物理 > 第4編 電気と磁気 > 第3章 電流と磁場

② 電流のつくる磁場

🧲 1. 直線電流のつくる磁場

「電流を流すと、まわりに磁場ができる」——エルステッドの発見から、直線電流がつくる磁場の法則を学ぼう。

方位磁針を電線の近くに置くと針が振れるのはなぜ?
電流が磁場をつくるから
電線が磁石でできているから
静電気が発生しているから
1820年にエルステッドが発見した現象です。電流は周囲の空間に磁場をつくり、その磁場が方位磁針に力を及ぼして針を振らせます。

エルステッドの発見

1820年、デンマークの物理学者エルステッドは、導線と磁針を平行にして導線に電流を流したところ、磁針が振れることを発見した。 これは電流は周囲に磁場をつくることを示しており、電気現象と磁気現象には関連があることが明らかになった。

💡
右ねじの法則:直線電流がつくる磁場の向きは、右ねじの進む向きを電流の向きに合わせたときの、右ねじの回る向きになる。

直線電流の磁場の公式

十分に長い導線を流れる直線電流がつくる磁場を砂鉄で調べると、磁力線は導線に垂直な平面内で同心円状になっている。 磁場の強さ \(H\)〔A/m〕は、電流 \(I\)〔A〕に比例し、導線からの距離 \(r\)〔m〕に反比例する。

\(H = \)\(\frac{I}{2\pi r}\)
\(H\)〔A/m〕:磁場の強さ
\(I\)〔A〕:電流
\(r\)〔m〕:導線からの距離

この式の右辺の単位は A/m であり、磁場の強さの単位には A/m も用いられる。 1 A/m = 1 N/Wb であり、A/m と N/Wb は次元が等しい。

📌 ポイント

複数の電流が存在する場合の磁場は、電場の場合と同様に、それぞれの電流がつくる磁場の重ねあわせによって求めることができる。

🤔 豆知識:「直線電流」と「円形電流」で磁場の形が全く違う

直線電流は電流を中心とする同心円状の磁場を作ります。円形電流は中心付近で直線的な磁場を作り、遠方では棒磁石とそっくりな形になります。ソレノイド(コイル)はこの円形電流を多数重ねたもので、内部にほぼ一様な磁場を作ります。

🧮 計算例:直線電流がつくる磁場の強さ

条件:\(I = 10\) A の直線電流から距離 \(r = 0.050\) m の点における磁場の強さ \(H\) を求めよ。

$$ H = \frac{I}{2\pi r} = \frac{10}{2\pi \times 0.050} = \frac{10}{0.314} \fallingdotseq 31.8 \text{ A/m} $$

真空中の磁束密度 \(B = \mu_0 H\) は

$$ B = 4\pi \times 10^{-7} \times 31.8 \fallingdotseq 4.0 \times 10^{-5} \text{ T} = 40 \text{ \(\mu\)T} $$

答え:\(H \fallingdotseq 32\) A/m、\(B \fallingdotseq 40\) \(\mu\)T。地磁気(約30〜50 \(\mu\)T)と同程度の強さである。

🧑‍🔬 豆知識:エルステッドの偶然の発見

エルステッドは講義の実験中、偶然にも電流を流した導線の近くに置いてあった磁針が動くことに気づいた。 この発見は電磁気学の始まりとなり、電磁石や電流計の発明に結びついた。 それまで電気と磁気はまったく別の現象と考えられていたが、この実験が両者を統一する道を開いた。

直線電流がつくる磁場の強さ \(H\) は、導線からの距離 \(r\) にどう依存する?
\(r\) に比例
\(r\) に反比例
\(r^2\) に反比例
\(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) より、磁場の強さは距離 \(r\) に反比例します。磁気力のクーロンの法則(\(r^2\) に反比例)とは異なるので注意しましょう。

🔄 2. 円形電流のつくる磁場

「コイルに電流を流すと、中心にはどんな磁場ができるのか?」——円形電流のつくる磁場は、磁石のつくる磁場と似ている。

電磁石はコイルに電流を流して磁力を発生させます。コイルの巻数を2倍にすると中心の磁場はどうなる?
変わらない
2倍になる
4倍になる
円形コイルの中心の磁場は \(H = N \dfrac{I}{2r}\) で、巻数 \(N\) に比例します。巻数を2倍にすると磁場も2倍になります。

円形電流の中心の磁場

円形の導線(コイル)に流れる電流がつくる磁場は、円形の導線を短く分けて考えると、各部分がつくる磁場は直線電流がつくる磁場と同じようになる。 また、円形電流が周囲につくる磁場は、磁石がその外側につくる磁場と似ている

円形電流の中心の磁場の向きは、コイル面に垂直であり、右手を握って親指を立てたとき、親指以外の指の向きが電流の向き、親指の向きが円の中心における磁場の向きになる。

半径 \(r\)〔m〕の円形の導線に \(I\)〔A〕の電流が流れるとき、円の中心での磁場の強さ \(H\)〔A/m〕は次のように表される。

\(H = \)\(\frac{I}{2r}\)
\(H\)〔A/m〕:円の中心での磁場の強さ
\(I\)〔A〕:電流
\(r\)〔m〕:円形電流の半径

巻数 N の円形コイル

巻数 \(N\) の円形コイルでは、中心での磁場の強さは1巻きの場合の \(N\) 倍となる。

$$ H = N \frac{I}{2r} $$
\(N\):コイルの巻数
\(I\)〔A〕:電流
\(r\)〔m〕:コイルの半径
📐 公式の導出:ソレノイド内部の磁場 \(H = nI\)

ソレノイドの長さを \(L\),総巻数を \(N\) とすると,単位長さあたりの巻数は \(n = N/L\) である。

アンペールの法則 \(\oint \vec{H}\cdot d\vec{l} = I_\text{内部}\) をソレノイド内部の長方形経路(長さ \(l\) の辺が内部を通る)に適用すると,内部の磁場 \(H\) は一様であるから

$$ Hl = nIl \quad \Rightarrow \quad H = nI $$

外部では磁場がほぼ 0 なので,経路の外側部分の寄与は無視できる。

🧮 計算例:円形電流の中心の磁場

条件:半径 \(r = 0.10\) m の円形コイルに \(I = 5.0\) A の電流を流す。巻数 \(N = 20\) 回のとき、中心の磁場の強さ \(H\) と磁束密度 \(B\) を求めよ。

$$ H = \frac{NI}{2r} = \frac{20 \times 5.0}{2 \times 0.10} = \frac{100}{0.20} = 500 \text{ A/m} $$

真空の透磁率を掛けて磁束密度を求めると、

$$ B = \mu_0 H = 4\pi \times 10^{-7} \times 500 \fallingdotseq 6.3 \times 10^{-4} \text{ T} = 0.63 \text{ mT} $$

答え:\(H = 500\) A/m、\(B \fallingdotseq 0.63\) mT。巻数を増やすことで磁場を強くできる。

🔍 豆知識:直線電流と円形電流の公式の比較 と

直線電流と円形電流の公式の比較

直線電流では \(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) であるのに対し、円形電流の中心では \(H = \dfrac{I}{2r}\) である。 どちらも「電流に比例し、距離(半径)に反比例」だが、\(\pi\) の有無が異なる。 円形電流の中心は導線上のすべての点から等距離にあり、各部分がつくる磁場が同じ向きに足し合わさるため、直線電流の場合より \(\pi\) 倍大きくなる。

病院で使われるMRI(磁気共鳴画像装置)は、巨大な超伝導コイルに大電流を流して1.5〜3 T(テスラ)もの強力な磁場を発生させている。 これは地磁気(約 50 μT)の数万倍にあたる。 超伝導コイルは電気抵抗がゼロのため、一度電流を流せば外部電源なしで磁場を維持できる。

半径 \(r\) の円形電流の中心での磁場 \(H\) の公式は?
\(H = \frac{I}{2\pi r}\)
\(H = nI\)
\(H = \frac{I}{2r}\)
\(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) は直線電流、\(H = nI\) はソレノイドの公式です。円形電流の中心では \(H = \dfrac{I}{2r}\) で、\(\pi\) がないのが特徴です。

🌀 3. ソレノイドの電流がつくる磁場

「コイルを密に巻くと、内部に一様な磁場ができる」——ソレノイドは電磁石の原理そのものだ。

自動車のスクラップを持ち上げる巨大な電磁石。電流をOFFにするとどうなる?
磁力が消えて鉄が落ちる
磁力はそのまま残る
ソレノイド(電磁石)の磁場は \(H = nI\) で、電流 \(I\) をゼロにすると磁場もゼロになります。永久磁石と違い、電流をON/OFFで磁力を制御できるのが電磁石の利点です。

ソレノイドとは

導線を密に巻いた十分に長い円筒状のコイルをソレノイド(solenoid)という。 ソレノイドがつくる磁場は、一定の間隔で並ぶ円形電流が周囲につくる磁場の重ねあわせと考えることができる。

ソレノイド内部の磁場

ソレノイドの内部には軸に平行で一様な磁場ができ、外部にはほとんど磁場が存在しない。 ソレノイド内部の磁場の強さ \(H\)〔A/m〕は、流れる電流を \(I\)〔A〕、単位長さあたりの巻数を \(n\)〔1/m〕とすると、次のように表される。

\(H = \)\(nI\)
\(H\)〔A/m〕:ソレノイド内部の磁場の強さ
\(n\)〔1/m〕:単位長さあたりの巻数
\(I\)〔A〕:電流
📌 ポイント

ソレノイドの公式 \(H = nI\) には距離 \(r\) が含まれていない。 これはソレノイド内部ではどの位置でも磁場の強さが同じ(一様な磁場)であることを意味する。 ただし、十分に長いソレノイドの場合に成り立つ近似であり、端付近では磁場が弱くなる。

🚄 豆知識:リニアモーターカーと超伝導ソレノイド

超伝導リニアモーターカーの車両には超伝導ソレノイドが搭載されている。 超伝導コイルに大電流を流して強力な磁場を発生させ、地上コイルとの電磁力で車体を浮上・推進させる。 2015年には時速603 kmの世界記録を達成した。

ソレノイド内部の磁場 \(H = nI\) に距離 \(r\) が含まれないのはなぜ?
内部のどこでも磁場の強さが同じ(一様)だから
磁場が外部にしか存在しないから
十分に長いソレノイドの内部では磁場が一様(均一)なので、位置 \(r\) によらず同じ強さです。公式に \(r\) が出てこないのはこのためです。

📐 4. 磁束密度と磁束

ソレノイドの内部で磁場がどのように分布しているかを定量的に見てみよう。「磁場の強さとは別に、磁束密度という量がある」——物質中の磁場を扱うために必要な概念を整理する。

ソレノイドに鉄芯を入れると磁力が格段に強くなります。これは鉄の何という性質によるもの?
電気伝導性が高いから
密度が大きいから
透磁率が非常に大きいから
鉄は強磁性体で透磁率 \(\mu\) が真空の数千倍もあります。\(B = \mu H\) なので、同じ磁場 \(H\) でも鉄芯があると磁束密度 \(B\) が格段に大きくなります。

透磁率と磁束密度

磁場中に鉄心などの強磁性体を入れると、磁場の強さ \(H\) は同じでも、磁力線の密集度合いが変わる。 この違いを表すために、磁束密度(magnetic flux density)\(B\)〔T〕が用いられる。

磁束密度 \(B\) は磁場の強さ \(H\) に比例し、比例定数を透磁率(permeability)\(\mu\) という。

\(B = \)\(\mu H\)
\(B\)〔T〕:磁束密度
\(\mu\)〔T・m/A〕:透磁率
\(H\)〔A/m〕:磁場の強さ

真空の透磁率 \(\mu_0\) は

$$ \mu_0 = 4\pi \times 10^{-7} \text{ T・m/A} $$

である。空気の透磁率はほぼ真空の透磁率に等しい。

▲ 材質を切り替えて透磁率 μ の違いによる磁束密度 B = μH の変化を確認しよう

磁束

磁束密度 \(B\)〔T〕の一様な磁場の中に、磁場に垂直な面積 \(S\)〔m²〕の面を考えると、その面を貫く磁束(magnetic flux)\(\Phi\) は次のように定義される。

\(\Phi = \)\(BS\)
\(\Phi\)〔Wb〕:磁束
\(B\)〔T〕:磁束密度
\(S\)〔m²〕:磁場に垂直な面の面積

磁束の単位はウェーバ(記号 Wb)であり、1 Wb = 1 T・m² である。 磁束密度 \(B\) の単位 T(テスラ)は、1 T = 1 Wb/m² とも表せる。

📌 ポイント

磁束密度 \(B\) は「単位面積あたりの磁束」と解釈できる。 磁力線の本数密度に比例する量であり、磁力線が密なほど \(B\) は大きい。

物理量 記号 単位 意味
磁場の強さ \(H\) A/m 電流がつくる磁場そのもの
磁束密度 \(B\) T(テスラ) 物質の影響を含んだ磁場
磁束 \(\Phi\) Wb(ウェーバ) 面を貫く磁束密度の総量
透磁率 \(\mu\) T・m/A 物質の磁化のしやすさ
🔬 発展:磁束密度の単位テスラとガウス

磁束密度の SI 単位はテスラ(T)だが、CGS 単位系ではガウス(G)が使われる。 1 T = 10,000 G である。地磁気の磁束密度は約 50 μT(= 0.5 G)程度であり、 冷蔵庫のマグネットは約 5 mT、MRI 装置は 1.5〜3 T に達する。

📐 発展:微積分で見るアンペールの法則

閉じた経路に沿った磁場の線積分は、経路が囲む電流の総和に比例します。

$$ \oint \vec{B}\cdot d\vec{l} = \mu_0 I_{\text{内部}} $$

対称性の高い問題(無限に長い直線電流、ソレノイド、トロイダルコイル)では、ガウスの法則が電場で有用なのと同様に、アンペールの法則で磁場を簡単に求められます。ソレノイド内部の一様磁場 \(B = \mu_0 nI\)(\(n\):単位長さあたりの巻数)はアンペールの法則から導かれます。

\(B\)、\(H\)、\(\mu\)、\(\Phi\) の関係として正しいものを2つ含む選択肢は?
\(B = H/\mu\) かつ \(\Phi = B/S\)
\(B = \mu H\) かつ \(\Phi = BS\)
\(B = \mu / H\) かつ \(\Phi = B + S\)
磁束密度 \(B = \mu H\)(透磁率 × 磁場の強さ)、磁束 \(\Phi = BS\)(磁束密度 × 面積)が正しい関係です。

🎯 5. 入試対策

入試で頻出のポイントを確認しましょう。

🧮 ① 典型問題:3つの磁場公式の使い分け

直線電流 \(H = \frac{I}{2\pi r}\)、円形電流 \(H = \frac{I}{2r}\)(\(\pi\) なし)、ソレノイド \(H = nI\)(距離なし)。

入試では「どの公式を使うか」の判断が重要。電流の形状で使い分ける。

🧮 ② 典型問題:直線電流の重ね合わせ

2本の平行な直線電流による磁場の合成。各電流がつくる磁場をベクトルとして重ね合わせる。

同方向の電流 → 間の点で磁場が弱まる(引力)。逆方向の電流 → 間の点で磁場が強まる(斥力)。

🧮 ③ 典型問題:磁束密度 \(B = \mu H\) と磁束 \(\Phi = BS\)

\(B\) はテスラ(T)、\(\Phi\) はウェーバ(Wb)。面が磁場に対して角度 \(\theta\) 傾いている場合は \(\Phi = BS\cos\theta\)。

鉄芯を入れると \(\mu\) が大きくなり、\(B\) と \(\Phi\) が増大する。

🔑 まとめ