物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第2章 運動の法則
「同じ力でも、面積が小さいほど痛い」——単位面積あたりの力が圧力です。
面積 \(S\) [m²] の面に、垂直に力 \(F\) [N] を及ぼすとき、圧力 \(p\) は次の式で表されます。
圧力の単位はパスカル(記号 Pa)。1 Pa = 1 N/m²。
圧力は名前に「力」とついているが、力(N)とは単位が異なる。圧力の単位は Pa = N/m²。
気体の圧力のうち、大気による圧力を大気圧といいます。海面での大気圧は 1気圧(1 atm)≒ 1.013 × 10⁵ Pa です。 これは面積 1 m² の地面に約 1.0 × 10⁴ kg の空気が乗っていることを意味します。
標高が高い場所では大気圧が低くなります。富士山の山頂(約3,776m)では気圧が約0.63気圧まで下がり、水は約87°Cで沸騰します。大気圧が水面を押す力が弱いため、分子が液体から飛び出しやすくなるのです。圧力鍋はこの逆で、鍋内の気圧を上げて沸点を120°C程度に高め、短時間で調理できるようにしています。
ストローで吸うとストロー内の空気の圧力が下がります。すると外部の大気圧がジュースの表面を押し上げ、ストロー内にジュースが上がってきます。つまり「吸っている」のではなく「大気がジュースを押し上げている」のです。
圧力の概念がわかったところで、液体の中で圧力がどのように生じるかを見ていきましょう。「深く潜るほど耳が痛くなる」——水の重さによって生じる圧力が水圧です。
水の重さによって生じる圧力を水圧といいます。水圧には次の性質があります。
水面での大気圧 \(p_0\) を考えると、水深 \(h\) での圧力は \(p' = p_0 + \rho hg\) となります。 水圧は容器の形や大きさに関係なく、深さだけで決まります。
下のシミュレーションで、深さと水圧の関係を確かめてみよう。スライダーで深さや密度を変えると、圧力の大きさがどう変わるかわかります。
条件:\(\rho = 1.0 \times 10^3\) kg/m³、\(h = 10\) m、\(g = 9.8\) m/s²、大気圧 \(p_0 = 1.013 \times 10^5\) Pa
水圧(大気圧を含む):
$$ p = p_0 + \rho gh = 1.013 \times 10^5 + 1.0 \times 10^3 \times 9.8 \times 10 = 1.013 \times 10^5 + 9.8 \times 10^4 $$ $$ \fallingdotseq 2.0 \times 10^5 \text{ Pa} $$答え:\(p \fallingdotseq 2.0 \times 10^5\) Pa(\(\fallingdotseq\) 2 気圧)
マリアナ海溝の最深部(約 10,900 m)での水圧は約 1,100 気圧(≒ 1.1 × 10⁸ Pa)。1 cm² あたり約 1.1 トンの力に相当します。人間が潜水艦なしでは到達できない環境です。
水圧は深さに比例することがわかりました。物体の上面と下面では深さが異なるため、はたらく水圧にも差が生じます。この圧力差が「浮力」の正体です。「水中では物が軽くなる」——流体から物体へ、重力と反対向きにはたらく力を詳しく見ていこう。
流体中に物体を入れると、物体は入れる前に比べて軽くなったように感じます。これは流体から物体へ、重力と反対向きの力がはたらくためです。この力を浮力といいます。
浮力の大きさは物体自身の密度とは無関係。流体の密度と沈んでいる体積だけで決まる。
| 条件 | 物体の密度 vs 流体の密度 | 結果 |
|---|---|---|
| 浮く | ρ物体 < ρ流体 | 浮力 > 重力 → 浮上し一部が水面上に出る |
| 浮遊 | ρ物体 = ρ流体 | 浮力 = 重力 → 水中で静止 |
| 沈む | ρ物体 > ρ流体 | 浮力 < 重力 → 沈んでいく |
「浮力は物体の密度で決まる」は不正確
浮力は「物体が排除した流体の重さ」であり、物体の密度ではなく排除した流体の体積と流体の密度で決まります。同じ大きさの鉄球と発泡スチロール球を水に完全に沈めると、受ける浮力は同じです。浮くか沈むかを決めるのは「浮力と重力の大小関係」、つまり物体の平均密度と流体の密度の比較です。
古代ギリシャのアルキメデス(紀元前287〜212年)は、王冠が純金かどうかを調べる方法を入浴中に思いつき「エウレカ!(わかった!)」と叫んで裸で走り出したという逸話があります。王冠を水に沈めて排除した水の体積から密度を求め、純金との密度を比較したのです。
鉄の密度(約 7,800 kg/m³)は水の約 7.8 倍ですが、船は中が空洞なので船全体の平均密度が水より小さくなります。船が排除する水の重さ(浮力)が船の重さと等しくなる深さまで沈み、そこでつりあって浮きます。
深さ \(h\) の水圧は、微小な水柱の力のつりあいから導出できます。深さ \(z\) での圧力を \(p(z)\) とすると:
$$ \frac{dp}{dz} = \rho g $$
積分すると \(p = p_0 + \rho gh\)(\(p_0\):大気圧、\(h\):水面からの深さ)。浮力はこの圧力差から生じます。物体の上面と下面の圧力差に面積をかけると:
$$ F = \int_{\text{表面}} p\,dA = \rho g V_{\text{排水}} $$
これがアルキメデスの原理「浮力=排除した流体の重さ」です。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
入試では「水に浮く物体の沈んでいる割合」や「液体中で糸でつるされた物体」の問題が頻出です。浮いている物体は「重力=浮力」から \(\rho_{\text{物}}/\rho_{\text{液}} = V_{\text{沈}}/V_{\text{全}}\)。糸でつるされた場合は「重力=浮力+張力」で解きます。
密度 \(\rho_{\text{物}}\) の物体が密度 \(\rho_{\text{液}}\) の液体に浮いている。
つりあいの式:\(\rho_{\text{物}} V g = \rho_{\text{液}} V_{\text{沈}} g\)
沈んでいる割合:\(\dfrac{V_{\text{沈}}}{V} = \dfrac{\rho_{\text{物}}}{\rho_{\text{液}}}\)
例:氷(密度 920 kg/m³)が水(1000 kg/m³)に浮くとき、沈んでいる割合は \(920/1000 = 0.92\)(92%が水面下)。
密度 \(\rho_{\text{物}}\)、体積 \(V\) の物体を糸で液体(密度 \(\rho_{\text{液}}\))中に完全に沈めてつるす。
力のつりあい:張力 \(T\) + 浮力 \(F\) = 重力 \(W\)
\(T = \rho_{\text{物}} V g - \rho_{\text{液}} V g = (\rho_{\text{物}} - \rho_{\text{液}}) V g\)
\(\rho_{\text{物}} \gt \rho_{\text{液}}\) なら糸は上向きに引く。\(\rho_{\text{物}} \lt \rho_{\text{液}}\) なら糸は下向きに引く(物体が浮き上がるのを防ぐ)。
水面からの深さ \(h\)、底面積 \(S\) の水柱を考える。
水柱の体積:\(V = Sh\)
水柱の質量:\(m = \rho V = \rho Sh\)
水柱の重力:\(W = mg = \rho Shg\)
底面にはたらく圧力:\(p = \dfrac{W}{S} = \dfrac{\rho Shg}{S} = \rho hg\)
大気圧 \(p_0\) を考慮すると、深さ \(h\) での全圧力は \(p = p_0 + \rho hg\) となる。
液体中の直方体(上面の深さ \(h_1\)、下面の深さ \(h_2\)、底面積 \(S\))を考える。
上面にはたらく水圧による力(下向き):\(F_1 = \rho h_1 g \cdot S\)
下面にはたらく水圧による力(上向き):\(F_2 = \rho h_2 g \cdot S\)
浮力(上向きの合力):\(F = F_2 - F_1 = \rho g S (h_2 - h_1) = \rho g V\)
ここで \(V = S(h_2 - h_1)\) は物体が排除した液体の体積。これがアルキメデスの原理。