「電流の流れにくさは何で決まるのだろうか?」——この節では,オームの法則について理解し,電流の流れにくさにはどのようなことが関係するかを学ぼう。
電子やイオンなどが移動することによって電荷(または電気)の流れが生じる。 これを電流(electric current)といい,一定の向きに流れる電流を直流(direct current)という。
電流の向きは,正の電荷が移動する向きと定められている。 導線を流れる電流の大きさは,単位時間当たりに導線の断面を通過する電気量の大きさで定義される。 その単位にはアンペア(記号 A)を用いる(1A = 1C/s)。
金属導線の中では自由電子が移動して電流を伝える。 自由電子は負の電荷をもつため,電子の移動方向と電流の向きは逆になる。
断面積 \(S\)〔m²〕の導体中を自由電子(電気量 \(-e\)〔C〕)が速さ \(v\)〔m/s〕で移動しているとする。 単位体積当たりの自由電子の数を \(n\)〔1/m³〕とすると,電流の大きさ \(I\) は次のように表される。
断面 A を時間 \(t\) の間に通過する自由電子は,断面 A の後方の長さ \(vt\) の円柱部分に存在していた電子である。 この円柱の体積は \(vt \times S\) なので,自由電子の個数は \(N = n \times vtS = nvtS\) 個。 合計の電気量は \(Q = e \times N = envtS\) となるから,
$$ I = \frac{Q}{t} = \frac{envtS}{t} = envS $$
条件:断面積 \(S = 1.0 \times 10^{-6}\) m\(^2\) の銅線に \(I = 1.0\) A の電流が流れている。銅の自由電子密度 \(n = 8.5 \times 10^{28}\) /m\(^3\) として、自由電子の平均移動速度を求めよ。
$$ I = envS \quad \Rightarrow \quad v = \frac{I}{enS} $$数値を代入すると、
$$ v = \frac{1.0}{1.6 \times 10^{-19} \times 8.5 \times 10^{28} \times 1.0 \times 10^{-6}} $$分母をまとめて計算すると、
$$ = \frac{1.0}{1.36 \times 10^{4}} \fallingdotseq 7.4 \times 10^{-5} \text{ m/s} \fallingdotseq 0.074 \text{ mm/s} $$答え:\(v \fallingdotseq 7.4 \times 10^{-5}\) m/s。驚くほど遅いが、電場(信号)は光速で伝わるので電球は瞬時につく。
銅線に 1A の電流が流れているとき,自由電子の平均移動速度は約 0.1 mm/s 程度にすぎない。 スイッチを入れると瞬時に電球がつくのは,電子そのものが到達するのではなく, 電場(電気信号)が光速に近い速さで伝わるためである。
電流が流れるとき、その大きさは印加電圧とどのような関係があるのか?——電気回路を水路に例えながら,オームの法則を理解しよう。
電気回路は水路に例えることができる。水路の高低差は電圧(電位差)に, 単位時間に水路の断面を流れる水量は電流に相当する。 高低差が大きいほど水は速く流れ,同様に電圧が大きいほど電流は大きくなる。
導体に流れる電流の大きさ \(I\) は導体に加える電圧 \(V\) に比例する。 これをオームの法則(Ohm's law)という。
式の比例定数 \(R\) を導体の電気抵抗あるいは抵抗という。 この値は電流の流れにくさを表す。抵抗の単位にはオーム(記号 \(\Omega\))が用いられる。 1\(\Omega\) は,導体の両端に 1V の電圧を加えたとき,電流が 1A になるような抵抗値である。
抵抗 \(R\)〔\(\Omega\)〕の導体に電流 \(I\)〔A〕が流れると,オームの法則により, 抵抗の両端の間で \(RI\)〔V〕だけ電位が下がる。 これを電圧降下(voltage drop)という。 抵抗に電流が流れていないときには電圧降下は 0V であり,抵抗の両端は等電位である。
▲ 2つの抵抗の直列回路で電圧降下の配分を確認しよう(V = V₁ + V₂)
「オームの法則が成り立たない」場合
オームの法則 \(V = RI\) は金属導体では良く成り立ちますが、すべての物質で成り立つわけではありません。ダイオード(非線形素子)、電解質溶液(イオンの移動が複雑)、超伝導体(抵抗が0)などでは成り立ちません。「オーム性物質」と「非オーム性物質」を区別する意識が大切です。
電球のフィラメント(タングステン)は、室温では約20\(\Omega\)ですが、点灯時(約2700℃)は約200\(\Omega\)と10倍に上がります。スイッチを入れた瞬間に大電流が流れるのはこのためで、電球が切れるのは大抵スイッチを入れた瞬間です。入試では「温度による抵抗変化を考慮せよ」という設定が出ることがあります。
条件:抵抗 \(R = 15\) \(\Omega\) に電圧 \(V = 4.5\) V を加えた。流れる電流と消費電力を求めよ。
$$ I = \frac{V}{R} = \frac{4.5}{15} = 0.30 \text{ A} $$求めた電流を使って消費電力を計算すると、
$$ P = IV = 0.30 \times 4.5 = 1.35 \text{ W} $$答え:\(I = 0.30\) A、\(P = 1.35\) W。\(P = V^2/R = 4.5^2/15 = 1.35\) W でも同じ結果が得られる。
電気回路の振る舞いは水路に例えるとわかりやすい。 電池(電源)はポンプ,電圧は水面の高低差,電流は単位時間に流れる水量, 抵抗は水路の狭い部分に対応する。 ポンプで高低差を大きくすれば水は多く流れ,水路を狭くすれば流れにくくなる。
「なぜ V = RI が成り立つのか?」——自由電子のミクロな運動から,オームの法則を導いてみよう。
長さ \(l\)〔m〕,断面積 \(S\)〔m²〕の導体の両端に電圧 \(V\)〔V〕を加えると, 導体内部に \(E = \dfrac{V}{l}\)〔V/m〕の電場が生じる。 導体中の自由電子はこの電場から大きさ \(e\dfrac{V}{l}\)〔N〕の力を受けて, 陽イオンと衝突しながら進む。
自由電子全体を平均すると一定の速さ \(v\)〔m/s〕で進むようになる。 このとき,自由電子は陽イオンから速さ \(v\) に比例した抵抗力 \(kv\)〔N〕(\(k\) は比例定数)を受けており, 電場からの力とつりあう。
力のつりあいより
$$ e\frac{V}{l} = kv $$
したがって \(v = \dfrac{eV}{kl}\) となる。これを \(I = envS\) に代入すると
$$ I = en \times \frac{eV}{kl} \times S = \frac{e^2 nS}{kl}\,V $$
ここで \(R = \dfrac{kl}{e^2 nS}\) とおくと \(I = \dfrac{V}{R}\) が得られる。これはオームの法則そのものである。
「同じ材質でも形状で抵抗が変わる?」——抵抗率と抵抗の関係,そして温度による変化を学ぼう。
前の節の導出で \(R = \dfrac{kl}{e^2 nS}\) が得られた。ここで \(\dfrac{k}{e^2 n}\) を \(\rho\)(ロー)とおくと, 抵抗 \(R\) は次のように表される。
比例定数 \(\rho\) は,注目する物質の材質や温度によって決まる。 これを抵抗率(resistivity,または電気抵抗率,比抵抗)といい, 単位はオームメートル(記号 \(\Omega\)・m)である。
抵抗は長さに比例し,断面積に反比例する。つまり, 長くて細い導線ほど抵抗が大きく,短くて太い導線ほど抵抗が小さい。
送電線には抵抗率が小さいアルミニウムなどが用いられる。 一方,抵抗率が大きいニクロムは電熱器などに用いられる。
| 物質 | 抵抗率〔\(\Omega\)・m〕 |
|---|---|
| 銀(Ag) | \(1.6 \times 10^{-8}\) |
| 銅(Cu) | \(1.7 \times 10^{-8}\) |
| 金(Au) | \(2.2 \times 10^{-8}\) |
| アルミニウム(Al) | \(2.7 \times 10^{-8}\) |
| タングステン(W) | \(5.3 \times 10^{-8}\) |
| 鉄(Fe) | \(9.6 \times 10^{-8}\) |
| ニクロム(合金) | \(1.1 \times 10^{-6}\) |
抵抗率は不導体や半導体についても同様に定義できる。 導体の抵抗率は \(10^{-8}\) \(\Omega\)・m 程度,半導体は \(10^{-2}\)〜\(10^{2}\) \(\Omega\)・m 程度, 不導体は \(10^{8}\)〜\(10^{18}\) \(\Omega\)・m 程度と,物質の種類によって大きく異なる。
一般に,導体に電流が流れるとジュール熱が発生し,導体の温度が上昇する。 そのため,導体内の陽イオンの熱運動(振動運動)が活発になって, 自由電子の進行を妨げるようになり,抵抗値が増加する。
あまり広くない温度範囲では,0℃と \(t\)〔℃〕のときの抵抗率をそれぞれ \(\rho_0\),\(\rho\)〔\(\Omega\)・m〕とすると
\(\alpha\) は温度上昇 1K 当たりの抵抗率の増加の割合で,抵抗率の温度係数(temperature coefficient of resistivity)という。
| 物質 | 温度係数 \(\alpha\)〔1/K〕 |
|---|---|
| 鉄 | \(6.5 \times 10^{-3}\) |
| タングステン | \(4.9 \times 10^{-3}\) |
| 銅 | \(4.4 \times 10^{-3}\) |
| アルミニウム | \(4.2 \times 10^{-3}\) |
| ニクロム(合金) | \(0.093 \times 10^{-3}\) |
白熱電球のフィラメントでは,電流が大きくなると温度が上昇し抵抗値も増加するため, 電流と電圧の関係は直線にならない(非オーム的)。 オームの法則 \(V = RI\) の \(R\) が一定であるのは,温度が一定の場合に限る。
条件:長さ \(l = 100\) m、断面積 \(S = 2.0 \times 10^{-6}\) m\(^2\) の銅線の20℃での抵抗を求めよ(銅の抵抗率 \(\rho = 1.7 \times 10^{-8}\) \(\Omega\)・m)。
$$ R = \rho \frac{l}{S} = 1.7 \times 10^{-8} \times \frac{100}{2.0 \times 10^{-6}} = 1.7 \times 10^{-8} \times 5.0 \times 10^{7} = 0.85 \text{ \(\Omega\)} $$さらに温度が50℃に上昇したときの抵抗(温度係数 \(\alpha = 4.4 \times 10^{-3}\) /K、基準20℃)は
$$ R' = R(1 + \alpha \Delta t) = 0.85 \times (1 + 4.4 \times 10^{-3} \times 30) = 0.85 \times 1.132 \fallingdotseq 0.96 \text{ \(\Omega\)} $$答え:20℃で \(R = 0.85\) \(\Omega\)、50℃で \(R' \fallingdotseq 0.96\) \(\Omega\)。30℃の温度上昇で約13%抵抗が増加する。
一般に金属の電気抵抗は温度を下げると小さくなるが,ある種の物質においては, ある温度以下になると電気抵抗が急激に 0 になることが知られている。 このような現象を超伝導という。 超伝導状態の回路では電流が減衰せずに永久に流れ続け,MRI やリニアモーターカーの超伝導磁石に応用されている。
金属(導体)とは逆に,おもな半導体では温度が上がると抵抗率が減少する。 温度が上がることで束縛されていた電子が自由になり,電流を流す担い手(キャリア)の数が増えるためである。 この性質を利用したのがサーミスタ(温度センサー)である。
「抵抗に電流が流れるとなぜ熱が出る?」——ジュールの法則と電力量・電力について学ぼう。
抵抗のある導体に電流が流れると,熱が発生する。 ジュールはこの発熱について詳しく研究し,抵抗 \(R\)〔\(\Omega\)〕に電圧 \(V\)〔V〕を加えて, 電流 \(I\)〔A〕を \(t\)〔s〕間流すときの発熱量 \(Q\)〔J〕は次の式に従うことを見出した。 この関係をジュールの法則(Joule's law)といい,発生する熱をジュール熱(Joule heat)という。
抵抗 \(R\) に電圧 \(V\) を加え,電流 \(I\) が時間 \(t\) 流れるとき, 電荷 \(Q_e = It\) が移動する。電位差 \(V\) を通過するので,静電気力がする仕事は
$$ W = Q_e \times V = It \times V = IVt $$この仕事がすべて熱に変わるから \(Q = IVt\)。 オームの法則 \(V = RI\) を代入すると \(Q = I^2Rt\), \(I = V/R\) を代入すると \(Q = V^2t/R\) が得られる。
導体に電圧を加えると,導体中に電場ができ,自由電子が動き始める。 自由電子は電場によって加速されるが,導体中の陽イオンに衝突して,陽イオンに運動エネルギーを与える。 平均的な速度はほぼ一定のまま進む。 このように,電場からされた仕事によって自由電子が得た電気的なエネルギーが, 衝突によって陽イオンの振動のエネルギー(熱エネルギー)に変わり,ジュール熱が発生する。
抵抗で発生したジュール熱 \(Q\)〔J〕は,抵抗に流れた電流がした仕事と等しく, これを電力量(electrical energy)という。
また,電流がした仕事の仕事率 \(P\)〔W〕を電力(electrical power)という。 電力は電力量を時間で割ることによって求められる。
▲ 電圧 V と抵抗 R を変えて電力 P = IV の変化と電球の明るさを確認しよう
電力量の単位にはジュール(仕事と同じ単位)のほか,ワット時(記号 Wh)やキロワット時(記号 kWh)が用いられる。 1Wh の電力量とは,1W の電力で 1 時間行う仕事である。
$$ 1\,\text{Wh} = 1\,\text{W} \times 3600\,\text{s} = 3.6 \times 10^{3}\,\text{J} $$ その 1000 倍がキロワット時であり、家庭の電気料金でよく使われる単位である。 $$ 1\,\text{kWh} = 10^{3}\,\text{Wh} = 3.6 \times 10^{6}\,\text{J} $$
条件:抵抗 \(R = 20\) \(\Omega\) の電熱線に電圧 \(V = 100\) V を加え、\(t = 5.0\) 分間通電した。発生するジュール熱を求めよ。
$$ Q = \frac{V^2}{R} \times t = \frac{(100)^2}{20} \times (5.0 \times 60) = 500 \times 300 = 1.5 \times 10^{5} \text{ J} = 150 \text{ kJ} $$この熱ですべて水を温めると(比熱 4.2 J/(g・K)、水 500 g の場合)
$$ \Delta T = \frac{Q}{mc} = \frac{1.5 \times 10^{5}}{500 \times 4.2} \fallingdotseq 71 \text{ K} $$答え:\(Q = 1.5 \times 10^{5}\) J = 150 kJ。500 g の水を約71℃上昇させることができる。
家庭の電気料金は電力量計(メーター)で消費電力量を kWh 単位で測定し, それに基づいて計算される。例えば消費電力 1000W のドライヤーを 30 分使うと 0.5 kWh となり,電力単価が 30 円/kWh なら約 15 円の電気代がかかる。
ミクロに見ると、オームの法則は電場と電流密度の関係として表されます。
$$ \vec{J} = \sigma\vec{E} = \frac{1}{\rho}\vec{E} $$
\(\vec{J}\) は単位面積あたりの電流(電流密度)、\(\sigma\) は導電率、\(\rho\) は抵抗率です。断面積 \(A\)、長さ \(L\) の導体で積分すると \(I = JA\)、\(V = EL\) から \(R = \rho L/A\) が得られます。
入試で頻出のポイントを確認しましょう。
長さ \(l\)、断面積 \(S\) の導体の抵抗 \(R = \rho \frac{l}{S}\) を用いる。
例:長さ2倍、断面積が半分 → \(R\) は4倍。長さと断面積の変化を別々に追うのがコツ。
\(Q = IVt = I^2Rt = \frac{V^2}{R}t\) の3つの形式を状況に応じて使い分ける。
電力量 \(W\)〔kWh〕 = 電力〔kW〕× 時間〔h〕
例:1500W のエアコンを 8 時間 → 1.5 kW × 8 h = 12 kWh。単価 30 円/kWh なら 360 円。