物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第2章 運動の法則
「カーリングのストーンはなぜ長く滑り続ける?」——力がはたらかなければ、物体は運動を変えない。
机の上で消しゴムをすべらせるとすぐ止まりますが、氷上のカーリングストーンは長く滑ります。 摩擦が小さいほど速度が変わりにくい。もし摩擦も空気抵抗もなければ、物体は等速直線運動を続けると考えられます。
一般に、物体は静止の場合も含めて速度を保とうとする性質をもっています。これを慣性といいます。
電車が急停止すると、乗客は前のめりになります。これは体が慣性によって元の速度を保とうとするためです。逆に急発車では後ろに倒れそうになります。シートベルトは、急ブレーキ時に体が前に飛び出すのを防ぐための安全装置です。
物体がすべり続けるとき、「最初に加えた力が残っている」と考えてはいけません。慣性によって物体はすべり続けるのです。
慣性の法則は「力がはたらかなければ速度は変わらない」ことを教えてくれました。では、力がはたらいたとき速度はどう変わるのでしょうか。「力が大きいほど加速し、質量が大きいほど加速しにくい」——力・質量・加速度の定量的な関係を理解しよう。
台車を一定の力で引き続けると、台車は等加速度直線運動をします。 引く力を2倍、3倍にすると、加速度も2倍、3倍になります。つまり、加速度は力に比例します(質量一定のとき)。
力を一定にして台車の質量を2倍、3倍にすると、加速度は 1/2、1/3 になります。つまり、加速度は質量に反比例します。
条件:\(m = 2.0\) kg、\(F = 6.0\) N
運動方程式 \(F = ma\) より
$$ a = \frac{F}{m} = \frac{6.0}{2.0} = 3.0 \text{ m/s}^2 $$答え:\(a = 3.0\) m/s²
以上をまとめると、物体にいくつかの力がはたらくとき、合力の向きに加速度が生じ、加速度の大きさは合力に比例し質量に反比例します。
| 法則 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| 第一法則 | 慣性の法則 | 合力 = 0 → 静止 or 等速直線運動 |
| 第二法則 | 運動の法則 | ma = F(加速度は合力に比例、質量に反比例) |
| 第三法則 | 作用反作用の法則 | 力は必ず対で生じ、大きさ等しく逆向き |
作用反作用の力は「つりあわない」
作用・反作用の2力は大きさが等しく逆向きですが、つりあいではありません。つりあいは「1つの物体にはたらく2力」が等しく逆向きのこと。作用・反作用は「異なる物体に」はたらきます。人が壁を押す力と壁が人を押す力は作用反作用ですが、人が前に進めるのはこの反作用のおかげです。
ロケットが宇宙で進めるのは、噴射ガスを後方に押し出す(作用)ことで、ガスからロケットが前方への力を受ける(反作用)からです。「宇宙には押す壁がないのに進めるのはなぜ?」という疑問は、作用反作用が物体間の相互作用であることを理解すれば解けます。噴射ガスの質量×速度の変化=ロケットの運動量変化です。
運動方程式を立てる手順は①物体を1つ選ぶ、②力をすべて描く(自由体図)、③加速度の向きを正に決める、④正の向きの力を正、逆を負として \(ma = F_1 - F_2 + \cdots\) と書く——です。複数の物体がある場合は、各物体で別々に立式するか、一体として扱えるかを判断します。
第一法則(慣性の法則):力がつりあえば速度は変わらない。
第二法則(運動の法則):ma = F。
第三法則(作用反作用の法則):力は必ず対で生じ、大きさが等しく向きが逆。
ニュートンは1687年の著書『プリンキピア』でこれらを体系的にまとめました。
運動方程式 \(ma = F\) に登場する「質量 \(m\)」と、日常会話でいう「体重(重さ)」は同じものでしょうか。実は物理ではこの2つを明確に区別します。「月面で体重は1/6、でも質量は変わらない」——重さと質量は別の物理量です。
下の図で、重さと質量の違いを体験しよう。地球と月面でばねばかりと天秤の示す値を比べてみましょう。
運動方程式 \(ma = F\) より、質量 \(m\) の物体にはたらく重力(重さ)は \(W = mg\) と求められます。 重力加速度 \(g\) は場所によって異なるため、重さは場所によって変わる量です。重さの単位はN(ニュートン)です。
運動方程式から、質量 \(m\) が大きいほど加速しにくい(動かしにくい)ことがわかります。 つまり質量は慣性の大きさを表す量であり、場所によらず一定の物体に固有の量です。
日常生活で「体重 60 kg」というとき、正確には質量が 60 kg。地球上での重さ(重力)は \(60 \times 9.8 = 588\) N ≒ 588 N です。 月面(\(g ≒ 1.6\) m/s²)では重さは約 96 N になりますが、質量は 60 kg のままです。
| 質量 m | 重さ(重力)W | |
|---|---|---|
| 定義 | 慣性の大きさ | 重力の大きさ W = mg |
| 単位 | kg | N |
| 場所による変化 | 変わらない | 場所によって変わる |
| 月面では | 地球と同じ | 地球の約 1/6 |
| 測定器具 | 上皿てんびん | ばねばかり |
宇宙ステーション内で宇宙飛行士が浮いているのは、重力がないからではなく「自由落下中」だからです。 重さ(体重計の値)は 0 ですが、質量は変わりません。宇宙飛行士を押すと、質量に応じた加速度で動きます(ma = F)。
ニュートンの運動の第2法則は、本来は運動量の時間変化率として表されます。
$$ \vec{F} = \frac{d\vec{p}}{dt} = \frac{d(m\vec{v})}{dt} $$
質量が一定なら \(\vec{F} = m\frac{d\vec{v}}{dt} = m\vec{a}\) となり、おなじみの \(F = ma\) になります。しかし、ロケットのように質量が変化する場合は \(\frac{d(mv)}{dt}\) の形でなければ正しく記述できません。
この式は「力は運動量を時間で微分したもの」という意味です。逆に力を時間で積分すると力積 \(\int F\,dt = \Delta p\)(運動量の変化)が得られます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
入試では2つ以上の物体が糸や接触で連結された系を扱う問題が頻出です。解法の基本は「各物体について運動方程式を立て、連立する」ことです。
① 各物体を分離して力をすべて描く(自由体図)
② 各物体について運動方程式 \(ma = F\) を立てる
③ 拘束条件(糸の長さ一定→加速度が等しい等)を使って連立
④ 未知数(加速度・張力等)を求める
軽い糸で軽い滑車を通して質量 \(m_1, m_2\)(\(m_1 \gt m_2\))をつるす。
【立式】\(m_1\) は下降、\(m_2\) は上昇するので、\(m_1\) 側は下向きを正、\(m_2\) 側は上向きを正にとる。糸は伸びないので加速度の大きさは等しく \(a\)。
\(m_1\) の運動方程式(下向き正):
$ m_1 a = m_1 g - T \quad \cdots① $
\(m_2\) の運動方程式(上向き正):
$ m_2 a = T - m_2 g \quad \cdots② $
【解法】①+②で \(T\) を消去すると:
$ (m_1 + m_2)a = (m_1 - m_2)g $
$ \therefore\ a = \frac{(m_1 - m_2)g}{m_1 + m_2} $
①に代入して張力を求めると:
$ T = m_1 g - m_1 a = m_1 g\left(1 - \frac{m_1 - m_2}{m_1 + m_2}\right) = \frac{2m_1 m_2 g}{m_1 + m_2} $
【チェック】\(m_1 = m_2\) なら \(a = 0\)(つりあい)、\(m_2 = 0\) なら \(a = g\)(自由落下)で正しい。
滑らかな斜面(角度 \(\theta\))上の物体A(質量 \(m_A\))と、鉛直にぶら下がる物体B(質量 \(m_B\))が軽い糸と滑車で接続されている場合:
【立式】Bが下降しAが斜面を上がる向きを正にとる。
物体A(斜面方向上向きを正):
$ m_A a = T - m_A g\sin\theta \quad \cdots① $
物体B(下向きを正):
$ m_B a = m_B g - T \quad \cdots② $
【解法】①+②で \(T\) を消去すると:
$ (m_A + m_B)a = m_B g - m_A g\sin\theta $
$ \therefore\ a = \frac{m_B g - m_A g\sin\theta}{m_A + m_B} $
\(a \gt 0\)(Bが下降する条件)は \(m_B \gt m_A\sin\theta\)。
質量 \(m_1\) と \(m_2\) の物体が接触して水平面上にあり、\(m_1\) を力 \(F\) で押す。
【全体の加速度】2物体は一体で動くので:
$ (m_1 + m_2)a = F \quad \therefore\ a = \frac{F}{m_1 + m_2} $
【物体間の抗力】\(m_2\) だけに注目すると、\(m_2\) を加速するのは \(m_1\) からの抗力 \(N\) のみなので:
$ m_2 a = N \quad \therefore\ N = m_2 \times \frac{F}{m_1 + m_2} = \frac{m_2 F}{m_1 + m_2} $
【注意】\(m_2\) 側を押す場合は \(N = \frac{m_1 F}{m_1 + m_2}\) となり、物体間の抗力は異なる。
3つの問題タイプ(水平面・アトウッド・台の上)をランダムに練習。加速度 a と張力 T をスライダーで入力し、チェックしよう。シミュレートボタンで運動を確認できます。