「モーターはなぜ回るのか?」——磁石のN極とS極の間に導線をつるし,電流を流すと導線が動きだす。電流が磁場から受ける力の法則を学ぼう。
固定した磁石のN極とS極の間に導線をブランコのようにつり下げて電流を流すと,導線は動きだす。 これは,導線に流れている電流が磁場から力を受けるためである。
直線電流が磁場から受ける力 \(F\) の向きは,電流 \(I\) の向きと磁場 \(H\) の向きのいずれにも垂直となる。 この向きの関係は,開いた左手の3本の指で表すことができる。
力の向きは右ねじの法則でも求められる。電流の向きから磁場の向きに右ねじを回したとき,ねじが進む向きが力の向きである。
一様な磁場 \(H\)〔A/m〕の中に,磁場の方向と垂直に導線を置いて電流 \(I\)〔A〕を流すとき, 導線の長さ \(l\)〔m〕の部分が磁場から受ける力の大きさ \(F\)〔N〕は,比例定数を透磁率 \(\mu\) として次のように表される。
磁場と電流の向きがなす角を \(\theta\) とすると,磁場に垂直な方向の電流の成分 \(I\sin\theta\) を用いて力を求めることができる。
この式から,電流が磁場と平行なとき(\(\theta = 0°\))は力を受けないことがわかる。
リニアモーターカーは超伝導磁石による強力な磁場と電流の相互作用で推進力を得ます。フレミングの左手の法則(力=電流×磁場)が推進の原理です。超伝導コイルは電気抵抗が0なので、一度電流を流せば永久に磁場を維持でき、エネルギー効率が非常に高くなります。
条件:磁束密度 \(B = 0.50\) T の一様磁場中に、長さ \(l = 0.20\) m の導線を磁場に垂直に置き、\(I = 3.0\) A の電流を流した。導線が受ける力を求めよ。
$$ F = BIl = 0.50 \times 3.0 \times 0.20 = 0.30 \text{ N} $$答え:\(F = 0.30\) N。力の向きはフレミングの左手の法則で決まる(中指=電流、人差し指=磁場、親指=力)。
「フレミングの左手」と「右手」の使い分け
フレミングの左手の法則は「電流が磁場から受ける力」の向きを示します(電動機の原理)。右手の法則は「導体が磁場中を動いたときの誘導電流」の向きを示します(発電機の原理)。入試では「左手=力、右手=誘導」と覚えておくと使い分けに迷いません。
ジョン・アンブローズ・フレミング(1849〜1945)はイギリスの電気工学者。 左手の法則のほか,二極真空管(フレミングバルブ)の発明でも知られ,無線通信の発展に貢献した。
「テスラ」という単位はどこからくるのか?——磁場の強さに物質による効果を込めた磁束密度 \(B\) を導入し,力の公式をすっきりと整理しよう。
下のシミュレーションで、磁場中のコイルにはたらくトルクを角度と電流を変えて確認しよう。
透磁率 \(\mu\) は周囲の物質の種類によって定まる量で,その物質の透磁率(magnetic permeability)という。 真空の透磁率 \(\mu_0\) は次の値である。
空気の透磁率はほぼ \(\mu_0\) に等しい。\(\mu_0\) に対する \(\mu\) の比
をその物質の比透磁率(relative permeability)という。 常磁性体と反磁性体の比透磁率はほぼ1であり,強磁性体(鉄など)は数千〜数万の大きな値をもつ。
| 種類 | 物質 | 比透磁率 \(\mu_r\) |
|---|---|---|
| 常磁性体 | 空気(20℃) | 1.00000036 |
| アルミニウム(20℃) | 1.000021 | |
| 反磁性体 | 水(20℃) | 0.999991 |
| 銅(20℃) | 0.999990 | |
| 強磁性体 | 鉄(純鉄) | 約 8000 |
| スーパーマロイ | 約 6000000 |
電流が磁場から力を受けるとき,力の大きさ \(F\) は透磁率 \(\mu\) の値が大きいほど大きくなる。 そこで,磁場 \(\vec{H}\) に物質による効果も含めた量として
を定義する。これを磁束密度(magnetic flux density)といい,単位はテスラ(記号 T)である。 T は N/(A・m) と表すこともできる。
磁束密度の単位「テスラ」は,交流電力システムの発明で知られるニコラ・テスラ(1856〜1943)にちなんで名付けられた。 1 T はかなり強い磁場で,MRI装置は約 1.5〜3 T の磁場を発生させている。地磁気は約 50 μT にすぎない。
磁束密度 \(B\) を導入すると,電流が磁場から受ける力の公式がシンプルに書ける。\(F = BIl\sin\theta\) の意味とフレミングの左手の法則を体感しよう。
磁束密度 \(B\) を用いると,電流が磁場から受ける力の式はすっきりと書ける。 磁場と電流のなす角を \(\theta\) とすると
\(\sin\theta\) の因子が示すように,電流が磁場に対して平行(\(\theta = 0°\))のとき力はゼロになる。電流と磁場の「交差」がなければ力は生じない。特に \(\theta = 90°\)(電流と磁場が垂直)のときは力が最大となり
スライダーで角度 \(\theta\)・電流 \(I\)・磁束密度 \(B\) を変化させて,力 \(F\) の大きさがどう変わるか確認しよう。
外積 \(\vec{F} = I\vec{l} \times \vec{B}\) を3D空間で確認しよう。電流 I(青)と磁場 B(赤)の向きをスライダーで変えると,力 F(緑)がリアルタイムで更新される。マウスドラッグで視点を自由に回転できる。
磁場 \(\vec{H}\) を磁力線で表したのと同様に,磁束密度 \(\vec{B}\) を表すために磁束線を導入する。
磁束密度の大きさが \(B\) の所では,磁束密度 \(\vec{B}\) に垂直な断面を,単位面積当たり \(B\) 本の割合で \(\vec{B}\) の向きに引く。 一様な磁場では,\(\vec{B}\) に垂直な面積 \(S\)〔m²〕の断面 S を通る磁束線の数 \(\Phi\) は次のようになる。
\(\Phi\) を断面 S を通る磁束(magnetic flux)という。 磁束の単位には磁気量と同じ単位 Wb(ウェーバ)を用いる。 したがって,\(B\) の単位は Wb/m² とも表される。
磁束線と磁力線の違いに注意。磁力線は磁場 \(\vec{H}\) を表し,磁束線は磁束密度 \(\vec{B}\) を表す。 真空中(\(\mu = \mu_0\))では \(\vec{B} = \mu_0 \vec{H}\) なので両者は比例するが,物質中では透磁率が異なるため区別が必要である。
ソレノイドに鉄心(強磁性体)を入れると,鉄が磁化されてソレノイドの内外で磁束密度が大きくなる。 物質による磁化の度合いの違いが比透磁率 \(\mu_r\) の違いとなる。
電流の流れる2本の導線を近づけると,互いに力を及ぼしあう。この力から「1アンペア」が定義された歴史がある。
十分に長い2本の平行導線 P, Q を間隔 \(r\)〔m〕離して置き,それぞれに電流 \(I_1\), \(I_2\)〔A〕を流す。
導線 P に流れる電流 \(I_1\) が導線 Q の位置につくる磁束密度 \(B_1\) は, \(\vec{B} = \mu \vec{H}\) と \(H = \dfrac{I}{2\pi r}\) より
導線 Q(電流 \(I_2\))の長さ \(l\) の部分が \(B_1\) の磁場から受ける力の向きは, フレミングの左手の法則により導線 P に引き寄せられる向きとなる。 この力の大きさは \(F = I_2 B_1 l\)(電流と磁場は垂直)より
導線 P が受ける力も同じ大きさであり,作用・反作用の法則が成り立つ。
同じ向きの電流は引力(引き合う),反対向きの電流は斥力(反発する)。 直感に反しやすいので,フレミングの左手の法則で確認する習慣をつけよう。
導線の単位長さ(\(l = 1\) m)あたりの力は次のように表される。
導線 P(電流 \(I_1\))が距離 \(r\) の位置につくる磁束密度は
$$ B_1 = \frac{\mu I_1}{2\pi r} $$
導線 Q(電流 \(I_2\))の長さ \(l\) の部分が \(B_1\) から受ける力は(電流と磁場は垂直なので \(\sin 90° = 1\))
$$ F = B_1 I_2 l = \frac{\mu I_1}{2\pi r} \cdot I_2 l = \frac{\mu I_1 I_2}{2\pi r} l $$
単位長さあたりの力は \(\dfrac{F}{l} = \dfrac{\mu I_1 I_2}{2\pi r}\) となる。
条件:2本の平行導線に同じ向きに \(I_1 = I_2 = 20\) A の電流を流す。導線間の距離 \(r = 0.10\) m のとき、導線1 m あたりに働く力を求めよ。
$$ \frac{F}{l} = \frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r} = \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 20 \times 20}{2\pi \times 0.10} $$\(\pi\) を約分して整理すると、
$$ = \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 400}{0.2\pi} = \frac{4 \times 400}{0.2} \times 10^{-7} = 8.0 \times 10^{-3} \times 10^{-1} = 8.0 \times 10^{-4} \text{ N/m} $$答え:\(F/l = 8.0 \times 10^{-4}\) N/m(引力)。同じ向きの電流なので引き合う。
かつて,電流の単位 A(アンペア)は平行電流間の力を用いて定義されていた。 真空中で 1 m 離れた平行導線に等しい電流を流し,導線 1 m 当たり \(2 \times 10^{-7}\) N の力がはたらくような電流を 1 A と定めた。
2019年5月20日に SI の定義が改定され,現在の 1 A は電気素量 \(e\) の値を正確に \(1.602\,176\,634 \times 10^{-19}\) C と定めることで定義される(1 A = 1 C/s)。 この改定により,\(\mu_0\) の値は厳密に \(4\pi \times 10^{-7}\) N/A² ではなくなった。
電流が磁場から受ける力を利用した代表的な装置が直流モーターである。コイルが回転し続けるしくみを理解しよう。
回転できるようにしたコイルを磁場の中に置き,A→B→C→D の向きに電流を流すと, フレミングの左手の法則により辺 AB は上向き,辺 CD は下向きの力を磁場から受け,コイルが回り始める。
しかし,同じ向きに電流が流れ続ければ力の向きが変わらず,コイルは回転し続けることができない。 そこで整流子とブラシの接点が切り替わり,コイルに流れる電流の向きが反転する。 これにより辺 AB は再び下向き,辺 CD は上向きの力を受け,コイルは回転し続ける。
現代の電気自動車には交流モーター(誘導モーター・同期モーター)が多く使われるが, 原理は同じく「電流が磁場から受ける力」に基づく。 テスラ・モデル3は永久磁石同期モーターを採用し,最大出力は約 350 kW に達する。
電流が磁場から受ける力は電流計(ガルバノメーター)にも利用されている。 コイルに電流を流すと,磁場からの力でコイルが回転する。 このとき,コイルに取り付けたばねの復元力とつりあう角度まで針が振れるため, 針の振れ角から電流の大きさを読み取ることができる。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
平行レール上の導体棒に電流を流す問題は、電磁気分野の最頻出テーマの一つです。力 \(F = BIl\) で加速される棒が誘導起電力 \(V = Blv\) を生み、逆向きの電流を作って減速させます。最終的に等速度(力のつりあい)に達する過程をエネルギー保存で解析するのが典型的な出題パターンです。
設定:磁束密度 \(B\) の一様な磁場中で、間隔 \(l\) の平行レール上に質量 \(m\)、抵抗 \(R\) の導体棒を置く。初速 \(v_0\) を与えたときの運動を求める。
運動方程式:
$ m\frac{dv}{dt} = -BIl = -\frac{B^2 l^2}{R}v $これは \(v\) に比例する抵抗力を受ける運動で、解は
$ v(t) = v_0 \exp\left(-\frac{B^2 l^2}{mR}t\right) = v_0 e^{-t/\tau} $ここで \(\tau = \dfrac{mR}{B^2 l^2}\) は時定数。
ポイント:棒は指数関数的に減速し、運動エネルギーはすべて抵抗のジュール熱に変換される。\(\displaystyle\int_0^\infty I^2 R\,dt = \dfrac{1}{2}mv_0^2\) が成り立つ。
設定:平行レール上に2本の導体棒 P, Q(同じ質量 \(m\)、レール間隔 \(l\))を置く。P に初速 \(v_0\) を与え、Q は静止。レールと棒の抵抗は \(R\)(棒1本あたり)。
運動量保存:外力がはたらかないので全運動量は保存。
$ mv_0 = mv_P + mv_Q $十分時間がたつと、2本の棒が同じ速度 \(v_\infty\) になる(相対速度が 0 になると誘導起電力が 0 になり力がはたらかなくなる)。
$ mv_0 = 2mv_\infty \quad \Rightarrow \quad v_\infty = \frac{v_0}{2} $エネルギーの散逸:
$ \Delta K = \frac{1}{2}mv_0^2 - 2 \times \frac{1}{2}m\left(\frac{v_0}{2}\right)^2 = \frac{1}{4}mv_0^2 $失われたエネルギー \(\dfrac{1}{4}mv_0^2\) は抵抗でのジュール熱。