物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第1章 運動の表し方
「10m の高さからボールを落とすと、地面に着くときの速さは何 km/h?」——落下する物体の運動を理解しよう。
物体が重力だけを受け、初速度 0 で鉛直下向きに落下する運動を自由落下といいます。 空気抵抗を無視すると、物体の質量によらず同じ運動をします。
自由落下は、\(v_0 = 0\)、\(a = g\) の等加速度直線運動です。 鉛直下向きに \(y\) 軸をとると、次の式が成り立ちます。
条件:\(v_0 = 0\)(自由落下)、\(g = 9.8\) m/s²、\(t = 2.0\) s
速さ:\(v = gt = 9.8 \times 2.0 = 19.6 \fallingdotseq 20\) m/s
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 = \frac{1}{2} \times 9.8 \times 2.0^2 = 19.6 \fallingdotseq 20 \text{ m} $$答え:\(v \fallingdotseq 20\) m/s、\(y \fallingdotseq 20\) m
自由落下で、等しい時間間隔ごとの落下距離の比は \(1:3:5:7:\cdots\) になります。これは \(x = \frac{1}{2}gt^2\) から、\(t=1,2,3,4\) のときの位置が \(1:4:9:16\) となり、区間ごとの差が \(1:3:5:7\) になるからです。この奇数の列はガリレオが実験で発見した法則でもあります。
重力加速度は地球上の場所によってわずかに異なります。札幌で 9.805 m/s²、那覇で 9.791 m/s²。 赤道に近いほど地球の自転の影響で小さくなり、極に近いほど大きくなります。 月面では約 1.6 m/s²(地球の約 1/6)なので、同じ高さから落としても着地まで約 2.5 倍の時間がかかります。
1971年、アポロ15号の宇宙飛行士デイビッド・スコットは月面で羽とハンマーを同時に落とし、両者が同時に着地することを実演しました。 空気がないため、質量の違いにかかわらず同じ加速度で落下することが目に見える形で示されました。
自由落下は「初速度 0 で落ちる」運動でした。では、初速度をもたせて鉛直方向に投げた場合はどうなるでしょうか。「ボールを真上に投げたとき、最高点で加速度はゼロ?」——初速度がある落下運動を理解しよう。
物体を初速度 \(v_0\) で鉛直下向きに投げる運動を鉛直投げ下ろしといいます。 鉛直下向きに \(y\) 軸をとると、加速度は \(g\)(正)です。 これは等加速度直線運動の公式で初速度 \(v_0\)、加速度 \(a = g\) とおいた場合にほかなりません。
物体を初速度 \(v_0\) で鉛直上向きに投げる運動を鉛直投げ上げといいます。 鉛直上向きに \(y\) 軸をとると、加速度は \(-g\)(重力は常に下向き)です。
最高点では速度 \(v = 0\) になるので、\(v^2 - v_0^2 = -2gy\) に \(v = 0\), \(y = h\) を代入すると
\(0 - v_0^2 = -2gh\) → \(h = \dfrac{v_0^2}{2g}\)
また、最高点到達時刻は \(v = v_0 - gt = 0\) より \(t = \dfrac{v_0}{g}\) です。
鉛直投げ上げで最高点に達した瞬間、速度は 0 ですが、加速度は \(-g\)(≒ −9.8 m/s²)のままです。 もし加速度も 0 になったら、物体はそこで止まったまま動かなくなってしまいます。
自由落下・鉛直投げ下ろし・鉛直投げ上げの公式を学びました。ここでは、これら3種類の落体運動を比較し、共通する構造と鉛直投げ上げの便利な性質を整理します。「投げ上げた物体は、上りと下りで対称的な運動をする」——この性質を使えば計算がぐっと楽になります。
鉛直投げ上げでは、最高点を中心に上昇と下降が左右対称になります。
下の図で、3種の落体運動を同時に比較してみよう。ストロボ写真のように等間隔で記録された位置を観察すると、速さの変化がわかります。
| 自由落下 | 鉛直投げ下ろし | 鉛直投げ上げ | |
|---|---|---|---|
| 正の向き | 鉛直下向き | 鉛直下向き | 鉛直上向き |
| 初速度 | 0 | \(v_0\) | \(v_0\) |
| 加速度 | \(g\) | \(g\) | \(-g\) |
| 速度の式 | \(v = gt\) | \(v = v_0 + gt\) | \(v = v_0 - gt\) |
| 変位の式 | \(y = \frac{1}{2}gt^2\) | \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) | \(y = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2\) |
月面での自由落下
月面の重力加速度は地球の約1/6(約1.6 m/s²)です。地球上で1秒後に約4.9m落下する物体が、月面では約0.8mしか落下しません。同じ高さ10mから自由落下させると、地球では約1.4秒で着地しますが、月面では約3.5秒もかかります。スローモーション映像のような光景になるのです。
から落としたボールの衝突速度
高さ 10m(ビルの4階程度)からボールを自由落下させると、\(v^2 = 2 \times 9.8 \times 10 = 196\) より \(v = 14\) m/s ≒ 50 km/h。 思ったより速いですね。高さ 45m(ビル15階相当)からだと \(v ≒ 30\) m/s ≒ 108 km/h に達します。
実際の落下では空気抵抗がはたらきます。空気抵抗は速さの2乗に比例するため、落下が速くなるほど抵抗が大きくなります。 やがて重力と空気抵抗がつりあい、それ以上加速しなくなります。この一定の速さを終端速度といいます。 スカイダイバーの終端速度は約 50 m/s(180 km/h)です。
空気抵抗が速度に比例する(\(f = bv\))場合の運動方程式は:
$$ m\frac{dv}{dt} = mg - bv $$
この微分方程式を解くと:
$$ v(t) = \frac{mg}{b}\left(1 - e^{-bt/m}\right) $$
\(t \to \infty\) で \(v \to mg/b\)(終端速度)に近づきます。パラシュートは \(b\) を大きくして終端速度を下げる仕組みです。教科書では空気抵抗を無視しますが、微積分を使えばより現実的な運動を記述できます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
入試では「先に落とした物体に、後から投げ下ろした物体が追いつく時刻を求めよ」という問題が頻出です。それぞれの位置を時間の関数として表し、等式を立てるのが基本です。鉛直投げ上げと自由落下の組み合わせも多く、正負の向きの設定に注意が必要です。
高さ \(h\) の地点から物体Aを自由落下させ、\(t_0\) 秒後に地面から物体Bを初速 \(v_0\) で鉛直に投げ上げる。2物体が出会う時刻を求める。
【Aの位置】下向きを正、落下開始から \(t\) 秒後のAの落下距離は:
$ y_A = \frac{1}{2}gt^2 $
【Bの位置】Bは \(t_0\) 秒後に地面から投げ上げるので、Aの落下開始から \(t\) 秒後(\(t \gt t_0\))のBの地面からの高さは:
$ y_B = v_0(t - t_0) - \frac{1}{2}g(t-t_0)^2 $
【出会う条件】Aが高さ \(h\) から \(y_A\) だけ落下し、Bが地面から \(y_B\) だけ上昇して出会うので:
$ y_A + y_B = h $
この等式に上の2式を代入して \(t\) について解く。
初速 \(v_0\) で投げ上げた物体の最高点は \(v = 0\) とおいて解く。
【最高点到達時刻】速度の式 \(v = v_0 - gt\) に \(v = 0\) を代入すると:
$ v_0 - gt = 0 \quad \therefore\ t = \frac{v_0}{g} $
【最高点の高さ】\(v^2 - v_0^2 = -2gy\) に \(v = 0\), \(y = h\) を代入すると:
$ 0 - v_0^2 = -2gh \quad \therefore\ h = \frac{v_0^2}{2g} $
【対称性】元の高さに戻る時刻は上昇時間の2倍で \(t = \frac{2v_0}{g}\)。戻ったときの速さは初速と同じ \(v_0\)(向きは逆)。