物理 > 第3編 波 > 第1章 波の伝わり方

① 波と媒質の運動

🌊 1. 波の要素の復習

「振幅・波長・周期・振動数」——波を記述する基本量をあらためて整理する。

スポーツ観戦で観客が「ウェーブ」をすると、人は立って座るだけなのに波が進んで見える。これと同じ原理の物理現象は?
波の伝搬
「ウェーブ」では人(媒質)はその場で上下するだけで移動しません。振動の状態が隣に伝わることで波が進みます。これは物理の波と全く同じ原理です。

波の伝搬と媒質の運動

波の基本量

波は媒質の振動が次々と伝わる現象である。 波を定量的に扱うために,以下の基本量を用いる。

💡
振幅 \(A\)〔m〕:媒質の変位の最大値
波長 \(\lambda\)〔m〕:波の山から次の山(または谷から次の谷)までの距離。位相が \(2\pi\) だけ異なる2点間の距離。
周期 \(T\)〔s〕:媒質の1点が1回の振動を完了するのにかかる時間。
振動数 \(f\)〔Hz〕:1秒間の振動回数。\(f = \dfrac{1}{T}\)。

波の基本式

波の速さ \(v\)〔m/s〕は,1周期 \(T\) の間に波が波長 \(\lambda\) だけ進むことから

\(v = f\lambda = \)\(\frac{\lambda}{T}\)
\(v\)〔m/s〕:波の速さ(位相速度)
\(f\)〔Hz〕:振動数
\(\lambda\)〔m〕:波長
\(T\)〔s〕:周期
📌 ポイント

波の速さは媒質の性質(弾性率・密度など)で決まり,振動数や振幅では変わらない。 振動数は波源が決める量である。

🧮 計算例:波の基本式で波長を求める

条件:振動数 \(f = 500\) Hz,波の速さ \(v = 340\) m/s の音波の波長を求める。

$$ \lambda = \frac{v}{f} = \frac{340}{500} = 0.68 \text{ m} $$

周期は \(T = 1/f = 1/500 = 0.0020\) s = 2.0 ms。確認:\(v = \lambda / T = 0.68 / 0.0020 = 340\) m/s ✓

答え:\(\lambda = 0.68\) m,\(T = 2.0 \times 10^{-3}\) s

🧮 計算例:FM放送の電波の波長

条件:FM放送の振動数 \(f = 80\) MHz = \(80 \times 10^6\) Hz。電波の速さは光速 \(c = 3.0 \times 10^8\) m/s。

$$ \lambda = \frac{c}{f} = \frac{3.0 \times 10^8}{80 \times 10^6} = \frac{3.0 \times 10^8}{8.0 \times 10^7} = 3.75 \text{ m} $$

答え:\(\lambda \fallingdotseq 3.8\) m。FM放送のアンテナが数十cm〜数mなのはこの波長に対応している。

🌏 豆知識:津波の速さと波長

津波は水深 \(h\) の海での速さが \(v = \sqrt{gh}\) で表される。 太平洋の平均水深(約 4000 m)では \(v \ fallingdotseq 200\) m/s(時速約 720 km)に達し, ジェット旅客機並みの速さとなる。波長は数十〜数百 km にもなる。

波の速さ \(v\) を決める要因として正しいものはどれ?
波源の振動数
媒質の性質(弾性率・密度など)
波の振幅
波の速さは媒質の性質で決まります。振動数は波源が決め、振幅は波のエネルギーに関係しますが、速さには影響しません。

📈 2. 媒質の変位と波の関係

「波が進んでも媒質は移動しない」——波の伝搬と媒質の振動を区別する。波の基本量を整理した今、媒質がどう動くかを正しく理解することが、波の現象全体を読み解く鍵となる。

海の波を見ると水が岸に向かって流れているように見えるが、実際に水は移動している?
水はその場で振動するだけで移動しない
水は波とともに移動している
波が伝わっても媒質(水)はその場で振動するだけです。波が運ぶのはエネルギーと情報であり、媒質そのものではありません。
$$ y(x, t) = A\sin\left(\frac{2\pi}{\lambda}x - \frac{2\pi}{T}t\right) $$
\(y\)〔m〕:変位
\(A\)〔m〕:振幅
\(\lambda\)〔m〕:波長
\(T\)〔s〕:周期

媒質の運動

波が伝わるとき,媒質の各点はそれぞれの場所で振動するだけで,波とともに移動するわけではない。 波が運ぶのはエネルギー情報(振動の状態)であり,媒質そのものではない。

たとえば海の波を見ると,浮かんでいるボールは上下に揺れるだけで,波の進行方向には移動しない。 このことは,波の本質を理解する上できわめて重要である。

⚠️ 要注意!

「波が右に進む=媒質が右に移動する」は誤り。 媒質はその場で振動し,振動の状態が次々と隣に伝わることで波が進む

$$ \text{波が運ぶもの} = \text{エネルギー} + \text{情報(振動の状態)} $$
媒質そのものは移動しない

変位の方向と波の分類

媒質の振動方向と波の進行方向の関係によって,波は2種類に分類される。

🤔 豆知識:地震波のP波とS波

地震波にはP波(Primary wave,縦波)とS波(Secondary wave,横波)がある。 P波は固体・液体・気体すべてを伝わるが,S波は固体中のみを伝わる。 地球の外核が液体であることは,S波が外核を通過できないことから判明した。

🤔 豆知識:「波はエネルギーを運ぶが物質は運ばない」

海の波を見ると水が移動しているように見えますが、実際には各水粒子はほぼ同じ場所で円運動をしているだけです。波はエネルギーと情報を伝えますが、媒質自体は移動しません。サーフィンでボードが進むのは波のエネルギーを受けてのことで、水そのものが岸に向かって流れているわけではありません。

横波と縦波の違いとして正しいものはどれ?
媒質の振動方向が進行方向に対して垂直か平行か
波の速さが異なる
波のエネルギーが異なる
横波は媒質の振動方向が波の進行方向に垂直、縦波は平行です。速さやエネルギーの違いではありません。

🔊 3. 波の重ね合わせ

2つの波が同じ場所を通過するとき、変位はどうなるか?——重ね合わせの原理は、波の干渉や定常波を理解するための土台となる。

コンサートで複数の楽器の音が重なっても、それぞれの楽器の音を聞き分けられる。これは波のどんな性質のおかげ?
波は衝突すると消える
波はすり抜けて独立に伝わる(重ね合わせの原理)
空気が楽器ごとに分かれているから
波は重なり合った後も互いに影響せず独立に進みます。これが重ね合わせの原理です。重なっている瞬間は変位が足し合わされますが、すれ違った後はもとの波形に戻ります。

重ね合わせの原理

2つの波が逆向きに進んで重なり合うとどうなるだろうか? 振幅と位相を変えて,強め合い弱め合いの干渉, そして振幅が等しいときに生じる定常波を観察しよう。

🌊 豆知識:津波はなぜ沿岸で巨大化するのか

津波は浅水波で、速さは \(v = \sqrt{gh}\)(\(h\):水深)です。深海(水深4000m)では約200 m/s(≒720 km/h)で進みますが、沿岸に近づいて水深が浅くなると速度が落ち、後ろの波が追いつきます。波のエネルギーが狭い空間に集中するため、波高が急激に増大します。

同じ振幅の2つの波が逆方向から進んで重なると、振幅が常にゼロの点(節)ができる。この波を何という?
定常波(定在波)
横波
縦波
同じ振幅・同じ波長の2つの波が逆向きに進んで重なると定常波(定在波)が生じます。振動しない点(節)と最大振幅の点(腹)が交互に現れます。

📐 4. y-x グラフと y-t グラフ

「波の写真」と「1点の記録」——2つのグラフの違いを正しく読み取る。

y-x グラフと y-t グラフ、波長 λ が読み取れるのはどっち?
y-t グラフ
y-x グラフ
y-x グラフは「ある瞬間の波のスナップショット」なので、山と山の間隔=波長 λ が読み取れます。y-t グラフからは周期 T が読み取れます。

y-x グラフ(波形グラフ)

ある瞬間における媒質各点の変位 \(y\) を,位置 \(x\) に対してプロットしたグラフ。 いわば波の「スナップショット」である。

y-t グラフ(振動グラフ)

ある1点における変位 \(y\) の時間変化を,時刻 \(t\) に対してプロットしたグラフ。 いわば1つの媒質点の「振動記録」である。

y-x グラフy-t グラフ
別名波形グラフ(スナップショット)振動グラフ(記録)
横軸位置 \(x\)〔m〕時刻 \(t\)〔s〕
縦軸変位 \(y\)〔m〕変位 \(y\)〔m〕
読み取れる量波長 \(\lambda\)、振幅 \(A\)周期 \(T\)、振幅 \(A\)
固定するもの時刻(ある瞬間)位置(ある1点)
⚠️ 要注意!

y-x グラフと y-t グラフは形がよく似ているが,読み取れる量が異なる。 y-x グラフから波長 \(\lambda\) が,y-t グラフから周期 \(T\) が読み取れる。 混同しないように注意する。

y-x グラフから波の進行方向を読む

y-x グラフ上で,ある点の変位がこれから増えるか減るかを考えることで, 波の進行方向を判定できる。

波が正の x 方向(右向き)に進むとき,波形は右に移動する。 したがって,ある点の少し左側の波形がこの点の「未来の姿」になる。 少し左を見て変位が大きければ,その点の変位はこれから増加する(上向きに動く)。

💡 豆知識:媒質の速度の向きの判定法 と

媒質の速度の向きの判定法

y-x グラフ上の注目する点で,波の進行方向と逆側(波が来る側)の隣を見る。

  • 隣の変位が今の変位より大きい:この点はこれから正の向き(上向き)に動く
  • 隣の変位が今の変位より小さい:この点はこれから負の向き(下向き)に動く

これは「波形が進行方向にずれる」ことから理解できる。

条件:y-x グラフから波長 \(\lambda = 0.80\) m を読み取った。別途 y-t グラフから周期 \(T = 0.020\) s と読み取った。

振動数を求める。

$$ f = \frac{1}{T} = \frac{1}{0.020} = 50 \text{ Hz} $$

波の速さを求める。

$$ v = f\lambda = 50 \times 0.80 = 40 \text{ m/s} $$

答え:\(v = 40\) m/s

🎸 豆知識:オシロスコープと波形観測

オシロスコープは音や電気信号の y-t グラフをリアルタイムで画面に表示する装置である。 音をマイクで電気信号に変換し,その波形を観察することで, 音の高さ(周期・振動数)や大きさ(振幅)を視覚的に確認できる。

📐 発展:微積分で見る波の運動方程式

弦の微小部分に作用する張力の合力から、波動方程式が導かれます。

$$ \frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} $$

ここで \(v = \sqrt{T/\mu}\)(\(T\):張力、\(\mu\):線密度)は波の伝播速度です。この偏微分方程式の一般解は \(y = f(x - vt) + g(x + vt)\) で、正方向と負方向に進む任意の波形の重ね合わせを表します。正弦波 \(y = A\sin(kx - \omega t)\) は特殊解の一つです。

y-x グラフと y-t グラフについて正しい記述はどれ?
y-x グラフから周期 T が読み取れる
y-x グラフから波長 λ、y-t グラフから周期 T が読み取れる
どちらからも同じ情報が得られる
y-t グラフから波長 λ が読み取れる
y-x グラフは位置に対する変位(波形のスナップショット)で波長 λ を、y-t グラフは時刻に対する変位(1点の振動記録)で周期 T を読み取ります。

🎯 5. 入試対策

入試で頻出のポイントを確認しましょう。

🧮 ① 典型問題:y-x グラフから波の速さを求める

y-x グラフから波長 \(\lambda\) を読み取り、振動数 \(f\) が与えられていれば \(v = f\lambda\) で速さが求まる。周期 \(T\) が与えられた場合は \(v = \lambda / T\)。

🧮 ② 典型問題:y-x グラフから媒質の速度の向きを判定する

波が右向きに進むとき、注目点の左側(波が来る側)の変位を確認する。

これは波形が進行方向にずれることから理解できる。入試の定番問題。

🧮 ③ 典型問題:y-t グラフから振動数と速さを求める

y-t グラフから周期 \(T\) を読み取り、\(f = 1/T\) で振動数を求める。波長 \(\lambda\) が別途与えられていれば \(v = f\lambda\) で速さが求まる。

🔑 まとめ