物理 > 第3編 波 > 第2章 音の伝わり方
「音はどうやって伝わるのか?」——音波の正体と,媒質ごとに異なる音の速さを学ぶ。
音は空気などの媒質中を伝わる縦波(疎密波)である。 音源が振動すると,周囲の空気に密な部分(圧縮)と疎な部分(膨張)が交互に生じ, これが次々と伝わっていく。
音の速さ(音速)は媒質の種類と温度によって決まる。 空気中の音速は,温度 \(t\)〔℃〕のとき近似的に
0 ℃ で約 331.5 m/s,15 ℃ で約 340 m/s である。 一般に,固体中 > 液体中 > 気体中 の順に音速は大きい。
| 媒質 | 音速(m/s) |
|---|---|
| 空気(15 ℃) | 約 340 |
| 水(15 ℃) | 約 1500 |
| 鉄 | 約 5950 |
条件:気温 \(t = 25\)℃ のとき,振動数 \(f = 440\) Hz(ラの音)の波長を求める。
音速を求める。
$$ V = 331.5 + 0.6 \times 25 = 331.5 + 15.0 = 346.5 \text{ m/s} $$波長を求める。
$$ \lambda = \frac{V}{f} = \frac{346.5}{440} \fallingdotseq 0.787 \text{ m} \fallingdotseq 79 \text{ cm} $$答え:\(V \fallingdotseq 347\) m/s,\(\lambda \fallingdotseq 0.79\) m
条件:雷の光が見えてから音が聞こえるまで \(\Delta t = 4.0\) s。気温 15 ℃。
音速:\(V = 331.5 + 0.6 \times 15 = 340\) m/s(光はほぼ瞬時に届く)。
$$ d = V \times \Delta t = 340 \times 4.0 = 1360 \text{ m} \fallingdotseq 1.4 \text{ km} $$答え:雷は約 1.4 km 先
マッハ数と衝撃波 と
マッハ数と衝撃波
飛行機の速度を音速で割った値をマッハ数という(マッハ 1 = 音速)。 マッハ 1 を超えると(超音速),飛行機の前方に音波が届かなくなり, 円錐状の衝撃波(ソニックブーム)が発生する。 この衝撃波は地上で大きな「ドン」という音として聞こえる。
音は媒質(空気、水、固体)の振動として伝わる縦波です。真空には振動する分子がないため音は伝わりません。SF映画で宇宙空間に爆発音が聞こえるのは物理的には間違いです。NASAの「宇宙の音」として公開されている音声は、実は電磁波を可聴音に変換したものです。
水中の音速は約1500 m/s で空気中(約340 m/s)の約4.4倍です。イルカは超音波(〜150kHz)を発して反射音から獲物の位置を知ります(エコーロケーション)。医療用の超音波検査も同じ原理で、体内で反射した超音波から臓器の画像を作ります。
「振動数がわずかに違う2つの音を同時に聞くと?」——うなりのしくみを理解する。
振動数がわずかに異なる2つの音を同時に鳴らすと, 音が周期的に大きくなったり小さくなったりする現象が起こる。 これをうなり(beat)という。
2つの波が同位相(山と山が重なる)のとき強め合い, 逆位相(山と谷が重なる)のとき弱め合う。 この強弱の繰り返しがうなりとして聞こえる。
振動数 \(f_1\) と \(f_2\) の2つの音によるうなりの振動数(1秒間のうなりの回数)は
うなりの振動数は2つの音の振動数の差の絶対値である。 \(f_1\) と \(f_2\) の差が大きすぎると(約 15 Hz 以上), 人間の耳ではうなりとして知覚できなくなり,2つの音が別々に聞こえる。
振動数 \(f_1\) と \(f_2\)(\(f_1 \gt f_2\))の2つの波の変位をそれぞれ \(y_1 = A\sin(2\pi f_1 t)\),\(y_2 = A\sin(2\pi f_2 t)\) とする。重ね合わせると
$$ y = y_1 + y_2 = 2A\cos\left(2\pi \cdot \frac{f_1 - f_2}{2} t\right)\sin\left(2\pi \cdot \frac{f_1 + f_2}{2} t\right) $$ここで和積の公式 \(\sin\alpha + \sin\beta = 2\cos\frac{\alpha-\beta}{2}\sin\frac{\alpha+\beta}{2}\) を使った。
振動数 \(\dfrac{f_1 + f_2}{2}\) の音が,振幅 \(2A\cos\left(\pi(f_1 - f_2)t\right)\) でゆっくり変動する。振幅の大きさは1周期 \(\dfrac{1}{f_1 - f_2}\) の間に2回最大になるが、うなり(音の強弱)は振幅の2乗に比例するため1秒間に \(|f_1 - f_2|\) 回となる。
条件:振動数 440 Hz の音叉と未知のピアノの音を同時に鳴らしたところ,毎秒 3 回のうなりが聞こえた。
$$ f_{\text{beat}} = |f_1 - f_2| = |440 - f_2| = 3 $$したがって \(f_2 = 440 \pm 3\) Hz。すなわち \(f_2 = 437\) Hz または \(f_2 = 443\) Hz。
どちらかを判定するには,弦の張力を少し強くして(振動数を上げて)うなりが減ったら元の音は 437 Hz,増えたら 443 Hz。
答え:\(f_2 = 437\) Hz または 443 Hz
ピアノの調律師は基準音(音叉など)とピアノの音を同時に鳴らし, うなりがなくなる(\(f_{\text{beat}} = 0\),つまり振動数が一致する)ように弦の張力を調整する。 うなりが聞こえるうちは振動数がずれている証拠であり, うなりの速さから「どれだけずれているか」もわかる。
「ギターの弦はなぜ特定の音しか出せないのか?」——弦の固有振動と倍音を理解する。異なる振動数の波が重なるとうなりが生じるが、一定の周波数の波が弦や管のような閉じた系に生じると定常波ができる。
両端を固定された長さ \(L\)〔m〕の弦を弾くと,弦上に定常波ができる。 両端は節になるため,弦上にできる定常波の波長は特定の値に限られる。
したがって \(\lambda_n = \dfrac{2L}{n}\) であり,\(n\) 次の固有振動数は
\(n = 1\) が基本振動(腹1個),\(n = 2\) が2倍振動(腹2個)…と続く。 弦の振動の速さ \(v\) は,弦の張力 \(S\)〔N〕と線密度 \(\rho\)〔kg/m〕で決まる。
条件:弦の長さ \(L = 0.65\) m,弦の張力 \(S = 73.5\) N,線密度 \(\rho = 1.0 \times 10^{-3}\) kg/m。
弦を伝わる波の速さを求める。
$$ v = \sqrt{\frac{S}{\rho}} = \sqrt{\frac{73.5}{1.0 \times 10^{-3}}} = \sqrt{73500} \fallingdotseq 271 \text{ m/s} $$基本振動数を求める。
$$ f_1 = \frac{v}{2L} = \frac{271}{2 \times 0.65} = \frac{271}{1.30} \fallingdotseq 209 \text{ Hz} $$2倍振動:\(f_2 = 2f_1 \fallingdotseq 418\) Hz,3倍振動:\(f_3 = 3f_1 \fallingdotseq 627\) Hz。
答え:\(f_1 \fallingdotseq 209\) Hz(基本振動数)
楽器の音色の違いは倍音の含まれ方で決まる。 バイオリンは多くの倍音を含む豊かな音色をもつ。 弓で弾く位置を変えると振動の形(倍音の比率)が変わり,音色が変化する。 駒の近くで弾く(スル・ポンティチェロ)と高次倍音が強調され,金属的な音になる。
「管楽器はなぜ音が出るのか?」——開管・閉管の気柱に生じる定常波を理解する。
一端が閉じ,他端が開いた管(閉管)では, 閉じた端が節,開いた端が腹になる定常波ができる。
閉管では奇数倍の振動数のみが共鳴する。 基本振動数は \(f_1 = \dfrac{v}{4L}\),3倍振動 \(f_3 = 3f_1\),5倍振動 \(f_5 = 5f_1\)…となる。
両端が開いた管(開管)では, 両端が腹になる定常波ができる。
開管ではすべての整数倍の振動数が共鳴する。 基本振動数は \(f_1 = \dfrac{v}{2L}\),2倍振動 \(f_2 = 2f_1\),3倍振動 \(f_3 = 3f_1\)…となる。
| 閉管 | 開管 | |
|---|---|---|
| 端の条件 | 閉端=節,開端=腹 | 両端=腹 |
| 基本振動数 | \(f_1 = \dfrac{v}{4L}\) | \(f_1 = \dfrac{v}{2L}\) |
| 共鳴する倍音 | 奇数倍のみ | すべての整数倍 |
実際には開口端での腹の位置は管の端よりわずかに外側にある(開口端補正)。 管の内径を \(d\) とすると,補正量は約 \(0.6 \times \dfrac{d}{2}\) である。 開口端補正を含めた実効的な管の長さで計算する必要がある。
条件:管の長さ \(L = 0.50\) m,音速 \(V = 340\) m/s。
閉管の基本振動数:
$$ f_1 = \frac{V}{4L} = \frac{340}{4 \times 0.50} = \frac{340}{2.0} = 170 \text{ Hz} $$次の共鳴は 3倍振動:\(f_3 = 3 \times 170 = 510\) Hz(偶数倍はなし)。
開管の基本振動数:
$$ f_1 = \frac{V}{2L} = \frac{340}{2 \times 0.50} = \frac{340}{1.0} = 340 \text{ Hz} $$次の共鳴は 2倍振動:\(f_2 = 2 \times 340 = 680\) Hz。
同じ長さなら,閉管の基本振動数は開管の半分(1オクターブ低い)。
答え:閉管 170 Hz,開管 340 Hz
クラリネットは閉管に近い構造をもつため奇数倍音が主体で,独特の暗い音色になる。 一方,フルートは開管に近く,すべての倍音を含む明るい音色をもつ。 トランペットやホルンは管の長さを変えながら倍音列(自然倍音)を利用して異なる音高を出す。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
空気中の音速は \(v \fallingdotseq 331.5 + 0.6t\)(\(t\):温度 [°C])で近似できます。気体分子運動論から \(v = \sqrt{\gamma RT/M}\) が導かれ、温度の平方根に比例することがわかります。入試では「音速を正確に求めよ」「気温が変わると共鳴管の振動数はどう変わるか」などが出ます。
問題設定:閉管の気柱共鳴実験で、振動数 \(f\) の音叉を用いて水面を下げていくと、管口から \(l_1\) と \(l_2\) の位置で共鳴が起こった。音速 \(v\) と開口端補正 \(\Delta\) を求めよ。
解法:
閉管の共鳴条件より、気柱の有効長 \(L + \Delta\)(\(\Delta\) は開口端補正)が \(\lambda/4\) の奇数倍のとき共鳴する。
ポイント:差をとることで開口端補正 \(\Delta\) が消去される点が重要。開口端補正は管の半径の約 0.6 倍(\(\Delta \fallingdotseq 0.6r\))になることが知られている。