物理 > 第4編 電気と磁気 > 第4章 電磁誘導と電磁波

② 自己誘導と相互誘導

🧲 1. 自己誘導

「コイルが自分自身に逆らう?」——コイルに流れる電流が変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力が生じる。これが自己誘導である。

蛍光灯のスイッチを切った瞬間、一瞬明るく光ることがある。これはなぜ?
残っていた電気が一度に流れるから
コイルの自己誘導で大きな電圧が発生するから
スイッチの摩擦で火花が出るから
電流が急に遮断されるとき、コイルの自己誘導により大きな逆起電力が発生し、一瞬高い電圧がかかることがあります。

自己誘導とは

円筒状のコイル(ソレノイド)に一定の電流を流すと、コイルの内部に一定の磁場が生じる。 ここでコイルに流れる電流を増加させると、コイル内部の磁束が増加するため、 電磁誘導が起こり、磁束の増加を打ち消す向きの磁束が生じる。

このとき誘導起電力は、電流を増加させるのを妨げる向き(電流を減少させる向き)に生じるため、 電流は瞬時には増加しない。

逆に、コイルに流れる電流を減少させるときは、 電流を減少させるのを妨げる向き(電流を増加させる向き)に誘導起電力が生じるため、 電流は瞬時には減少しない。

💡
自己誘導(self-induction): コイルに流れる電流を変化させるとき、その変化を妨げる向きにコイルに誘導起電力が生じる現象。 この誘導起電力は逆起電力ともよばれる。

シミュレーション:自己誘導の概念

電流の増加・減少を切り替えて、磁束変化→逆起電力の因果関係を確認しよう。

💡 なぜ「自己」誘導なのか

前節で学んだ電磁誘導では、外部の磁石やコイルの動きが磁束を変化させていた。 自己誘導では、コイル自身に流れる電流の変化がコイル自身の磁束を変化させ、 誘導起電力を生じさせる。外部からの作用なしに、コイルが自分自身に「逆らう」ので「自己」誘導とよばれる。

自己誘導で生じる起電力は、電流の変化を妨げる向きか、助ける向きか?
妨げる向き
助ける向き
自己誘導はレンツの法則に従い、電流の変化を妨げる向きに逆起電力を生じます。

📐 2. 自己インダクタンスと起電力

自己誘導の起電力は電流の変化の割合に比例する——その比例定数が自己インダクタンスである。

同じ電流変化でも、コイルの巻数が多いほど逆起電力は大きい。○か×か?
×
巻数が多いほど自己インダクタンス \(L\) が大きくなり、同じ \(\Delta I/\Delta t\) でも逆起電力 \(V = L\Delta I/\Delta t\) は大きくなります。

磁束と電流の関係

コイルがつくる磁場の強さ \(H\)〔A/m〕は電流 \(I\)〔A〕に比例する。 したがって、コイルを貫く磁束 \(\Phi\)〔Wb〕も \(I\) に比例する。 比例定数を \(k\) とすると、

$$ \Phi = kI $$

時間 \(\Delta t\)〔s〕の間に電流が \(\Delta I\)〔A〕変化したとき、磁束の変化は \(\Delta \Phi = k\Delta I\) となる。 ファラデーの電磁誘導の法則より、生じる誘導起電力 \(V\)〔V〕は

$$ V = -N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} = -N\frac{k\Delta I}{\Delta t} = -Nk\frac{\Delta I}{\Delta t} $$

ここで \(N\) はコイルの巻数である。\(L = Nk\) とおくと、次の公式が得られる。

\(V = \)\(-L\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
\(V\)〔V〕:自己誘導の起電力
\(L\)〔H〕:自己インダクタンス
\(\Delta I\)〔A〕:電流の変化
\(\Delta t\)〔s〕:時間

自己インダクタンス

比例定数 \(L\) はコイルの自己誘導の大きさを表し、自己インダクタンス(self-inductance)という。 自己インダクタンスの単位にはヘンリー(記号 H)を用いる。

負の符号は、電流の変化を打ち消す向きに誘導起電力が生じることを意味している。

📌 ポイント

芯を入れたソレノイドの自己インダクタンスは、芯の物質の透磁率 \(\mu\)〔N/A²〕、 単位長さ当たりの巻数 \(n\)〔1/m〕の2乗、コイルの長さ \(l\)〔m〕、断面積 \(S\)〔m²〕に比例する: \(L = \mu n^2 lS\)

シミュレーション:V = −L ΔI/Δt

\(L\) と \(\Delta I / \Delta t\) のスライダーを動かし、誘導起電力の大きさがどう変わるか観察しよう。

📐 ソレノイドの自己インダクタンスの導出

ソレノイドの内部の磁束密度は \(B = \mu H = \mu nI\) である。 ソレノイドを貫く磁束は \(\Phi = BS = \mu nI \cdot S = \mu nSI\) となる。

したがって \(k = \mu nS\) であり、コイルの巻数は \(N = nl\) であるから、

$$ L = Nk = nl \cdot \mu nS = \mu n^2 lS $$
自己インダクタンス \(L\) のコイルで、電流が \(\Delta I / \Delta t\) の割合で変化するとき、自己誘導起電力の大きさは?
\(V = L \cdot I\)
\(V = L / \Delta t\)
\(V = L \cdot \Delta I / \Delta t\)
\(V = L \cdot \frac{\Delta I}{\Delta t}\) です。自己インダクタンスと電流変化率の積になります。

⚡ 3. コイルと抵抗を含む回路

自己誘導によって、コイルを含む回路では電流が瞬時に変化しない。その挙動をシミュレーションで確認しよう。

電気のスイッチを入れた瞬間、照明は最大の明るさになる?
はい、瞬時に最大になる
コイルがあると徐々に明るくなる
コイルの自己誘導(逆起電力)により電流は瞬時には増加せず、徐々に立ち上がります。

スイッチを閉じたとき

コイルを含まない回路では、スイッチを閉じると回路に流れる電流は瞬時に増加する。 一方、コイルを含む回路では、スイッチを閉じても電流は瞬時に変化せず、 徐々に増加する。これは、コイルの自己誘導により、電源の起電力とは逆向きの誘導起電力が生じ、 電流が増加するのが妨げられるためである。

$$ \tau = \frac{L}{R} $$
\(\tau\)〔s〕:時定数(電流が最大値の約63%に達する時間)
\(L\)〔H〕:自己インダクタンス
\(R\)〔\(\Omega\)〕:抵抗

スイッチを開いたとき

スイッチを閉じてコイルに一定の電流が流れている状態から、スイッチを開くと、 コイルの自己誘導により電流は瞬時に変化せず、徐々に減少する。 電流の急激な減少を妨げる向きに大きな誘導起電力が生じるため、 スイッチを開いた瞬間に火花(スパーク)が発生することがある。

⚠️ 注意

自己誘導による起電力は、電流の変化を妨げる向きに生じる。 電流が増加するとき → 電流を減少させる向き(逆起電力)。 電流が減少するとき → 電流を増加させる向き。 コイルは「電流の変化に抵抗する」素子と考えるとよい。

シミュレーション:自己誘導と逆起電力

スイッチ ON/OFF を切り替えて、電流 \(I\) と誘導起電力 \(V_L\) の時間変化を観察しよう。 自己インダクタンス \(L\) を変えると、電流の立ち上がりの速さがどう変わるか確認してみよう。

🧮 計算例:自己誘導起電力

条件:自己インダクタンス \(L = 0.50\) H のコイルに流れる電流が \(\Delta t = 0.010\) s の間に \(I_1 = 3.0\) A から \(I_2 = 1.0\) A に変化した。自己誘導起電力の大きさを求めよ。

$$ |V_L| = L \left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| = 0.50 \times \frac{|1.0 - 3.0|}{0.010} = 0.50 \times 200 = 100 \text{ V} $$

答え:\(|V_L| = 100\) V。わずか0.01秒で2Aの電流変化があると、100Vもの起電力が生じる。イグニッションコイルはこの原理で数万Vを発生させる。

🚗 豆知識:自動車のイグニッションコイル

ガソリンエンジンの点火プラグには数万ボルトの電圧が必要だが、バッテリーは12V程度しかない。 イグニッションコイルは自己誘導を利用して、コイルに流れる電流を急激に遮断し、 大きな逆起電力を発生させることで高電圧を生み出している。

コイルを含む回路でスイッチを閉じたとき、電流はどうなる?
瞬時に最大値になる
瞬時にゼロになる
振動しながら増加する
徐々に増加して最大値に近づく
コイルの自己誘導(逆起電力)が電流の急激な増加を妨げるため、電流は徐々に増加します。

🔋 4. コイルに蓄えられるエネルギー

電流が流れているコイルはエネルギーを蓄えている——スイッチを切った瞬間にネオン管が光る現象がその証拠である。

コンデンサーが電場にエネルギーを蓄えるように、コイルも磁場にエネルギーを蓄える。○か×か?
×
コンデンサーは電場に \(\frac{1}{2}CV^2\) を蓄え、コイルは磁場に \(\frac{1}{2}LI^2\) のエネルギーを蓄えます。

エネルギーの蓄積

コイルに電流を流すとき、自己誘導による逆起電力に逆らって仕事をしなければならない。 この仕事がコイルにエネルギーとして蓄えられる。

自己インダクタンス \(L\)〔H〕のコイルに流れる電流を、0 から \(I\)〔A〕にするために必要な仕事は、 コイルに蓄えられるエネルギー \(U\)〔J〕に等しい。

\(U = \)\(\frac{1}{2}LI^2\)
\(U\)〔J〕:コイルに蓄えられるエネルギー
\(L\)〔H〕:自己インダクタンス
\(I\)〔A〕:電流

シミュレーション:コイルのエネルギー

\(L\) と \(I\) を変えて、\(i\)-\(Li\) 図の三角形の面積(エネルギー)がどう変わるか確認しよう。

📐 エネルギーの公式の導出

電流が \(i\)〔A〕のとき、時間 \(\Delta t\)〔s〕で電流を \(\Delta i\)〔A〕だけ増加させると、 誘導起電力の大きさは \(V = L\dfrac{\Delta i}{\Delta t}\) となる。 この誘導起電力に逆らって電流 \(i\) を \(\Delta t\) 間流すときの仕事は

$$ w = iV\Delta t = i \cdot L\frac{\Delta i}{\Delta t} \cdot \Delta t = Li\Delta i $$

\(Li\Delta i\) は、横軸 \(i\)、縦軸 \(Li\) のグラフにおける細い長方形の面積に等しい。 \(\Delta i\) を限りなく小さくしていくと、電流を 0 から \(I\) にするための仕事 \(W\) は 三角形 OAB の面積に等しくなり、

$$ W = \frac{1}{2} \times I \times LI = \frac{1}{2}LI^2 $$

これがコイルに蓄えられるエネルギー \(U\) である。

🧮 計算例:コイルに蓄えられるエネルギー

条件:自己インダクタンス \(L = 2.0\) H のコイルに \(I = 3.0\) A の電流が流れている。コイルに蓄えられるエネルギーを求めよ。

$$ U = \frac{1}{2}LI^2 = \frac{1}{2} \times 2.0 \times (3.0)^2 = \frac{1}{2} \times 2.0 \times 9.0 = 9.0 \text{ J} $$

答え:\(U = 9.0\) J。スイッチを切るとこのエネルギーが逆起電力として放出され、火花やネオン管の点灯を引き起こす。

💡 豆知識:ネオン管の一瞬の点灯

ネオン管は約 1.5V の電圧では点灯しない。しかし、乾電池でコイルに電流を流しておき、 スイッチを切った瞬間、コイルの自己誘導により大きな誘導起電力が発生し、 ネオン管が一瞬点灯する。これは、コイルに蓄えられていたエネルギーが一気に放出されるためである。

自己インダクタンス \(L\) のコイルに電流 \(I\) が流れているとき、蓄えられているエネルギーは?
\(LI\)
\(LI^2\)
\(\frac{1}{2}LI^2\)
\(\frac{1}{2}L^2I\)
\(U = \frac{1}{2}LI^2\) です。コンデンサーの \(\frac{1}{2}CV^2\) と対をなす公式です。

🔗 5. 相互誘導

自己誘導はコイル自身の磁束変化による現象だった。2つのコイルが磁束を介して影響し合う場合が相互誘導である——一方のコイルの電流変化が他方に起電力を生じさせる仕組みを学ぼう。

スマートフォンのワイヤレス充電は、ケーブルなしで電力を送れる。どの原理を利用している?
静電誘導
電波による送電
相互誘導(電磁誘導)
ワイヤレス充電は、送電コイルの交流電流の変化が受電コイルに相互誘導で起電力を生じさせる仕組みです。

相互誘導とは

2つのコイルを近くに配置し、コイル1のスイッチSを開閉すると、コイル1に自己誘導が起こる。 このとき、コイル1とコイル2の導線がつながっていなくても、 コイル2の PQ 間にも磁束の変化を打ち消す向きに誘導起電力 \(V_2\) が生じる。

このように、コイル1の電流の変化が磁束の変化を生み、 それによってコイル2に誘導起電力が生じる現象相互誘導(mutual induction)という。

💡
相互誘導(mutual induction): 1つのコイルに流れる電流の変化により、近くにある別のコイルに誘導起電力が生じる現象。

相互インダクタンス

コイル2を貫く磁束 \(\Phi_2\)〔Wb〕は、コイル1の電流 \(I_1\)〔A〕に比例する。 比例定数を \(k\) とすると \(\Delta \Phi_2 = k\Delta I_1\) が成り立つ。 コイル2に生じる誘導起電力 \(V_2\)〔V〕は、ファラデーの電磁誘導の法則より

$$ V_2 = -N_2\frac{\Delta \Phi_2}{\Delta t} = -N_2 k\frac{\Delta I_1}{\Delta t} $$

ここで \(M = N_2 k\) とおくと、次の公式が得られる。

\(V_2 = \)\(-M\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\)
\(V_2\)〔V〕:コイル2に生じる誘導起電力
\(M\)〔H〕:相互インダクタンス
\(\Delta I_1\)〔A〕:コイル1の電流の変化
\(\Delta t\)〔s〕:時間

比例定数 \(M\) を相互インダクタンス(mutual inductance)といい、 その値は2つのコイルの巻数や形状、芯の物質の透磁率、2つのコイルの相互の位置などによって異なる。 \(M\) の単位は自己インダクタンス \(L\) と同じヘンリー(H)である。

シミュレーション:相互誘導

相互インダクタンス \(M\) と電流変化の周波数を変えて、コイル2に生じる誘導起電力 \(V_2\) を観察しよう。

🔬 発展:自己インダクタンスと相互インダクタンスの関係

2つのコイルの自己インダクタンスをそれぞれ \(L_1\)、\(L_2\) とすると、 相互インダクタンス \(M\) には次の関係がある。

$$ M \leq \sqrt{L_1 L_2} $$

等号が成り立つのは、コイル1がつくる磁束がすべてコイル2を貫く場合(結合係数 \(k = 1\))である。 一般には結合係数 \(k\)(\(0 \leq k \leq 1\))を用いて \(M = k\sqrt{L_1 L_2}\) と表される。

相互誘導では、一方のコイルの電流が一定のとき、他方に誘導起電力は生じる?
生じる
生じない(電流が変化しないと磁束も変化しない)
誘導起電力は磁束の「変化」によって生じるため、電流が一定なら磁束も一定で、誘導起電力はゼロです。

🔌 6. 変圧器(トランス)

相互誘導の最も重要な応用が変圧器(トランス)である。交流の電圧を自在に変換し、送電の効率を飛躍的に高めている。

発電所から家庭に届く電気は、途中で何回も電圧が変えられている。どの装置を使う?
コンデンサー
抵抗器
変圧器(トランス)
ダイオード
変圧器(トランス)は相互誘導を利用して電圧を変換する装置で、送電網に不可欠です。

変圧器のしくみ(概要)

変圧器(トランス、transformer)は、相互誘導を利用して交流の電圧を変換する装置である。 共通の鉄心に巻数の異なる一次コイル(巻数 \(N_1\))と二次コイル(巻数 \(N_2\))を巻いた構造で、 電圧比は巻数比に等しい。

\(\frac{V_1}{V_2} = \)\(\frac{N_1}{N_2}\)
\(V_1\)〔V〕:一次コイルの電圧
\(V_2\)〔V〕:二次コイルの電圧
\(N_1, N_2\):各コイルの巻数
📌 ポイント

変圧器は交流でのみ機能する。直流では電流が一定で磁束の変化が生じないため、 相互誘導による起電力は発生しない。

変圧器の詳細な原理・エネルギー保存の式・送電への応用については、 次節「⑮ 交流の発生」の「3. 変圧器」で学ぶ。

変圧器で電圧を10倍に昇圧すると、電流はどうなる?(理想的な変圧器の場合)
10倍になる
\(\frac{1}{10}\) 倍になる
変わらない
エネルギー保存(\(V_1I_1 = V_2I_2\))より、電圧を10倍にすると電流は \(\frac{1}{10}\) 倍になります。

🎯 7. 入試対策

入試で頻出のポイントを確認しましょう。

🧮 ① 典型問題:自己誘導起電力の計算

\(L = 0.5\) H のコイルで、0.1 s 間に電流が 2 A 変化 → \(|V| = L\frac{\Delta I}{\Delta t} = 0.5 \times \frac{2}{0.1} = 10\) V。

符号はレンツの法則に従い、電流の変化を妨げる向き。

🧮 ② 典型問題:コイルのエネルギーと変圧器

\(U = \frac{1}{2}LI^2\) で、\(I\) が2倍 → エネルギーは4倍。コンデンサーの \(\frac{1}{2}CV^2\) と対比して出題される。

変圧器:\(\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2}\) かつ \(V_1I_1 = V_2I_2\)(エネルギー保存)。

🧮 ③ 典型問題:相互誘導と結合

相互インダクタンス \(M\) のコイルで \(V_2 = M\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\)。

電流が一定(\(\Delta I = 0\))なら誘導起電力は生じない。「変化」がキーワード。

🔑 まとめ