物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第2章 運動の法則

② 力のつりあい

➕ 1. 力の合成と分解

「2つの力を1つにまとめる? 1つの力を2つに分ける?」——ベクトルの合成と分解は力学の基本操作です。

綱引きで左に 100 N、右に 100 N で引き合ったら、綱はどうなる?
右に動く
動かない(つりあう)
ちぎれる
大きさが等しく逆向きの2力の合力は 0 なので、綱は動きません。これが「力のつりあい」の最もシンプルな例です。このカードでは力の合成・分解を学びます。

力の合成

1つの物体に複数の力がはたらくとき、それらと同じはたらきをする1つの力を求めることを力の合成といい、合成された力を合力といいます。

$$ \vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2} $$
2力が平行でないとき:平行四辺形の対角線が合力
同じ向き:\(F = F_1 + F_2\)、逆向き:\(F = |F_1 - F_2|\)
🧮 計算例:直角に交わる 3.0 N と 4.0 N の力の合力

条件:\(F_1 = 3.0\) N、\(F_2 = 4.0\) N、2力のなす角 \(90°\)

$$ F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2} = \sqrt{3.0^2 + 4.0^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5.0 \text{ N} $$

答え:\(F = 5.0\) N(3:4:5 の直角三角形)

力の分解

合成とは逆に、1つの力をそれと同じはたらきをする複数の力の組に分けることを力の分解といい、分けられた力を分力といいます。 分解は垂直な2方向に分解すると便利なことが多いです。

下の図で、力の分解を体験しよう。分解角度を変えると分力の大きさがどう変わるか観察できます。

力の成分

力 \(\vec{F}\) を互いに垂直な \(x\) 軸、\(y\) 軸方向に分解したとき、分力の大きさに正負の符号をつけた値 \(F_x\), \(F_y\) を \(\vec{F}\) の\(x\) 成分\(y\) 成分といいます。

\(F_x = F\cos\theta\)、\(F_y = F\sin\theta\)
\(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\)
\(\theta\):力が \(x\) 軸の正の向きとなす角
🧮 豆知識:力の分解で「直角三角形の辺の比」を使い倒す

入試で頻出の角度は30°-60°-90°(辺の比 \(1:\sqrt{3}:2\))と45°-45°-90°(辺の比 \(1:1:\sqrt{2}\))です。斜面の角度がこれらのとき、力の分解は三角比の表を見なくても暗算で計算できます。例えば、角度30°の斜面上の物体にはたらく重力の斜面方向成分は \(mg\sin30° = \frac{1}{2}mg\)、垂直方向成分は \(mg\cos30° = \frac{\sqrt{3}}{2}mg\) です。

🧮 豆知識:三角比と力の成分

30°, 45°, 60° の場合は直角三角形の辺の比(1:2:√3 や 1:1:√2)を使えば、三角関数の値を覚えなくても成分を求められます。 例: 20N の力が 30° 方向 → \(F_x = 20 \times \frac{\sqrt{3}}{2} ≒ 17\) N, \(F_y = 20 \times \frac{1}{2} = 10\) N

同じ向きにはたらく 3 N と 5 N の合力と、逆向きにはたらく場合の合力を正しく示しているのは?
同じ向き:15 N、逆向き:8 N
同じ向き:8 N、逆向き:2 N
同じ向き:2 N、逆向き:8 N
同じ向きの合力は 3 + 5 = 8 N、逆向きの合力は |5 - 3| = 2 N です。角度がある場合は平行四辺形の法則を使います。

⚖️ 2. 力のつりあい

力の合成・分解ができるようになったので、次は「合力がゼロ」になる場合を考えます。物体が静止し続ける条件を理解することは、建築や構造物の設計にも直結する重要なテーマです。「綱引きで勝負がつかないのはなぜ?」——力の合力がゼロのとき、力はつりあっている。

机の上に本が静止している。本にはたらく重力と垂直抗力の関係は?
大きさが等しく逆向き(つりあっている)
大きさが等しく同じ向き
垂直抗力の方が大きい
本が静止しているということは、下向きの重力と上向きの垂直抗力が大きさ等しく逆向きで、合力が 0(つりあい状態)です。もしつりあっていなければ、本は加速してしまいます。

2力のつりあい

1つの物体にいくつかの力がはたらき、それらの合力が \(\vec{0}\) であるとき力はつりあっているといいます。
2力がつりあう条件は、同じ作用線上にあり、大きさが等しく反対向きであることです。

\(\vec{F_1} + \vec{F_2} = \)\(\vec{0}\)
つまり \(\vec{F_1} = -\vec{F_2}\)(大きさ等しく逆向き)

3力のつりあい

3つの力がつりあうとき、任意の2力の合力は残りの1力とつりあいます

\(\vec{F_1} + \vec{F_2} + \vec{F_3} = \)\(\vec{0}\)
水平方向:\(F_{1x} + F_{2x} + F_{3x} = 0\)
鉛直方向:\(F_{1y} + F_{2y} + F_{3y} = 0\)
力のつりあい作用反作用
力がはたらく物体同じ物体(1つ)異なる物体(2つ)
力の向き合力がゼロ大きさ等しく逆向き
力の種類同種でも異種でもよい同じ種類の力
机上の本:重力と垂直抗力本→机の力と机→本の力
📌 ポイント

つりあいの問題の解き方

力を水平方向と鉛直方向の成分に分解し、それぞれの方向で「成分の和 = 0」の式を立てる。 これが力のつりあいの基本的な解法です。

🌉 豆知識:橋やクレーンと力のつりあい

吊り橋のケーブルや、クレーンのワイヤーは力のつりあいの実例です。2本のワイヤーで物体をつるすとき、ワイヤーの角度が大きい(水平に近い)ほど張力は大きくなります。ほぼ水平なロープに重りをつけると、わずかな重さでも巨大な張力が生じます。これが電線が真っ直ぐには張れない理由です。

🏗️ 豆知識:建築と力のつりあい

建物の構造は、すべての部材にはたらく力がつりあうように設計されています。柱には上からの荷重(圧縮力)、梁には曲げ力がはたらき、それぞれの部材で力がつりあっているから建物は崩れません。建築構造力学は力のつりあいの応用そのものです。

「力のつりあい」と「作用反作用」の最大の違いは?
力の大きさが違う
つりあいは1つの物体、作用反作用は2つの物体にはたらく
つりあいは同じ向き、作用反作用は逆向き
力のつりあいは「1つの物体にはたらく複数の力の合力が 0」、作用反作用は「2つの物体間で大きさ等しく逆向きの力が対で生じる」ことです。これを混同すると入試で失点するので注意しましょう。

🎯 3. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🎯 ① 頻出テーマ:3力のつりあい

3力がつりあうとき、任意の2力の合力は残りの1力と大きさが等しく逆向きです。また、3力のベクトルは閉じた三角形を作ります(ラミの定理:各力は対角の正弦に比例)。入試では斜面上の物体や糸でつるされた物体で、三角比を使って力の大きさを求める問題が定番です。

🧮 ② 典型問題:2本の糸でつるされた物体

質量 \(m\) の物体を、天井から角度 \(\alpha\)、\(\beta\) の2本の糸でつるす。

水平方向:\(T_1\sin\alpha = T_2\sin\beta\)

鉛直方向:\(T_1\cos\alpha + T_2\cos\beta = mg\)

この連立方程式を解いて \(T_1\)、\(T_2\) を求める。\(\alpha = \beta\) の対称な場合は \(T_1 = T_2 = \dfrac{mg}{2\cos\alpha}\) となる。

🧮 ③ 典型問題:斜面上の物体のつりあい

角度 \(\theta\) の斜面上で静止する質量 \(m\) の物体。

斜面方向:静止摩擦力 \(f = mg\sin\theta\)(斜面上向き)

垂直方向:垂直抗力 \(N = mg\cos\theta\)

滑り出す条件:\(mg\sin\theta \gt \mu_s mg\cos\theta\) → \(\tan\theta \gt \mu_s\)

つまり、滑り始める角度は \(\tan\theta = \mu_s\) を満たす \(\theta\) で、質量に依存しない。

🔑 まとめ