物理 > 第5編 原子 > 第1章 電子と光

③ X線

☢️ 1. X線とは

前節で光電効果やコンプトン効果を通じて「光の粒子性」を学んだ。実は、コンプトン効果の実験に使われたのがX線である。X線とは何か、どうやってつくるのか、なぜレントゲン撮影で骨が見えるのか——その発見と基本的な性質から見ていこう。

レントゲン写真で骨が白く映るのはなぜ?
骨がX線を通しやすいから
骨がX線を通しにくいから
骨はカルシウムを多く含み、X線を吸収・遮蔽します。骨の部分はX線がフィルムに届かず白く映り、軟組織はX線が透過して黒く映ります。

X線の発見

1895年,ドイツの物理学者レントゲン(W. C. Rontgen)は,真空放電の研究中に正体不明の強い透過力をもつ放射線を発見し,これをX線(X-rays)とよんだ。

X線は電離作用をもつが,電場や磁場に影響されずに直進するので荷電粒子ではない。のちに,X線は紫外線よりもさらに波長の短い電磁波であることがわかった。

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X線の波長:約 \(10^{-12}\) m 〜 \(10^{-8}\) m の範囲。可視光(約 \(4 \times 10^{-7}\) 〜 \(7 \times 10^{-7}\) m)よりはるかに短い。

シミュレーション:X線の透過性

物質の種類を切り替えて、X線の透過しやすさの違いを観察しよう。骨や鉛はX線を吸収しやすく、軟組織は透過しやすい。

X線の性質

🏥 豆知識:レントゲン撮影のしくみ

X線は骨のようにカルシウムを多く含む組織では吸収されやすく,筋肉や脂肪などの軟組織は透過しやすい。体を透過したX線をフィルムや検出器で受けると,骨の部分が白く(X線が届かない),軟組織部分が黒く(X線が透過)写る。レントゲンは自身の妻の手のX線写真を撮影し,世界中を驚かせた。

X線の性質として正しいのは?
電場や磁場で曲がらない(電荷をもたない電磁波)
磁場中で曲がる(荷電粒子の流れ)
X線は紫外線よりさらに波長の短い電磁波です。電荷をもたないので電場や磁場に影響されず直進します。これが陰極線(電子線)との決定的な違いです。

⚡ 2. X線の発生

X線の性質がわかったところで、次はそのつくり方を学ぼう。第1節で学んだ熱電子を高電圧で加速してターゲットにぶつける——この仕組みから、連続X線と固有X線の2種類が生まれる。

X線管で電子をターゲットにぶつけると2種類のX線が出る。その名前は?
赤外X線と紫外X線
硬いX線と柔らかいX線
連続X線と固有X線
電子の減速で生じる連続スペクトルの「連続X線」と、ターゲット原子の電子遷移で生じる特定波長の「固有X線(特性X線)」の2種類が発生します。

X線管のしくみ

シミュレーション:X線管

加速電圧を変えて、電子がターゲットに衝突してX線が放射されるようすを観察しよう。電圧が高いほど最短波長が短くなる。

X線の発生にはX線管(X-ray tube)とよばれる装置が使われる。第1節「電子」で学んだ熱電子放出と電子の加速がここで活躍する。真空に近いガラス管に2本の金属電極を封入した構造で,次のように動作する。

  1. フィラメント(陰極)を加熱し,熱電子(thermoelectron)を放出させる
  2. 高電圧(数万V)で熱電子を加速する
  3. 加速された電子がターゲット(陽極)の金属に衝突する
  4. 電子のエネルギーの一部がX線光子のエネルギーとなり,X線が放射される

連続X線(制動X線)

加速された電子がターゲット原子の近くで急激に減速・方向変化するとき,失ったエネルギーの分だけX線が放出される。さまざまなエネルギーの失い方をするため,ある最短波長から長波長側へ連続的なスペクトルをもつ。これを連続X線(continuous X-rays)という。

電子のエネルギーがすべて1個のX線光子のエネルギーに変わるとき,X線光子のエネルギーは最大(波長は最短)になる。加速電圧を \(V\) [V],最短波長を \(\lambda_0\) [m] とすると,

\(eV = h\nu_0 = \)\(\frac{hc}{\lambda_0}\)
\(e\)〔C〕:電気素量
\(V\)〔V〕:加速電圧
\(h\)〔J・s〕:プランク定数
\(c\)〔m/s〕:光速
\(\lambda_0\)〔m〕:X線の最短波長

これより最短波長は,

\(\lambda_0 = \)\(\frac{hc}{eV}\)
最短波長 \(\lambda_0\) は加速電圧 \(V\) に反比例する
🧮 計算例:加速電圧 50 kV でのX線の最短波長

条件:\(V = 5.0 \times 10^4\) V、\(h = 6.63 \times 10^{-34}\) J·s、\(c = 3.0 \times 10^8\) m/s、\(e = 1.60 \times 10^{-19}\) C

$$ \lambda_0 = \frac{hc}{eV} = \frac{6.63 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{1.60 \times 10^{-19} \times 5.0 \times 10^4} = \frac{1.989 \times 10^{-25}}{8.0 \times 10^{-15}} \fallingdotseq 2.5 \times 10^{-11} \text{ m} $$

答え:\(\lambda_0 \fallingdotseq 2.5 \times 10^{-11}\) m(= 0.025 nm)

📌 ポイント

加速電圧 \(V\) を大きくすると,最短波長 \(\lambda_0\) は短くなる(エネルギーが大きいX線光子が出る)。連続X線のスペクトル全体が短波長側にシフトする。

📐 公式の導出:X線の最短波長

電圧 \(V\) で加速された電子の運動エネルギーは \(eV\) である。この電子がターゲットに衝突し、運動エネルギーのすべてが1個のX線光子のエネルギーに変わるとき、光子のエネルギーは最大(波長は最短)となる。

エネルギー保存則より

$$ eV = h\nu_0 = \frac{hc}{\lambda_0} $$

\(\lambda_0\) について解くと

$$ \lambda_0 = \frac{hc}{eV} $$

加速電圧 \(V\) を大きくすると \(\lambda_0\) は小さくなる(反比例の関係)。

固有X線(特性X線)

連続X線のほかに,特定の波長で強いピークをもつX線が放射される。これを固有X線(characteristic X-rays,特性X線ともいう)という。

固有X線は,加速電子がターゲット原子の内殻電子をはじき出し,外殻から電子が遷移する際に放出されるX線である。ピークの波長はターゲットの材質によって決まり,加速電圧を変えても変わらない

🔬 発展:モーズリーの法則

イギリスの物理学者モーズリー(H. Moseley)は,さまざまな元素のターゲットから得られる固有X線の振動数 \(\nu\) を測定し,\(\sqrt{\nu}\) が原子番号 \(Z\) にほぼ比例することを発見した(1913年)。この法則により,元素の並びが原子量ではなく原子番号で決まることが確認された。

次を正しい順に並べよう:連続X線の最短波長 \(\lambda_0\) を求める手順は?
① 電子の運動量を求める → ② ド・ブロイ波長を計算
① X線の振動数を測定 → ② \(\lambda = c/\nu\) で計算
① ターゲットの原子番号を調べる → ② 固有X線の波長表で確認
① 電子の運動エネルギー \(eV\) を求める → ② \(\lambda_0 = hc/(eV)\) で計算
電子の運動エネルギーがすべて1個のX線光子に変わるとき波長が最短になります。\(eV = hc/\lambda_0\) より \(\lambda_0 = hc/(eV)\) です。

🔬 3. X線の波動性とブラッグの条件

X線が電磁波(波動)であるなら、干渉や回折を起こすはずだ。しかしX線の波長は極めて短く、通常の回折格子では間隔が広すぎる。そこで登場するのが結晶——原子が規則正しく並んだ天然の「回折格子」である。

X線で結晶の構造を調べられる。有名な発見は何の構造?
水分子の形
DNAの二重らせん構造
太陽の内部構造
ロザリンド・フランクリンが撮影したDNA結晶のX線回折写真(写真51)が、ワトソンとクリックのDNA二重らせんモデルの決定的な手がかりとなりました。

X線の回折

X線の波長は可視光の波長よりはるかに短い。光の干渉で用いる回折格子(筋の間隔 〜 \(10^{-6}\) m)では間隔が広すぎてX線の干渉は起こせない。

そこでラウエ(ドイツ)は,結晶に着目した。結晶では原子が規則正しく並んでおり,その間隔(〜 \(10^{-10}\) m)はX線の波長と同程度である。結晶にX線を当てると,原子によって散乱されたX線が干渉し,多数の斑点からなる模様(ラウエ斑点)が得られる。この現象をX線回折(X-ray diffraction)という。

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ラウエ斑点(Laue spot):結晶内に規則正しく並ぶ原子によってX線が散乱・干渉し,感光フィルム上に現れる斑点模様。X線が波動であることの証拠となった。

ブラッグの条件

W. L. ブラッグ(イギリス)は,結晶内の原子を含む平行な面(格子面)に注目し,散乱されたX線が干渉して強めあう条件を導いた。

波長 \(\lambda\) のX線を,平行な格子面に角度 \(\theta\) で入射させる。隣りあう2つの格子面で反射されたX線の経路差は \(2d\sin\theta\) となる(\(d\):格子面の間隔)。この経路差が波長の整数倍のとき,2つの波は同位相となり強めあう。

$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n = 1, 2, 3, \cdots) $$
\(d\)〔m〕:格子面の間隔
\(\theta\):格子面とX線のなす角(入射角ではない)
\(n\):正の整数(反射の次数)
\(\lambda\)〔m〕:X線の波長

これをブラッグの条件(Bragg's condition)という。

🧮 計算例:格子面間隔 2.8 × 10⁻¹⁰ m の結晶で波長 1.0 × 10⁻¹⁰ m のX線が 1 次反射する角度

条件:\(d = 2.8 \times 10^{-10}\) m、\(\lambda = 1.0 \times 10^{-10}\) m、\(n = 1\)

ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) より

$$ \sin\theta = \frac{n\lambda}{2d} = \frac{1 \times 1.0 \times 10^{-10}}{2 \times 2.8 \times 10^{-10}} = \frac{1.0}{5.6} \fallingdotseq 0.179 $$

逆正弦をとって入射角を求めると、

$$ \theta \fallingdotseq 10.3° $$

答え:\(\theta \fallingdotseq 10°\)

📐 公式の導出:ブラッグの条件

格子面の間隔を \(d\)、入射X線と格子面のなす角を \(\theta\) とする。隣り合う2つの格子面で反射された波の経路差を求める。

Step 1:上の格子面に入射した波と、下の格子面に入射した波を考える。下の格子面に到達するまでに、波は余分に \(d\sin\theta\) の距離を進む。

Step 2:下の格子面で反射した後、上の格子面から反射した波と合流するまでに、さらに \(d\sin\theta\) の距離を進む。

Step 3:したがって経路差は \(2d\sin\theta\)。これが波長の整数倍のとき強め合う。

$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n = 1, 2, 3, \cdots) $$
⚠️ 注意

ブラッグの条件の \(\theta\) は,格子面と入射X線のなす角であり,波の反射の法則における入射角 \(i\)(法線との角)とは異なる。\(\theta + i = 90°\) の関係がある。

ブラッグ反射シミュレーション

スライダーで入射角 \(\theta\) を変え,ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) が満たされるときに強い反射(建設的干渉)が起こるようすを観察しよう。

X線回折の応用

ブラッグの条件を利用すると,次の2通りの応用ができる。

🧬 豆知識:X線でDNAの構造を解明

1952年,ロザリンド・フランクリンはDNA結晶のX線回折写真(通称「写真51」)を撮影した。このX字型の回折パターンから,DNAが二重らせん構造をもつことが推定され,ワトソンとクリックによる構造モデル(1953年)の決定的な手がかりとなった。現在もX線回折はタンパク質の構造解析など生命科学の最前線で活躍している。

🏥 豆知識:X線の医療応用とCTスキャン

X線は骨を透過しにくく、軟組織を透過しやすいため、レントゲン撮影に利用されます。CTスキャンはX線を多方向から照射し、コンピュータで断面画像を再構成します。ブラッグ反射の原理は結晶構造の解析にも使われ、DNAの二重らせん構造はX線回折実験から発見されました。

ブラッグの条件の \(\theta\) は何の角度?
法線とX線のなす角(入射角)
反射X線と入射X線のなす角
格子面とX線のなす角
ブラッグの条件の \(\theta\) は格子面とX線のなす角(すれすれ角)であり、光の反射の法則における入射角(法線との角)とは異なります。\(\theta + i = 90°\) の関係です。

💥 4. X線の粒子性とコンプトン効果

ブラッグ反射でX線の波動性が確認された。しかし光と同じく、X線にも粒子性がある。前節で触れたコンプトン効果を、ここではX線の立場から詳しく掘り下げ、光子の運動量の式を確認しよう。

X線を物質に当てたら、散乱されたX線の波長が変わった。これはX線の何を証明する?
粒子性(光子として電子に衝突する)
波動性(干渉する)
波動としての散乱では波長は変わりませんが、X線を光子とみなして電子との衝突(コンプトン散乱)として扱うと波長の変化を説明できます。これはX線の粒子性の証拠です。

コンプトン効果とは

波長 \(\lambda\) のX線を物質に当てると,散乱されたX線の中に元の波長 \(\lambda\) より長い波長 \(\lambda'\) のものが含まれる。これをコンプトン効果(Compton effect)という。

X線を波動と考えると,散乱の前後で波長は変わらないはずである。コンプトン効果は,X線を波動としてだけでは説明できない現象である。

光子の運動量

アインシュタインの光量子仮説では,光はエネルギー \(h\nu\) をもつ粒子(光子)である。さらに光子は,その進む向きに運動量 \(p\) をもつとされる。

\(p = \frac{h\nu}{c} = \)\(\frac{h}{\lambda}\)
\(p\)〔kg・m/s〕:光子の運動量
\(h\)〔J・s〕:プランク定数
\(\nu\)〔Hz〕:光の振動数
\(c\)〔m/s〕:光速
\(\lambda\)〔m〕:光の波長
⚠️ 注意

光子の運動量は \(p = h/\lambda\) であり,通常の粒子の運動量 \(p = mv\) の式は使えない。光子は質量が0であり,常に光速 \(c\) で進む特殊な粒子である。

コンプトン効果の説明

コンプトンは,X線を光子(粒子)とみなし,物質中の電子との弾性衝突として扱った。衝突の前後でエネルギーと運動量が保存されることから,散乱角 \(\theta\) と波長の変化の関係が導かれる。

$$ \lambda' - \lambda = \frac{h}{mc}(1 - \cos\theta) \fallingdotseq 2.4 \times 10^{-12} \times (1 - \cos\theta) \text{ [m]} $$
\(\lambda'\)〔m〕:散乱X線の波長
\(\lambda\)〔m〕:入射X線の波長
\(\theta\):散乱角
\(m\)〔kg〕:電子の質量

コンプトンの計算結果は実験結果とよく一致し,X線が粒子性をもつことの大きな裏付けとなった

🔍 発展:コンプトン散乱の波長変化

散乱角 \(\theta = 0°\)(前方散乱)では \(\lambda' - \lambda = 0\)(波長変化なし),\(\theta = 90°\) では \(\lambda' - \lambda \fallingdotseq 2.4 \times 10^{-12}\) m,\(\theta = 180°\)(後方散乱)では \(\lambda' - \lambda \fallingdotseq 4.8 \times 10^{-12}\) m となる。散乱角が大きいほど波長の変化(伸び)が大きい。

シミュレーション:X線のコンプトン散乱

散乱角 \(\theta\) を変えて、X線光子と電子の衝突によるコンプトン効果を観察しよう。右のグラフで \(\Delta\lambda\) と \(\theta\) の関係を確認できる。

🚀 豆知識:コンプトン散乱と宇宙観測

コンプトン散乱は宇宙物理学でも重要な役割を果たす。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光子が高温の銀河団ガス中の高エネルギー電子と衝突すると,光子がエネルギーを受け取って波長が短くなる(逆コンプトン散乱)。この「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果」は銀河団の観測に利用されている。

コンプトン効果で、散乱角 \(\theta\) が大きいほど波長の変化 \(\Delta\lambda\) はどうなる?
小さくなる
大きくなる
変わらない
\(\Delta\lambda = \frac{h}{m_e c}(1 - \cos\theta)\) より、\(\theta\) が大きいほど \((1 - \cos\theta)\) が大きくなるため、波長の変化も大きくなります。\(\theta = 180°\) で最大です。

🎯 5. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🎯 ① 豆知識:入試で頻出の「X線の最短波長」

加速電圧 \(V\) で加速された電子がすべての運動エネルギーをX線の光子1個に変換するとき、X線の最短波長は:

$ \lambda_{\min} = \frac{hc}{eV} $

入試では「加速電圧を変えたとき最短波長がどう変わるか」「特性X線の波長との関係」が問われます。特性X線は原子固有の値で加速電圧では変わりませんが、連続X線の最短波長は電圧に反比例します。

🧮 ② 典型問題:ブラッグ反射の条件式から結晶の面間隔を求める

問題設定:波長 \(\lambda\) のX線を結晶に入射したところ、格子面との角度 \(\theta\) で1次の反射(\(n = 1\))が観測された。格子面の間隔 \(d\) を求めよ。

解法の手順

注意点:\(\theta\) は格子面とX線のなす角(法線からの角ではない)であることに注意。逆に \(d\) がわかっていれば、\(\lambda = \dfrac{2d\sin\theta}{n}\) でX線の波長を決定できる。

発展:入試では「\(n = 1\) のとき \(\theta_1\) で反射が起きた。\(n = 2\) の反射が起きる角度 \(\theta_2\) は?」のように高次の反射を問う問題も出る。\(2d\sin\theta_1 = \lambda\) と \(2d\sin\theta_2 = 2\lambda\) から \(\sin\theta_2 = 2\sin\theta_1\) が得られる。

🔑 まとめ

光やX線が「波動でありながら粒子でもある」ことがわかった。次節では逆の問いに挑む——ふつうは粒子と考える電子にも波動性があるのではないか? ド・ブロイの大胆な仮説へ進もう。