物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第3章 仕事と力学的エネルギー

① 仕事

🏋️ 1. 仕事の定義

「重い荷物を持って立っているだけでは、物理では仕事をしていない」——物理の「仕事」は日常の意味と違います

壁を全力で10分間押し続けた。物理的に「仕事」をした?
はい、疲れたから
いいえ、壁が動いていないから
物理の「仕事」は力×移動距離。壁が動かなければ移動距離ゼロで仕事もゼロです。日常語の「仕事」と物理の「仕事」は意味が違います。

仕事とは

物体に力 \(F\) [N] を加えて、その力の向きに距離 \(x\) [m] だけ動かすとき、力がした仕事 \(W\) は次の式で表されます。

\(W = \)\(Fx\cos\theta\)
\(W\)〔J〕:仕事
\(F\)〔N〕:力の大きさ
\(x\)〔m〕:移動距離
\(\theta\):力の向きと移動の向きがなす角

仕事の単位はジュール(記号 J)。1 J = 1 N·m。
仕事はF-xグラフの面積にも等しくなります

🧮 計算例:10 N の力で物体を 3.0 m 動かしたときの仕事

条件:\(F = 10\) N、\(d = 3.0\) m、力と移動方向が同じ

$$ W = Fd = 10 \times 3.0 = 30 \text{ J} $$

答え:\(W = 30\) J

role="img" aria-label="シミュレーション:仕事 W=Fxcosθ(力の角度と移動距離で仕事を計算)">
📌 ポイント

仕事の正・負・ゼロ

\(\theta = 0°\)(同じ向き):\(W = Fx\) → 正の仕事
\(\theta = 90°\)(垂直):\(W = 0\) → 仕事をしない
\(\theta = 180°\)(反対向き):\(W = -Fx\) → 負の仕事

場合角度 θcos θ仕事 W
正の仕事0° ≦ θ < 90°W > 0物体を押して動かす
仕事ゼロθ = 90°0W = 0垂直抗力・円運動の張力
負の仕事90° < θ ≦ 180°W < 0摩擦力・ブレーキ
🤔 豆知識:「力を加えても仕事ゼロ」の意外な例

①重い荷物を持って水平に歩く→持ち上げる力は鉛直、移動は水平(θ=90°)で仕事ゼロ。②等速円運動の糸の張力→常に速度と垂直で仕事ゼロ。③壁を押しても壁が動かない→移動距離ゼロで仕事ゼロ。物理の「仕事」は力×移動の方向成分なので、直感と異なる結果になることがあります。

🧮 豆知識:仕事の計算で符号を間違えないコツ

仕事の符号で迷ったら「その力は物体の運動を助けているか邪魔しているか」を考えましょう。助けている(力の向きと移動の向きが同じ側)→正の仕事、邪魔している(力と移動が反対側)→負の仕事。摩擦力は常に運動を妨げるので必ず負の仕事、重力は下向きの移動で正・上向きの移動で負の仕事をします。

🤔 豆知識:「仕事をしない力」とは?

水平面上を等速で走る物体にはたらく垂直抗力は、移動の向きと常に垂直(θ = 90°)なので仕事はゼロです。 同様に、糸でおもりを円運動させるとき、糸の張力は常に速度と垂直なので仕事をしません。

次のうち、物体に仕事をしない力は?
物体を押して動かす力
等速円運動の向心力
斜面で物体を引く力
向心力は常に運動方向に垂直なので、\(W=Fd\cos 90°=0\)。力がはたらいていても移動方向と垂直なら仕事はゼロです。

⚙️ 2. 仕事の原理と仕事率

仕事の定義 \(W = Fx\cos\theta\) を学びました。この定義をふまえて、道具(てこ・滑車・斜面)を使った場合に仕事はどうなるかを考えましょう。「滑車を使えば力は半分で済むが、引く距離は2倍になる」——仕事の総量は道具では減らせない。

動滑車を使うと力は半分で済む。楽になった分はどこへ消えた?
エネルギーが節約された
引く距離が2倍になり仕事は同じ
力が半分でも距離が2倍。仕事の原理により \(W=Fd\) は道具を使っても変わりません。

仕事の原理

定滑車や動滑車などの道具を使うと、必要な力を小さくできますが、動かす距離が長くなります。 結果として仕事の量は変わりません。これを仕事の原理といいます。

仕事の原理:道具を使っても、物体を同じ高さまで持ち上げるのに必要な仕事の量は同じである。

下のシミュレーションで、仕事の原理と仕事率を体感しよう。直接持ち上げるのと斜面を使うのでは仕事が同じこと、速く仕事をするほど仕事率が大きいことを確認できます。

🏗️ 豆知識:てこ・斜面・滑車は仕事を減らさない

てこで重い物を持ち上げるとき、力点の距離が長くなるため小さな力で済みますが、仕事の量は同じです。斜面で荷物を上げる場合も、傾斜がゆるいほど小さな力で済みますが、距離が長くなります。いずれも仕事の原理の例です。

仕事率

仕事の原理により、道具を使っても仕事の総量は同じでした。しかし、同じ仕事でも「速くこなす」か「ゆっくりこなす」かでは能力が違います。 単位時間あたりにする仕事の量を仕事率といいます。

\(P = \)\(\frac{W}{t}\)
\(P\)〔W〕:仕事率
\(W\)〔J〕:仕事
\(t\)〔s〕:時間

仕事率の単位はワット(記号 W)。1 W = 1 J/s。
一定の力 \(F\) で物体を速さ \(v\) で動かすとき、仕事率は \(P = Fv\) とも書けます

📐 導出:P = Fv の導き方

一定の力 \(F\) で物体を移動距離 \(x\) だけ動かしたとき、仕事は \(W = Fx\)。

これにかかった時間を \(t\) とすると、仕事率は:

$$ P = \frac{W}{t} = \frac{Fx}{t} = F \cdot \frac{x}{t} = Fv $$

ここで \(v = x/t\) は物体の速さです。

💡 豆知識:ワットと馬力

仕事率の単位「ワット」は蒸気機関を改良したジェームズ・ワットに由来します。 自動車エンジンの出力で使われる「馬力」は 1 PS ≒ 735.5 W。100 馬力のエンジンは約 73.6 kW の仕事率です。

📐 発展:微積分で見る仕事

力が一定でない場合、仕事は力の積分で表されます。

$$ W = \int_{x_1}^{x_2} F(x)\,dx $$

例えば、ばねの力 \(F = -kx\) が自然長 (\(x=0\)) から \(x=d\) まで外力 \(kx\) で伸ばす仕事は:

$$ W = \int_0^d kx\,dx = \frac{1}{2}kd^2 $$

これが弾性エネルギーの式 \(\frac{1}{2}kx^2\) の由来です。F-x グラフの「面積=仕事」は \(W = \int F\,dx\) の幾何学的な意味にほかなりません。

一定の力 \(F\) で物体を速さ \(v\) で動かすときの仕事率は?
\(F/v\)
\(Fv\)
\(F^2 v\)
\(P=W/t=Fd/t=Fv\)。仕事率は力と速度の積です。

🎯 3. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🧮 ① 入試で頻出の「複数の力がする仕事」

入試では、摩擦力・重力・張力など複数の力が同時にはたらく場面で、各力がする仕事を個別に求める問題が頻出です。ポイントは「各力の移動方向成分 × 移動距離」をそれぞれ計算し、合計が運動エネルギーの変化(仕事とエネルギーの関係)に等しくなることです。

🧮 ② 典型問題:斜面を引き上げるときの仕事

傾斜角 \(\theta\)、動摩擦係数 \(\mu'\) の斜面に沿って質量 \(m\) の物体を距離 \(l\) だけ等速で引き上げるとき、引く力がする仕事を求める。

【立式】等速なので加速度 \(a = 0\)。斜面方向のつりあいより、引く力 \(F\) は重力の斜面成分と動摩擦力の和に等しい:

$ F = mg\sin\theta + \mu' mg\cos\theta $

【引く力がする仕事】力 \(F\) の向きと移動の向きが同じ(\(\theta = 0°\))なので:

$ W_F = Fl = mg(\sin\theta + \mu'\cos\theta) \cdot l $

【各力の仕事の確認】重力の仕事 \(W_g = -mgl\sin\theta\)(移動と逆向き成分)、摩擦力の仕事 \(W_f = -\mu' mg\cos\theta \cdot l\)(常に逆向き)。合計 \(W_F + W_g + W_f = 0\) で、等速(運動エネルギーの変化 0)と整合する。

🔑 まとめ