物理基礎 > 第2編 熱 > 第1章 熱とエネルギー

② 熱と仕事

🔧 1. 熱と仕事の関係

「のこぎりで木を切ると熱くなる」——仕事は熱に変わり、熱は仕事に変わる。

手をこすり合わせると温かくなるのは、何が熱に変わったから?
電気エネルギー
力学的エネルギー(仕事)
光エネルギー
手をこする動作は力学的な仕事であり、摩擦によってその仕事が熱エネルギーに変換されます。ジュールの実験はこの「仕事と熱の等価性」を定量的に示しました。

仕事による熱の発生

のこぎりで木を切ると、摩擦によって刃も木も熱くなります。あらい面で物体をすべらせると、物体の運動エネルギーが減少し、接触面の温度が上がります。力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されたのです。

ジュールの実験と熱の仕事当量

ジュール(1818-1889)は、おもりを落下させて羽根車を回し、水の温度上昇を測る実験を行いました。その結果、仕事 \(W\) と熱量 \(Q\) が比例することを確かめ、熱はエネルギーの一つの形態であることを示しました

\(W = \)\(JQ\)
\(J\) ≒ 4.2 J/cal:熱の仕事当量
1 cal の熱量は約 4.2 J の仕事に相当
🧮 計算例:100 J の熱を気体に加え 40 J の仕事をしたときの内部エネルギー変化

条件:\(Q = 100\) J、気体が外部にした仕事 \(W' = 40\) J

熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W'\) より

$$ \Delta U = Q - W' = 100 - 40 = 60 \text{ J} $$

答え:\(\Delta U = 60\) J

role="img" aria-label="シミュレーション:ジュールの実験(おもりの落下で水を加熱)">
🧑‍🔬 豆知識:ジュールの偉大な実験

ジュールは電気、摩擦、圧縮など様々な方法で仕事と熱量の関係を調べ、いずれも 1 cal ≒ 4.2 J という同じ値を得ました。この結果はエネルギー保存則の確立に大きく貢献しました。仕事のエネルギー単位「ジュール」は彼に由来します。

1 cal の熱量は約何 J に相当する?
約 1.0 J
約 4.2 J
約 100 J
ジュールの実験により、1 cal の熱量は約 4.2 J の仕事に相当することが確かめられました。この値を熱の仕事当量といいます。

🔋 2. 内部エネルギーと熱力学第一法則

熱と仕事が相互に変換できることがわかりました。では、気体に熱を加えたり仕事をしたりすると、気体の「持っているエネルギー」はどう変わるのでしょうか。「気体に加えた熱は、内部エネルギーの増加と外部への仕事に使われる」——エネルギー保存の法則を熱の世界に拡張します。

自転車のタイヤに空気を入れるとき、ポンプの先端が熱くなるのはなぜ?
空気の摩擦で電気が発生するから
外の熱がポンプに伝わるから
空気を圧縮する仕事が内部エネルギー(温度上昇)に変わるから
ポンプで空気を圧縮すると、外部から気体に仕事がされます。その仕事が気体の内部エネルギーの増加(温度上昇)につながります。これは熱力学第一法則 ΔU = Q + W で説明できます。

内部エネルギー

物質を構成する粒子は熱運動による運動エネルギーと、粒子間にはたらく力による位置エネルギーをもっています。これらの総和を内部エネルギーといいます。

💡
内部エネルギー:物質の構成粒子がもつ、熱運動のエネルギーと分子間力のエネルギーの総和。温度が高いほど大きい。

熱力学第一法則

\(\Delta U = \)\(Q + W\)
\(\Delta U\)〔J〕:内部エネルギーの変化
\(Q\)〔J〕:物体が吸収した熱量
\(W\)〔J〕:物体がされた仕事
熱力学第一法則物体の内部エネルギーの変化は、物体が吸収した熱量と外部からされた仕事の和に等しい。これはエネルギー保存則の一つの表現である。

気体の状態変化とP-V図

気体の状態変化(等圧・等積・等温・断熱)によって、仕事Wや内部エネルギー変化ΔUの関係が変わります。P-V図で各変化を確認しよう。

🔬 発展:エネルギー保存則の統一的理解

力学的エネルギー保存則は「保存力以外の力が仕事をしないとき」成り立ちましたが、摩擦がある場合は力学的エネルギーが減少します。しかし失われた分は熱エネルギー(内部エネルギーの増加)に変わっており、広い意味でのエネルギー保存則(熱力学第一法則)は常に成り立ちます。

気体に熱を加えて膨張させたとき、加えた熱はすべて内部エネルギーの増加になる?
いいえ、一部は外部への仕事にも使われる
はい、すべて内部エネルギーになる
いいえ、すべて仕事に使われる
熱力学第一法則 ΔU = Q + W より、加えた熱 Q は内部エネルギーの増加 ΔU と、気体が外部にする仕事(W が負)に分配されます。膨張する場合、一部が仕事に使われるため、すべてが内部エネルギーにはなりません。

♻️ 3. 不可逆変化と熱機関

熱力学第一法則はエネルギーの「量」の保存を示しましたが、実は変化の「方向」には制限があります。「こぼれたコーヒーは自然にはカップに戻らない」——自然界の変化には一方通行の性質があり、これが熱機関の効率に限界をもたらします。

ブレーキで車を止めると、運動エネルギーは熱に変わる。この熱を集めて車を再び走らせることは可能?
可能。エネルギー保存則があるから
熱を冷やせば可能
不可能。熱から力学的エネルギーへの完全な変換はできない
エネルギーの総量は保存されますが、散らばった熱を完全に力学的エネルギーに戻すことはできません。これが不可逆変化であり、熱力学第二法則の本質です。

不可逆変化

摩擦で発生した熱は、自然に元の力学的エネルギーには戻りません。高温の物体から低温の物体へ熱は移動しますが、その逆は自然には起こりません。このように自然に逆戻りしない変化を不可逆変化といいます。

エネルギーの変換

変換具体例方向性
力学的 → 熱摩擦で手が温まる、ブレーキ自然に起こる
熱 → 力学的蒸気機関、内燃機関熱機関が必要
電気 → 熱電熱器、ドライヤー自然に起こる
熱 → 電気火力発電(熱→力学→電気)装置が必要
化学 → 熱燃焼、体内の代謝自然に起こる

熱機関と熱効率

熱を仕事に変換する装置を熱機関(エンジン)といいます。高温の熱源から熱 \(Q_1\) を吸収し、仕事 \(W\) をして、低温の熱源に熱 \(Q_2\) を放出します。

\(e = \frac{W}{Q_1} = \)\(\frac{Q_1 - Q_2}{Q_1}\)
\(e\):熱効率(0〜1)
\(Q_1\)〔J〕:吸収した熱量
\(Q_2\)〔J〕:放出した熱量
\(W = Q_1 - Q_2\)〔J〕:した仕事
📌 ポイント

熱効率は必ず 1(100%)より小さい。熱をすべて仕事に変換する熱機関は存在しない熱力学第二法則)。

🤔 豆知識:「熱は高温から低温にしか流れない」の意味 と

「熱は高温から低温にしか流れない」の意味

熱力学第2法則は「自発的に低温物体から高温物体へ熱が移動することはない」と述べます。エアコンや冷蔵庫は低温→高温に熱を運びますが、コンプレッサーで仕事(電気エネルギー)を使っているため第2法則に反しません。仕事なしに「勝手に」冷たい方から熱い方に熱が流れることはありません。

第1種永久機関(エネルギーを無から生み出す装置)は熱力学第1法則に反します。第2種永久機関(熱を100%仕事に変える装置)は第2法則に反します。カルノーが示した理想的な熱機関でも効率は \(\eta = 1 - T_L/T_H\) であり、絶対零度の低温源がない限り100%にはなりません。

🚗 豆知識:自動車エンジンの熱効率

ガソリンエンジンの熱効率は約 30〜40%。残りの 60〜70% は排気ガスやラジエーターから熱として捨てられています。ハイブリッド車やディーゼルエンジンは効率改善の工夫がされていますが、100% にはなりません。

📐 発展:微積分で見る熱力学第1法則

熱力学第1法則 \(\Delta U = Q - W\) は微小変化では:

$$ dU = \delta Q - \delta W = \delta Q - p\,dV $$

\(\delta Q\) と \(\delta W\) には \(d\) でなく \(\delta\) を使うのは、熱と仕事は経路に依存する量(状態量ではない)だからです。一方、内部エネルギー \(U\) は状態量なので \(dU\) と書けます。この区別は大学物理で重要になります。

熱機関の熱効率が100%にならない理由は?
技術が未熟だから
エネルギーが保存されないから
低温熱源への熱の放出が必ず必要だから(熱力学第二法則)
熱力学第二法則により、高温熱源から吸収した熱をすべて仕事に変換することは不可能です。必ず一部の熱を低温熱源に放出しなければならず、熱効率 e = W/Q₁ は常に1未満になります。

🎯 4. 入試対策

大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。

🎯 ① 頻出テーマ:熱効率の計算

熱機関が高温源から \(Q_1\) の熱を吸収し、低温源に \(Q_2\) の熱を排出するとき、熱効率は \(\eta = \frac{W}{Q_1} = \frac{Q_1 - Q_2}{Q_1} = 1 - \frac{Q_2}{Q_1}\) です。入試では p-V 図で示されたサイクルについて各過程の仕事と熱量を計算し、熱効率を求める問題が出ます。

🧮 ② 典型問題:p-V図から仕事と熱を求める

問題設定:理想気体が p-V 図上でサイクル(例:A→B→C→A)を描くとき、各過程の仕事 \(W\)、熱量 \(Q\)、内部エネルギー変化 \(\Delta U\) を求める。

ステップ1:各過程で熱力学第一法則を適用

各過程について、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を立てます。ここで \(W \gt 0\) は外部から仕事をされる(圧縮)、\(W \lt 0\) は外部に仕事をする(膨張)を意味します。

ステップ2:仕事を p-V 図から読み取る

気体が外部にした仕事は、p-V 図で曲線の下の面積に等しい。

ステップ3:内部エネルギー変化を求める

理想気体では内部エネルギーは温度のみに依存する。

ステップ4:熱効率を求める

サイクル1周で気体が外部にした正味の仕事 \(W_\text{正味}\)(= p-V 図で囲まれた面積)と、吸収した熱量の合計 \(Q_\text{吸}\) から熱効率を求めます。

$ e = \frac{W_\text{正味}}{Q_\text{吸}} = \frac{\text{囲まれた面積}}{\text{吸収した熱量の合計}} $

注意:\(Q_\text{吸}\) は各過程で吸収した熱量(\(Q \gt 0\) のもの)だけの合計。放出した熱量は含めない。

🔑 まとめ