物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第1章 運動の表し方

① 速度

🚗 1. 速さ

「新幹線とチーターはどちらが速い?」——物の運動を数値で表すとき、最も基本になるのが速さです。

時速 60 km の車は、1秒間に何 m 進む?
約 10 m
約 17 m
約 60 m
60 km/h ÷ 3.6 ≒ 16.7 m/s。1秒で約17 m も進みます。車間距離が大切な理由がわかりますね。「km/h → m/s は ÷ 3.6」が換算の基本です。

速さとは

運動の「速い」「遅い」を比べるには、同じ時間内にどれだけ移動したかを調べます。 単位時間あたりの移動距離を速さといいます。

$$ \text{速さ} = \frac{\text{移動距離}}{\text{経過時間}} $$
単位:\(\mathsf{m/s}\)(メートル毎秒)または \(\mathsf{km/h}\)
🧮 豆知識:km/h ↔ m/s の換算テクニック

km/h → m/s は ÷ 3.6、m/s → km/h は × 3.6 で変換できます。
例:ピッチャーの球速 150 km/h = 150 ÷ 3.6 ≒ 42 m/s。1秒間に約42m、つまりマウンドからホームベースまで約0.44秒で届きます。

🤔 豆知識:「速さ」と「速度」の違いを間違える人が多い

日常会話では「速さ」と「速度」を区別しませんが、物理では明確に異なります。速さ(speed)はスカラー量で大きさのみ、速度(velocity)はベクトル量で大きさと向きをもちます。例えば「時速60kmで北に走っている」は速度の表現、「時速60kmで走っている」は速さの表現です。入試で「速さを求めよ」と「速度を求めよ」で答え方が変わるので注意しましょう。

瞬間の速さと平均の速さ

自動車のスピードメーターが示すのは、ある瞬間の速さ(瞬間の速さ)です。
一方、移動距離を経過時間でわった値は平均の速さです。ふつう「速さ」というときは瞬間の速さを指します。

下の図で、瞬間の速さと平均の速さの違いを確認しよう。加速→等速→減速と変化する車の動きを観察してみましょう。

瞬間の速さと平均の速さが一致するのはどんな運動?
加速している運動
等速直線運動
どんな運動でも一致する
等速直線運動では速さが常に一定なので、どの区間をとっても平均の速さ=瞬間の速さになります。加速や減速がある運動では両者は異なります。

📏 2. 等速直線運動とグラフ

一定の速さで一直線上を進む運動を等速直線運動という。この最もシンプルな運動を、公式とグラフの両面から理解しよう。

時速 100 km の新幹線が2時間走ったら何 km 進む?
200 km
50 km
100 km
距離 = 速さ × 時間 = 100 × 2 = 200 km。これが等速直線運動の公式 \(x = vt\) そのものです。

等速直線運動

一直線上を一定の速さで進む運動を等速直線運動といいます。

\(x = \)\(vt\)
\(x\)〔m〕:移動距離
\(v\)〔m/s〕:速さ
\(t\)〔s〕:経過時間
🧮 計算例:時速 72 km で 5 分間走ったときの移動距離

条件:\(v = 72\) km/h \(= \frac{72}{3.6} = 20\) m/s、\(t = 5\) 分 \(= 300\) s

$$ x = vt = 20 \times 300 = 6000 \text{ m} = 6.0 \text{ km} $$

答え:\(x = 6.0\) km

x-t 図と v-t 図の読み方

📌 ポイント

x-t 図:傾きが速さ \(v\) を表す。等速直線運動では原点を通る直線になる。
v-t 図:\(t\) 軸に平行な直線。この直線と \(t\) 軸で囲まれた面積が移動距離 \(x\) を表す。

🚀 豆知識:いろいろな速さの例

カタツムリ:0.001 m/s、歩く人:1.3 m/s、チーター:30 m/s(110 km/h)、新幹線:89 m/s(320 km/h)、音(空気中):340 m/s、光:3.0 × 10⁸ m/s。 光は1秒で地球を7周半もします。

v-t グラフの「面積」が表す物理量は?
加速度
速度の変化
移動距離
v-t グラフの曲線と時間軸で囲まれた面積は移動距離(変位)を表します。等速直線運動なら「速さ × 時間 = 距離」の長方形の面積になります。「傾き = 加速度」「面積 = 移動距離」はグラフ読み取りの基本です。

➡️ 3. 速度と変位

前のカードで学んだ「速さ」は運動の大きさだけを表す量でした。しかし実際の運動では、「どちらへ向かっているか」も重要です。「東向きに 10 m/s」と「西向きに 10 m/s」は速さは同じでも運動のようすは全く違う。向きの情報を含むのが速度です。

グラウンドを1周(400 m)走った。変位の大きさは?
400 m
200 m
0 m
変位は「出発点から到着点への直線距離と向き」です。1周して元の場所に戻ると、出発点と到着点が同じなので変位は 0 m。走った道のり(移動距離)400 m とは全く違います。物理では「変位」と「移動距離」を区別することが重要です。

速度(ベクトル量)

速さと運動の向きをあわせてもつ量を速度といいます。速度は大きさと向きをもつベクトル量です。

💡
速度 (velocity):「大きさ」と「向き」で表される。
速さ (speed):「大きさ」のみで表される(= 速度の大きさ)。

一直線上の運動では、正の向きを決めると速度を正・負の符号で区別できます。
例:東向きを正とすると、東向き 10 m/s → \(v = 10\) m/s、西向き 10 m/s → \(v = -10\) m/s

変位

物体の位置がどの向きにどれだけ変化したかを表す量を変位といいます。変位もベクトル量です。

$$ \Delta x = x_2 - x_1 $$
\(\Delta x\)〔m〕:変位
\(x_1\)〔m〕:初めの位置
\(x_2\)〔m〕:あとの位置
⚠️ 要注意!

変位と移動距離(道のり)は違う!

途中で折り返す場合、移動距離(道のり)は経路の合計ですが、変位は始点から終点への直線距離と向きです。
例:原点Oから右に 20m 進み、左に 30m 戻ると → 移動距離 = 50m、変位 = −10m

平均の速度と瞬間の速度

速さのときと同様に、速度にも「平均」と「瞬間」があります。変位を経過時間で割ると、その区間での平均の速度が得られます。

\(\bar{v} = \frac{\Delta x}{\Delta t} = \)\(\frac{x_2 - x_1}{t_2 - t_1}\)
\(\bar{v}\)〔m/s〕:平均の速度
\(\Delta x\)〔m〕:変位
\(\Delta t\)〔s〕:経過時間

\(\Delta t\) を限りなく小さくすると、平均の速度はその時刻の瞬間の速度になります。
これは \(x\)-\(t\) 図上でその点の接線の傾きとして表されます。つまり、\(\Delta t\) を限りなく 0 に近づけた極限が瞬間の速度です。

🚄 豆知識:新幹線の平均速度と瞬間速度

東京−新大阪間(約515km)をのぞみ号は2時間15分で走ります。平均速度は約229km/h。しかし最高速度は285km/hに達し、停車時は0km/hです。平均速度は出発点から到着点までの全体を見た値、瞬間速度はその瞬間の速度計の値——物理では「どちらを問われているか」を常に意識することが大切です。

🏃 豆知識:100m走の瞬間の速さ

100m走の世界記録は 9.58 秒(ウサイン・ボルト、2009年)。平均の速さは約 10.4 m/s ですが、レース中盤の瞬間の速さは約 12.3 m/s(44 km/h)に達しました。平均の速さと瞬間の速さが大きく異なる好例です。

「平均の速さ」>「平均の速度の大きさ」となるのは、どんな運動?
等速直線運動
途中で折り返しがある運動
等速直線運動でも折り返しでも同じ
平均の速さ = 移動距離 ÷ 時間、平均の速度 = 変位 ÷ 時間。途中で折り返すと移動距離 > 変位の大きさになるため、平均の速さが平均の速度の大きさを上回ります。直線運動(折り返しなし)では両者は一致します。

🚢 4. 速度の合成と相対速度

速度が「大きさ + 向き」をもつベクトル量であることがわかりました。ベクトルには足し算や引き算が定義できるため、複数の速度を組み合わせたり、動く観測者から見た速度を求めたりできます。「川を渡る船の速度はどう決まる?」——速度の合成と相対速度を学ぼう。

止まっていると真上から降る雨が、走ると斜めに当たる。その理由は?
走ると風が起きるから
自分の速度と雨の速度が合成されるから
気のせい
走っている人から見ると、雨の速度に「自分の速度の逆向き」が加わって合成されます。真下に落ちる雨に水平成分が加わるので、斜めから降ってくるように見えるのです。これが相対速度の身近な例です。

速度の合成

川を流れに沿って進む船を考えます。静水時の船の速度を \(v_1\)、流水の速度を \(v_2\) とすると、岸から見た船の速度(合成速度)は

$$ v = v_1 + v_2 $$
\(v_1\)〔m/s〕:速度1(例:船の速度)
\(v_2\)〔m/s〕:速度2(例:流水の速度)
\(v\)〔m/s〕:合成速度

下の図で、川を渡る船の速度合成を確認しよう。川の流速を変えると合成速度のベクトルがどう変わるか観察できます。

相対速度

動く物体 A から他の物体 B を見たときの速度を、A に対する B の相対速度といいます。 相対速度は、相手(B)の速度から観測者(A)の速度を引くことで得られます。すれ違う場合は速度のに、同方向の場合はになります。

\(v_\text{AB} = \)\(v_\text{B} - v_\text{A}\)
\(v_\text{A}\)〔m/s〕:物体 A(観測者)の速度
\(v_\text{B}\)〔m/s〕:物体 B(相手)の速度
\(v_\text{AB}\)〔m/s〕:A に対する B の相対速度
❓ 同じ速度で並走すると?

2台の車が同じ速度で走ると、相対速度は \(v_\text{B} - v_\text{A} = 0\) になります。つまり、隣の車は止まっているように見えるのです。 高速道路で並走する車を見ると実感できます。

🚆 豆知識:すれ違う電車が速く感じる理由

時速 80 km/h で走る電車どうしがすれ違うと、相対速度は 80 − (−80) = 160 km/h。 止まっている電車を見るときの2倍の速さに感じるのは、相対速度が2倍だからです。

📐 発展:微積分で見る速度と変位

速度は位置の時間微分として定義されます。

$$ v(t) = \frac{dx}{dt} = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta x}{\Delta t} $$

この極限操作が「瞬間の速度」の正確な定義です。x-tグラフの接線の傾きが瞬間の速度であることは、微分の幾何学的な意味そのものです。逆に、速度を時間で積分すると変位が得られます。

$$ x(t) - x_0 = \int_0^t v(t')\,dt' $$

v-tグラフの「面積=変位」は、この積分の幾何学的表現です。

A(+20 m/s)が B(+30 m/s)を追いかけている。A から見た B の相対速度は?
\(-10\) m/s
\(+10\) m/s
\(+50\) m/s
A に対する B の相対速度は \(v_\text{AB} = v_\text{B} - v_\text{A} = 30 - 20 = +10\) m/s。B の方が速いので、A から見ると B は正の向き(前方)に 10 m/s で離れていくように見えます。

🎯 5. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

速度・変位の典型問題

🧮 ① 典型問題:平均の速さと平均の速度の違い

東向きを正とする。物体が東に 60 m 進み、折り返して西に 20 m 戻った。所要時間は 10 s。

平均の速さ:移動距離 ÷ 時間 = \((60 + 20) / 10 = 8\) m/s

平均の速度:変位 ÷ 時間 = \((60 - 20) / 10 = 4\) m/s(東向き)

ポイント:「速さ」は道のり(スカラー)、「速度」は変位(ベクトル)で計算する。

🧮 ② 典型問題:相対速度の符号に注意

東向きを正とする。A が \(+20\) m/s、B が \(-30\) m/s で走っている(逆向き)。

A から見た B の相対速度:\(v_\text{AB} = v_\text{B} - v_\text{A} = -30 - 20 = -50\) m/s

すれ違う場合、相対速度の大きさは両者の速さのになる。

同方向の場合:A が \(+20\) m/s、B が \(+30\) m/s なら \(v_\text{AB} = 30 - 20 = +10\) m/s。B は A から見て前方に離れていく。

🧮 ③ 典型問題:v-t 図から移動距離と変位を求める

v-t 図で \(t\) 軸の上の面積が正の変位、下の面積が負の変位を表す。

変位:上の面積 − 下の面積(符号つきの和)

移動距離:上の面積 + 下の面積(絶対値の和)

折り返し運動では変位と移動距離が異なるので、問題文が「変位」か「移動距離」かを必ず確認する。

🔑 まとめ