「方位磁針はなぜ北を指すのか?」——磁石の基本的な性質を確認し,磁気力の定量的な法則を学ぼう。
棒磁石で砂鉄を引きつけると,両端付近に多く付着する。 この部分を磁極(magnetic pole)といい, 引きつける力(磁気力)の大きさは磁極の強さ,すなわち磁気量(magnetic charge)による。
磁極には N極(north pole)と S極(south pole)の2種類がある。 地球上で磁針を観察したとき,北をさす磁極がN極,南をさす磁極がS極である。 N極の磁気量を正,S極の磁気量を負とする。
磁石を2つに切断しても,それぞれがN極とS極の両方をもつ磁石になる。 電荷のように,一方の磁極だけを取り出すことはできない。 どれほど小さな磁石でもN極とS極がペアで存在する。
電気の場合と同じように,磁極どうしにはたらく力は, 同種の極(N-N, S-S)は斥力, 異種の極(N-S)は引力となる。
2つの磁極の間にはたらく力の大きさ \(F\) は, それぞれの磁気量の大きさ \(m_1\),\(m_2\) の積に比例し, 磁極間の距離 \(r\) の2乗に反比例する。
磁気量の単位にはウェーバ(記号 Wb,weber)を用いる。 真空中での比例定数 \(k_\text{m}\) の値は次のとおりである。
磁気力に関するクーロンの法則 \(F = k_\text{m} \dfrac{m_1 m_2}{r^2}\) は, 静電気力のクーロンの法則 \(F = k \dfrac{q_1 q_2}{r^2}\) と同じ「逆2乗の法則」の形をしている。 ただし大きな違いがある。正電荷・負電荷は単独で取り出せるが, N極だけ・S極だけの「磁気単極子(モノポール)」は現在まで実験的に発見されていない。
「磁石のまわりの空間には何が起きている?」——磁場の定義と,磁力線による視覚化を理解しよう。
電場と同様に,磁気力は磁極のまわりの空間を通じて伝えられる。 このような磁気力が及ぶ空間には磁場(magnetic field,または磁界)が生じているという。
磁場が \(\vec{H}\) の点に,磁気量 \(m\)〔Wb〕の磁極を置くと,磁極が受ける力は磁気量と磁場の積で与えられる。
N極(\(m \gt 0\))は磁場の向きに力を受け,S極(\(m < 0\))は磁場と逆向きに力を受ける。 磁場の単位にはニュートン毎ウェーバ(記号 N/Wb)を用いる。
磁場の中で,小磁針をそのN極がさしている向きに少しずつ動かしながら軌跡を描くと, 磁場の向きにそった線になる。この線を磁力線(magnetic field lines)という。
棒磁石・直線電流・ソレノイドがつくる磁場(磁力線)を3次元で観察しよう。 マウスドラッグで視点を自由に回転できる。
棒磁石をドラッグで移動すると,グリッド上の方位磁針がリアルタイムで磁場の向きに整列する。 磁力線の表示も切り替えられる。
| 磁気 | 電気 | |
|---|---|---|
| 源 | 磁極(磁気量 \(m\)〔Wb〕) | 電荷(電気量 \(q\)〔C〕) |
| 種類 | N極,S極 | 正電荷,負電荷 |
| 力の法則 | \(F = k_\text{m} \dfrac{m_1 m_2}{r^2}\) | \(F = k \dfrac{q_1 q_2}{r^2}\) |
| 場 | 磁場 \(H\)〔N/Wb〕 | 電場 \(E\)〔N/C〕 |
| 力線 | 磁力線 | 電気力線 |
| 単極の存在 | N極・S極を単独で取り出せない | 正電荷・負電荷を単独で取り出せる |
「磁力線は閉じている」とガウスの法則
電気力線は正電荷から出て負電荷に入りますが、磁力線は閉曲線で始点も終点もありません。N極から出てS極に入り、磁石の内部でS極からN極に戻ります。これは「磁気単極子(モノポール)は存在しない」ことを意味し、\(\oint \vec{B}\cdot d\vec{A} = 0\) というガウスの磁気法則で表されます。
地球は巨大な磁石のように振る舞い、北極付近にS極(地磁気の南極)があります。方位磁針のN極は地磁気のS極(北極方向)に引かれるのです。地磁気の強さは約0.3〜0.5ガウス(30〜50\(\mu\)T)で、数十万年ごとに南北が反転することが岩石の残留磁気から判明しています。
条件:磁極の強さ \(m_1 = 4.0 \times 10^{-5}\) Wb の磁極 A と \(m_2 = 5.0 \times 10^{-5}\) Wb の磁極 B が距離 \(r = 0.20\) m を隔てて置かれている。磁気力の大きさを求めよ(\(k_m = 6.33 \times 10^{4}\) N・m\(^2\)/Wb\(^2\))。
$$ F = k_m \frac{m_1 m_2}{r^2} = 6.33 \times 10^{4} \times \frac{4.0 \times 10^{-5} \times 5.0 \times 10^{-5}}{(0.20)^2} $$分子と分母を計算して整理すると、
$$ = 6.33 \times 10^{4} \times \frac{2.0 \times 10^{-9}}{0.040} = 6.33 \times 10^{4} \times 5.0 \times 10^{-8} \fallingdotseq 3.2 \times 10^{-3} \text{ N} $$答え:\(F \fallingdotseq 3.2 \times 10^{-3}\) N = 3.2 mN。静電気力のクーロンの法則と同じ逆2乗則の形。
紙の上に棒磁石を置いて砂鉄をふりかけると,砂鉄の粒が磁力線に沿って並ぶ。 これは砂鉄の各粒が磁化されて小さな磁針となり,磁場の向きに整列するためである。 N極とS極が引き合う配置(異極接近)と同極が反発する配置(同極接近)では,磁力線のパターンが大きく異なる。
「地球そのものが巨大な磁石?」——方位磁針が北を指す理由と,地球の磁場の特徴を学ぶ。
地球は,北極付近にS極,南極付近にN極をもつ1つの大きな磁石と考えることができる。 この地球の磁場を地磁気という。
方位磁針のN極が北を指すのは,地球の北極付近に磁石のS極があるからである。 厳密には,地磁気の極(磁極)は地理上の極(自転軸)からいくらかずれている。
地球表面での磁場は水平方向からずれている。そのため,地球上の磁場の向きは, 南北方向からのずれ(偏角)と水平方向からのずれ(伏角)を用いて表される。
地球上の磁場の強さは,磁場ベクトルの水平成分で表すことが多く, これを水平分力という。
地質学的な調査から,地球の磁場は過去に何度もN極とS極が逆転したことがわかっている。 最後の逆転は約78万年前に起きた。逆転のメカニズムは地球内部の液体金属(外核)の対流に関連すると考えられているが, 完全には解明されていない。
磁場中に物質を置くと、物質を構成する原子が磁化される。「鉄は磁石に引きつけられるのに,アルミニウムはほとんど反応しない」——物質ごとに異なる磁気的性質を分類しよう。
鉄は磁石によく引きつけられる。これは,鉄が磁場の中に置かれたとき, 磁石の性質を帯びるためである。このように,物質が磁石の性質を帯びることを 磁化(magnetization)という。
磁化のようすは物質によって異なり,次の3種類に分類される。
| 種類 | 磁化の特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 強磁性体 | 磁場の向きにきわめて強く磁化される | 鉄,コバルト,ニッケル |
| 常磁性体 | 磁場の向きにわずかに磁化される | アルミニウム,空気 |
| 反磁性体 | 磁場と逆向きに弱く磁化される | 銅,水,水素 |
強磁性体は磁場の向きに強く磁化され,磁石に引きつけられる。
常磁性体は磁場の向きにわずかに磁化され,極めて弱い引力を受ける。
反磁性体は磁場と逆向きに磁化され,極めて弱い斥力を受ける。
磁極が受ける力
条��:磁場の強さ \(H = 4000\) A/m の一様磁場中に、磁極の強さ \(m = 1.0 \times 10^{-5}\) Wb の磁極を置いた。磁極が受ける力を求めよ。
$$ F = mH = 1.0 \times 10^{-5} \times 4000 = 4.0 \times 10^{-2} \text{ N} = 40 \text{ mN} $$答え:\(F = 0.040\) N = 40 mN。磁場の向きがN極に力を及ぼす向きである。S極は逆向きの力を受ける。
超伝導体は極低温で電気抵抗がゼロになるだけでなく,内部の磁場を完全に排除する性質(マイスナー効果)をもつ。 これは究極の反磁性体ともいえる状態で,超伝導体の上に磁石を浮かべる「磁気浮上」のデモンストレーションとして有名である。 リニアモーターカーの浮上にもこの原理が応用されている。
強磁性体は外部磁場を取り去っても磁化が残る(残留磁化)。 磁場を繰り返し変化させると,磁化の変化は「ヒステリシスループ」と呼ばれる曲線を描く。 残留磁化が大きく保磁力の強い材料は永久磁石に適しており, 残留磁化が小さく保磁力の弱い材料は変圧器の鉄芯などに使われる軟磁性材料として用いられる。
電流素片 \(Id\vec{l}\) が距離 \(r\) の点に作る磁場は:
$$ d\vec{B} = \frac{\mu_0}{4\pi}\frac{Id\vec{l} \times \hat{r}}{r^2} $$
直線電流の場合、この積分を実行すると \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r}\)(電流からの距離に反比例)が得られます。円形電流の中心での磁場 \(B = \frac{\mu_0 I}{2a}\)(\(a\):半径)もビオ・サバールの法則から導けます。
入試で頻出のポイントを確認しましょう。
\(F = k_\text{m}\frac{m_1 m_2}{r^2}\) で、距離が \(n\) 倍 → 力は \(1/n^2\) 倍。静電気力と同じ逆2乗の法則。
【数値例】
磁極の強さ \(m_1 = 2.0 \times 10^{-4}\) Wb,\(m_2 = 3.0 \times 10^{-4}\) Wb の2つの磁極が \(r = 0.10\) m 離れているとき,磁極間にはたらく力は
$ F = k_m \frac{m_1 m_2}{r^2} = 6.33 \times 10^{4} \times \frac{2.0 \times 10^{-4} \times 3.0 \times 10^{-4}}{0.10^2} = 3.8 \text{ N} $磁気量 \(m\)〔Wb〕の磁極が磁場 \(H\)〔N/Wb〕の中で受ける力は \(F = mH\)。
N極(\(m \gt 0\))は磁場の向きに、S極(\(m \lt 0\))は磁場と逆向きに力を受ける。
入試では磁気と電気の対応関係がよく問われる。