物理基礎 > 第1編 運動とエネルギー > 第3章 仕事と力学的エネルギー
「高い所から落ちるほど速くなり、速い物は高く上がれる」——運動エネルギーと位置エネルギーは互いに変換され、その和は一定に保たれる。
自由落下する小球は、落下するにつれて速くなります。位置エネルギー \(U = mgh\) が減少し、運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\) が増加しています。この2つの和に注目すると、常に一定です。
条件:\(h = 5.0\) m、\(v_0 = 0\)、\(g = 9.8\) m/s²
力学的エネルギー保存則 \(mgh = \frac{1}{2}mv^2\) より
$$ v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 5.0} = \sqrt{98} \fallingdotseq 9.9 \text{ m/s} $$答え:\(v \fallingdotseq 9.9\) m/s(質量によらない)
下のシミュレーションでは、U字型トラック上をボールが転がります。摩擦なしではボールは永遠に往復し、K + U は一定に保たれます。摩擦をONにすると、力学的エネルギーが熱に変わって徐々に減少していく様子を確認できます。
力学的エネルギー保存則が成り立つ条件:物体に保存力(重力・弾性力)だけがはたらくとき、または保存力以外の力(摩擦力・張力・垂直抗力など)がはたらいてもそれらが仕事をしないとき。
力学的エネルギー保存則の式がわかったところで、具体的な運動に適用してみましょう。振り子、斜面、ばね——さまざまな運動で K + U = 一定 が成り立つことを確認します。
下のシミュレーションで、3つの典型的な運動におけるエネルギー保存を確認しよう。運動エネルギーと位置エネルギーの変換を棒グラフで観察できます。
最もシンプルな例として、高さ \(h\) から静かに落とした物体を考えます。最初は運動エネルギーが 0、位置エネルギーが \(mgh\) です。底に着いたとき位置エネルギーは 0 になるので、保存則から底での速さが求まります。
糸に吊るされたおもりの振り子では、最高点で \(K = 0, U = mgh\)、最下点で \(K = \frac{1}{2}mv^2, U = 0\)。糸の張力は運動方向と常に垂直なので仕事をせず、力学的エネルギーは保存されます。
なめらかな斜面(摩擦なし)では垂直抗力が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。斜面の角度によらず、同じ高さから出発すれば底での速さは同じです。
なめらかな水平面上でばねに物体をつけると、弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) と運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) が相互変換します。重力による位置エネルギーは変化しない(水平面)ので考えなくてよいです。
| 保存力 | 非保存力 | |
|---|---|---|
| 定義 | 経路によらず仕事が決まる力 | 経路によって仕事が変わる力 |
| 例 | 重力、弾性力 | 摩擦力、空気抵抗 |
| 位置エネルギー | 定義できる | 定義できない |
| 力学的エネルギー | 保存される | 保存されない(熱に変換) |
「エネルギー保存則が使えない」と思ったときのチェック と
「エネルギー保存則が使えない」と思ったときのチェック
「エネルギー保存で解けない」と感じたら、①非保存力(摩擦力など)がはたらいていないか確認。はたらいていれば \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2 + W_{\text{摩擦}}\) とする。②位置エネルギーの種類(重力・弾性)を見落としていないか確認。③基準面の設定は正しいか確認。ほとんどの場合、これらのどれかが原因です。
水力発電では、水の位置エネルギー→運動エネルギー→タービンの回転エネルギー→電気エネルギーと変換されます。各段階で一部が熱エネルギーに変わるため、変換効率は100%になりません。しかしエネルギーの総量は必ず保存されます(熱力学第1法則)。全エネルギーが消えることも、無から生まれることもありません。
ジェットコースターは最初の坂を登った位置エネルギーだけで走ります。最初の丘が最も高いのは、摩擦でエネルギーが失われても全コースを走りきるためです。理想的にはエネルギー保存から、2番目以降の丘の高さは最初より低くなければなりません。
摩擦力が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されません。失われた力学的エネルギーは熱エネルギーに変換されます。このことは第2編「熱」で詳しく学びます。
力学的エネルギー \(E = K + U\) の時間変化を計算します。
$$ \frac{dE}{dt} = \frac{dK}{dt} + \frac{dU}{dt} = mv\frac{dv}{dt} + \frac{dU}{dx}\frac{dx}{dt} $$
運動方程式 \(m\frac{dv}{dt} = F\) と保存力の定義 \(F = -\frac{dU}{dx}\) を代入すると:
$$ \frac{dE}{dt} = Fv + \left(-F\right)v = 0 $$
よって \(E\) は時間変化しない、すなわち力学的エネルギーは保存されます。非保存力(摩擦力など)がはたらく場合は \(\frac{dE}{dt} \neq 0\) となり、その分だけエネルギーが熱などに変わります。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
大学入試でよく出るのが「斜面を滑り降りた物体がばねに衝突する」タイプの問題です。解法は、始状態と終状態でエネルギー保存の式を立てること。重力の位置エネルギー \(mgh\) と弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) の両方を含む式を立てるのがポイントです。摩擦がある場合は「失われたエネルギー = 摩擦力 × 移動距離」を右辺に加えます。
粗い斜面(傾斜角 \(\theta\)、動摩擦係数 \(\mu'\))を距離 \(l\) だけ滑り降りた物体の速さを求める(初速 0)。
【立式】高さの減少は \(h = l\sin\theta\)。位置エネルギーの減少が運動エネルギーの増加と摩擦熱に変わるので:
$ \frac{1}{2}mv^2 = mgl\sin\theta - \mu' mgl\cos\theta $
【解法】両辺を \(\frac{1}{2}m\) で割ると:
$ v^2 = 2gl(\sin\theta - \mu'\cos\theta) $
$ \therefore\ v = \sqrt{2gl(\sin\theta - \mu'\cos\theta)} $
摩擦力の仕事 \(\mu' mgl\cos\theta\) が熱エネルギーに変換された分だけ、摩擦なしの場合より速さが減る。
糸の長さ \(l\)、最大の振れ角 \(\theta\) の振り子。最下点での速さを求める。
【立式】最高点(角度 \(\theta\))の最下点からの高さは \(h = l - l\cos\theta = l(1-\cos\theta)\)。最高点で静止(\(v = 0\))、最下点を基準面(\(h = 0\))としてエネルギー保存:
$ \frac{1}{2}mv^2 = mgl(1-\cos\theta) $
【解法】両辺を \(\frac{1}{2}m\) で割ると:
$ v^2 = 2gl(1-\cos\theta) \quad \therefore\ v = \sqrt{2gl(1-\cos\theta)} $