物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第1章 運動の表し方

③ 落体の運動

🍎 1. 自由落下

「10m の高さからボールを落とすと、地面に着くときの速さは何 km/h?」——落下する物体の運動を理解しよう。

10階建てビル(約 30 m)から物を落とすと、着地まで何秒?
約 1 秒
約 2.5 秒
約 6 秒
\(y = \frac{1}{2}gt^2\) より \(t = \sqrt{2y/g} = \sqrt{2 \times 30 / 9.8} \fallingdotseq 2.5\) 秒。30 m もの高さなのにたった 2.5 秒で着地するのは驚きです。自由落下では距離が時間の2乗に比例するため、落下が進むほどどんどん速くなります。

自由落下とは

物体が重力だけを受け、初速度 0 で鉛直下向きに落下する運動を自由落下といいます。 空気抵抗を無視すると、物体の質量によらず同じ運動をします

💡
重力加速度 \(g\):自由落下の加速度。地球上では約 9.8 m/s²。 鉛直下向きで一定。

自由落下は、\(v_0 = 0\)、\(a = g\) の等加速度直線運動です。 鉛直下向きに \(y\) 軸をとると、次の式が成り立ちます。

\(v = gt\)
\(y = \frac{1}{2}gt^2\)
\(v^2 = 2gy\)
\(v\)〔m/s〕:速度
\(y\)〔m〕:落下距離
\(t\)〔s〕:経過時間
\(g\) ≒ 9.8 m/s²:重力加速度
🧮 計算例:ビルの屋上から物体を落としたとき 2.0 秒後の速さと落下距離

条件:\(v_0 = 0\)(自由落下)、\(g = 9.8\) m/s²、\(t = 2.0\) s

速さ:\(v = gt = 9.8 \times 2.0 = 19.6 \fallingdotseq 20\) m/s

$$ y = \frac{1}{2}gt^2 = \frac{1}{2} \times 9.8 \times 2.0^2 = 19.6 \fallingdotseq 20 \text{ m} $$

答え:\(v \fallingdotseq 20\) m/s、\(y \fallingdotseq 20\) m

role="img" aria-label="シミュレーション:自由落下(ストロボ写真風の表示と v-t 図・y-t 図)">
🧮 豆知識:自由落下の「1:3:5:7の法則」

自由落下で、等しい時間間隔ごとの落下距離の比は \(1:3:5:7:\cdots\) になります。これは \(x = \frac{1}{2}gt^2\) から、\(t=1,2,3,4\) のときの位置が \(1:4:9:16\) となり、区間ごとの差が \(1:3:5:7\) になるからです。この奇数の列はガリレオが実験で発見した法則でもあります。

🌏 豆知識:重力加速度は場所で変わる

重力加速度は地球上の場所によってわずかに異なります。札幌で 9.805 m/s²、那覇で 9.791 m/s²。 赤道に近いほど地球の自転の影響で小さくなり、極に近いほど大きくなります。 月面では約 1.6 m/s²(地球の約 1/6)なので、同じ高さから落としても着地まで約 2.5 倍の時間がかかります。

🪶 豆知識:アポロ15号の羽とハンマーの実験

1971年、アポロ15号の宇宙飛行士デイビッド・スコットは月面で羽とハンマーを同時に落とし、両者が同時に着地することを実演しました。 空気がないため、質量の違いにかかわらず同じ加速度で落下することが目に見える形で示されました。

鉄球とゴムボールを同じ高さから同時に落とす(空気抵抗なし)。先に着くのは?
鉄球
同時に着く
ゴムボール
空気抵抗がなければ、質量に関係なくすべての物体は同じ重力加速度 \(g\) で落下します。鉄球もゴムボールも同時に着地します。「重いものほど速く落ちる」という直感は、空気抵抗がある場合の話です。

⬆️ 2. 鉛直投射

自由落下は「初速度 0 で落ちる」運動でした。では、初速度をもたせて鉛直方向に投げた場合はどうなるでしょうか。「ボールを真上に投げたとき、最高点で加速度はゼロ?」——初速度がある落下運動を理解しよう。

真上に投げ上げたボールが上昇中、ボールにはたらく力は?
上向きの力のみ
下向きの重力のみ
上向きと下向きの両方
ボールが上向きに動いていても、はたらく力は下向きの重力だけです。「上に動いているから上向きの力がある」と思いがちですが、投げた手を離れた瞬間から上向きの力はなくなり、重力だけで減速しながら上昇しています。

鉛直投げ下ろし

物体を初速度 \(v_0\) で鉛直下向きに投げる運動を鉛直投げ下ろしといいます。 鉛直下向きに \(y\) 軸をとると、加速度は \(g\)(正)です。 これは等加速度直線運動の公式で初速度 \(v_0\)、加速度 \(a = g\) とおいた場合にほかなりません。

\(v = v_0 + gt\)
\(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\)
\(v^2 - v_0^2 = 2gy\)
\(v_0\)〔m/s〕:初速度(下向き)
\(g\)〔m/s²〕:重力加速度
鉛直下向きを正とする

鉛直投げ上げ

物体を初速度 \(v_0\) で鉛直上向きに投げる運動を鉛直投げ上げといいます。 鉛直上向きに \(y\) 軸をとると、加速度は \(-g\)(重力は常に下向き)です。

\(v = v_0 - gt\)
\(y = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2\)
\(v^2 - v_0^2 = -2gy\)
\(v_0\)〔m/s〕:初速度(上向き)
加速度 \(-g\)(鉛直上向きを正)
最高点の高さ:\(h = \dfrac{v_0^2}{2g}\)
📐 公式の導出:最高点の高さ \(h = v_0^2 / 2g\)

最高点では速度 \(v = 0\) になるので、\(v^2 - v_0^2 = -2gy\) に \(v = 0\), \(y = h\) を代入すると

\(0 - v_0^2 = -2gh\) → \(h = \dfrac{v_0^2}{2g}\)

また、最高点到達時刻は \(v = v_0 - gt = 0\) より \(t = \dfrac{v_0}{g}\) です。

⚠️ 要注意!

最高点での加速度は 0 ではない!

鉛直投げ上げで最高点に達した瞬間、速度は 0 ですが、加速度は \(-g\)(≒ −9.8 m/s²)のままです。 もし加速度も 0 になったら、物体はそこで止まったまま動かなくなってしまいます。

初速度 \(v_0\) で鉛直に投げ上げたとき、最高点の高さ \(h\) は?
\(\dfrac{v_0}{g}\)
\(\dfrac{v_0^2}{2g}\)
\(\dfrac{v_0 g}{2}\)
最高点では \(v = 0\) なので、\(v^2 - v_0^2 = -2gh\) に代入すると \(-v_0^2 = -2gh\)、よって \(h = \dfrac{v_0^2}{2g}\) です。初速度の2乗に比例するため、初速を2倍にすると最高点は4倍になります。

🔄 3. 鉛直投げ上げの対称性と落体運動の比較

自由落下・鉛直投げ下ろし・鉛直投げ上げの公式を学びました。ここでは、これら3種類の落体運動を比較し、共通する構造と鉛直投げ上げの便利な性質を整理します。「投げ上げた物体は、上りと下りで対称的な運動をする」——この性質を使えば計算がぐっと楽になります。

投げ上げた球と、同じ最高点からの自由落下の球。同じ高さを通過するときの速さは?
同じ
投げ上げの方が速い
自由落下の方が速い
投げ上げた球が最高点に達した瞬間は速度 0 で、そこから自由落下と同じ運動になります。したがって同じ高さを通過するときの速さは両者同じです。エネルギー保存の観点からも、同じ高さなら同じ運動エネルギー(=同じ速さ)になります。

投げ上げの対称性

鉛直投げ上げでは、最高点を中心に上昇と下降が左右対称になります。

下の図で、3種の落体運動を同時に比較してみよう。ストロボ写真のように等間隔で記録された位置を観察すると、速さの変化がわかります。

3種の落体運動の比較

自由落下 鉛直投げ下ろし 鉛直投げ上げ
正の向き 鉛直下向き 鉛直下向き 鉛直上向き
初速度 0 \(v_0\) \(v_0\)
加速度 \(g\) \(g\) \(-g\)
速度の式 \(v = gt\) \(v = v_0 + gt\) \(v = v_0 - gt\)
変位の式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) \(y = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2\)
🌏 豆知識:月面での自由落下 と から落としたボールの衝突速度

月面での自由落下

月面の重力加速度は地球の約1/6(約1.6 m/s²)です。地球上で1秒後に約4.9m落下する物体が、月面では約0.8mしか落下しません。同じ高さ10mから自由落下させると、地球では約1.4秒で着地しますが、月面では約3.5秒もかかります。スローモーション映像のような光景になるのです。

から落としたボールの衝突速度

高さ 10m(ビルの4階程度)からボールを自由落下させると、\(v^2 = 2 \times 9.8 \times 10 = 196\) より \(v = 14\) m/s ≒ 50 km/h。 思ったより速いですね。高さ 45m(ビル15階相当)からだと \(v ≒ 30\) m/s ≒ 108 km/h に達します。

🔬 発展:空気抵抗がある場合

実際の落下では空気抵抗がはたらきます。空気抵抗は速さの2乗に比例するため、落下が速くなるほど抵抗が大きくなります。 やがて重力と空気抵抗がつりあい、それ以上加速しなくなります。この一定の速さを終端速度といいます。 スカイダイバーの終端速度は約 50 m/s(180 km/h)です。

📐 発展:微積分で見る空気抵抗のある落下

空気抵抗が速度に比例する(\(f = bv\))場合の運動方程式は:

$$ m\frac{dv}{dt} = mg - bv $$

この微分方程式を解くと:

$$ v(t) = \frac{mg}{b}\left(1 - e^{-bt/m}\right) $$

\(t \to \infty\) で \(v \to mg/b\)(終端速度)に近づきます。パラシュートは \(b\) を大きくして終端速度を下げる仕組みです。教科書では空気抵抗を無視しますが、微積分を使えばより現実的な運動を記述できます。

初速度 \(v_0\) で投げ上げた物体が元の高さに戻るまでの時間は?
\(\dfrac{v_0}{g}\)
\(\dfrac{v_0}{2g}\)
\(\dfrac{2v_0}{g}\)
最高点到達時間は \(v = v_0 - gt = 0\) より \(t_1 = v_0/g\)。対称性から下降時間も同じ \(t_1\) なので、戻るまでの合計時間は \(2t_1 = \dfrac{2v_0}{g}\) です。\(\dfrac{v_0}{g}\) は最高点に達するまでの時間であり、往復時間はその2倍です。

🎯 4. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🧮 ① 入試で頻出の「2物体の落下と衝突」

入試では「先に落とした物体に、後から投げ下ろした物体が追いつく時刻を求めよ」という問題が頻出です。それぞれの位置を時間の関数として表し、等式を立てるのが基本です。鉛直投げ上げと自由落下の組み合わせも多く、正負の向きの設定に注意が必要です。

🧮 ② 典型問題:2物体が出会う時刻

高さ \(h\) の地点から物体Aを自由落下させ、\(t_0\) 秒後に地面から物体Bを初速 \(v_0\) で鉛直に投げ上げる。2物体が出会う時刻を求める。

【Aの位置】下向きを正、落下開始から \(t\) 秒後のAの落下距離は:

$ y_A = \frac{1}{2}gt^2 $

【Bの位置】Bは \(t_0\) 秒後に地面から投げ上げるので、Aの落下開始から \(t\) 秒後(\(t \gt t_0\))のBの地面からの高さは:

$ y_B = v_0(t - t_0) - \frac{1}{2}g(t-t_0)^2 $

【出会う条件】Aが高さ \(h\) から \(y_A\) だけ落下し、Bが地面から \(y_B\) だけ上昇して出会うので:

$ y_A + y_B = h $

この等式に上の2式を代入して \(t\) について解く。

🧮 ③ 典型問題:鉛直投げ上げの最高点到達時刻

初速 \(v_0\) で投げ上げた物体の最高点は \(v = 0\) とおいて解く。

【最高点到達時刻】速度の式 \(v = v_0 - gt\) に \(v = 0\) を代入すると:

$ v_0 - gt = 0 \quad \therefore\ t = \frac{v_0}{g} $

【最高点の高さ】\(v^2 - v_0^2 = -2gy\) に \(v = 0\), \(y = h\) を代入すると:

$ 0 - v_0^2 = -2gh \quad \therefore\ h = \frac{v_0^2}{2g} $

【対称性】元の高さに戻る時刻は上昇時間の2倍で \(t = \frac{2v_0}{g}\)。戻ったときの速さは初速と同じ \(v_0\)(向きは逆)。

🔑 まとめ