物理 > 第5編 原子 > 第2章 原子と原子核
前節で学んだように、核子1個当たりの結合エネルギーは鉄付近で最大であり、そこから離れた原子核——特にウランやラジウムのような重い核——は相対的に不安定である。こうした不安定な原子核は、粒子や電磁波(放射線)を放出しながら、より安定な原子核へと自然に変わっていく。この現象と放射線の性質を学ぼう。
天然に存在する原子核の中には、ウラン U やラジウム Ra、炭素 \({}^{14}_{\ 6}\text{C}\) など不安定なものがある。 これらは放射線(radiation)とよばれる粒子の流れや波長の短い電磁波を出しながら、 自然に別の原子核に変わっていく。
放射線は、物質を透過し、物質中の原子から電子をはじきとばして原子をイオンにするはたらき (電離作用、ionisation)をもっている。 また、写真フィルムを感光させたり、蛍光物質を光らせたりする性質をもつ。
放射性同位体から出るおもな放射線には、\(\alpha\) 線、\(\beta\) 線、 \(\gamma\) 線の3種類がある。 これらは磁場の中で異なる進み方をする(\(\alpha\) 線と \(\beta\) 線は磁場で曲げられ、\(\gamma\) 線は直進する)。 中性子の流れである中性子線や X 線も放射線の一種である。
| 種類 | 本体 | 電荷 | 電離作用 | 透過力 | 遮蔽 |
|---|---|---|---|---|---|
| \(\alpha\) 線 | ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) | \(+2e\) | 強 | 弱 | 紙1枚 |
| \(\beta\) 線 | 電子 \(\text{e}^{-}\) | \(-e\) | 中 | 中 | 数 mm のアルミ板 |
| \(\gamma\) 線 | 波長の短い電磁波 | 0 | 弱 | 強 | 厚い鉛板・コンクリート |
| 中性子線 | 中性子 | 0 | 弱 | 強 | 水・パラフィン(水素を含む物質) |
\(\alpha\) 線は電離作用が最も強いが透過力は最も弱く、紙1枚で遮蔽できる。 逆に \(\gamma\) 線は電離作用が弱いが透過力が非常に強く、厚い鉛板が必要になる。 この関係を正しく整理しておこう。
磁場中に放射線を入射すると、正電荷をもつ \(\alpha\) 線と負電荷をもつ \(\beta\) 線は ローレンツ力によって互いに逆向きに曲がる。 \(\beta\) 線のほうが質量が遥かに小さいため、曲がりは大きい。 電荷をもたない \(\gamma\) 線や中性子線は磁場の影響を受けず直進する。
α線(ヘリウム原子核)は紙1枚で止まり、β線(電子)はアルミ箔数mmで止まり、γ線(高エネルギー光子)は鉛の厚い板が必要です。α線は電離作用が最も強く(多くの分子と衝突する)、すぐにエネルギーを失います。γ線は電離作用は弱いですが、透過力が高いため遮蔽が困難です。
放射線の3種類(\(\alpha\) 線・\(\beta\) 線・\(\gamma\) 線)とその性質がわかった。次に、\(\alpha\) 線や \(\beta\) 線が放出されるとき、もとの原子核の質量数と原子番号がどう変化するかを具体的に見ていこう。この「核反応式」の考え方は入試で頻出である。
\(\alpha\) 線の放出は、原子核から陽子2個と中性子2個が \({}^{4}_{2}\text{He}\)(\(\alpha\) 粒子) となって出ていく現象である。この現象を \(\alpha\) 崩壊 という。
α崩壊が「陽子過多」の重い原子核の安定化だとすると、\(\beta\) 崩壊は「中性子過多」の原子核の安定化と言える。 原子核中の中性子が陽子に変化するとき、電子(\(\beta\) 線)と反電子ニュートリノが飛び出す。 この現象を \(\beta\) 崩壊 という。 正確には、中性子 \(\text{n}\) は \(\text{p} + \text{e}^{-} + \bar{\nu}_e\) のように崩壊する (この反応は⑤素粒子で学ぶ「弱い力」によって引き起こされる)。
\(\alpha\) 崩壊や \(\beta\) 崩壊で生じる新しい原子核は、励起状態にあることが多い。 励起状態の原子核がより低いエネルギー状態に移るとき、エネルギーが電磁波(\(\gamma\) 線)として放出される。 \(\gamma\) 線の放出では、原子番号も質量数も変化しない。
\(\alpha\) 崩壊は「質量数が4減少、原子番号が2減少」、 \(\beta\) 崩壊は「質量数は不変、原子番号が1増加」。 崩壊後の原子核を求める問題では、質量数と原子番号の保存則を正しく使うことが重要。
崩壊後の原子核は不安定である場合が多く、安定な原子核になるまで \(\alpha\) 崩壊や \(\beta\) 崩壊を続け、次々に新しい原子核に変わっていく。 原子核が崩壊して生じる一連の原子核を崩壊系列という。 代表的なものに、ウラン系列(\({}^{238}_{92}\text{U}\) から \({}^{206}_{82}\text{Pb}\) まで)がある。
\({}^{238}_{92}\text{U}\) が \(\alpha\) 崩壊を \(x\) 回、\(\beta\) 崩壊を \(y\) 回行って \({}^{206}_{82}\text{Pb}\) になるとする。
質量数の変化:\(238 - 4x = 206\) より \(x = 8\)
原子番号の変化:\(92 - 2 \times 8 + y = 82\) より \(y = 6\)
したがって、\(\alpha\) 崩壊 8 回、\(\beta\) 崩壊 6 回。
\(\alpha\) 崩壊や \(\beta\) 崩壊で原子核が別の原子核に変わることはわかった。では、「いつ崩壊するか」を予測できるだろうか? 1個の原子核の崩壊は完全に確率的だが、多数の原子核を集めると統計的な法則——半減期の法則——が現れる。
原子核が放射性崩壊によって他の原子核に変わるとき、もとの原子核の数が半分になるまでの時間は、 それぞれの原子核で決まっている。この時間を半減期(half-life)\(T\) という。
原子核の崩壊は確率的に起こる現象であり、1個の原子核が半減期の間に崩壊する確率は \(\dfrac{1}{2}\) である。 ここが重要な点で、「崩壊していない原子核」は時間が経っても崩壊しやすくなったり老朽化したりしない——常に同じ確率で崩壊する。 したがって、多数の原子核の集団では、半減期 \(T\) の間にそのとき残っている数の半分が崩壊し、 残った原子核の半数がさらに \(T\) の間に崩壊し……というように指数関数的に減少する。
条件:古い木片の \({}^{14}\text{C}\) の量が現在の生木の \(\frac{1}{4}\) に減少。半減期 \(T = 5730\) 年
\(\frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T}\) に代入:
$$ \frac{1}{4} = \left(\frac{1}{2}\right)^{t/5730} $$\(\frac{1}{4} = \left(\frac{1}{2}\right)^2\) なので \(\frac{t}{5730} = 2\)
$$ t = 2 \times 5730 = 11460 \text{ 年} $$答え:\(t \fallingdotseq 11500\) 年前の木材(半減期 2 回分)
半減期は原子核の種類によって大きく異なる。
| 原子核 | 崩壊の型 | 半減期 |
|---|---|---|
| \({}^{14}_{\ 6}\text{C}\) | \(\beta\) | 5730 年 |
| \({}^{60}_{27}\text{Co}\) | \(\beta\) | 5.271 年 |
| \({}^{131}_{\ 53}\text{I}\) | \(\beta\) | 8.03 日 |
| \({}^{226}_{\ 88}\text{Ra}\) | \(\alpha\) | 1600 年 |
| \({}^{235}_{\ 92}\text{U}\) | \(\alpha\) | \(7.04 \times 10^{8}\) 年 |
| \({}^{238}_{\ 92}\text{U}\) | \(\alpha\) | \(4.47 \times 10^{9}\) 年 |
| \({}^{239}_{\ 94}\text{Pu}\) | \(\alpha\) | \(2.41 \times 10^{4}\) 年 |
炭素の同位体 \({}^{14}_{\ 6}\text{C}\) は不安定であり、\(\beta\) 崩壊によって窒素に変わる。 一方、大気中では宇宙線によって生じた中性子が窒素原子核に衝突して \({}^{14}\text{C}\) が生成され、大気中の CO\(_2\) に含まれる \({}^{14}\text{C}\) の割合は一定に保たれている。
植物が枯れたり伐採されると、\({}^{14}\text{C}\) は取りこまれなくなり、半減期約 5730 年で減少していく。 遺跡などの木材に含まれる \({}^{14}\text{C}\) の残留率を調べることにより、 遺跡がいつごろのものかを知ることができる。
半減期の法則で放射性物質の「減り方」がわかるようになった。実際に放射線を扱う場面——医療、環境モニタリング、原子力——では、放射能の強さや人体への影響を定量的に表す単位が不可欠である。ここでは目的に応じた3つの単位を整理しよう。
放射能の強さを表す単位をベクレル(記号 Bq)という。 1 Bq は、放射性物質が1秒間に1個の原子核が崩壊する放射能の強さである。
$$ 1 \text{ Bq} = 1 \text{ 崩壊/s} $$
これを公式としてまとめると次のようになる。
人体などが受ける放射線の量(吸収線量)を表す単位をグレイ(記号 Gy)という。 1 Gy は物質 1 kg あたり 1 J のエネルギーを吸収する吸収線量である。
放射線の種類やエネルギーなどによる人体への影響の違いを考慮した量を等価線量といい、 単位はシーベルト(記号 Sv)である。 放射線測定などでは、実効線量(単位時間当たりに受ける放射線の量(線量率)を、 マイクロシーベルト毎時(\(\mu\)Sv/h)という単位で表すことが多い。
| 量 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 放射能の強さ | ベクレル(Bq) | 1秒間に崩壊する原子核の数 |
| 吸収線量 | グレイ(Gy) | 物質 1 kg が吸収するエネルギー〔J/kg〕 |
| 等価線量 | シーベルト(Sv) | 放射線の種類を考慮した人体への影響の指標 |
| 実効線量 | シーベルト(Sv) | 臓器ごとの感受性を考慮した全身への影響の指標 |
放射線を検出する装置には、GM 計数管(ガイガー=ミュラー計数管)や 霧箱(cloud chamber)がある。 霧箱では、放射線の電離作用によって過飽和の蒸気が凝結し、荷電粒子の飛跡を観察できる。 \(\alpha\) 線は太くて短い直線的な飛跡、\(\beta\) 線は細くて曲がりくねった飛跡をつくる。
放射線はがんの治療(放射線治療)や、X線 CT・PET 検査などの診断で広く利用されている。 \({}^{60}\text{Co}\) の \(\gamma\) 線はがん細胞を死滅させるのに用いられ、 PET 検査では陽電子(\(\beta^+\))を放出する放射性同位体を体内に注入して、 その分布を画像化する。
日本人の自然放射線による年間被ばく量の平均は約 2.1 mSv である。 宇宙線や大地からの放射線、食品中の放射性物質(\({}^{40}\text{K}\) など)が主な原因である。 また、成田〜ニューヨーク間の航空機往復で約 0.11〜0.16 mSv、 胸の X 線検査で約 0.06 mSv 程度の被ばくがある。
放射性崩壊は微分方程式で記述されます。
$$ \frac{dN}{dt} = -\lambda N $$
この解は指数減衰 \(N(t) = N_0 e^{-\lambda t}\) です。半減期 \(T_{1/2}\) は \(N = N_0/2\) とおいて \(T_{1/2} = \frac{\log 2}{\lambda}\) で求められます。放射能(崩壊率)\(A = \lambda N = A_0 e^{-\lambda t}\) も同じ半減期で減衰します。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
炭素14の半減期(約5730年)を使った年代測定は入試でよく出ます。現在の放射能が初期値の何分の1かを \(A/A_0 = (1/2)^{t/T_{1/2}}\) から求め、経過時間 \(t\) を計算します。「N回の半減期で \((1/2)^N\) に減る」と「任意の時刻で \(e^{-\lambda t}\)」の両方の表現を使い分けることが重要です。
問題設定:半減期 \(T\) の放射性同位体が、最初に \(N_0\) 個あった。時刻 \(t\) 後に残っている原子核の数 \(N\) を求めよ。
解法の手順:
具体例:\({}^{14}\text{C}\) の半減期 \(T = 5730\) 年。遺跡の木材中の \({}^{14}\text{C}\) が現在の \(\dfrac{1}{4}\) に減っていたとすると、 $ \left(\frac{1}{2}\right)^{t/5730} = \frac{1}{4} = \left(\frac{1}{2}\right)^2 $ 指数を比較して \(\dfrac{t}{5730} = 2\)、よって \(t = 2 \times 5730 = 11460\) 年前。
放射性崩壊の微分方程式 \(\dfrac{dN}{dt} = -\lambda N\) の解は
$ N(t) = N_0 e^{-\lambda t} $半減期 \(T\) の定義から \(N(T) = \dfrac{N_0}{2}\) とおくと、
$ \frac{N_0}{2} = N_0 e^{-\lambda T} $両辺を \(N_0\) で割ると
$ e^{-\lambda T} = \frac{1}{2} $両辺の自然対数をとると
$ -\lambda T = \log \frac{1}{2} = -\log 2 $したがって半減期 \(T\) と崩壊定数 \(\lambda\) の関係は
$ T = \frac{\log 2}{\lambda} \fallingdotseq \frac{0.693}{\lambda} $逆に \(\lambda = \dfrac{\log 2}{T}\) であるから、指数減衰の式を半減期で書き直すと \(N = N_0 \left(\dfrac{1}{2}\right)^{t/T}\) となる。
ここまでは原子核が「自然に」崩壊する現象を学んだ。次節では、原子核に粒子をぶつけて人為的に核を変化させる核反応と、そこから生まれる莫大な核エネルギーを見ていく。