「冬にドアノブでバチッ!」——身近な静電気の正体は、物体の表面にたまった電荷のしわざだ。まずは電気の基本的な性質と、電気量の測り方を学ぼう。
空気が乾燥しているとき衣類を脱ぐと、パチパチと音がすることがある。 これは衣類が電気を帯びたために起こる現象である。 一般に、物体が電気を帯びることを帯電といい、 帯電した物体(帯電体)に分布している流れのない電気を静電気という。
静止した電荷の間には力がはたらき、これを静電気力(electrostatic force)という。 電荷には正(+)と負(−)の2種類がある。
正に帯電した電荷を正電荷、負に帯電した電荷を負電荷という。 電荷の量を電気量(electric charge)といい、単位にはクーロン(記号 C)を用いる。
電気量は電荷がもつ量だが、日常で電気量を実感できるのは電流である。 電流とは電荷の流れであり、1秒間に導線の断面を通過する電気量が電流の大きさ \(I\) である。
たとえば 2.0 A の電流が 50秒間流れた場合、運ばれる電気量は
$$ Q = 2.0 \times 50 = 100 \text{ C} $$夏は湿度が高く、空気中の水分を通じて電荷が逃げやすいため帯電しにくい。 一方、冬は空気が乾燥して電荷が物体表面にたまりやすく、 金属のドアノブなどに触れた瞬間に放電が起こり「バチッ」と感じる。 このときの電圧は数千〜数万ボルトに達するが、電流が極めて小さいため体に害はない。
条件:導線に \(I = 2.0\) A の電流が \(t = 10\) s 間流れた。このとき移動した電子の個数を求めよ。
$$ Q = It = 2.0 \times 10 = 20 \text{ C} $$電子1個の電気量の大きさは電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C であるから、電子の個数 \(N\) は
$$ N = \frac{Q}{e} = \frac{20}{1.6 \times 10^{-19}} = 1.25 \times 10^{20} \text{ 個} $$答え:\(N \fallingdotseq 1.3 \times 10^{20}\) 個。わずか20 Cの電気量でも、膨大な数の電子が移動していることがわかる。
歴史的には電荷が2種類(正と負)だけであることは実験で確かめられました。フランクリンが「正の電気」「負の電気」と名付けましたが、3種類以上ある可能性もあり得ました。クーロン力が \(1/r^2\) に正確に比例することも自明ではなく、キャヴェンディッシュらの精密実験で確認されています。
電気量の基本単位は原子の構造に由来する。原子レベルで帯電のメカニズムを理解しよう。
物体は多数の原子からできている。 原子は中心の原子核(陽子と中性子)と、そのまわりをとりまく電子からなる。
陽子1個がもつ電気量と電子1個がもつ電気量は、符号が正と負で異なるが、 大きさは等しく \(1.6 \times 10^{-19}\) C である。 これを電気素量(elementary charge)といい、\(e\) で表す。
帯電体がもつ電気量の大きさは、\(e\) の整数倍になる。 すなわち電気量は連続的な値ではなく、\(e\) を単位とする離散的な量である。
1909年、アメリカの物理学者ミリカン(R. A. Millikan)は、帯電した油滴を電場中で静止させる実験を行い、 電気量が常に \(1.6 \times 10^{-19}\) C の整数倍であることを確認した。 この実験により電気素量の値が精密に決定され、ミリカンは1923年にノーベル物理学賞を受賞した。
中性の原子では陽子の数と電子の数が等しく、全体として電気量は0である。 原子が電子を放出すると正の電気を帯び(陽イオン)、 電子を取りこむと負の電気を帯びる(陰イオン)。
2種類の物体をこすりあわせると、一方から他方へ電子が移動して両方が帯電する。 これを摩擦帯電という。
物体が帯電するときは、物体どうしが電気をやりとりするだけであり、 電気が生み出されたり失われたりすることはなく、 その前後で電気量の総和は変わらない。 これを電気量保存の法則という。
2つの電荷の間にはたらく力は、どんな法則に従うのか?——18世紀にクーロンが発見した定量的な法則を学ぶ。
フランスの物理学者クーロン(C. A. de Coulomb)は、ねじりばかりを用いて帯電体間の力を測定し、 次の法則を発見した。
2つの点電荷の間にはたらく静電気力の大きさ \(F\)〔N〕は、 それぞれの電気量の大きさ \(q_1\)、\(q_2\)〔C〕の積に比例し、 点電荷間の距離 \(r\)〔m〕の2乗に反比例する。
これを静電気力に関するクーロンの法則(Coulomb's law)といい、次の式で表される。
静電気力は2つの点電荷を結ぶ直線方向にはたらく。 2つの点電荷の電気量の符号が同じときは斥力、異なるときは引力がはたらく。
比例定数 \(k\) の値は帯電体の周囲の物質により異なり、真空中では
である。空気中での \(k\) の値は、ほぼ \(k_0\) の値に等しい。
クーロンの法則の式で \(q_1 q_2\) に符号を込めて計算すると、 \(F \gt 0\) なら斥力、\(F < 0\) なら引力と判定できる。 ただし「力の大きさ」を求めるときは絶対値 \(|q_1 q_2|\) を使う。
条件:\(q_1 = 3.0 \times 10^{-6}\) C と \(q_2 = 5.0 \times 10^{-6}\) C の2つの正電荷が、距離 \(r = 0.30\) m を隔てて置かれている。静電気力の大きさを求めよ。
$$ F = k_0 \frac{q_1 q_2}{r^2} = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{3.0 \times 10^{-6} \times 5.0 \times 10^{-6}}{(0.30)^2} $$分子を計算すると \(3.0 \times 5.0 = 15\)、\(10^{-6} \times 10^{-6} = 10^{-12}\) より
$$ F = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{15 \times 10^{-12}}{0.090} = 9.0 \times 10^{9} \times 1.67 \times 10^{-10} \fallingdotseq 1.5 \text{ N} $$答え:\(F \fallingdotseq 1.5\) N(斥力)。マイクロクーロン程度の電荷でも、30 cm 離れた位置で約1.5 N の力がはたらく。
クーロンの法則 \(F = k \dfrac{q_1 q_2}{r^2}\) は、 万有引力の法則 \(F = G \dfrac{m_1 m_2}{r^2}\) と同じ「逆2乗の法則」の形をしている。 しかし、クーロン定数 \(k_0 \fallingdotseq 9.0 \times 10^{9}\) に対し万有引力定数 \(G \fallingdotseq 6.67 \times 10^{-11}\) であり、 電気的な力は重力の約 \(10^{20}\) 倍も強い。 日常で重力が目立つのは、物体が電気的にほぼ中性であるためだ。
クーロンは1785年、自作の「ねじりばかり」を用いて実験を行った。 細い銀の糸に帯電した金属球を吊るし、別の帯電球を近づけたときの糸のねじれ角から力を測定する精巧な装置である。 距離を2倍にすると力が4分の1になることを定量的に確かめ、逆2乗則を確立した。
「帯電体を近づけると、帯電していない物体まで引き寄せられるのはなぜ?」——導体と不導体の違いから理解しよう。
金属のように電気をよく通す物質を導体(conductor)という。 金属には、原子に属さず自由に動きまわれる自由電子(free electron)があり、 導体中の電気の流れ(電流)は自由電子の移動によって伝えられる。
一方、電気を通しにくい物質を不導体(nonconductor)または絶縁体(insulator)という。 アクリル、ゴム、ガラスなどが不導体である。 不導体では電子がすべて構成粒子に属し、自由電子がないため電気を通しにくい。
また、ケイ素(Si)などのように電気の通しやすさが導体と不導体の中間のものを半導体(semiconductor)という。
| 導体 | 不導体(絶縁体) | 半導体 | |
|---|---|---|---|
| 自由電子 | 多い | ほとんどない | 少ない(温度で変化) |
| 電気の通しやすさ | 通しやすい | 通しにくい | 中間 |
| 帯電体を近づけたとき | 静電誘導 | 誘電分極 | — |
| 例 | 銅、鉄、金 | ゴム、ガラス、アクリル | Si、Ge |
導体に帯電体を近づけると、自由電子が静電気力によって移動する。 その結果、帯電体に近い側の表面には帯電体と異種の電気が現れ、 遠い側の表面には帯電体と同種の電気が現れる。 この現象を導体の静電誘導(electrostatic induction)という。
静電誘導が起きている導体を接地(アース、grounding)すると、導体の遠い側にたまった同種の電荷が大地へ逃げる。 その状態で帯電体を離すと、帯電体に近い側にあった異種の電荷だけが導体に残り、 導体全体が帯電する。 これが静電誘導を利用した帯電の仕組みである。
静電誘導を利用して物体が帯電しているかどうかを調べる装置を箔検電器(はくけんでんき)という。 箔検電器は、金属円板・金属棒・金属箔(アルミニウムなどの薄い箔を2枚)で構成され、 全体がひとつの導体としてつながっている。
帯電体を金属円板に近づけると、静電誘導によって 円板側には帯電体と異種の電荷が引き寄せられ、 箔の側には帯電体と同種の電荷が移動する。 2枚の箔が同種の電荷で帯電するため、互いに反発して箔が開く。
条件:箔検電器に \(Q = 8.0 \times 10^{-9}\) C の電荷を帯電させた。これは電子何個分の電荷に相当するか。
$$ N = \frac{Q}{e} = \frac{8.0 \times 10^{-9}}{1.6 \times 10^{-19}} = 5.0 \times 10^{10} \text{ 個} $$答え:\(N = 5.0 \times 10^{10}\) 個(約500億個)。ナノクーロンの電荷でも、膨大な数の電子が関与していることがわかる。
コピー機やレーザープリンターは静電気力を利用してトナー(粉末インク)を紙に付着させている。 感光ドラムの表面を帯電させ、光を当てた部分だけ電荷を除去することで静電的な画像パターンを作り、 そこにトナーを引き寄せて紙に転写する。塗装の「静電塗装」も同じ原理を応用したものだ。
不導体に帯電体を近づけても引き寄せられる——自由電子がないのに、なぜ?その答えが誘電分極だ。
不導体の電子は構成粒子から離れないが、帯電体を近づけると 静電気力によって電子の位置がわずかにずれる。 これを分極(polarization)という。
不導体の帯電体に近い側には帯電体と異種の電気が現れ、 遠い側には同種の電気が現れる。 このため、不導体も帯電体に引き寄せられる。 不導体に帯電体を近づけたとき、構成粒子内で電子の位置がずれて電荷の偏りが生じる現象を 誘電分極(dielectric polarization)という。 誘電分極が起こる不導体のことを誘電体(dielectric)ともいう。
静電誘導(導体):自由電子が大きく移動して電荷が偏る。
誘電分極(不導体):構成粒子内で電子の位置がわずかにずれる。
どちらの場合も、帯電体に近い側には帯電体と異種の電荷が現れるため、
帯電体に引き寄せられる。
雷雲の底部と地表の間には約100〜300MV(1億〜3億ボルト)の電位差が生じます。この巨大な電場が空気の絶縁破壊(約3MV/m)を起こし、雷が発生します。雷1回で運ばれる電荷は約5C、エネルギーは約1〜5GJで、家庭の電気代に換算すると数十円程度です。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
3個の点電荷が正三角形や一直線上に配置された問題では、各電荷間のクーロン力をベクトルとして合成します。「ある電荷がつりあう位置を求めよ」「全体のポテンシャルエネルギーを求めよ」が典型です。力はベクトル、エネルギーはスカラーで足し合わせることに注意。
糸で吊り下げた2つの帯電小球が反発して開く問題は、入試で非常に頻出である。 3力のつりあい(重力 \(mg\)・張力 \(T\)・クーロン力 \(F\))を分解して解く。
吊り下げ帯電球は3力のつりあい + クーロンの法則 + 幾何的関係の3要素を組み合わせる典型問題。 まず力の図を描き、鉛直・水平方向に分解するのが鉄則。
【解法の手順】
① 小球にはたらく3力を図示する(重力:鉛直下向き、張力:糸に沿って上向き、クーロン力:水平方向)
② 鉛直方向と水平方向のつりあいを立てる:
$ T\cos\theta = mg, \quad T\sin\theta = F = k\frac{q^2}{r^2} $③ 2式の比をとると張力 \(T\) が消え、
$ \tan\theta = \frac{F}{mg} = \frac{kq^2}{mgr^2} $④ 幾何的な関係 \(r = 2L\sin\theta\)(\(L\) は糸の長さ)を代入し、\(\theta\) や \(q\) を求める。
設定:原点に \(+Q\)、距離 \(L\) の位置に \(+4Q\) を固定する。この直線上で電荷 \(-q\) がつりあう位置 \(x\) を求めよ。
解法:\(-q\) が \(+Q\) と \(+4Q\) の間(\(0 < x < L\))にあるとき、\(-q\) にはたらく力のつりあいは
$ k\frac{Qq}{x^2} = k\frac{4Qq}{(L-x)^2} $両辺を \(kQq\) で割り、整理すると
$ (L-x)^2 = 4x^2 \quad \Rightarrow \quad L - x = 2x \quad \Rightarrow \quad x = \frac{L}{3} $ポイント:同符号の2電荷の間に異符号の電荷を置くと、両側から引力を受ける。つりあい位置は電荷の大きさの比で決まり、小さい電荷の側に寄る。