物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第1章 運動の表し方
「新幹線とチーターはどちらが速い?」——物の運動を数値で表すとき、最も基本になるのが速さです。
運動の「速い」「遅い」を比べるには、同じ時間内にどれだけ移動したかを調べます。 単位時間あたりの移動距離を速さといいます。
km/h → m/s は ÷ 3.6、m/s → km/h は × 3.6 で変換できます。
例:ピッチャーの球速 150 km/h = 150 ÷ 3.6 ≒ 42 m/s。1秒間に約42m、つまりマウンドからホームベースまで約0.44秒で届きます。
日常会話では「速さ」と「速度」を区別しませんが、物理では明確に異なります。速さ(speed)はスカラー量で大きさのみ、速度(velocity)はベクトル量で大きさと向きをもちます。例えば「時速60kmで北に走っている」は速度の表現、「時速60kmで走っている」は速さの表現です。入試で「速さを求めよ」と「速度を求めよ」で答え方が変わるので注意しましょう。
自動車のスピードメーターが示すのは、ある瞬間の速さ(瞬間の速さ)です。
一方、移動距離を経過時間でわった値は平均の速さです。ふつう「速さ」というときは瞬間の速さを指します。
下の図で、瞬間の速さと平均の速さの違いを確認しよう。加速→等速→減速と変化する車の動きを観察してみましょう。
一定の速さで一直線上を進む運動を等速直線運動という。この最もシンプルな運動を、公式とグラフの両面から理解しよう。
一直線上を一定の速さで進む運動を等速直線運動といいます。
条件:\(v = 72\) km/h \(= \frac{72}{3.6} = 20\) m/s、\(t = 5\) 分 \(= 300\) s
$$ x = vt = 20 \times 300 = 6000 \text{ m} = 6.0 \text{ km} $$答え:\(x = 6.0\) km
x-t 図:傾きが速さ \(v\) を表す。等速直線運動では原点を通る直線になる。
v-t 図:\(t\) 軸に平行な直線。この直線と \(t\) 軸で囲まれた面積が移動距離 \(x\) を表す。
カタツムリ:0.001 m/s、歩く人:1.3 m/s、チーター:30 m/s(110 km/h)、新幹線:89 m/s(320 km/h)、音(空気中):340 m/s、光:3.0 × 10⁸ m/s。 光は1秒で地球を7周半もします。
前のカードで学んだ「速さ」は運動の大きさだけを表す量でした。しかし実際の運動では、「どちらへ向かっているか」も重要です。「東向きに 10 m/s」と「西向きに 10 m/s」は速さは同じでも運動のようすは全く違う。向きの情報を含むのが速度です。
速さと運動の向きをあわせてもつ量を速度といいます。速度は大きさと向きをもつベクトル量です。
一直線上の運動では、正の向きを決めると速度を正・負の符号で区別できます。
例:東向きを正とすると、東向き 10 m/s → \(v = 10\) m/s、西向き 10 m/s → \(v = -10\) m/s
物体の位置がどの向きにどれだけ変化したかを表す量を変位といいます。変位もベクトル量です。
途中で折り返す場合、移動距離(道のり)は経路の合計ですが、変位は始点から終点への直線距離と向きです。
例:原点Oから右に 20m 進み、左に 30m 戻ると → 移動距離 = 50m、変位 = −10m
速さのときと同様に、速度にも「平均」と「瞬間」があります。変位を経過時間で割ると、その区間での平均の速度が得られます。
\(\Delta t\) を限りなく小さくすると、平均の速度はその時刻の瞬間の速度になります。
これは \(x\)-\(t\) 図上でその点の接線の傾きとして表されます。つまり、\(\Delta t\) を限りなく 0 に近づけた極限が瞬間の速度です。
東京−新大阪間(約515km)をのぞみ号は2時間15分で走ります。平均速度は約229km/h。しかし最高速度は285km/hに達し、停車時は0km/hです。平均速度は出発点から到着点までの全体を見た値、瞬間速度はその瞬間の速度計の値——物理では「どちらを問われているか」を常に意識することが大切です。
100m走の世界記録は 9.58 秒(ウサイン・ボルト、2009年)。平均の速さは約 10.4 m/s ですが、レース中盤の瞬間の速さは約 12.3 m/s(44 km/h)に達しました。平均の速さと瞬間の速さが大きく異なる好例です。
速度が「大きさ + 向き」をもつベクトル量であることがわかりました。ベクトルには足し算や引き算が定義できるため、複数の速度を組み合わせたり、動く観測者から見た速度を求めたりできます。「川を渡る船の速度はどう決まる?」——速度の合成と相対速度を学ぼう。
川を流れに沿って進む船を考えます。静水時の船の速度を \(v_1\)、流水の速度を \(v_2\) とすると、岸から見た船の速度(合成速度)は
下の図で、川を渡る船の速度合成を確認しよう。川の流速を変えると合成速度のベクトルがどう変わるか観察できます。
動く物体 A から他の物体 B を見たときの速度を、A に対する B の相対速度といいます。 相対速度は、相手(B)の速度から観測者(A)の速度を引くことで得られます。すれ違う場合は速度の和に、同方向の場合は差になります。
2台の車が同じ速度で走ると、相対速度は \(v_\text{B} - v_\text{A} = 0\) になります。つまり、隣の車は止まっているように見えるのです。 高速道路で並走する車を見ると実感できます。
時速 80 km/h で走る電車どうしがすれ違うと、相対速度は 80 − (−80) = 160 km/h。 止まっている電車を見るときの2倍の速さに感じるのは、相対速度が2倍だからです。
速度は位置の時間微分として定義されます。
$$ v(t) = \frac{dx}{dt} = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta x}{\Delta t} $$
この極限操作が「瞬間の速度」の正確な定義です。x-tグラフの接線の傾きが瞬間の速度であることは、微分の幾何学的な意味そのものです。逆に、速度を時間で積分すると変位が得られます。
$$ x(t) - x_0 = \int_0^t v(t')\,dt' $$
v-tグラフの「面積=変位」は、この積分の幾何学的表現です。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
東向きを正とする。物体が東に 60 m 進み、折り返して西に 20 m 戻った。所要時間は 10 s。
平均の速さ:移動距離 ÷ 時間 = \((60 + 20) / 10 = 8\) m/s
平均の速度:変位 ÷ 時間 = \((60 - 20) / 10 = 4\) m/s(東向き)
ポイント:「速さ」は道のり(スカラー)、「速度」は変位(ベクトル)で計算する。
東向きを正とする。A が \(+20\) m/s、B が \(-30\) m/s で走っている(逆向き)。
A から見た B の相対速度:\(v_\text{AB} = v_\text{B} - v_\text{A} = -30 - 20 = -50\) m/s
すれ違う場合、相対速度の大きさは両者の速さの和になる。
同方向の場合:A が \(+20\) m/s、B が \(+30\) m/s なら \(v_\text{AB} = 30 - 20 = +10\) m/s。B は A から見て前方に離れていく。
v-t 図で \(t\) 軸の上の面積が正の変位、下の面積が負の変位を表す。
変位:上の面積 − 下の面積(符号つきの和)
移動距離:上の面積 + 下の面積(絶対値の和)
折り返し運動では変位と移動距離が異なるので、問題文が「変位」か「移動距離」かを必ず確認する。