「ギターの弦を押さえる位置を変えると音の高さが変わる」——弦や管の中で生じる定常波の仕組みと,共鳴の原理を学ぼう。
ギターの弦を押さえる位置を変えると音の高さが変わります. フルートの穴をふさぐと違う音が出ます. この節では,弦楽器や管楽器のように「弦や管」で音を出す楽器にしぼり, 弦や管の中で定常波が生じる仕組みと,それによって決まる音の高さについて学びましょう.
このページで扱う弦楽器・管楽器では,はい—はっきりした高さの音(音程)が出ているとき,弦や管の中では定常波ができています. 弦の両端や管の端で波が反射し,入射波と反射波が重なることで定常波が生じ,その「モード」が音の高さを決めています.
太鼓やシンバルなど,板や膜を振動させる楽器では,定常波のでき方(節や腹の形)が違います.ここでは「1本の弦」と「まっすぐな管」の場合を学びます.
発音体の振動と共鳴の概要がわかったところで、まずは弦楽器の音の仕組みに注目します。弦の中でどのような定常波ができるのか、基本振動と倍振動を見ていきましょう。
ギターの弦をはじくと,弦の上を波が伝わります. 波は弦の両端(固定端)で反射し,行ったり来たりを繰り返します. このとき,入射波と反射波が重なり合って定常波が生じます.
弦の両端は固定されているので動けません. つまり,弦の両端は必ず定常波の節になります. このような条件を満たす振動を固有振動といい, そのときの振動数を固有振動数といいます.
弦の長さを \(l\) [m],弦を伝わる波の速さを \(v\) [m/s] とします.
【Step 1】弦の長さと波長の関係
定常波の節と節の間隔は半波長(\(\frac{\lambda}{2}\))です. 弦の両端が節なので,弦の長さ \(l\) の中に「半波長」がぴったり整数個入る必要があります.
半波長が \(m\) 個入るとすると(\(m = 1, 2, 3, \cdots\))
【Step 2】波長を求める
上の式を \(\lambda_{\mathrm{m}}\) について解くと
【Step 3】振動数を求める
波の基本式 \(v = f\lambda\) より,\(f = \dfrac{v}{\lambda}\) なので
スライダーで倍振動の次数 \(n\) と張力 \(T\) を変えて,弦の振動モードと固有振動数の変化を観察しよう。 節(緑)と腹(橙)の位置にも注目。
条件:\(L = 0.60\) m、\(v = 300\) m/s、基本振動
波長:\(\lambda = 2L = 2 \times 0.60 = 1.2\) m
$$ f = \frac{v}{\lambda} = \frac{300}{1.2} = 250 \text{ Hz} $$答え:\(f = 250\) Hz
\(m = 1\) の場合を基本振動といい, その振動数 \(f_1 = \dfrac{v}{2l}\) を基本振動数といいます.
\(m = 2, 3, \cdots\) の場合をそれぞれ2倍振動,3倍振動,…といい, まとめて倍振動といいます. このとき生じる音を倍音といいます.
基本振動数の式 \(f_1 = \dfrac{v}{2l}\) から,弦が短いほど高い音が出ることがわかります. ギターで弦を押さえると音が高くなるのは,このためです.
なお,実際に弦をはじいたときには基本振動だけが鳴るわけではありません. 基本振動と複数の倍振動(倍音)が同時に起こり,それらの強さのバランスが音色(同じ高さでもギターとピアノで違って聞こえる理由)を決めています. 私たちが感じる「音の高さ」は,主に基本振動数で決まります.
ギターの弦の振動数は \(f = \frac{1}{2L}\sqrt{\frac{T}{\mu}}\) で決まります。チューニングペグを回して張力 \(T\) を変えて音程を合わせます。フレットを押さえると弦の有効長 \(L\) が短くなり音が高くなります。太い弦(\(\mu\) が大きい)は低い音、細い弦は高い音を出します。
古代ギリシャの数学者ピタゴラスは,弦の長さの比が簡単な整数比(2:1,3:2など)のとき, 美しい和音になることを発見しました. これが西洋音楽の音階の起源となり,「音楽は数学である」という考え方につながりました.
弦の固有振動数は波の速さと弦の長さで決まることがわかりました。では、弦を伝わる波の速さ自体は何によって変わるのでしょうか。張力と線密度の関係を学びます。
弦を伝わる波の速さは,弦の張力 \(S\) [N] と線密度 \(\rho\)(単位長さあたりの質量 [kg/m])で決まります.次の式の空欄を埋めましょう.
張力が大きいほど,また弦が軽い(線密度が小さい)ほど,波は速く伝わります.ギターで弦を強く張ると高い音が出やすくなるのは,\(v\) が大きくなり基本振動数 \(f_1 = v/(2l)\) が増えるためです.
軽い弦に張力 \(S\) を加えたとき,弦に沿った方向に伝わる波の速さを求めます.
【Step 1】弦の微小部分に働く力
弦の長さ \(\Delta x\),線密度 \(\rho\) の微小部分の質量は \(m = \rho \Delta x\) です. 弦が曲がっているとき,張力 \(S\) の両端からの力の「弦に垂直な成分」の合力が,この部分を加速度 \(a = \dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2}\) で動かします.
【Step 2】運動方程式
曲がりが十分小さいとき,垂直方向の合力の大きさは \(S \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2} \Delta x\) と近似できます(\(y\) は弦の変位). 運動方程式 \(m a = F\) より $$ \rho \Delta x \cdot \frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = S \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \Delta x $$
【Step 3】波動方程式と波の速さ
両辺を \(\rho \Delta x\) で割ると $$ \frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = \frac{S}{\rho} \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} $$ これは波動方程式 \(\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2}\) の形なので,波の速さは $$ v = \sqrt{\frac{S}{\rho}} $$ となります.
弦の振動を学んだので、次は管楽器の音の仕組みです。管の中の空気(気柱)にも定常波ができますが、開管と閉管で振動の条件が異なります。
フルートやクラリネットなどの管楽器は,管の中の空気(気柱)が振動して音を出します. 管の端の状態によって,以下の2種類に分けられます.
管の端が閉じていると空気は動けないので節に, 開いていると空気が自由に動けるので腹になります.
管の長さを \(L\) [m],音速を \(V\) [m/s] とします. 閉管では閉口端が節,開口端が腹になります.
【Step 1】管の長さと波長の関係
節と腹の間隔は4分の1波長(\(\frac{\lambda}{4}\))です. 管の長さ \(L\) の中に4分の1波長が奇数個入る必要があります(1個,3個,5個,…).
※ \(2m - 1\) は奇数を表します(\(m=1\)で1,\(m=2\)で3,\(m=3\)で5,\(\ldots\))
【Step 2】波長と振動数を求める
→ 閉管では基本振動数 \(f_1 = \dfrac{V}{4L}\) の奇数倍のみが生じる
開管では両端が腹になります.
【Step 1】管の長さと波長の関係
腹と腹の間隔は半波長(\(\frac{\lambda}{2}\))です. 管の長さ \(L\) の中に半波長が整数個入る必要があります(1個,2個,3個,…).
【Step 2】波長と振動数を求める
→ 開管では基本振動数 \(f_1 = \dfrac{V}{2L}\) のすべての整数倍が生じる
パイプオルガンには閉管と開管の両方が使われています. 同じ長さなら,閉管は開管の半分の振動数(1オクターブ低い音)を出せるので, 低い音を出すパイプを短くでき,コンパクトに設計できます. 世界最大級のパイプオルガンには数万本ものパイプが使われています.
気柱の公式では管の長さ \(L\) を使いましたが、実際の管楽器では理論通りの音にならないことがあります。開口端で生じるわずかなずれ「開口端補正」を学びましょう。
これまでの議論では,開口端でぴったり「腹」ができると考えてきました. しかし,実際には腹の位置は管口より少し外側にあります.
これは,管の中で振動する空気が管口を飛び出してから折り返すためです. この管口から腹の位置までの長さを開口端補正(記号:\(\Delta\))といいます.
開口端補正 \(\Delta\) は管の半径 \(r\) に比例し,\(\Delta \allingdotseq 0.6r\) 程度であることが知られています. よって,より正確な固有振動数の計算では,管の長さ \(L\) を「実効長」\(L + \Delta\)(閉管)または \(L + 2\Delta\)(開管)に置き換える必要があります.
気柱の共鳴実験で、管口で空気が少し外にはみ出して振動するため、実際の腹の位置は管口より少し外側にずれます。この補正量 \(\Delta l \allingdotseq 0.6r\)(\(r\):管の半径)を無視すると、実験から求めた波長が正確ではなくなります。入試では「開口端補正を考慮して」と指定される場合が多いです。
実験では開口端補正の影響で,計算通りの振動数にならないことがあります. ただし,問題文で「開口端補正を無視する」と書かれている場合は,これまで通りの公式を使います.
これまで気柱の変位に注目してきましたが、音波は縦波なので圧力(密度)の変化も伴います。変位の節と腹で圧力がどう変わるか、意外な関係を確認しましょう。
気柱の固有振動は縦波の定在波です. そのため,空気の圧力(密度)が時間や場所により周期的に変化します.
ここで重要なのは,「変位」の節・腹と「圧力変化」の最大・最小の位置がずれていることです.
変位の節の両側では,空気分子が逆向きに振動しています. つまり,両側から空気が押し寄せてきたり,両側に引っ張られたりします. その結果,節の位置では空気が「ぎゅっと圧縮」されたり「ばらばらに引き伸ばされたり」して,圧力変化が最も大きくなります.
一方,変位の腹では,周囲の空気も同じ方向に動くため,空気分子の「詰まり具合」は変わりません. そのため,圧力はほとんど変化しないのです.
管楽器やパイプオルガンの音を録音するとき,マイクの位置が重要です. 管口(開口端)は変位の腹ですが,圧力変化は小さい場所. 管口から少し離れると圧力変化を効率よく拾えます. プロの録音エンジニアは,これを経験的に知っています.
弦や気柱には固有振動数がありました。外部からその振動数と同じ振動を与えると、振幅が大きくなる特別な現象が起こります。これが共振・共鳴です。
同じ振動数に調律された2つのおんさを用意し,一方をたたくと,もう一方も振動を始めます. このように,物体に固有振動数と同じ振動数の力を周期的に加えると, 振動が大きくなる現象を共振(または共鳴)といいます.
上のシミュレーションで、ブランコの固有振動数に合わせたタイミングで押すと、 振幅がどんどん大きくなることを確認できます。これが共振です。 タイミングがずれると振動はあまり大きくなりません。
管楽器で特定の音だけが強く響くのも、気柱の固有振動数と一致したときに共鳴が起こるためです。
1940年、アメリカのタコマナローズ橋が、強風を受けて大きく揺れ始め、崩壊しました。 風が橋の固有振動数に近い周期で力を加え続けた結果、振動がどんどん大きくなったと考えられています。 現在の橋は、共振を避けるよう設計されています。
弦の波動方程式 \(\frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = \frac{T}{\mu}\frac{\partial^2 y}{\partial x^2}\) から、波の速さ \(v = \sqrt{T/\mu}\) が導かれます。長さ \(L\) の弦の両端が固定されているとき、定常波の条件は \(L = n\frac{\lambda}{2}\) です。
$$ f_n = \frac{n}{2L}\sqrt{\frac{T}{\mu}} \quad (n = 1, 2, 3, \ldots) $$
基本振動 (\(n=1\)) が最も低い音で、\(n = 2, 3, \ldots\) は倍音です。弦楽器の音色の豊かさは、これらの倍音の混合比で決まります。
大学入試で頻出のテーマと解法のポイントを整理しよう。
閉管の共鳴条件は \(L + \Delta l = (2n-1)\frac{\lambda}{4}\)(\(\Delta l\):開口端補正)で、奇数倍音のみ生じます。開管は \(L + 2\Delta l = n\frac{\lambda}{2}\) で全倍音が出ます。入試では「水位を変えて共鳴点を2つ見つけ、波長を求める」問題が定番です。2つの共鳴点の差が \(\lambda/2\) になることを利用します。
問題設定:一端が閉じた管(閉管)の上部でおんさ(振動数 \(f\))を鳴らしながら水面を下げていくと、管口からの距離 \(L_1\) と \(L_2\)(\(L_1 \lt L_2\))で共鳴が起こった。
閉管の共鳴条件より、隣り合う共鳴点の差は半波長に等しいので
$ \frac{\lambda}{2} = L_2 - L_1 $
両辺を2倍して波長を求めると
$ \lambda = 2(L_2 - L_1) $
波の基本式 \(V = f\lambda\) にステップ1の結果を代入します。
$ V = f\lambda = f \times 2(L_2 - L_1) = 2f(L_2 - L_1) $
1番目の共鳴点では、基本振動の条件 \(L_1 + \Delta l = \dfrac{\lambda}{4}\) が成り立ちます。\(\Delta l\) について解くと
$ \Delta l = \frac{\lambda}{4} - L_1 $
ステップ1の \(\lambda = 2(L_2 - L_1)\) を代入すると
$ \Delta l = \frac{2(L_2 - L_1)}{4} - L_1 = \frac{L_2 - L_1}{2} - L_1 = \frac{L_2 - 3L_1}{2} $
注意:開口端補正 \(\Delta l\) は \(\lambda\) に依存せず、管の形状(半径)で決まるため、同じ管なら振動数を変えても一定である。
弦の固有振動数を、弦の物理量(張力 \(S\)、線密度 \(\mu\)、長さ \(l\))で表す。
張力 \(S\)、線密度 \(\mu\) の弦を伝わる横波の速さは
$ v = \sqrt{\frac{S}{\mu}} $
弦の両端が節なので、長さ \(l\) の中に半波長が \(m\) 個入る条件は \(l = m \cdot \dfrac{\lambda_m}{2}\) です。これを \(\lambda_m\) について解くと \(\lambda_m = \dfrac{2l}{m}\) となります。
\(v = f\lambda\) より \(f = v/\lambda\) なので、ステップ1・2の結果を代入すると
$ f_m = \frac{v}{\lambda_m} = \frac{\sqrt{S/\mu}}{2l/m} = \frac{m}{2l}\sqrt{\frac{S}{\mu}} $
特に基本振動(\(m = 1\))では
$ f_1 = \frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\mu}} $
ポイント:振動数を高くするには、弦を短くする、強く張る(張力を大きく)、細い弦(線密度を小さく)にすればよい。