物理 > 第3編 波 > 第1章 波の伝わり方
「波面はどうやって進むのか?」——波の伝搬を幾何学的に理解する基本原理を学ぶ。
波が広がるとき,同じ位相の点をつないだ面を波面(wave front)という。 波面に垂直な方向が波の進行方向であり,この方向を示す線を波線(ray)という。
ホイヘンスの原理(Huygens' principle)は,波面の進行を説明する基本的な考え方である。
この原理を使えば,反射・屈折・回折といった波の振る舞いを統一的に説明できる。
「ステップ実行」で素元波が展開し,包絡面(新しい波面)が形成される過程を段階的に観察しよう。 平面波・回折・屈折の3モードを切り替えて,ホイヘンスの原理がすべての波動現象を統一的に説明できることを確認しよう。
クリスティアーン・ホイヘンス(1629–1695)はオランダの物理学者・数学者で, 波動論の先駆者であるとともに,振り子時計の発明者としても知られる。 彼は光を波動として扱い,反射・屈折をこの原理で説明した。 当時はニュートンの粒子説が主流であったが,後にヤングやフレネルの実験で波動説が支持された。
「入射角と反射角が等しい」——ホイヘンスの原理からこの法則を導く。ホイヘンスの原理を使うと、波がどのように反射するのか簡潔に説明できる。
波が境界面で反射するとき,入射角 \(\theta_i\) と反射角 \(\theta_r\) の間に 次の関係が成り立つ。
入射波線・反射波線・法線はすべて同一平面内にある。
入射角 \(\theta_i\) をスライダーで変えて,反射角 \(\theta_r\) が常に等しくなることを確認しよう。 波面(波線に垂直な短い線)が境界面で方向を変える様子にも注目。
入射波面が境界面に斜めに到達するとき,先に到達した点から素元波が広がり始める。 まだ到達していない部分の波面が境界面に近づいている間に, 先に反射した素元波が広がっていく。 これらの素元波の包絡面が新しい反射波面となり, 幾何学的に考えると入射角と反射角が等しくなることが示される。
鏡のように滑らかな面での反射を正反射(鏡面反射)という。 一方,紙やコンクリートのように凹凸のある面では, 微小な面の法線方向がバラバラなため,反射光がさまざまな方向に散らばる。 これを拡散反射という。 私たちが物体を見られるのは拡散反射のおかげである。
「波が媒質の境界を越えるとき,なぜ曲がるのか?」——速度の違いから屈折を理解する。反射と同様に、ホイヘンスの原理は屈折も説明できる。
波が速さの異なる2つの媒質の境界面を通過するとき,波の進行方向が変わる現象を 屈折(refraction)という。 波の速さが変わるために波面の向きが変わり,結果として波線が曲がる。
媒質1での波の速さを \(v_1\),媒質2での波の速さを \(v_2\) とし, 入射角を \(\theta_1\),屈折角を \(\theta_2\) とすると
この比 \(\dfrac{v_1}{v_2}\) は一定であり,媒質1に対する媒質2の屈折率に相当する。
ホイヘンスの原理を用いて導出する。入射波面が境界面に斜めに到達するとき,波面上の点 A が境界面に到達してから,波面上のもう一方の点 B が境界面に到達するまでの時間を \(\Delta t\) とする。
この間に,点 A からは媒質2中に半径 \(v_2 \Delta t\) の素元波が広がる。一方,点 B から境界面までの距離は \(v_1 \Delta t\) である。
入射側の三角形から:\(\sin\theta_1 = \dfrac{v_1 \Delta t}{AB}\)
屈折側の三角形から:\(\sin\theta_2 = \dfrac{v_2 \Delta t}{AB}\)
辺 \(AB\) は共通なので,辺々割ると:
$$ \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1 \Delta t / AB}{v_2 \Delta t / AB} = \frac{v_1}{v_2} $$📐 公式の導出:スネルの法則
屈折しても振動数 \(f\) は変わらない。 \(v = f\lambda\) より,速さが変わると波長が変わる。 遅い媒質に入ると波長が短くなり,法線側に曲がる。
入射波面が境界面に斜めに到達するとき,先に境界に到達した点から媒質2中に素元波が広がる。 媒質2での波の速さが \(v_1\) と異なるため,素元波の半径が変わり, 包絡面(新しい波面)の方向が入射波面と異なる角度になる。 これが屈折の幾何学的な説明である。
入射角 \(\theta_1\) と媒質2の屈折率 \(n_2\) を変えて,スネルの法則を確認しよう。 波面(光線に垂直な短い線)が媒質の境界で間隔が変わる様子にも注目。
入射角を大きくしていくと屈折角が90°に近づき,さらに超えると全反射が起こる(n₁ > n₂ の場合)。
条件:水面波が深い領域(速さ \(v_1 = 2.0\) m/s)から浅い領域(速さ \(v_2 = 1.2\) m/s)に入射角 \(\theta_1 = 45°\) で入射する。
$$ \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2} $$式を変形して \(\sin\theta_2\) を求めると、
$$ \sin\theta_2 = \frac{v_2}{v_1}\sin\theta_1 = \frac{1.2}{2.0} \times \sin 45° = 0.60 \times 0.707 = 0.424 $$逆正弦をとると屈折角が得られる。
$$ \theta_2 = \sin^{-1}(0.424) \fallingdotseq 25° $$遅い媒質に入ると波は法線側に曲がる(\(45° \to 25°\))。波長は \(\lambda_2 = \lambda_1 \times (v_2/v_1) = \lambda_1 \times 0.60\) と短くなる。
答え:\(\theta_2 \fallingdotseq 25°\)
蜃気楼は大気中の温度差による光の屈折で起こる。 地表付近の空気が熱せられると密度が小さくなり光の速さが速くなる。 上方と下方で屈折率が異なるため光が曲がり,遠くの景色が浮いて見えたり, 逆さまに映って見えたりする。
「障害物の裏側にも波が回り込む」——波の回折とその条件を理解する。
波が障害物や隙間(スリット)の端を通過するとき,波がその裏側に回り込む現象を 回折(diffraction)という。
ホイヘンスの原理で考えると,スリットを通過した波面上の各点から素元波が広がるため, スリットの向こう側の影の領域にも波が到達する。
回折の程度は波長 \(\lambda\) と隙間の幅 \(d\) の比に依存する。
音は波長が数 cm〜数 m と長いため,建物の角や壁の隙間でよく回折する(壁の向こうの声が聞こえる)。 一方,光は波長が非常に短い(約 400〜700 nm)ため,日常的なスケールではほとんど回折しない。
スリット幅 \(d\) と波長 \(\lambda\) を変えて、回折の程度がどう変わるか確認しよう。 \(d \fallingdotseq \lambda\) のとき最も回折が顕著になり、\(d \gg \lambda\) では波はほぼ直進する。 スリット内の各点がホイヘンスの素元波源として働く様子にも注目。
顕微鏡や望遠鏡のレンズは有限の大きさをもつため,光が回折して像がにじむ。 この回折による解像度の限界を回折限界という。 可視光より波長の短い電子線を使う電子顕微鏡は,この限界を大幅に小さくでき, 原子レベルの観察を可能にしている。
「2つの波が出会ったらどうなるのか?」——2つの波が同じ場所を通過するとき,変位が足し合わされる重ね合わせの原理を学ぼう。
2つ以上の波が同じ場所を通過するとき,その点での媒質の変位は,各波が単独に存在するときの変位の和(ベクトル和)に等しい。 これを重ね合わせの原理(principle of superposition)という。
2つの波が重なっている間だけ合成波が現れ,通り抜けた後は各波が元の形・速さ・向きを保つ。 これは,波が互いに「すり抜ける」性質をもつためである(粒子は衝突すると変化するが,波は独立を保つ)。
同位相の波が重なると強め合い(振幅が増す),逆位相の波が重なると弱め合い(振幅が減る)。 この現象を干渉(interference)という。
オーケストラでは何十もの楽器が同時に鳴っているが,私たちはバイオリンとチェロの音を聞き分けられる。 これは重ね合わせの原理のおかげである。各楽器の音波は空気中で重なり合うが, 通り抜けた後もそれぞれの音波としての情報を保つため,耳(脳)がそれぞれを分析できる。
「動かない波」があるのはなぜか?——逆向きに進む2つの波が重なると,ある点は大きく振動し,ある点はまったく動かない不思議な波が現れる。
振幅と波長が等しい2つの波が逆向きに進んで重なると,定在波(stationary wave / standing wave)が生じる。 定在波は進行しないように見え,場所によって振動の大きさが異なる。
隣り合う節どうしの距離,または隣り合う腹どうしの距離はいずれも \(\lambda/2\) である。 また,腹の振幅は元の波の振幅の2倍となる(強め合いの最大)。
定在波のエネルギーは進んでいかない。節ではエネルギーがゼロ,腹では運動エネルギーが最大になる(ポテンシャルエネルギーとの変換を繰り返す)。
バイオリンやギターの弦では,両端を固定端として反射が起こり定在波が生じる。 弦の長さ \(L\) が \(L = n\lambda/2\)(\(n = 1, 2, 3, \ldots\))を満たす振動数だけが安定して振動でき, \(n = 1\) が基本振動,\(n = 2, 3, \ldots\) が第 n 倍音となる。 楽器の「音色」はこれら倍音の混ざり方で決まる。
「波が端で跳ね返るとき,形が変わるのか?」——端の固定の仕方によって反射波の位相が変わり,その後の重ね合わせの形が大きく異なる。
媒質の端が自由に変位できる場合(自由端), 端での変位は入射波の変位の2倍になり,反射波は入射波と同位相(位相のずれなし)で戻ってくる。
媒質の端が固定されていて変位できない場合(固定端), 端での変位は常にゼロに保たれ,反射波は入射波と逆位相(位相が \(\pi\) ずれる)で戻ってくる。
自由端では端が「腹」(変位最大),固定端では端が「節」(変位ゼロ)になる。 どちらの反射でも入射波と反射波が重なって定在波が生じる。
港の防波堤は固定端に近い反射をする。入射する波と反射波が重なることで, 防波堤手前では波が強め合い,港の内側では弱め合うように設計できる。 実際の港湾設計では,定在波の節の位置に船着き場を設けることで波の影響を最小化することもある。
「2つの波源から出た波が重なると,場所によって強くなったり弱くなったりする」——干渉条件の式を使って,強め合いと弱め合いの位置を求めよう。
同じ振動数の2つの波源 \(S_1\),\(S_2\) から出た波が重なるとき, ある点 P での干渉の様子は,P までの経路差 \(|l_1 - l_2|\) で決まる。 ここで \(l_1 = S_1 P\),\(l_2 = S_2 P\) である。
2つの波源が同位相で振動するとき,経路差が波長の整数倍であれば2つの波は同位相で重なり,強め合う。
経路差が半波長の奇数倍であれば2つの波は逆位相で重なり,弱め合う(完全に打ち消しあう)。
上の条件は2つの波源が同位相で振動しているときのものである。 逆位相(位相差 \(\pi\))の場合は強め合いと弱め合いの条件が入れ替わる。 問題で「逆位相」とあったら,\(m\lambda\) が弱め合い,\((m + 1/2)\lambda\) が強め合いになる。
条件:同位相の2波源 \(S_1\),\(S_2\)(波長 \(\lambda = 3.0\) cm)から,点 P までの距離がそれぞれ \(l_1 = 14.5\) cm,\(l_2 = 8.0\) cm。P は強め合い?弱め合い?
経路差を求める。
$$ |l_1 - l_2| = |14.5 - 8.0| = 6.5 \text{ cm} $$波長の何倍か確認する。
$$ \frac{6.5}{3.0} = 2.167 \fallingdotseq 2 + \frac{1}{2} = \frac{5}{2} $$つまり \(|l_1 - l_2| = \left(2 + \dfrac{1}{2}\right)\lambda\) で半波長の奇数倍。したがって弱め合いの条件を満たす。
答え:弱め合い(\(m = 2\) の暗線上)
ノイズキャンセリングヘッドフォンは,マイクで周囲の音を取り込み, その音と逆位相の音波をスピーカーから出すことで干渉させてノイズを打ち消す。 弱め合いの条件(逆位相の重ね合わせ)を能動的に利用した技術である。 飛行機のエンジン音のような連続的なノイズに特に効果が高い。
入試で頻出のポイントを確認しましょう。
媒質1の速さ \(v_1\)、媒質2の速さ \(v_2\)、入射角 \(\theta_1\) が与えられたとき:
$ \sin\theta_2 = \frac{v_2}{v_1}\sin\theta_1 $
屈折率 \(n = c/v\) を用いると \(n_1\sin\theta_1 = n_2\sin\theta_2\) とも書ける。
遅い媒質(\(v_1 \lt v_2\)、屈折率 \(n_1 \gt n_2\))から速い媒質に入るとき、屈折角 \(\theta_2 = 90°\) となる入射角が臨界角 \(\theta_c\)。
$ \sin\theta_c = \frac{v_2}{v_1} = \frac{n_1}{n_2} $
\(\theta_1 \gt \theta_c\) で全反射が起こる。光ファイバーの原理。
①入射波面が境界面に到達する点を決める。②先に到達した点から素元波(半径 = \(v\Delta t\))を描く。③素元波の包絡線が新しい波面。入試では作図手順が出題される。