $$\(n\) mol では \(\dfrac{pV}{T} = nR\) となるから、\(pV = nRT\) が得られる。
この式の威力は、\(p, V, n, T\) の4つの状態量のうち3つが決まれば残り1つが自動的に決まることにある。ピストンを動かして体積を変えると、圧力がリアルタイムで変化します。温度 \(T\) や物質量 \(n\) のスライダーも動かして試してみよう。
温度が上がると \(V = nRT/p\) より体積が増えるため、風船は膨らみます。逆に冷やすとしぼみます。車のタイヤの空気圧が夏と冬で変わるのも同じ原理です。
理想気体は分子の大きさが0、分子間力がないと仮定したモデルです。実在気体は高圧・低温で理想気体からずれます。ファンデルワールスの状態方程式 \(\left(p + \frac{a}{V^2}\right)(V-b) = nRT\) は分子間力(\(a\)項)と分子の体積(\(b\)項)を補正します。通常の入試では理想気体の近似で十分です。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
異なる気体A、Bを混合した場合、混合気体の全圧は各成分の分圧の和です(ドルトンの法則)。各成分について \(p_iV = n_iRT\) が成り立ちます。コックつきの容器2つを連結する問題では、混合前後で各成分の物質量が保存され、温度を合わせてから全圧を求めるのが典型的な解法です。
問題設定:容器 A(体積 \(V_A\)、気体 a が圧力 \(p_A\)、温度 \(T\))と容器 B(体積 \(V_B\)、気体 b が圧力 \(p_B\)、温度 \(T\))をコックで連結する。
解法の流れ:
温度が異なる場合は、まず各成分の \(n\) を求めてから、共通の最終温度で立式する。