前節で学んだように、金属に光を当てると電子(光電子)が飛び出す。しかし「光は波なのに、なぜ電子をたたき出せるのか?」——この疑問に答えるため、アインシュタインは光を粒子の集まりと考える大胆な仮説を提唱した。
光は電磁波(波動)であることが、干渉や回折の実験から確かめられている。 しかし、光を波だけでは説明できない現象がある。 そこでアインシュタイン(ドイツ→アメリカ)は、光は光子(photon)または光量子と名づけた粒子の集まりであり、 振動数 \(\nu\)〔Hz〕の光の光子1個は、次の式で表されるエネルギーをもつことを提唱した。 これをアインシュタインの光量子仮説という。
条件:\(\lambda = 500\) nm \(= 5.0 \times 10^{-7}\) m、\(h = 6.63 \times 10^{-34}\) J·s、\(c = 3.0 \times 10^8\) m/s
$$ E = \frac{hc}{\lambda} = \frac{6.63 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{5.0 \times 10^{-7}} = \frac{1.989 \times 10^{-25}}{5.0 \times 10^{-7}} \fallingdotseq 4.0 \times 10^{-19} \text{ J} $$eV に換算すると \(E = \dfrac{4.0 \times 10^{-19}}{1.60 \times 10^{-19}} = 2.5\) eV
答え:\(E \fallingdotseq 4.0 \times 10^{-19}\) J(= 2.5 eV)
青い光のほうが赤い光より光子1個のエネルギーが大きい。 これは青い光のほうが振動数 \(\nu\) が大きいためである。 光は波動性と粒子性の両方の性質をあわせもつ。
温度を変えて、プランクの放射公式と古典論(レイリー・ジーンズの式)のグラフを比較しよう。 古典論では短波長側でエネルギーが発散する「紫外破綻」が起こる。
アインシュタインの光量子仮説(1905年)に先立ち、プランク(ドイツ)は1900年に、 熱放射のエネルギーが連続的ではなく \(h\nu\) の整数倍の値しかとらないという量子仮説を提唱していた。 この2つの仮説は量子力学の誕生に大きな役割をはたした。
光量子仮説が正しいなら、光のエネルギーは \(h\nu\) の「塊」として金属の電子に渡されるはずだ。この考えで初めて説明できる現象が光電効果——光の粒子性を示す最も重要な証拠である。
みがいた金属の表面に光を当てると、電子が金属から飛び出してくることが知られている。 この現象を光電効果(photoelectric effect)といい、 飛び出してくる電子を光電子(photoelectron)という。 光電効果は19世紀末に発見され、光量子仮説の誕生に大きな役割をはたした。
光電効果には次のような特徴がある。
光を波動と考えた場合、「光を強くすれば振動数が小さくても電子が飛び出せるはず」「光が強いほど \(K_0\) も大きいはず」と予想されるが、 実際にはそうならない。これは光の波動説では説明できず、粒子説(光量子仮説)で初めて説明できる。
振動数と光の強さを変えて、光電効果の特徴を確かめよう。 振動数が限界振動数 \(\nu_0\) を超えると光電子が飛び出し、右のグラフに \(K_0\) と \(\nu\) の関係が表示される。
アインシュタインが1921年のノーベル物理学賞を受賞したのは、一般に有名な相対性理論ではなく、 この光電効果の理論的説明(光量子仮説の提唱)に対してであった。 光の粒子性を理論的に示したこの業績は、量子力学への道を切り開いた。
古典的な波動論では、光の強度を上げれば電子が飛び出すはず(実際は振動数が閾値以下ならいくら強くてもダメ)、電子が飛び出すまで時間がかかるはず(実際は瞬時に飛び出す)という2つの矛盾が生じます。アインシュタインの光量子仮説(1905年)が、光のエネルギーが \(h\nu\) の塊として運ばれると説明し、これらの矛盾を解決しました。
光電効果の実験事実がわかったところで、次はこれを数式で定量化しよう。光子のエネルギー \(h\nu\) がどのように電子の運動エネルギーに変わるのか——鍵となるのは仕事関数の概念である。
光電効果の式を導くには、まず「電子を金属から引きはがすのに必要なエネルギー」を考える必要がある。 金属内の自由電子は正の電荷から引力を受けているので、 電子を金属の外に取り出すには仕事が必要である。 この仕事の最小値 \(W\) は金属ごとに決まっており、仕事関数(work function)とよばれる。
光電効果が起こる際には、1個の光子のエネルギー \(h\nu\) が1個の電子に受け渡される。 光子のエネルギーから仕事関数 \(W\) を差し引いた残りが、 電子の運動エネルギーの最大値 \(K_0\) になる。
条件:\(W = 2.3\) eV、\(\lambda = 300\) nm \(= 3.0 \times 10^{-7}\) m
光子のエネルギー:
$$ h\nu = \frac{hc}{\lambda} = \frac{6.63 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{3.0 \times 10^{-7}} = 6.63 \times 10^{-19} \text{ J} \fallingdotseq 4.1 \text{ eV} $$光電効果の式より:
$$ K_0 = h\nu - W = 4.1 - 2.3 = 1.8 \text{ eV} \fallingdotseq 2.9 \times 10^{-19} \text{ J} $$答え:\(K_0 \fallingdotseq 1.8\) eV(\(\fallingdotseq 2.9 \times 10^{-19}\) J)
条件:上の結果より \(K_0 = 1.8\) eV
\(K_0 = eV_0\) より
$$ V_0 = \frac{K_0}{e} = \frac{1.8 \text{ eV}}{e} = 1.8 \text{ V} $$答え:\(V_0 = 1.8\) V(eV と V の数値がそのまま対応する)
光子1個のエネルギー \(E = h\nu\) が1個の電子に受け渡される。
電子が金属を脱出するのに最低限必要なエネルギーが仕事関数 \(W\) であるから、エネルギー保存則より
$$ h\nu = W + K_0 $$これを変形すると
$$ K_0 = h\nu - W $$\(h\nu \gt W\) のとき \(K_0 \gt 0\) で電子は飛び出し、\(h\nu \leq W\) のとき電子は飛び出さない。
限界振動数 \(\nu_0\) では \(K_0 = 0\) であるから、上の式より次の関係が得られる。
\(h\nu \gt W\) → 光が弱くても電子は飛び出す。
\(h\nu < W\) → 光が強くても電子は飛び出さない。
\(K_0\) と \(\nu\) のグラフは傾き \(h\)(プランク定数)の直線になり、
金属の種類によらず傾きは一定である。
\(K_0\) vs \(\nu\) のグラフでは、金属によらず傾きが \(h\)(プランク定数)で一定。 \(I\) vs \(V\) のグラフでは、光を強くしても阻止電圧 \(V_0\) は変わらないことを確認しよう。
| 金属 | 仕事関数〔eV〕 |
|---|---|
| セシウム Cs | 2.14 |
| ナトリウム Na | 2.75 |
| アルミニウム Al | 4.28 |
| 亜鉛 Zn | 4.33 |
| タングステン W | 4.55 |
| 銅 Cu | 4.65 |
光電効果の実験では、光電管(真空のガラス管内に陽極と陰極を封入した装置)を使う。 陰極に限界振動数以上の光を当てると光電子が飛び出し、陽極に流れこんで光電流が生じる。
陽極の電位を負にしていくと光電子は減速され、ある電位 \(-V_0\) で光電流がゼロになる。 この \(V_0\) を阻止電圧という。
振動数一定のまま光を強くすると光電流は増えるが、阻止電圧 \(V_0\) は変わらない。 これは光の強度が光子の数に対応し、光子1個のエネルギー \(h\nu\) は変わらないためである。
電子や光子のエネルギーはきわめて小さいため、ジュール(J)のほかに電子ボルト(electron volt、記号 eV)がよく使われる。
\(1 \text{ eV} = 1.60 \times 10^{-19} \text{ J}\)
1 eV は電気素量 \(e\) の粒子が真空中で 1 V の電圧によって加速されるときに得る運動エネルギーに等しい。 また、\(10^6\) eV をメガ電子ボルト(記号 MeV)という。
光電効果は「光子がエネルギーをもつ」ことを示した。では、光子は運動量ももっているのか?——コンプトンがX線と電子の衝突実験でこれを実証し、光の粒子性は決定的なものとなった。
光子はエネルギー \(E = h\nu\) をもつだけでなく、運動量ももっている。 アインシュタインの特殊相対性理論によれば、質量が0の粒子の運動量 \(p\) は次の式で与えられる。
1923年、アメリカの物理学者コンプトン(A. H. Compton)は、 X線を物質に当てたとき、散乱されたX線の中にもとのX線よりも波長が長い(エネルギーが小さい)成分が含まれることを発見した。 これをコンプトン効果(Compton effect)という。
これは、光子が電子に衝突してエネルギーと運動量の一部を電子に与えた結果であり、 光子と電子の衝突を粒子どうしの衝突として、エネルギー保存則と運動量保存則を適用すると、 観測結果を正確に説明できる。 コンプトン効果は、光が運動量をもつ粒子としてふるまうことの決定的な証拠となった。
コンプトン効果では、散乱後の光子の波長は入射光より長くなる(振動数は小さくなる)。 これは光子のエネルギーの一部が電子の運動エネルギーに変わったためである。 波動説では波長の変化を説明できないが、粒子説なら自然に説明できる。
散乱角 \(\theta\) を変えて、光子と電子の衝突をアニメーションで観察しよう。散乱角が大きいほど波長の変化 \(\Delta\lambda\) も大きくなる。
光子(エネルギー \(h\nu\)、運動量 \(h/\lambda\))が静止している電子(質量 \(m_e\))に衝突する場合を考える。散乱後の光子の波長を \(\lambda'\)、散乱角を \(\theta\) とする。
エネルギー保存則と運動量保存則(\(x\) 成分・\(y\) 成分)を連立し、電子の反跳運動量を消去すると、次の関係が得られる。
$$ \Delta\lambda = \lambda' - \lambda = \frac{h}{m_e c}(1 - \cos\theta) $$\(\dfrac{h}{m_e c} \fallingdotseq 2.43 \times 10^{-12}\) m をコンプトン波長という。散乱角 \(\theta\) が大きいほど波長の変化 \(\Delta\lambda\) も大きくなる。
コンプトンのノーベル賞
コンプトンはこの発見により1927年にノーベル物理学賞を受賞した。 コンプトン効果は光電効果とともに、光の粒子性を裏付ける実験的証拠として量子力学の教科書に必ず登場する。
光子が運動量をもつということは、光が物体に当たると圧力を及ぼすということである。 この放射圧は非常に小さいが、宇宙空間では無視できない。 将来の宇宙探査では、巨大な帆に太陽光の圧力を受けて推進するソーラーセイル(宇宙帆船)が実用化されつつある。 日本のJAXAが打ち上げた「IKAROS」はソーラーセイルの実証に世界で初めて成功した。
光電効果のエネルギー関係 \(E_k = h\nu - W\) は、量子力学ではより一般的に理解できます。金属中の電子のエネルギーはフェルミ分布に従い、フェルミ準位からの脱出に必要なエネルギーが仕事関数 \(W\) です。
光子1個のエネルギー \(E = h\nu\) は振動数に比例し、光の強度(光子の数)には依存しません。これが「光が波なら強い光で電子が飛び出すはず」という古典論と矛盾する理由です。
阻止電圧 \(V_s\) と振動数 \(\nu\) のグラフの傾きが \(h/e\) になることから、プランク定数 \(h\) を実験的に求められます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
入試では光電効果の4つのグラフが問われます。①\(V_s\)-\(\nu\) グラフ(傾き \(h/e\)、切片 \(-W/e\))、②光電流-電圧グラフ(光の強度で飽和電流が変化)、③\(E_k\)-\(\nu\) グラフ(傾き \(h\)、切片 \(-W\))、④光電流-振動数グラフ(限界振動数以下でゼロ)。これらのグラフの形状と物理的意味を関連づけて理解することが重要です。
問題設定:阻止電圧 \(V_s\) と振動数 \(\nu\) の関係を測定した結果、2点 \((\nu_1, V_{s1})\)、\((\nu_2, V_{s2})\) が得られた。プランク定数 \(h\) と仕事関数 \(W\) を求めよ。
解法の手順:
注意:グラフの傾き \(h/e\) は金属の種類によらず一定である。金属が変わると \(\nu\) 切片(限界振動数 \(\nu_0\))が変わる。
次節では、コンプトン効果の舞台となったX線そのものに焦点を当てる。X線の発生・回折・粒子性を通じて、電磁波の二重性への理解をさらに深めよう。