物理 > 第4編 電気と磁気 > 第4章 電磁誘導と電磁波
「磁場の中でコイルを回すと電気が生まれる?」——自転車のライトから発電所まで、交流発電の原理を理解しよう。
一様な磁場の中で長方形のコイルを一定の角速度で回転させると、 コイルの辺が磁場を横切ることで誘導起電力が生じる。
コイルの辺の長さを \(l\)〔m〕、速さを \(v\)〔m/s〕、磁束密度を \(B\)〔T〕とすると、 コイルの回転角 \(\theta\) のとき、辺の速度と磁場のなす角も \(\theta\) であるから、 1辺に生じる誘導起電力は \(vBl\sin\theta\) である。
コイルには磁場を横切る辺が2本あるので、コイル全体の誘導起電力 \(V\) は
コイルの角速度を \(\omega\)〔rad/s〕とすると、回転角は \(\theta = \omega t\) で表せる。 また、コイルの回転半径を \(r\)〔m〕とすると辺の速さは \(v = r\omega\) である。 コイルの面積 \(S = 2rl\) を用い、磁束の最大値 \(\Phi_0 = BS\) とおくと、 交流電圧は次のように表される。
この電圧は時間とともに正弦関数的に変化し、向きが周期的に切り替わる。 このような電圧を交流電圧(alternating voltage)という。
磁極(N極・S極)の間でコイルが回転する様子を3Dで観察しよう。 コイル上の電流方向が半回転ごとに反転し、交流が生まれることを確認できる。 マウスドラッグで視点を回転、ホイールでズームできる。
コイルが磁場中で回転する様子と、生じる交流電圧のグラフをリアルタイムで観察しよう。 周波数を変えて波形の変化を確認できる。
交流が1回の変化を完了するのにかかる時間を周期 \(T\)〔s〕、 1秒間に繰り返す回数を振動数(周波数) \(f\)〔Hz〕という。 また、\(\omega\)(= \(2\pi f\))を交流の角周波数(angular frequency)という。
交流電圧 \(V = V_0\sin\omega t\)
コイルの回転半径を \(r\)〔m〕、磁場を横切る辺の長さを \(l\)〔m〕とする。辺の速さは \(v = r\omega\) である。
回転角 \(\theta = \omega t\) のとき、辺の速度の磁場に垂直な成分は \(v\sin\theta\) であるから、1辺に生じる起電力は \(vBl\sin\theta\)。
磁場を横切る辺は2本あるので、コイル全体の起電力は
$$ V = 2vBl\sin\theta = 2r\omega Bl\sin\omega t $$ここで \(V_0 = 2r\omega Bl\) とおけば \(V = V_0\sin\omega t\) が得られる。
コイルの面積 \(S = 2rl\)、磁束の最大値 \(\Phi_0 = BS\) を使うと \(V_0 = \omega\Phi_0 = \omega BS\) とも書ける。
自転車のライト用発電機(ダイナモ)は、車輪の回転で内部の磁石が回り、 コイルに交流電圧を発生させるしくみである。 走る速さを上げるとライトが明るくなるのは、回転が速くなり 角周波数 \(\omega\) と最大電圧 \(V_0\) がともに大きくなるためである。
条件:面積 \(S = 0.020\) m\(^2\)、巻数 \(N = 200\) 回のコイルが磁束密度 \(B = 0.50\) T の磁場中で角速度 \(\omega = 100\pi\) rad/s で回転している。交流電圧の最大値と周波数を求めよ。
$$ V_0 = NBS\omega = 200 \times 0.50 \times 0.020 \times 100\pi = 200\pi \fallingdotseq 628 \text{ V} $$角速度と周波数の関係から周期を求めると、
$$ f = \frac{\omega}{2\pi} = \frac{100\pi}{2\pi} = 50 \text{ Hz}, \quad T = \frac{1}{f} = 0.020 \text{ s} $$答え:\(V_0 \fallingdotseq 630\) V、\(f = 50\) Hz、\(T = 0.020\) s。家庭用の東日本の周波数と同じ50 Hz である。
明治時代、東京の電力会社はドイツ製の50Hz発電機を、大阪はアメリカ製の60Hz発電機を導入しました。そのまま全国に広がったため、静岡県の富士川付近を境に東日本は50Hz、西日本は60Hzと分かれています。周波数変換所は全国に3か所あり、変換容量の限界が東日本大震災時の計画停電の一因になりました。
「家庭のコンセントは100V」——しかし交流電圧は常に変化している。実効値とは、直流に換算したとき同じ発熱効果をもたらす値のことだ。では100Vという数値は、交流のどのような量から決まるのだろうか。
交流電圧 \(V = V_0\sin\omega t\) を抵抗 \(R\)〔\(\Omega\)〕に加えると、 オームの法則 \(V = RI\) がつねに成り立つので、流れる交流電流 \(I\) は
電圧 \(V\) と電流 \(I\) は同時に最大値・ゼロ・最小値をとる。 このように電圧と電流の時間的変化のしかたが等しいことを同位相であるという。 最大値どうしの間には \(V_0 = RI_0\) の関係が成り立つ。
家庭で使用される「100V」の交流電圧は、最大値が約141Vであり、 \(-141\) V から 141V の間で周期的に変化している。 これを100Vとよぶのは、この交流で電球を点灯させたとき、 100Vの直流で点灯させたときと同じ明るさになるからである。
このように、直流と同等の効果をもつような値を実効値(effective value)という。 交流電圧計や交流電流計の目盛りの数値は実効値を表している。
抵抗 \(R\) の消費電力 \(P\) は
$$ P = IV = I_0V_0\sin^2\omega t = \frac{I_0V_0}{2}(1 - \cos 2\omega t) $$この電力は \(0\) から \(I_0V_0\) の間で周期的に変化する。 1周期にわたる時間平均をとると
ここで、交流電圧の実効値 \(V_\text{e}\)〔V〕と 交流電流の実効値 \(I_\text{e}\)〔A〕を次のように定めると、 電力の式を直流の場合と同じ形に書くことができる。
この実効値を使うと、消費電力の時間平均は次のように表せる。
さらに、実効値を用いるとオームの法則も直流と同じ形になる。
$$ V_\text{e} = RI_\text{e} $$
最大値 V₀ のスライダーを操作して、実効値 V₀/√2 との関係を確認しよう。 DC比較ボタンで同じ電力の直流電圧と重ねて表示できる。
| 直流 (DC) | 交流 (AC) | |
|---|---|---|
| 電圧 | 一定 \(V\) | \(V = V_0\sin\omega t\) |
| 代表値 | \(V\)(そのまま) | 実効値 \(V_\text{e} = V_0/\sqrt{2}\) |
| 電力 | \(P = IV\) | \(\overline{P} = I_\text{e}V_\text{e}\) |
| オームの法則 | \(V = RI\) | \(V_\text{e} = RI_\text{e}\) |
| 変圧 | 困難 | 変圧器で容易 |
実効値を使えば、電力・オームの法則・ジュール熱の計算をすべて直流の場合と同じ式で行える。 交流の「100V」「5A」などの値は、特に断りがなければ実効値を表す。
実効値は「二乗平均平方根」(root-mean-square, rms)として定義される。 \(\sin^2\omega t\) の1周期にわたる平均値は \(\frac{1}{2}\) であるから、
$$ \overline{V^2} = \overline{V_0^2\sin^2\omega t} = \frac{V_0^2}{2} $$これの平方根をとると \(V_\text{e} = \sqrt{\overline{V^2}} = \dfrac{V_0}{\sqrt{2}}\) となる。 電流についても同様に \(I_\text{e} = \dfrac{I_0}{\sqrt{2}}\) が導かれる。
条件:最大電圧 \(V_0 = 141\) V の交流を抵抗 \(R = 100\) \(\Omega\) に加えた。実効値と消費電力を求めよ。
$$ V_\text{e} = \frac{V_0}{\sqrt{2}} = \frac{141}{1.414} \fallingdotseq 100 \text{ V} $$実効電流を求めると、
$$ I_\text{e} = \frac{V_\text{e}}{R} = \frac{100}{100} = 1.0 \text{ A} $$消費電力はこれらの積となる。
$$ P = V_\text{e} I_\text{e} = 100 \times 1.0 = 100 \text{ W} $$答え:\(V_\text{e} = 100\) V、\(I_\text{e} = 1.0\) A、\(P = 100\) W。これが家庭の100V電源で100 \(\Omega\) の電熱器を使ったときの消費電力に相当する。
家庭の100Vコンセントの電圧は実効値100Vであり、 最大値は \(V_0 = \sqrt{2} \times 100 \fallingdotseq 141\) Vである。 つまり実際には \(-141\) V から \(+141\) V の間を1秒間に50回(東日本) または60回(西日本)変化している。
発電所から家庭まで、電圧を自在に変換するしくみ——変圧器(トランス)の原理を学ぼう。
変圧器(transformer、トランス)は、電磁誘導を利用して交流の電圧を変える装置である。 巻数が異なる2つのコイルを共通の鉄心(コア)に巻きつけた構造をしている。
一次コイル(巻数 \(N_1\))に交流電圧を加えると、 交流は常に大きさと向きが変わるため鉄心内の磁束も変化し、電磁誘導が起きる。 鉄心の内部を貫く磁束が鉄心外部に漏れないとすると、 磁束の変化は両方のコイルに共通であるから
$$ V_1 = -N_1\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}, \quad V_2 = -N_2\frac{\Delta\Phi}{\Delta t} $$したがって、交流電圧の実効値の比はコイルの巻数の比に等しい。
電力損失が無視できる理想的な変圧器では、一次コイルの電力と二次コイルの電力が等しい。
したがって、二次コイルの電圧を高くすると(昇圧)、電流は小さくなる。 逆に電圧を低くすると(降圧)、電流は大きくなる。
一次コイルと二次コイルの巻数比を変えて、出力電圧の変化を確認しよう。 巻数比で電圧が決まり、電力は保存される。
| 直流(DC) | 交流(AC) | |
|---|---|---|
| 電圧の変化 | 一定 | 正弦波で周期的に変化 |
| 電流の向き | 常に一方向 | 周期的に反転 |
| 変圧器 | 使用不可 | 自在に電圧変換可能 |
| 代表値 | そのまま(一定値) | 実効値(最大値の \(\frac{1}{\sqrt{2}}\)) |
| 主な用途 | 電子機器・蓄電池 | 送電・家庭用電源 |
発電所で発生した交流は、変圧器で非常に高い電圧に昇圧してから送電される。 これは、送電線に流れる電流を小さくして、 送電線でのジュール熱による電力損失 \(P' = I_\text{e}^2 R\) を抑えるためである。
一定の電力 \(P_0 = I_\text{e}V_\text{e}\) を送電する場合、 電圧 \(V_\text{e}\) を \(n\) 倍にすれば電流 \(I_\text{e}\) は \(\dfrac{1}{n}\) 倍になり、 送電線での電力損失 \(P' = I_\text{e}^2 R\) は \(\dfrac{1}{n^2}\) 倍に減少する。
条件:発電所で \(V_1 = 2.0 \times 10^{4}\) V、電力 \(P = 1.0 \times 10^{6}\) W を送電する。送電線の抵抗は \(R = 10\) \(\Omega\)。変圧器で \(V_2 = 2.0 \times 10^{5}\) V に昇圧した場合の送電損失を求めよ。
昇圧後の送電電流は
$$ I_2 = \frac{P}{V_2} = \frac{1.0 \times 10^{6}}{2.0 \times 10^{5}} = 5.0 \text{ A} $$送電損失(ジュール熱)は
$$ P' = I_2^2 R = (5.0)^2 \times 10 = 250 \text{ W} $$昇圧しない場合は \(I_1 = P/V_1 = 50\) A で \(P' = 50^2 \times 10 = 25000\) W。
答え:昇圧時 250 W(損失率 0.025%)、昇圧なしでは 25 kW(損失率 2.5%)。電圧を10倍にすると損失は \(1/100\) になる。
発電所では約2万Vで発電された交流が、送電用の変圧器で27.5万V〜50万Vに昇圧されて長距離送電される。 その後、変電所で段階的に降圧され(6600V → 200V/100V)、 最終的に家庭のコンセントに届く。 この過程で何段階もの変圧器が使われている。
面積 \(A\) のコイルが一様磁場 \(B\) 中で角速度 \(\omega\) で回転するとき、磁束は:
$$ \Phi = BA\cos\omega t $$
ファラデーの法則より誘導起電力は:
$$ \mathcal{E} = -\frac{d\Phi}{dt} = BA\omega\sin\omega t = \mathcal{E}_0\sin\omega t $$
最大起電力 \(\mathcal{E}_0 = BA\omega\) は磁場・面積・回転数に比例します。N巻コイルなら \(\mathcal{E}_0 = NBA\omega\) です。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
問題設定:最大電圧 \(V_0 = 100\sqrt{2}\) V、振動数 50 Hz の交流が 10 Ω の抵抗に接続されている。消費電力の時間平均を求めよ。
【解法】実効値 \(V_\text{e} = \dfrac{V_0}{\sqrt{2}} = \dfrac{100\sqrt{2}}{\sqrt{2}} = 100\) V
$ \overline{P} = \frac{V_\text{e}^2}{R} = \frac{100^2}{10} = 1000 \text{ W} $
問題設定:1次コイルの巻数 200 回、2次コイル 1000 回の変圧器に実効値 100 V の交流をつなぐ。2次側の電圧と、2次側に 500 Ω の抵抗をつないだときの電流を求めよ。
【解法】変圧比より \(V_2 = V_1 \times \dfrac{N_2}{N_1} = 100 \times \dfrac{1000}{200} = 500\) V
$ I_2 = \frac{V_2}{R} = \frac{500}{500} = 1.0 \text{ A} $
ポイント:理想変圧器では \(V_1 I_1 = V_2 I_2\)(電力保存)。1次側電流は \(I_1 = \dfrac{V_2 I_2}{V_1} = \dfrac{500}{100} = 5.0\) A。
送電線の抵抗 \(R\) での電力損失は \(P_\text{loss} = I^2 R\)。送電電圧を \(n\) 倍に昇圧すると、同じ電力を送るのに電流は \(\frac{1}{n}\) 倍で済むため、損失は \(\frac{1}{n^2}\) 倍に激減する。高電圧送電の理由を説明する問題は頻出。