「冬にドアノブを触るとバチッとくるのはなぜ?」——身近な静電気の現象を、電子の移動から理解しましょう。
空気が乾燥しているとき、衣類を脱ぐとパチパチと音がしたり、下敷きで髪をこすると髪が逆立ったりします。 これは物体が電気を帯びるために起こる現象です。
一般に、物体が電気を帯びることを帯電といい、帯電した物体に分布している流れを伴わない電気を静電気といいます。 また、電気現象を生じさせるもの(電気)を電荷といいます。
電荷には正(+)と負(−)の2種類があります。
正に帯電した電荷を正電荷、負に帯電した電荷を負電荷といいます。
下のシミュレーションで、2つの電荷の符号と大きさを変えて引力・斥力を体験しよう。
ガラス棒を絹の布でこするとガラス棒は正に帯電、絹の布は負に帯電します。 塩化ビニルのパイプを毛皮でこすると、パイプは負に帯電します。
電荷の量を電気量といい、単位にはクーロン(記号 C)を用います。 正電荷は正の電気量、負電荷は負の電気量をもちます。
陽子1個と電子1個がもつ電気量は、符号は正と負で異なりますが、大きさは等しく \(1.6 \times 10^{-19}\) C です。 これを電気素量 \(e\) といいます。帯電体がもつ電気量の大きさは、\(e\) の整数倍になります。
冬場にドアノブに触れて「バチッ」とくるのは、体に蓄積した静電気が放電するからです。乾燥した空気(湿度が低い)は電気を通しにくく、衣服と体の摩擦で生じた電荷が逃げにくいため蓄積します。人体は数千ボルトに帯電することがあり、放電時に数アンペアの瞬間電流が流れますが、時間が極めて短いため危険ではありません。
1897年、J.J.トムソンが陰極線の実験で電子を発見しました。それまで「電気とは何か」は完全には理解されていませんでした。フランクリンが「正の電気」と名付けた方が実は電子(負の電荷)の不足した状態だったため、電流の向きと電子の移動方向が逆になるという不便な慣習が残っています。
冬にドアノブに触れてパチッと感じるとき、体と金属の間の電圧は数千〜1万V以上にもなります。 しかし流れる電気量がごく微小なため、大きな危険はありません。痛みを感じるのは約3000V以上からです。
静電気の現象を見たところで、「なぜこすると電気が発生するの?」という根本的な問いに踏み込みましょう。帯電の正体は電子の移動です。原子の構造から理解します。
物質は多数の原子からできています。原子の中心には正の電荷をもつ原子核(陽子+中性子)があり、 そのまわりを負の電荷をもつ電子がとりまいています。
電気を帯びていない中性の原子では、陽子の数と電子の数が等しくなっています。
2つの物体をこすり合わせると、物体の表面間で電子の移動が起こります。 一方の表面付近の原子が電子を得て負に帯電し、他方は電子を失って正に帯電します。
つまり、帯電とは新たに電気が生まれるのではなく、電子が物体間を移動するだけの現象です。
条件:\(q = 2.0\) C、\(E = 500\) V/m
$$ F = qE = 2.0 \times 500 = 1000 \text{ N} $$答え:\(F = 1000\) N(= 1.0 kN)
原子が電子を放出したり取り込んだりして電気を帯びた粒子をイオンといいます。 電子を放出して正の電気を帯びたものを陽イオン、 電子を取り込んで負の電気を帯びたものを陰イオンといいます。
物質を「こすり合わせたとき正に帯電しやすい順」に並べたものを帯電列といいます。 一般的な並び(正→負):毛皮 → ガラス → 絹 → 木綿 → 金属 → ゴム → 塩化ビニル。 帯電列で離れた物質どうしほど、こすったときに大きく帯電します。
摩擦による帯電は「接触して電子が移動する」ものでした。しかし実は、帯電体を近づけるだけで触れていない物体にも電荷の偏りが生じます。この現象(静電誘導)と、それを利用した検出器を学びましょう。
金属のように電気をよく通す物質を導体といいます。金属には、金属内を自由に動きまわれる電子(自由電子)が存在し、 電流は自由電子の移動によって生じます。
一方、電気を通しにくい物質を不導体(絶縁体)といいます。 アクリル、塩化ビニル、ゴム、ガラスなどが不導体の例です。 不導体では電子がすべて構成粒子に属し、自由電子が存在しないため電気を通しにくくなります。
また、ケイ素(Si)などのように電気の通しやすさが導体と不導体の中間のものを半導体といいます。
| 導体 | 半導体 | 不導体(絶縁体) | |
|---|---|---|---|
| 自由電子 | 多い | 少ない | ほぼなし |
| 電気の通しやすさ | 通しやすい | 中間 | 通しにくい |
| 例 | 銅、鉄、アルミ | ケイ素、ゲルマニウム | ガラス、ゴム、塩化ビニル |
| 温度と抵抗 | 温度↑で抵抗↑ | 温度↑で抵抗↓ | 非常に大きい |
導体に帯電体を近づけると、帯電体に近い側の表面には帯電体と異種の電荷が現れ、 遠い側の表面には帯電体と同種の電荷が現れます。 この現象を静電誘導といいます。
自由電子が静電気力によって移動するために静電誘導が起こります。
下のシミュレーションで、静電誘導と箔検電器のしくみを確認しよう。帯電棒の距離を変えると、導体内の電荷の偏りと箔の開きが変化します。
静電誘導は導体で起こる現象です。自由電子が移動できるからこそ、電荷が偏ります。 不導体では自由電子がないため、代わりに誘電分極(構成粒子内の電子のずれ)が起こります。
物体が帯電しているかどうかを調べる装置に箔検電器があります。 金属円板・金属棒・2枚の金属箔からなり、帯電体を金属円板に近づけると静電誘導によって箔に同種の電荷が集まり、 箔が互いに反発して開きます。
不導体の電子は構成粒子から離れませんが、帯電体を近づけると静電気力によって電子の位置がわずかにずれます。 これを分極といいます。不導体に生じる静電誘導の現象を特に誘電分極といい、 不導体のことを誘電体ともいいます。
風船を髪でこすって壁に押し付けると、風船がくっつきます。 これは帯電した風船が壁(不導体)に誘電分極を起こし、近い側に異種の電荷が現れて引力が生じるためです。
摩擦帯電でも静電誘導でも、電子が「移動」しているだけで消えたり生まれたりはしていませんでした。帯電の前後で電気量の総和はどう変わるのか、自然界の基本法則を確認しましょう。
物体が帯電するときは、物体どうしが電気をやりとりするだけであり、新たに電気が生み出されたり失われたりすることはありません。 帯電の前後で電気量の総和は変わりません。これを電気量保存の法則といいます。
たとえばガラス棒を絹の布でこすると、ガラス棒が \(+Q\) の電気量をもつとき、絹の布は \(-Q\) の電気量をもちます。 合計は \(+Q + (-Q) = 0\) で、こする前と変わりません。
| ガラス棒 | 絹の布 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 摩擦前 | 0 | 0 | 0 |
| 摩擦後 | +Q | −Q | 0 |
雷は雲の中の氷の粒どうしの衝突で帯電が起こり、雲の上部が正、下部が負に帯電することで発生します。 地面との間で放電(落雷)が起こりますが、全体としての電気量は保存されています。 1回の落雷で移動する電気量は約5 C、電圧は数億Vにもなります。
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接触帯電・摩擦帯電・静電誘導の違いを正確に理解することが重要です。静電誘導では電荷が移動するだけで、全体の電荷量は変わりません。箔検電器の実験で「帯電体を近づける→アースする→帯電体を遠ざける」の手順で逆符号の帯電が残る仕組みが頻出です。
負に帯電させる手順:
1. 正に帯電した棒を金属板に近づける → 静電誘導で金属板側に負電荷、箔側に正電荷 → 箔が開く
2. 金属板に指で触れる(アース) → 箔側の正電荷が人体を通じて逃げる → 箔が閉じる
3. 指を離す → 負電荷だけが残る
4. 帯電棒を遠ざける → 残った負電荷が全体に分布 → 箔が開く(負に帯電)
ポイント:帯電棒と逆符号に帯電する。手順の順序を間違えないこと。
電子 \(n\) 個が移動したときの電気量 \(Q\) は、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C を用いて次のように求められます。
$ Q = ne $
例:\(1.0 \times 10^{10}\) 個の電子が移動した場合、
$ Q = 1.0 \times 10^{10} \times 1.6 \times 10^{-19} = 1.6 \times 10^{-9} \text{ C} = 1.6 \text{ nC} $