物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第2章 運動の法則
「2つの力を1つにまとめる? 1つの力を2つに分ける?」——ベクトルの合成と分解は力学の基本操作です。
1つの物体に複数の力がはたらくとき、それらと同じはたらきをする1つの力を求めることを力の合成といい、合成された力を合力といいます。
条件:\(F_1 = 3.0\) N、\(F_2 = 4.0\) N、2力のなす角 \(90°\)
$$ F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2} = \sqrt{3.0^2 + 4.0^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5.0 \text{ N} $$答え:\(F = 5.0\) N(3:4:5 の直角三角形)
合成とは逆に、1つの力をそれと同じはたらきをする複数の力の組に分けることを力の分解といい、分けられた力を分力といいます。 分解は垂直な2方向に分解すると便利なことが多いです。
下の図で、力の分解を体験しよう。分解角度を変えると分力の大きさがどう変わるか観察できます。
力 \(\vec{F}\) を互いに垂直な \(x\) 軸、\(y\) 軸方向に分解したとき、分力の大きさに正負の符号をつけた値 \(F_x\), \(F_y\) を \(\vec{F}\) の\(x\) 成分、\(y\) 成分といいます。
入試で頻出の角度は30°-60°-90°(辺の比 \(1:\sqrt{3}:2\))と45°-45°-90°(辺の比 \(1:1:\sqrt{2}\))です。斜面の角度がこれらのとき、力の分解は三角比の表を見なくても暗算で計算できます。例えば、角度30°の斜面上の物体にはたらく重力の斜面方向成分は \(mg\sin30° = \frac{1}{2}mg\)、垂直方向成分は \(mg\cos30° = \frac{\sqrt{3}}{2}mg\) です。
30°, 45°, 60° の場合は直角三角形の辺の比(1:2:√3 や 1:1:√2)を使えば、三角関数の値を覚えなくても成分を求められます。 例: 20N の力が 30° 方向 → \(F_x = 20 \times \frac{\sqrt{3}}{2} ≒ 17\) N, \(F_y = 20 \times \frac{1}{2} = 10\) N
力の合成・分解ができるようになったので、次は「合力がゼロ」になる場合を考えます。物体が静止し続ける条件を理解することは、建築や構造物の設計にも直結する重要なテーマです。「綱引きで勝負がつかないのはなぜ?」——力の合力がゼロのとき、力はつりあっている。
1つの物体にいくつかの力がはたらき、それらの合力が \(\vec{0}\) であるとき、力はつりあっているといいます。
2力がつりあう条件は、同じ作用線上にあり、大きさが等しく反対向きであることです。
3つの力がつりあうとき、任意の2力の合力は残りの1力とつりあいます。
| 力のつりあい | 作用反作用 | |
|---|---|---|
| 力がはたらく物体 | 同じ物体(1つ) | 異なる物体(2つ) |
| 力の向き | 合力がゼロ | 大きさ等しく逆向き |
| 力の種類 | 同種でも異種でもよい | 同じ種類の力 |
| 例 | 机上の本:重力と垂直抗力 | 本→机の力と机→本の力 |
力を水平方向と鉛直方向の成分に分解し、それぞれの方向で「成分の和 = 0」の式を立てる。 これが力のつりあいの基本的な解法です。
吊り橋のケーブルや、クレーンのワイヤーは力のつりあいの実例です。2本のワイヤーで物体をつるすとき、ワイヤーの角度が大きい(水平に近い)ほど張力は大きくなります。ほぼ水平なロープに重りをつけると、わずかな重さでも巨大な張力が生じます。これが電線が真っ直ぐには張れない理由です。
建物の構造は、すべての部材にはたらく力がつりあうように設計されています。柱には上からの荷重(圧縮力)、梁には曲げ力がはたらき、それぞれの部材で力がつりあっているから建物は崩れません。建築構造力学は力のつりあいの応用そのものです。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
3力がつりあうとき、任意の2力の合力は残りの1力と大きさが等しく逆向きです。また、3力のベクトルは閉じた三角形を作ります(ラミの定理:各力は対角の正弦に比例)。入試では斜面上の物体や糸でつるされた物体で、三角比を使って力の大きさを求める問題が定番です。
質量 \(m\) の物体を、天井から角度 \(\alpha\)、\(\beta\) の2本の糸でつるす。
水平方向:\(T_1\sin\alpha = T_2\sin\beta\)
鉛直方向:\(T_1\cos\alpha + T_2\cos\beta = mg\)
この連立方程式を解いて \(T_1\)、\(T_2\) を求める。\(\alpha = \beta\) の対称な場合は \(T_1 = T_2 = \dfrac{mg}{2\cos\alpha}\) となる。
角度 \(\theta\) の斜面上で静止する質量 \(m\) の物体。
斜面方向:静止摩擦力 \(f = mg\sin\theta\)(斜面上向き)
垂直方向:垂直抗力 \(N = mg\cos\theta\)
滑り出す条件:\(mg\sin\theta \gt \mu_s mg\cos\theta\) → \(\tan\theta \gt \mu_s\)
つまり、滑り始める角度は \(\tan\theta = \mu_s\) を満たす \(\theta\) で、質量に依存しない。