物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第3章 仕事と力学的エネルギー
「弓は矢を飛ばす仕事をし、落下する水は水車を回す仕事をする」——物体が他の物体に対して仕事をする能力をもつとき、その物体はエネルギーをもつという。
下の図で、エネルギーと仕事の関係を体験しよう。ボールの高さを変えて、ブロックを押す距離がどう変わるか観察してみましょう。
エネルギーが「仕事をする能力」であることがわかりました。では、運動している物体がもつエネルギーは具体的にいくらなのでしょうか。「速く動くほど、重いほど、大きなエネルギーをもつ」——運動する物体がもつエネルギーを求めよう。
運動している物体は他の物体に仕事をすることができます。このエネルギーを運動エネルギーといいます。
条件:\(m = 1500\) kg、\(v = 20\) m/s
$$ K = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times 1500 \times 20^2 = 3.0 \times 10^5 \text{ J} $$答え:\(K = 3.0 \times 10^5\) J(= 300 kJ)
運動エネルギーは速さの2乗に比例する。速さが2倍になると運動エネルギーは4倍になる。
車の制動距離(ブレーキをかけてから止まるまでの距離)は速さの2乗に比例します。運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) を摩擦力の仕事 \(\mu mg \cdot d\) で消費するので、\(d = \frac{v^2}{2\mu g}\) です。速度が2倍になると制動距離は4倍——時速30kmでは約5m、時速60kmでは約20mと大きく変わります。
運動量 \(m\vec{v}\) はベクトル量ですが、運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) はスカラー量です。向きを持たず、常に正または0。速度の大きさの2乗を使うため、どの方向に動いていても同じ速さなら同じ運動エネルギーです。この違いは衝突問題で重要:運動量はベクトルで保存、エネルギーはスカラーで保存(弾性衝突時)。
自動車の制動距離(ブレーキをかけてから停止するまでの距離)は速さの2乗に比例します。50 km/h での制動距離が 15 m なら、100 km/h(2倍)では 60 m(4倍)にもなります。スピードの出し過ぎが危険な理由がここにあります。
運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\) の式を学びました。では、物体に力を加えて仕事をすると、この運動エネルギーはどう変化するのでしょうか。「物体にした仕事 = 運動エネルギーの変化量」——仕事とエネルギーを結ぶ重要な関係を導きます。
この式は、物体の運動エネルギーの変化は、物体がされた仕事に等しいことを表しています。 力が運動と逆向きにはたらく(負の仕事)場合は運動エネルギーが減少します。
| 力の向き | 仕事 W | 運動エネルギーの変化 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 運動と同じ向き | W > 0(正) | 増加(加速) | 押して加速させる |
| 運動と逆向き | W < 0(負) | 減少(減速) | 摩擦力・ブレーキ |
| 運動と垂直 | W = 0 | 変化なし | 等速円運動の向心力 |
運動方程式 \(ma = F\) と等加速度直線運動の式 \(v^2 - v_0^2 = 2ax\) より
\(v^2 - v_0^2 = 2 \cdot \dfrac{F}{m} \cdot x\)
両辺に \(\dfrac{m}{2}\) をかけると \(\dfrac{1}{2}mv^2 - \dfrac{1}{2}mv_0^2 = Fx = W\)
運動方程式 \(F = ma\) の両辺に微小変位 \(dx\) をかけて積分します。
$$ W = \int_{x_1}^{x_2} F\,dx = \int_{x_1}^{x_2} m\frac{dv}{dt}dx = \int_{v_1}^{v_2} mv\,dv $$
ここで \(\frac{dx}{dt} = v\) を使って変数を \(x\) から \(v\) に変換しました。積分を実行すると:
$$ W = \left[\frac{1}{2}mv^2\right]_{v_1}^{v_2} = \frac{1}{2}mv_2^2 - \frac{1}{2}mv_1^2 $$
これが仕事と運動エネルギーの関係(仕事−エネルギー定理)の厳密な証明です。高校の教科書では等加速度を仮定しますが、微積分を使えば力が変化する場合も含めて一般的に証明できます。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
質量 \(m\) の車が速さ \(v\) で走行中にブレーキをかけて止まる。動摩擦係数 \(\mu'\) のとき制動距離 \(d\) を求める。
【立式】初速 \(v\)、終速 \(0\)。ブレーキの摩擦力は \(\mu' mg\) で移動と逆向き(負の仕事)。仕事と運動エネルギーの関係より:
$ 0 - \frac{1}{2}mv^2 = -\mu' mg \cdot d $
【解法】両辺を \(-m\) で割ると:
$ \frac{1}{2}v^2 = \mu' g \cdot d \quad \therefore\ d = \frac{v^2}{2\mu' g} $
速さが2倍 → 制動距離は4倍。質量 \(m\) は両辺で約分されるため、制動距離は質量に依存しない。
粗い水平面上で、質量 \(m\) の物体に力 \(F\) を加えて距離 \(d\) だけ動かしたときの速さを求める(動摩擦係数 \(\mu'\)、初速 \(v_0\))。
【立式】力 \(F\) がする仕事は \(Fd\)(正)、摩擦力がする仕事は \(-\mu' mgd\)(負)。仕事と運動エネルギーの関係より:
$ \frac{1}{2}mv^2 - \frac{1}{2}mv_0^2 = Fd - \mu' mgd $
【解法】両辺を \(\frac{1}{2}m\) で割り、\(v^2\) について整理すると:
$ v^2 = v_0^2 + \frac{2(F - \mu' mg)d}{m} $
$ \therefore\ v = \sqrt{v_0^2 + \frac{2(F - \mu' mg)d}{m}} $