「離れた電荷どうしが力を及ぼし合うのはなぜ?」——空間そのものに電場という"場"が生じていると考えると、静電気力のしくみが見えてくる。
クーロンの法則では、2 つの電荷の間にはたらく力を直接計算した。 これを別の視点から考えてみよう。 空間に電荷が 1 つ置かれた場合、そのまわりの空間は 別の電荷に対して力を及ぼすような状態に変化していると考えることができる。 この電気的な力が及ぶ空間には電場(electric field、または電界)が 生じているという。
空間の各点での電場は、その位置に置いた +1 C の試験電荷が受ける力として定義される。 単位はニュートン毎クーロン(記号 N/C)を用いる。
電場は力と同様に、大きさ(電場の強さ)と向き(電場の向き)をもつベクトルであり、 電場ベクトルともいう。 正電荷は電場の向きに力を受け、負電荷は電場と逆向きに力を受ける。
正電荷(\(q \gt 0\))は電場 \(\vec{E}\) の向きに力を受ける。 負電荷(\(q < 0\))は電場と逆向きに力を受ける。 力の大きさはどちらも \(|\vec{F}| = |q|E\) で同じ。
電荷 Q のまわりの電場を、試験電荷 +q をドラッグして体感しよう。 電場ベクトル \(\vec{E}\)(青)と力 \(\vec{F} = q\vec{E}\)(橙)の向き・大きさが距離で変わる様子を確認できる。
条件:電場の強さが \(E = 5.0 \times 10^{4}\) N/C の一様電場中に、電気量 \(q = 2.0 \times 10^{-6}\) C の正電荷を置いた。電荷が受ける力の大きさを求めよ。
$$ F = qE = 2.0 \times 10^{-6} \times 5.0 \times 10^{4} = 0.10 \text{ N} $$答え:\(F = 0.10\) N。力の向きは電場の向きと同じ。負電荷なら逆向きに同じ大きさの力を受ける。
「電気力線は交差しない」理由
電気力線が交差すると、交点で電場が2つの向きを持つことになり、物理的に矛盾します。電場はある点で唯一の値(大きさと向き)をもつベクトル量なので、電気力線は決して交差しません。電気力線が密なところほど電場が強いことも覚えておきましょう。
クーロンの法則では電荷同士が離れていても瞬時に力を及ぼすように見えますが(遠隔作用)、電場の概念を使うと「電荷が空間に電場を作り、もう一方の電荷はその場所の電場から力を受ける」(近接作用)と理解できます。相対性理論により力は光速を超えて伝わらないため、近接作用の描像が正しいのです。
「場」の概念を最初に導入したのはマイケル・ファラデーである。 当時は「離れた物体が直接力を及ぼし合う(遠隔作用)」という考えが主流だったが、 ファラデーは空間そのものに力を伝える仕組みがあると考えた(近接作用)。 この発想は後にマクスウェルによって電磁気学の理論として完成され、現代物理学の基礎となっている。
1 つの点電荷がつくる電場の強さと向きを、クーロンの法則から導こう。
点 A に \(+Q\)〔C〕の正電荷があるとき、A から \(r\)〔m〕離れた点 P での電場を求めよう。
点 P での電場の向きは A → P(A から遠ざかる向き)である。 電場の強さ \(E\) は、その位置に置いた +1 C の試験電荷が受ける力の大きさに等しい。 クーロンの法則より \(k\dfrac{1 \times Q}{r^2}\) であるから、次のようになる。
点 P に +1 C の試験電荷を置く。点 A に \(+Q\) の電荷があるとき、 クーロンの法則より試験電荷が受ける力は
$$ F = k\frac{Q \times 1}{r^2} = k\frac{Q}{r^2} $$電場の定義より \(E = F / 1 = F\) であるから、
$$ E = k\frac{Q}{r^2} $$が得られる。
負電荷 \(-Q\) の場合、電場の向きは P → A(A に近づく向き)になるが、 電場の強さは正電荷の場合と同じ式で表される。 これは、点 P に置いた +1 C の試験電荷が負電荷 \(-Q\) に引き寄せられる(クーロン引力を受ける)ため、 電場の向きが A に向かう方向(P → A)になるからである。
電場の向きは電荷の正負で異なる。 正電荷:電荷から遠ざかる向き。 負電荷:電荷に近づく向き。 強さはどちらも \(E = k\dfrac{Q}{r^2}\)(\(Q\) は電気量の大きさ)。
点電荷のまわりの電場ベクトルを格子状に表示する。Q の大きさや正負を変えて、 \(E = k\dfrac{Q}{r^2}\) の逆2乗則を視覚的に確認しよう。
条件:電気量 \(Q = 4.0 \times 10^{-8}\) C の正電荷から、距離 \(r = 0.20\) m の点における電場の強さを求めよ。
$$ E = k\frac{Q}{r^2} = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{4.0 \times 10^{-8}}{(0.20)^2} $$分母を計算して整理すると、
$$ = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{4.0 \times 10^{-8}}{0.040} = 9.0 \times 10^{9} \times 1.0 \times 10^{-6} $$指数の掛け算をまとめると、
$$ = 9.0 \times 10^{3} \text{ N/C} = 9.0 \text{ kN/C} $$答え:\(E = 9.0 \times 10^{3}\) N/C。電場の向きは正電荷から遠ざかる向き(放射状外向き)。
クーロンの法則 \(F = k\dfrac{q_1 q_2}{r^2}\) は、電場を使って書きかえられる。 電荷 1 が電荷 2 の位置につくる電場の強さを \(E_1 = k\dfrac{q_1}{r^2}\) とおくと、 電荷 2 が受ける力は \(F = q_2 E_1\) となる。 つまり、クーロンの法則は「電荷がつくる電場」と「その電場から受ける力」の 2 段階に分解できる。
1つの電荷がつくる電場を学んだ。複数の電荷がある場合、電場はどうなるか?答えは簡単で、各電荷がつくる電場のベクトル和が全体の電場になる。
2 点 A, B に電荷があるとき、空間の任意の点 P における電場は、 A, B に各電荷が単独にあるときに P につくる電場ベクトルを合成すると得られる。 これを電場の重ね合わせという。
電場はベクトルであるため、向きを考慮して合成する必要がある。 正電荷と負電荷がつくる電場は向きが異なる点に注意しよう。 3 つ以上の電荷がある場合も同様に、すべての電場ベクトルを足し合わせればよい。
2 つの電場 \(\vec{E}_1\)、\(\vec{E}_2\) が x 軸からそれぞれ角度 \(\theta_1\)、\(\theta_2\) の向きを向いているとき、 成分分解を使って合成電場の大きさと向きを求める手順は以下の通り。
手順 1:各電場の x・y 成分を求める
$$ E_x = E_1\cos\theta_1 + E_2\cos\theta_2 $$同様に y 成分も各電場の y 成分の和で求める。
$$ E_y = E_1\sin\theta_1 + E_2\sin\theta_2 $$手順 2:合成電場の大きさを求める
$$ |\vec{E}| = \sqrt{E_x^2 + E_y^2} $$手順 3:合成電場の向きを求める
$$ \tan\theta = \frac{E_y}{E_x} $$対称性がある場合(例:等量の2電荷の中間点)は、打ち消し合う成分がゼロになるため、 残る成分だけを合計すれば済む。成分分解は電場の重ね合わせ問題の標準的な解法である。
条件:原点に \(+Q = 2.0 \times 10^{-8}\) C、\(x = 0.60\) m に \(+Q = 2.0 \times 10^{-8}\) C を置く。中点 \(x = 0.30\) m での電場を求めよ。
中点から各電荷までの距離は \(r = 0.30\) m。各電荷がつくる電場は
$$ E_1 = k\frac{Q}{r^2} = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{2.0 \times 10^{-8}}{(0.30)^2} = 9.0 \times 10^{9} \times \frac{2.0 \times 10^{-8}}{0.090} = 2.0 \times 10^{3} \text{ N/C} $$左の正電荷は中点で右向き、右の正電荷は中点で左向きの電場をつくるので、打ち消し合う。
$$ E = E_1 - E_2 = 2.0 \times 10^{3} - 2.0 \times 10^{3} = 0 \text{ N/C} $$答え:\(E = 0\) N/C。同符号・等量の電荷の中点では電場が打ち消されてゼロになる。
分子シミュレーションでは、何万もの原子がつくる電場の重ね合わせを計算する。 個々の原子ペアの力を全て求めると膨大な計算量になるため、 効率的なアルゴリズム(粒子メッシュ法など)が開発されている。 タンパク質の構造予測や新薬開発にもこの電場計算が不可欠である。
電場を目に見える形で表す方法が電気力線である。力線の密度が電場の強さを表す。
電場の中で正電荷が受ける力の向きに少しずつ動かすと 1 つの線を描く。 この線に正電荷が動いた向きの矢印をつけたものを電気力線(electric line of force)という。
電場の強さが \(E\)〔N/C〕の所では、電場の方向と垂直な断面を通る電気力線を 1 m² 当たり \(E\) 本の割合で引くものとする。 この約束により、電気力線の図を見るだけで電場の強さを定量的に把握できる。力線が密なところほど \(E\) が大きく、疎なところほど \(E\) が小さい。 これにより、電気力線の密度で電場の強さを表すことができる。
「電場が強い=電気力線が密」というのは定量的な約束事である。 電気力線は実在する線ではなく、電場を可視化するための道具である点に注意しよう。
点電荷・双極子・平行板がつくる電気力線を3次元で観察しよう。 マウスドラッグで視点を回転、スクロールで拡大縮小できる。
条件:平行板コンデンサーの極板間で電場の強さが \(E = 5.0 \times 10^{3}\) N/C の一様電場が生じている。断面積 \(A = 2.0 \times 10^{-2}\) m\(^2\) を貫く電気力線の本数を求めよ。
電気力線は1 m\(^2\) あたり \(E\) 本の割合で引くと約束されているから
$$ N = E \times A = 5.0 \times 10^{3} \times 2.0 \times 10^{-2} = 100 \text{ 本} $$答え:\(N = 100\) 本。電場が一様なので、面積に比例して力線の本数が増える。
電気力線の概念を最初に考案したのはマイケル・ファラデーである。 正規の大学教育を受けていなかったファラデーは、数式よりも図を使って電磁気現象を理解した。 教科書の図 12 のように、誘電体の粉を電場中に撒くと力線に沿って並ぶ実験は、 ファラデー自身が行った古典的な実験である。
点電荷から出る電気力線の総数は、電気量に比例する。この関係はガウスの法則へとつながる。
\(Q\)〔C〕の正電荷を中心とする半径 \(r\)〔m〕の球面 S を考える。 球面上での電場の方向は球面に垂直で、電場の強さは \(E = k_0\dfrac{Q}{r^2}\) である(\(k_0\) は真空中のクーロンの法則の比例定数)。
1 m² 当たり \(E\) 本の電気力線が球面を貫くので、球面 S の面積 \(4\pi r^2\) から、 球面を貫く電気力線の総数 \(N\) は次のようになる。
Q を変えると電気力線の本数が変わるが、ガウス面の半径 r を変えても貫く本数は同じであることを確認しよう。
電気力線の総数は半径 \(r\) に依存せず、電気量 \(Q\) にのみ比例する。 負電荷(\(Q < 0\))の場合は \(N < 0\) となり、\(4\pi k_0 |Q|\) 本の電気力線が球面内に入っていくことを意味する。
条件:電気量 \(Q = 5.0 \times 10^{-9}\) C の点電荷から出る電気力線の総数を求めよ。
$$ N = 4\pi k_0 Q = 4\pi \times 9.0 \times 10^{9} \times 5.0 \times 10^{-9} $$数値を整理して計算すると、
$$ = 4\pi \times 45 \fallingdotseq 4 \times 3.14 \times 45 \fallingdotseq 565 \text{ 本} $$答え:\(N \fallingdotseq 5.7 \times 10^{2}\) 本。この本数はガウス面の半径 \(r\) に依存しない。
ガウスの法則は対称性の高い問題で絶大な威力を発揮する。 例えば、一様に帯電した球殻の外部では点電荷と同じ電場になること、 内部では電場がゼロになることが、積分なしに示せる。 大学の電磁気学では、マクスウェル方程式の 1 つとして中心的な役割を果たす。
電場の面積分(電束)は内部の電荷量で決まります(ガウスの法則)。
$$ \oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0} $$
対称性の高い問題(球対称・円筒対称・平面対称)では、ガウスの法則を使うとクーロンの法則の重ね合わせ積分より簡単に電場が求まります。一様に帯電した球の外部では点電荷と同じ電場、内部では \(E \propto r\) になることがガウスの法則から導けます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
問題設定:正電荷 \(+Q\) と負電荷 \(-Q\) が距離 \(2d\) を隔てて置かれている。中点Pでの電場を求める。
【解法】中点Pは両電荷から距離 \(d\) にある。正電荷がつくる電場は正電荷から遠ざかる向き、負電荷がつくる電場は負電荷に近づく向きなので、両方の電場は同じ向きになる。
$ E_P = 2 \times k\frac{Q}{d^2} = \frac{2kQ}{d^2} $
ポイント:同符号の電荷の場合は中点で電場が打ち消し合い \(E = 0\) になる。異符号では強め合う。
問題設定:電荷 \(Q = 2.0 \times 10^{-8}\) C の点電荷から出る電気力線の総数を求める。
$ N = 4\pi k_0 Q = 4\pi \times 9.0 \times 10^9 \times 2.0 \times 10^{-8} \fallingdotseq 2.3 \times 10^3 \text{ 本} $
ポイント:電気力線の本数は距離に依存しない。ガウス面を大きくしても、面を貫く本数は同じ。
複数の点電荷がつくる電場を求める問題では、各電荷が単独でつくる電場をベクトルとして合成する。対称性を利用して成分を分解するのがコツ。正三角形の頂点に3つの電荷を置く問題では、対称軸を見つけて垂直成分が打ち消し合うことを利用する。