物理基礎 > 第2編 熱 > 第1章 熱とエネルギー

① 熱と物質の状態

🌡️ 1. 温度と熱運動

「温度が高いほど分子が激しく動く」——温度の正体は原子・分子の熱運動の激しさです。

冬、金属のドアノブと木のドアを同時に触ると、金属の方が冷たく感じるのはなぜ?
金属の温度が木より低いから
金属は冷気を発しているから
金属は熱を伝えやすく、手の熱が素早く奪われるから
金属と木の温度は同じ室温ですが、金属は熱伝導率が高いため手の熱を素早く奪います。「冷たい」と感じるのは温度の違いではなく、熱の移動の速さの違いです。この節では温度と熱運動の関係を学びます。

熱運動とブラウン運動

物質を構成する原子や分子は、不規則な運動(熱運動)をしています。温度が高いほど熱運動は激しくなります。水中の微粒子が不規則に動くブラウン運動は、水分子の熱運動による衝突が原因です。

🧮 計算例:200 g の水を 20℃ から 80℃ に加熱するのに必要な熱量

条件:\(m = 200\) g、比熱 \(c = 4.2\) J/(g·K)、\(\Delta T = 80 - 20 = 60\) K

$$ Q = mc\Delta T = 200 \times 4.2 \times 60 = 50400 \text{ J} \fallingdotseq 50 \text{ kJ} $$

答え:\(Q \fallingdotseq 50\) kJ

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セルシウス温度と絶対温度

セルシウス温度(℃)は、1気圧で氷が溶ける温度を 0℃、水が沸騰する温度を 100℃ と定めた温度目盛りです。

温度を下げていくと熱運動はにぶくなり、約 −273℃ で熱運動が停止します。これを絶対零度といい、これを基準とした温度を絶対温度(単位: ケルビン K)といいます。

\(T = \)\(t + 273\)
\(T\)〔K〕:絶対温度
\(t\)〔℃〕:セルシウス温度
🧊 豆知識:絶対零度には到達できない?

熱力学第三法則により、絶対零度(0 K = −273.15℃)に完全に到達することは不可能とされています。現在の実験では 10⁻¹⁰ K 程度まで冷却に成功していますが、ぴったり 0 K にはなりません。

温度を上げると物質を構成する分子の運動はどうなる?
激しくなる
穏やかになる
変わらない
温度は分子の熱運動の激しさの指標です。温度が高いほど分子は激しく運動し、絶対零度(0 K)で熱運動が停止します。

🔥 2. 熱と熱量

前のカードで、温度は原子・分子の熱運動の激しさを表す量であることを学びました。「熱いコーヒーにミルクを入れると温度が下がる」——この温度変化の背後にある、高温から低温へ移動するエネルギーがです。

同じ温度のお湯を同じ量だけ、鉄のカップとプラスチックのカップに入れた。先に冷めるのはどっち?
プラスチックのカップ
鉄のカップ
同時に冷める
鉄は熱伝導率が高いため、カップを通じて外部に熱が逃げやすく、先に冷めます。熱の移動しやすさは物質によって異なり、比熱や熱伝導率が関係します。

熱平衡

温度の異なる2つの物体を接触させると、高温の物体から低温の物体へエネルギーが移動します。やがて両者の温度が等しくなり、これを熱平衡といいます。このとき移動したエネルギーを(または熱量)といい、単位は J です。

熱容量と比熱

\(Q = \)\(mc\Delta T\)
\(Q\)〔J〕:熱量
\(m\)〔kg〕:質量
\(c\)〔J/(kg·K)〕:比熱
\(\Delta T\)〔K〕:温度変化
💡
比熱:物質 1 kg の温度を 1 K 上げるのに必要な熱量。水の比熱は約 4190 J/(kg·K) で、物質の中で特に大きい
💡
熱容量 \(C = mc\)〔J/K〕:物体全体の温度を 1 K 上げるのに必要な熱量。
📌 ポイント

熱量の保存:高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量(外部との熱のやりとりがない場合)。

🤔 豆知識:「温度」と「熱」は全く別の物理量

日常では混同しがちですが、温度は物体の状態を表す量(℃やK)、は温度差のある物体間で移動するエネルギー(J)です。「この物体は100Jの熱を持っている」は不正確で、「この物体に100Jの熱を加えた」が正しい表現です。熱は移動するエネルギーの一形態であり、蓄えられるものではありません。

🍳 豆知識:比熱が大きい水の驚くべき性質

水の比熱(4.2 J/(g·K))は一般的な物質の中で最大級です。鉄は0.45、銅は0.39、アルミは0.90 J/(g·K)。水が温まりにくく冷めにくいため、海に囲まれた地域は気温の変化が穏やかになります。お風呂のお湯が長時間温かいのも、水の大きな比熱のおかげです。

🌊 豆知識:水の比熱が大きいことの意味

水は比熱が非常に大きいため、温まりにくく冷めにくい物質です。海が気温の変動を和らげるのはこのためで、海辺の街は内陸の街より気温差が小さくなります。

比熱が大きい物質ほど、同じ熱量を加えたときの温度変化はどうなる?
温度変化が小さい(温まりにくい)
温度変化が大きい(温まりやすい)
質量によるので一概にいえない
Q = mcΔT より、比熱 c が大きいほど同じ熱量 Q に対する温度変化 ΔT は小さくなります。水の比熱が大きいため、海沿いの地域は気温変化が穏やかです。

❄️ 3. 物質の三態と潜熱

前のカードで、熱量は \(Q = mc\Delta T\) で計算でき、比熱によって温まりやすさが異なることを学びました。しかし熱を加え続けると温度が上がるだけでなく、やがて物質の「姿」そのものが変わります。「氷→水→水蒸気」——この状態変化にはどれだけのエネルギーが必要なのでしょうか。

0℃の氷に熱を加え続けると、氷が全部溶けるまで温度はどうなる?
少しずつ上がり続ける
一気に100℃まで上がる
溶けきるまで0℃のまま変わらない
状態変化の最中は、加えた熱が分子の配列を変えること(固体→液体)に使われるため、温度は変化しません。この熱を潜熱といいます。

物質は固体・液体・気体の3つの状態(三態)をとります。状態変化のとき、温度は変わらず熱だけを吸収(または放出)します。この熱を潜熱といいます。

\(Q = \)\(mL\)
\(Q\)〔J〕:状態変化に必要な熱量
\(m\)〔kg〕:質量
\(L\)〔J/kg〕:比潜熱(融解熱または気化熱)
変化名称
固体→液体融解吸熱(融解熱)
液体→気体蒸発・沸騰吸熱(気化熱)
気体→液体凝縮放熱
液体→固体凝固放熱(凝固熱)
💧 豆知識:打ち水が涼しい理由

水が蒸発するとき、周囲から気化熱を奪います。打ち水をすると地面の温度が下がり、涼しく感じるのはこのためです。汗をかくと涼しく感じるのも同じ原理です。

水が蒸発して水蒸気になるとき、水は周囲に対して熱を…?
放出する
吸収する
やりとりしない
液体→気体の状態変化(蒸発・沸騰)では、分子間の結合を断ち切るためにエネルギーが必要なので、周囲から熱を吸収します。これが気化熱で、打ち水や汗が涼しい理由です。

🎯 4. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🎯 ① 頻出テーマ:熱量保存の計算

高温物体が失う熱量=低温物体が得る熱量(熱量の保存)。\(m_1c_1(T_1 - T) = m_2c_2(T - T_2)\) から共通温度 \(T\) を求めます。状態変化(融解・蒸発)がある場合は、潜熱 \(mL\) の項を加えることを忘れないことが重要です。

🧮 ② 典型問題:混合による温度変化

問題設定:質量 \(m_1\)、比熱 \(c_1\)、温度 \(T_1\) の物体Aと、質量 \(m_2\)、比熱 \(c_2\)、温度 \(T_2\)(\(T_1 \gt T_2\))の物体Bを接触させる。外部との熱のやりとりはないとする。

ステップ1:熱量保存の式を立てる

外部との熱のやりとりがないので、高温物体Aが失った熱量 = 低温物体Bが得た熱量が成り立ちます(\(T\) は熱平衡後の共通温度)。

$ m_1 c_1 (T_1 - T) = m_2 c_2 (T - T_2) $

ステップ2:共通温度を求める

左辺を展開すると \(m_1 c_1 T_1 - m_1 c_1 T = m_2 c_2 T - m_2 c_2 T_2\) です。\(T\) を含む項を左辺にまとめると

$ m_1 c_1 T + m_2 c_2 T = m_1 c_1 T_1 + m_2 c_2 T_2 $

\(T\) でくくって両辺を割ると、共通温度が求まります。

$ T = \frac{m_1 c_1 T_1 + m_2 c_2 T_2}{m_1 c_1 + m_2 c_2} $

ステップ3:状態変化がある場合

例えば、0℃ の氷(質量 \(m\))に温水を注ぐ場合、氷がすべて溶けるかどうかを先に確認する。

注意:状態変化中は温度が変化しないため、潜熱 \(mL\) の項を式に加えることを忘れないこと。

🔑 まとめ