物理 > 第5編 原子 > 第2章 原子と原子核
前節では電子のエネルギー準位やスペクトルを学び、原子の「外側」の構造を理解した。では、原子の中心にある原子核自体はどのような粒子からできているのか?——陽子と中性子の発見から原子核の構造を見ていこう。
原子は,中心にある原子核と,原子核をとりまく電子(電気量 \(-e\))からなる。 原子核は,原子の10万分の1程度(\(10^{-15}\) 〜 \(10^{-14}\) m)の大きさであり, 正の電気量 \(+e\) をもつ陽子(proton)と, 電気をもたない中性子(neutron)とからなる。
| 粒子 | 電気量 | 質量(kg) |
|---|---|---|
| 陽子 | \(+e\) | \(1.673 \times 10^{-27}\) |
| 中性子 | 0 | \(1.675 \times 10^{-27}\) |
| 電子 | \(-e\) | \(9.109 \times 10^{-31}\) |
陽子と中性子を総称して核子(nucleon)という。
下の3Dモデルで原子核の構造を立体的に観察しよう。元素を切り替えて核子の数と核半径の関係を確認できます。
元素(原子の種類)は,原子核に含まれる陽子の数で決まり,その数を原子番号(atomic number)\(Z\) という。 核子の総数を質量数(mass number)\(A\) という。 中性子の数を \(N\) とすると
原子や原子核は,元素記号と,その左上に質量数,左下に原子番号をつけて表される。 例えば炭素12は \({}^{12}_{\ 6}\text{C}\) と書く。 原子番号 \(Z\) の元素の原子核は \(Ze\) の正の電気量をもつ。
元素を選択して,原子核を構成する陽子と中性子の数,核半径の変化を観察しよう。
イオンになっていない電気的に中性な原子中の電子の数は,陽子の数, すなわち原子番号 \(Z\) に等しい。
1932年,チャドウィック(イギリス)は,ベリリウムにα粒子を当てると 透過力の強い放射線が出ることを調べ,その正体が電気をもたず 陽子とほぼ同じ質量の粒子であることを示した。 これが中性子の発見であり,原子核の構造の理解が大きく進んだ。
原子の大きさは約 \(10^{-10}\) m(1Å)ですが、原子核は約 \(10^{-15}\) m(1fm)で、原子の約10万分の1です。東京ドームを原子に例えると、原子核はマウンド上のビー玉ほど。原子は99.9999...%が空っぽです。ラザフォードの散乱実験はこのスカスカな構造を発見した実験です。
原子核が陽子と中性子で構成されることがわかった。ところが同じ元素(陽子数が同じ)でも中性子の数が異なる原子核が存在する。これが同位体であり、放射性崩壊や核反応を理解する上で欠かせない概念である。
同じ元素でも(つまり陽子の数が同じでも),中性子の数が異なる原子がある。 これらの原子を互いに同位体(isotope)という。
同位体を区別する場合は,\({}^{12}_{\ 6}\text{C}\),\({}^{13}_{\ 6}\text{C}\) のように質量数の違いで表す。 水素 \({}^{1}_{1}\text{H}\) の原子核は陽子であり, \({}^{2}_{1}\text{H}\)(重水素),\({}^{3}_{1}\text{H}\)(三重水素)の原子核はそれぞれ重陽子,三重陽子といわれる。
| 元素 | 同位体 | 陽子 | 中性子 | 質量(u) | 存在比(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 水素 | \({}^{1}\text{H}\) | 1 | 0 | 1.0078 | 99.986 |
| \({}^{2}\text{H}\) | 1 | 1 | 2.0141 | 0.014 | |
| 炭素 | \({}^{12}\text{C}\) | 6 | 6 | 12 | 98.94 |
| \({}^{13}\text{C}\) | 6 | 7 | 13.0034 | 1.06 | |
| 酸素 | \({}^{16}\text{O}\) | 8 | 8 | 15.9949 | 99.757 |
| \({}^{17}\text{O}\) | 8 | 9 | 16.9991 | 0.038 | |
| \({}^{18}\text{O}\) | 8 | 10 | 17.9992 | 0.205 |
一般に,同じ元素の同位体は化学的な性質がほぼ同じである。 しかし,物理的性質は大きく異なることがある。
原子の質量はきわめて小さい。そのため, \({}^{12}_{\ 6}\text{C}\) 原子1個の質量の \(\dfrac{1}{12}\) を 統一原子質量単位(unified atomic mass unit,記号 u)として用いる。
\({}^{12}\text{C}\) 原子の質量は統一原子質量単位を用いると 12 u である。 この値 12 を基準として,他の原子1個の質量を相対的に表した値を元素の原子量(atomic weight)という。 実際には多くの元素に複数の同位体が存在するため, 元素の原子量は各同位体の相対的な質量にその存在比を乗じて計算した平均値として求められる。
水素・炭素・酸素の同位体を並べて比較しよう。原子番号(陽子の数)は同じだが,中性子の数が異なる様子を観察できる。
原子の質量は,原子をイオンにし,電場や磁場を加えてその軌道を調べることによって求められる。 J.J. トムソンの研究室にいたアストン(イギリス)は, イオンの速さが異なっていても比電荷が同じであればスクリーン上の一点に集まるような装置を製作した。 このような装置を質量分析器という。
同位体の存在からもわかるように、原子核にはさまざまな数の陽子・中性子が詰まっている。しかし陽子は正電荷をもつから、クーロン斥力で反発し合うはずだ。それにもかかわらず原子核がバラバラにならないのは、クーロン力をはるかに上回る「核力」が存在するからである。
陽子どうしは静電気力で反発しあい,陽子と中性子,および中性子どうしでは静電気力がはたらかない。 それにもかかわらず,核子が \(10^{-15}\) 〜 \(10^{-14}\) m 程度の狭い空間に集まっているのは, 核子どうしが静電気力よりはるかに強い力で引きあっているからである。 この力を核力(nuclear force)という。
核力は到達距離が極めて短い(〜\(10^{-15}\) m)のが最大の特徴。 重力や静電気力(クーロン力)は距離の2乗に反比例してどこまでも届く「長距離力」だが, 核力は原子核のサイズ程度でしか効かない。
核子間の距離を変えて,核力とクーロン力(静電気力)の大きさを比較しよう。核力は約 1〜2 fm でのみ強くはたらく短距離力であることがわかる。
1935年,湯川秀樹(日本)は核力を媒介する粒子(中間子)の存在を予言した。 1947年にパウエルらが宇宙線の中から中間子(π中間子)を発見し, 湯川の理論が裏づけられた。湯川は1949年に日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞した。
核力が核子を強く結びつけていることはわかった。では、その「結合の強さ」を数値で測るにはどうすればよいか? 実は原子核の質量を精密に測ると、構成する核子をバラバラにした場合の質量の和よりもわずかに小さい。この差——質量欠損——とアインシュタインの \(E = mc^2\) が、核反応のエネルギーを理解する鍵となる。
原子核の質量は,それを構成する核子の質量の和よりも小さい。 原子番号 \(Z\),質量数 \(A\) の原子核の質量を \(m_0\), 陽子と中性子の質量をそれぞれ \(m_\text{p}\),\(m_\text{n}\) とすると,両者の差
を質量欠損(mass defect)という。
質量欠損の意味は,アインシュタインの相対性理論によって明らかになる。 それによれば,質量とエネルギーとは同等(等価)であって, 質量 \(m\)〔kg〕の物体は,静止状態において次の式で表されるエネルギーをもつ。
陽子と中性子がばらばらで存在するときよりも,まとまって原子核を構成しているときのほうが, エネルギーが \(\Delta m c^2\) だけ小さい。 逆に,原子核をばらばらの核子にするには \(\Delta m c^2\) だけのエネルギーを与える必要がある。 この意味で,\(\Delta m c^2\) を原子核の結合エネルギー(binding energy)という。
条件:\(m_\text{p} = 1.00728\) u、\(m_\text{n} = 1.00866\) u、\({}^4\text{He}\) 核の質量 \(m_0 = 4.00151\) u
核子の質量の合計:\(2 \times 1.00728 + 2 \times 1.00866 = 4.03188\) u
$$ \Delta m = 4.03188 - 4.00151 = 0.03037 \text{ u} $$1 u = 931.5 MeV/c² を使うと
$$ \Delta m c^2 = 0.03037 \times 931.5 \fallingdotseq 28.3 \text{ MeV} $$核子1個当たり:\(\frac{28.3}{4} \fallingdotseq 7.1\) MeV
答え:結合エネルギー \(\fallingdotseq 28.3\) MeV(核子1個当たり約 7.1 MeV)
核子1個当たりの結合エネルギー \(\dfrac{\Delta m c^2}{A}\) は, 軽い原子核の領域で急激に増大し,鉄 Fe のあたりで最大になる。 このことは,鉄付近の原子核が最も安定であることを意味している。
結合エネルギーが大きいほど原子核は安定(ばらばらにしにくい)。 「エネルギーが高い=不安定」という熱力学のイメージと混同しないこと。 結合エネルギーは「核子をバラバラにするのに必要なエネルギー」であり, 大きいほどしっかり結合している。
1 u の質量に相当するエネルギーは \(1 \text{ u} \times c^2 = 1.66 \times 10^{-27} \times (3.0 \times 10^8)^2 \fallingdotseq 1.49 \times 10^{-10}\) J \(\fallingdotseq 931.5\) MeV である。 この換算値は核物理の計算でよく使われる。
太陽の中心部では水素の原子核が融合してヘリウムになる核融合反応が起きている。 このとき生じる質量欠損に相当するエネルギーが太陽の光や熱の源である。 太陽は毎秒約400万トンの質量をエネルギーに変換しており, それでも50億年以上輝き続けられるほどの水素を蓄えている。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
核反応では質量数と原子番号(電荷数)がそれぞれ保存されます。α崩壊:\(^A_Z X \to ^{A-4}_{Z-2}Y + ^4_2\text{He}\)、β崩壊:\(^A_Z X \to ^A_{Z+1}Y + ^0_{-1}e + \bar{\nu}\)。入試では「ウラン系列で何回αとβ崩壊するか」や「核反応で放出されるエネルギー」が問われます。
問題設定:\({}^{238}_{\ 92}\text{U}\) がα崩壊を \(x\) 回、β崩壊を \(y\) 回行って \({}^{A}_{Z}\text{X}\) になった。\(x\)、\(y\) を求めよ。
解法の手順:
具体例(ウラン系列の終点 \({}^{206}_{\ 82}\text{Pb}\)):
核子1個当たりの結合エネルギーが最大の鉄から離れた原子核——特に重い原子核——は相対的に不安定である。次節では、そうした不安定な原子核が自然に放射線を出して別の原子核に変わる放射性崩壊の現象を学ぶ。