物理基礎 > 第2編 熱 > 第1章 熱とエネルギー
「のこぎりで木を切ると熱くなる」——仕事は熱に変わり、熱は仕事に変わる。
のこぎりで木を切ると、摩擦によって刃も木も熱くなります。あらい面で物体をすべらせると、物体の運動エネルギーが減少し、接触面の温度が上がります。力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されたのです。
ジュール(1818-1889)は、おもりを落下させて羽根車を回し、水の温度上昇を測る実験を行いました。その結果、仕事 \(W\) と熱量 \(Q\) が比例することを確かめ、熱はエネルギーの一つの形態であることを示しました。
条件:\(Q = 100\) J、気体が外部にした仕事 \(W' = 40\) J
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W'\) より
$$ \Delta U = Q - W' = 100 - 40 = 60 \text{ J} $$答え:\(\Delta U = 60\) J
ジュールは電気、摩擦、圧縮など様々な方法で仕事と熱量の関係を調べ、いずれも 1 cal ≒ 4.2 J という同じ値を得ました。この結果はエネルギー保存則の確立に大きく貢献しました。仕事のエネルギー単位「ジュール」は彼に由来します。
熱と仕事が相互に変換できることがわかりました。では、気体に熱を加えたり仕事をしたりすると、気体の「持っているエネルギー」はどう変わるのでしょうか。「気体に加えた熱は、内部エネルギーの増加と外部への仕事に使われる」——エネルギー保存の法則を熱の世界に拡張します。
物質を構成する粒子は熱運動による運動エネルギーと、粒子間にはたらく力による位置エネルギーをもっています。これらの総和を内部エネルギーといいます。
気体の状態変化(等圧・等積・等温・断熱)によって、仕事Wや内部エネルギー変化ΔUの関係が変わります。P-V図で各変化を確認しよう。
力学的エネルギー保存則は「保存力以外の力が仕事をしないとき」成り立ちましたが、摩擦がある場合は力学的エネルギーが減少します。しかし失われた分は熱エネルギー(内部エネルギーの増加)に変わっており、広い意味でのエネルギー保存則(熱力学第一法則)は常に成り立ちます。
熱力学第一法則はエネルギーの「量」の保存を示しましたが、実は変化の「方向」には制限があります。「こぼれたコーヒーは自然にはカップに戻らない」——自然界の変化には一方通行の性質があり、これが熱機関の効率に限界をもたらします。
摩擦で発生した熱は、自然に元の力学的エネルギーには戻りません。高温の物体から低温の物体へ熱は移動しますが、その逆は自然には起こりません。このように自然に逆戻りしない変化を不可逆変化といいます。
| 変換 | 具体例 | 方向性 |
|---|---|---|
| 力学的 → 熱 | 摩擦で手が温まる、ブレーキ | 自然に起こる |
| 熱 → 力学的 | 蒸気機関、内燃機関 | 熱機関が必要 |
| 電気 → 熱 | 電熱器、ドライヤー | 自然に起こる |
| 熱 → 電気 | 火力発電(熱→力学→電気) | 装置が必要 |
| 化学 → 熱 | 燃焼、体内の代謝 | 自然に起こる |
熱を仕事に変換する装置を熱機関(エンジン)といいます。高温の熱源から熱 \(Q_1\) を吸収し、仕事 \(W\) をして、低温の熱源に熱 \(Q_2\) を放出します。
熱効率は必ず 1(100%)より小さい。熱をすべて仕事に変換する熱機関は存在しない(熱力学第二法則)。
「熱は高温から低温にしか流れない」の意味
熱力学第2法則は「自発的に低温物体から高温物体へ熱が移動することはない」と述べます。エアコンや冷蔵庫は低温→高温に熱を運びますが、コンプレッサーで仕事(電気エネルギー)を使っているため第2法則に反しません。仕事なしに「勝手に」冷たい方から熱い方に熱が流れることはありません。
第1種永久機関(エネルギーを無から生み出す装置)は熱力学第1法則に反します。第2種永久機関(熱を100%仕事に変える装置)は第2法則に反します。カルノーが示した理想的な熱機関でも効率は \(\eta = 1 - T_L/T_H\) であり、絶対零度の低温源がない限り100%にはなりません。
ガソリンエンジンの熱効率は約 30〜40%。残りの 60〜70% は排気ガスやラジエーターから熱として捨てられています。ハイブリッド車やディーゼルエンジンは効率改善の工夫がされていますが、100% にはなりません。
熱力学第1法則 \(\Delta U = Q - W\) は微小変化では:
$$ dU = \delta Q - \delta W = \delta Q - p\,dV $$
\(\delta Q\) と \(\delta W\) には \(d\) でなく \(\delta\) を使うのは、熱と仕事は経路に依存する量(状態量ではない)だからです。一方、内部エネルギー \(U\) は状態量なので \(dU\) と書けます。この区別は大学物理で重要になります。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
熱機関が高温源から \(Q_1\) の熱を吸収し、低温源に \(Q_2\) の熱を排出するとき、熱効率は \(\eta = \frac{W}{Q_1} = \frac{Q_1 - Q_2}{Q_1} = 1 - \frac{Q_2}{Q_1}\) です。入試では p-V 図で示されたサイクルについて各過程の仕事と熱量を計算し、熱効率を求める問題が出ます。
問題設定:理想気体が p-V 図上でサイクル(例:A→B→C→A)を描くとき、各過程の仕事 \(W\)、熱量 \(Q\)、内部エネルギー変化 \(\Delta U\) を求める。
各過程について、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を立てます。ここで \(W \gt 0\) は外部から仕事をされる(圧縮)、\(W \lt 0\) は外部に仕事をする(膨張)を意味します。
気体が外部にした仕事は、p-V 図で曲線の下の面積に等しい。
理想気体では内部エネルギーは温度のみに依存する。
サイクル1周で気体が外部にした正味の仕事 \(W_\text{正味}\)(= p-V 図で囲まれた面積)と、吸収した熱量の合計 \(Q_\text{吸}\) から熱効率を求めます。
$ e = \frac{W_\text{正味}}{Q_\text{吸}} = \frac{\text{囲まれた面積}}{\text{吸収した熱量の合計}} $
注意:\(Q_\text{吸}\) は各過程で吸収した熱量(\(Q \gt 0\) のもの)だけの合計。放出した熱量は含めない。