物理 > 第4編 電気と磁気 > 第4章 電磁誘導と電磁波
「磁石を動かすだけで電流が流れる?」——1831年にファラデーが発見した電磁誘導は、発電の原理として現代社会を支えている。
一定の電流を流すと、一定の磁場をつくることができる。 逆に、磁場を変化させると電流をつくることができる。
棒磁石をコイルの上に置き、コイルの両端に検流計をつなぐ。 棒磁石を静止させた状態では、検流計の針は振れない。 しかし、棒磁石をコイルに近づけたり、遠ざけたりすると、検流計の針が振れる。
実験から、次の3つの要素が誘導起電力の大きさに影響することがわかる。
棒磁石をドラッグしてコイルに近づけたり遠ざけたりしてみよう。 検流計の針の振れと誘導起電力の変化を観察できる。
マイケル・ファラデー(1791-1867)は電磁誘導の発見(1831年)をはじめとして、 電気分解の法則の発見、電気力線・磁力線の概念の提唱など、 電気・化学分野で数多くの業績を残した。 貧しい家に生まれ、正規の教育を受ける機会に恵まれなかったが、 優れた実験の腕と工夫で真理に迫った。
誘導電流はどの向きに流れるのか?——その答えは「変化を妨げる向き」だ。
コイルに棒磁石のN極を近づけると、コイルを貫く磁束が増加する。 このとき流れる誘導電流は、コイルを貫く磁束の増加を打ち消す向きの磁束をつくる方向に流れる。
逆に、N極を遠ざけるとコイルを貫く磁束が減少するので、 誘導電流は減少を補う向きの磁束をつくる方向に流れる。
レンツの法則はエネルギー保存則と整合している。 もし誘導電流が磁束の変化を助ける向きに流れたら、磁束の変化がさらに大きくなり、 さらに大きな誘導電流が流れる……という永久機関になってしまう。 これは物理的にあり得ないので、誘導電流は必ず変化を妨げる向きに流れる。
磁石を上下にドラッグしてコイルに近づけたり遠ざけたりしてみよう。 誘導電流が磁束の変化を打ち消す向きに流れることを確認できる。
レンツの法則は「誘導電流は磁束の変化を妨げる向きに流れる」という法則です。これはエネルギー保存則の帰結です。もし変化を助ける向きに電流が流れたら、磁束変化がさらに増し、さらに電流が増え……と無限のエネルギーが生み出されてしまいます。
条件:巻数 \(N = 100\) 回のコイルを貫く磁束が \(\Delta t = 0.050\) s の間に \(\Phi_1 = 3.0 \times 10^{-3}\) Wb から \(\Phi_2 = 1.0 \times 10^{-3}\) Wb に変化した。誘導起電力を求めよ。
$$ V = -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} = -100 \times \frac{1.0 \times 10^{-3} - 3.0 \times 10^{-3}}{0.050} $$分子の差を計算して整理すると、
$$ = -100 \times \frac{-2.0 \times 10^{-3}}{0.050} = -100 \times (-0.040) = 4.0 \text{ V} $$答え:\(|V| = 4.0\) V。磁束が減少したので、レンツの法則より磁束の減少を妨げる向きに誘導電流が流れる。
IHクッキングヒーターと電磁誘導
IHクッキングヒーターは高周波電流で交番磁場を作り、鍋底に渦電流を誘導します。渦電流が鍋の電気抵抗で発熱して調理できます。アルミ鍋では電気抵抗が小さいため発熱が少なく、鉄やステンレスの鍋が向いています。電磁誘導の身近な応用例です。
ハインリヒ・レンツ(1804-1865)はロシアの物理学者。 ファラデーの電磁誘導の発見からわずか3年後の1834年に、 誘導電流の向きに関する法則を定式化した。 ジュール熱に関するジュール=レンツの法則でも知られている。
誘導起電力の大きさは磁束の時間変化率に比例する——定量的な法則を学ぼう。
コイルを貫く磁束 \(\Phi = BS\)〔Wb〕は、磁束密度 \(B\) と断面積 \(S\) の積である。 1巻きのコイルを貫く磁束が、時間 \(\Delta t\)〔s〕の間に \(\Delta \Phi\)〔Wb〕だけ変化する。 このとき生じる誘導起電力 \(V\)〔V〕は、
$$ V = -\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} $$負の符号は、磁束の変化を打ち消す向きに誘導起電力が生じること(レンツの法則)を表している。
コイルの巻数を増やすと誘導電流が大きくなる。 コイルが \(N\) 回巻きのときは、1巻きのコイルを \(N\) 個直列につないだことと同じになり、 誘導起電力が \(N\) 倍になる。 レンツの法則やコイルの巻数を含めた電磁誘導の法則をファラデーの電磁誘導の法則という。
誘導起電力の大きさのみを考える場合は、右辺を絶対値とした \(V = \left| -N\dfrac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) を用いる。 向きはレンツの法則で別途判断する。
磁束密度 B を時間変化させたとき、Φ-t グラフと V-t グラフがどう対応するか確認しよう。 変化の仕方(直線・正弦波・ステップ)を切り替えて比較できる。
磁束は \(\Phi = BS\)(磁束密度 \(\times\) 断面積)で表される。 誘導起電力を求める際は、磁束密度の変化ではなく磁束の変化を考える。 磁束の変化は \(\Delta \Phi = \Delta B \cdot S\)(面積一定の場合)や \(\Delta \Phi = B \cdot \Delta S\)(磁束密度一定で面積が変化する場合)で求められる。
導体棒の運動による起電力は、ローレンツ力の視点からもファラデーの法則(磁束変化)の視点からも同じ結果が得られる。磁場中で導線を動かすだけで起電力が生じる——発電の基本原理を両面から理解しよう。
コイルを磁場の中に入れたり出したりする場合にも、コイルに誘導起電力が生じ、誘導電流が流れる。 コイルを貫く磁束が変化しているので、ファラデーの電磁誘導の法則を適用できる。
磁束密度 \(B\)〔T〕の一様な磁場の中で、長さ \(l\)〔m〕の導線 ab を磁場と垂直な方向に速さ \(v\)〔m/s〕で動かすとき、 導線には誘導起電力が生じる。
導線 ab は時間 \(\Delta t\) の間に \(v\Delta t\) だけ移動する。 このとき回路の面積の変化は \(\Delta S = lv\Delta t\) であり、 磁束の変化は \(\Delta \Phi = B \cdot \Delta S = Blv\Delta t\) となる。 ファラデーの電磁誘導の法則より、
$$ V = \left| -1 \times \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| = \frac{Blv\Delta t}{\Delta t} $$\(\Delta t\) が約分されて,導体棒の誘導起電力の公式が得られる。
磁束密度 \(B\) の一様な磁場中で,長さ \(l\) の導体棒が磁場に垂直な方向に速さ \(v\) で動く場合を考える。
ステップ 1:自由電子にはたらくローレンツ力
導体棒が速さ \(v\) で動くと,棒の中の自由電子(電気量 \(-e\))も同じ速さ \(v\) で動く。 磁場中を動く荷電粒子にはローレンツ力がはたらくので,電子1個が受ける磁気力の大きさは
$$ f_B = evB $$この力は導体棒に沿った方向にはたらき,電子を棒の一端に押しやる。
ステップ 2:電荷の偏りによる電場の発生
電子が一端に集まると,棒の両端に正負の電荷が分離し,棒の内部に電場 \(E\) が生じる。 この電場が電子に及ぼす静電気力の大きさは
$$ f_E = eE $$ステップ 3:つりあいの条件
電荷の移動は,ローレンツ力と静電気力がつりあったところで停止する。
$$ f_B = f_E \quad \Longrightarrow \quad evB = eE \quad \Longrightarrow \quad E = vB $$ステップ 4:起電力を求める
一様な電場 \(E\) が長さ \(l\) の棒全体にわたって生じるので,棒の両端の電位差(起電力)は
$$ V = El = vBl $$これが導体棒の運動による誘導起電力の公式である。 ファラデーの法則(\(V = \Delta\Phi / \Delta t = Blv\Delta t / \Delta t\))からも同じ結果が得られ, 両者の整合性が確認できる。
導線が磁場と角度 \(\theta\) をなす方向に速さ \(v\) で動く場合、 磁場に垂直な成分 \(v\sin\theta\) で磁場を横切ることになるので、誘導起電力は
導線内の電子が磁場中を速さ \(v\) で動くと、ローレンツ力 \(f_B = evB\) を受ける。 電子が導線の一端に集まると電場 \(E\) が生じ、静電気力 \(f_E = eE\) とつりあう。 つりあいの条件 \(eE = evB\) より \(E = vB\) となり、 導線の長さが \(l\) のとき \(V = El = vBl\) が得られる。
レール上の導体棒をドラッグして動かし、V = vBl の関係を確かめよう。 磁束密度 B と抵抗 R をスライダーで変えて、誘導電流の変化も観察できる。
条件:磁束密度 \(B = 0.40\) T の一様磁場中で、間隔 \(l = 0.50\) m のレール上を導体棒が速さ \(v = 2.0\) m/s で動いている。回路の抵抗が \(R = 0.80\) \(\Omega\) のとき、誘導起電力と誘導電流を求めよ。
$$ V = vBl = 2.0 \times 0.40 \times 0.50 = 0.40 \text{ V} $$求めた起電力からオームの法則で電流を計算すると、
$$ I = \frac{V}{R} = \frac{0.40}{0.80} = 0.50 \text{ A} $$答え:\(V = 0.40\) V、\(I = 0.50\) A。誘導電流の向きはレンツの法則で決まる。
国際宇宙ステーション(ISS)は地球の磁場の中を秒速約7.7 kmで飛行している。 ISSの構造体は導体であるため、地磁気を横切ることで微弱な誘導起電力が生じている。 NASAは過去に「テザー衛星実験」として、20 kmのワイヤを宇宙に展開し、 地磁気による誘導起電力で発電する実験を行った。
磁場を横切る導線にはたらく力とエネルギーの関係を整理しよう。
| 物理量 | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| 誘導起電力 | \(V = vBl\) | 導体棒が磁場を横切ると発生 |
| 誘導電流 | \(I = \dfrac{vBl}{R}\) | オームの法則 |
| 導体棒が受ける力 | \(F = IBl\) | 運動を妨げる向き |
| 電力 | \(P = Fv = I^2R\) | 外力の仕事率 = ジュール熱 |
回路の抵抗値を \(R\)〔\(\Omega\)〕とすると、誘導起電力 \(V = vBl\) によって回路に流れる誘導電流 \(I\)〔A〕は、 オームの法則より
磁束密度 \(B\) の磁場を垂直に横切る長さ \(l\) の導線に、質量 \(m\) のおもりをつけて一定の速さ \(v\) で引き上げる場合を考える。 導線の両端には \(V = vBl\) の誘導起電力が生じ、電池の起電力 \(V_0\) との関係から、
$$ V_0 - vBl = RI $$両辺に \(It\) をかけると \(IV_0 t = IvBl \cdot t + I^2 Rt\) となる。 ここで導体棒が磁場から受ける力は \(F = IBl\) であり,一定速度で引き上げるため \(IBl = mg\) が成立する。 したがって \(IvBl \cdot t = mgvt = mgh\) と変形でき、エネルギーの保存則が得られる。
電池のする仕事は、おもりの位置エネルギーの増加と、抵抗で発生するジュール熱の和に等しい。 エネルギー保存則が成立していることがわかる。
導体棒に外力を加えて動かし、外力の仕事がジュール熱と運動エネルギーに変換される様子を エネルギー棒グラフで確認しよう。
電流 \(I\) が流れている長さ \(l\) の導体棒が磁束密度 \(B\) の磁場から受ける力は \(F = IBl\) である。 一定の速さで導体棒を動かすためには、この力とつりあう外力が必要になる。 外力がする仕事率は \(Fv = IBl \cdot v = I \cdot vBl = IV\) であり、 これが誘導起電力による電力 \(IV\) に等しいことがわかる。
コイルだけでなく、金属板にも誘導電流は流れる——渦電流のしくみと応用を知ろう。
コイルに磁石を近づけると誘導電流が流れるのと同様に、 金属板に磁石を近づけたり、金属板の上で磁石を動かしたりするときにも、 金属板を貫く磁束が変化するために金属板内を流れる誘導電流が生じる。 このとき金属板を流れる誘導電流を渦電流(eddy current)という。
銅板の上で磁石を右向きに動かすと、レンツの法則により、 磁石が遠ざかる側(左側)では磁束の減少を打ち消す向きに時計回りの渦電流が流れ、 磁石が近づく側(右側)では磁束の増加を打ち消す向きに反時計回りの渦電流が流れる。
この渦電流によって、磁石には運動を妨げる向きの力がはたらく。 これは磁石と銅板が接触していなくても生じる。
渦電流による制動力は、大型のトラックやバスで渦電流ブレーキ(補助ブレーキ装置)として利用されている。 摩擦を使わないため摩耗が少なく、長い下り坂での制動に適している。
金属板のように環状のコイルでない場合にも誘導電流が流れる。 さらに、金属板やコイルが存在しない場合でも、 磁場が変化するとそのまわりの空間には電場が生じる。 これを誘導電場という。
金属板の上で磁石をドラッグして動かし、渦電流のパターンと 制動力(ブレーキ効果)を確認しよう。速く動かすほど大きな渦電流が流れる。
IH調理器(Induction Heating)は渦電流の原理を利用した調理器具である。 コイルに交流電流を流して時間的に変化する磁場を発生させ、 その上に置いた金属製の鍋の底に渦電流を流す。 渦電流によるジュール熱で鍋自体が発熱し、食材を加熱する。 電流の流れない土鍋やガラスの鍋は使用できない。
ファラデーの電磁誘導の法則は、磁束の時間微分で表されます。
$$ \mathcal{E} = -\frac{d\Phi}{dt} = -\frac{d}{dt}\int_S \vec{B}\cdot d\vec{A} $$
コイルが \(N\) 巻の場合は \(\mathcal{E} = -N\frac{d\Phi}{dt}\)。導体棒が磁場中を速度 \(v\) で動く場合、掃く面積の変化率から:
$$ \mathcal{E} = -B\frac{dA}{dt} = -Bl\frac{dx}{dt} = -Blv $$
大きさは \(|\mathcal{E}| = Blv\) で、レンツの法則(負号)が誘導電流の向きを決めます。この微分の形で理解すれば、磁場が変化する場合・面積が変化する場合・角度が変化する場合のすべてを統一的に扱えます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
一様磁場中で回転するコイルを3Dで観察しよう。 面積ベクトル A(緑)と磁場 B(赤)の角度が変わることで磁束が変化し、誘導起電力が生じる様子をリアルタイムで確認できる。 視点はマウスドラッグで自由に回転できる。
一様磁場中でコイルを角速度 \(\omega\) で回転させると、磁束は \(\Phi = BA\cos\omega t\) と変化し、誘導起電力は \(\mathcal{E} = BA\omega\sin\omega t\) となります。これが交流の基本原理です。入試では「どの瞬間に起電力が最大・ゼロか」「コイルの面が磁場に垂直な瞬間の起電力は?」などが問われます。
設定:磁束密度 \(B\) の一様な磁場中で、面積 \(A\)、巻数 \(N\) のコイルを角速度 \(\omega\) で回転させる。
磁束の変化:コイル面の法線と磁場のなす角が \(\theta = \omega t\) のとき
$ \Phi = BA\cos\omega t $誘導起電力:ファラデーの法則 \(\varepsilon = -N d\Phi/dt\) で磁束を時間微分すると
$ \varepsilon = -N\frac{d\Phi}{dt} = NBA\omega\sin\omega t $最大起電力:\(\sin\omega t = 1\) となる瞬間に起電力は最大値をとり、
$ \varepsilon_0 = NBA\omega $重要な瞬間:
ポイント:磁束が最大の瞬間に起電力が 0、磁束が 0 の瞬間に起電力が最大。「微分と元の関数は位相が \(\pi/2\) ずれる」ことを理解しておくとよい。