物理基礎 > 第5編 物理学と社会 > 第1章 エネルギーの利用
「私たちの暮らしはどんなエネルギーに支えられている?」——エネルギーにはさまざまな種類があり、互いに変換できることを学びましょう。
これまでに学んだ力学的エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギーのほかにも、いろいろな種類のエネルギーがあります。 エネルギーとは、他の物体に仕事をする能力のことです。
| エネルギーの種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 力学的エネルギー | 運動エネルギーと位置エネルギーの総和 | 落下する物体、振り子 |
| 熱エネルギー | 分子の熱運動によるエネルギー | 火、温泉 |
| 電気エネルギー | 電気のもつエネルギー | 電池、発電機 |
| 光エネルギー | 光のもつエネルギー | 太陽光、LED |
| 化学エネルギー | 物質がもつエネルギー | 食物、燃料 |
| 核エネルギー | 原子核がもつエネルギー | 原子炉、太陽 |
食品の「カロリー」は化学エネルギーの量を表します。おにぎり1個(約 170 kcal)のエネルギーは約 712 kJ。これは 70 kg の人が 100 m の高さまで階段を登るのに必要な位置エネルギー(約 69 kJ)の約 10 倍です。ただし人体のエネルギー変換効率は約 25% なので、実際に使えるのは一部です。
さまざまなエネルギーの種類がわかりました。これらは互いに形を変えることができますが、「エネルギーは消えてなくなるのか?」——エネルギーの変換と保存則を理解しましょう。
いろいろな形のエネルギーは、互いに移り変わることができます。
エネルギーの変換においては、それに関係したすべてのエネルギーの和が一定に保たれます。これをエネルギー保存則といいます。
▲ ボールの落下で位置エネルギーと運動エネルギーの変換を観察しよう(合計は常に一定!)
第1編で学んだ「力学的エネルギー保存則」は、エネルギー保存則の特別な場合です。摩擦がある場合は力学的エネルギーの一部が熱エネルギーに変わりますが、すべてのエネルギーを合計すれば総量は変わりません。
エネルギーの総量は保存されることがわかりました。しかし、変換のたびに一部は熱として散逸し、目的の形にすべてを変えることはできません。「エネルギーはすべて有効に使えるのか?」——変換効率と不可逆変化の概念を学びましょう。
エネルギーを変換するとき、目的のエネルギーに変換される割合を変換効率(または熱効率)といいます。
現実のエネルギー変換では、必ず一部が熱エネルギーなどとして散逸するため、変換効率は100% にはなりません。
| 変換装置 | 変換の種類 | 効率の目安 |
|---|---|---|
| 火力発電(従来型) | 化学 → 熱 → 力学 → 電気 | 約 40% |
| 火力発電(複合サイクル) | 化学 → 熱 → 力学 → 電気 | 約 50% 以上 |
| 白熱電球 | 電気 → 光 | 約 5% |
| LED | 電気 → 光 | 約 30 ~ 50% |
| 太陽電池 | 光 → 電気 | 約 15 ~ 25% |
| 電気モーター | 電気 → 力学 | 約 90% |
力学的エネルギーは摩擦などによって容易に熱エネルギーに変わりますが、熱エネルギーを完全に力学的エネルギーに戻すことはできません。このように、自然界のエネルギー変換には方向性があり、逆向きに完全に戻せない変化を不可逆変化といいます。
エネルギー保存則によりエネルギーの総量は不変ですが、不可逆変化により利用しやすいエネルギーは一方的に減少していきます。これがエネルギー問題の本質です。
▲ 摩擦のある面でボールが減速するようすを観察。力学的エネルギーは熱に変わり、元には戻らない
外部からエネルギーを供給せずに動き続ける「永久機関」は、エネルギー保存則(第一種永久機関の不可能性)と不可逆変化の法則(第二種永久機関の不可能性)により、原理的に不可能です。歴史上多くの人が挑戦しましたが、すべて失敗しています。
白熱電球は電気エネルギーの約 95% を熱として捨て、光に変わるのはわずか 5% です。LED は半導体の電子の遷移で直接光を出すため、熱への損失が少なく、効率が格段に高くなります。2014 年には青色 LED の発明で赤崎勇・天野浩・中村修二がノーベル物理学賞を受賞しました。
共通テストでは「エネルギー保存」「変換効率」「不可逆変化」が頻出。数値計算だけでなく、概念理解も問われる。
ある火力発電所で、1.0 kg の石炭(発熱量 \(3.0 \times 10^7\) J/kg)を燃焼させたところ、最終的に \(1.2 \times 10^7\) J の電気エネルギーが得られた。この発電所の総合効率を求めよ。
【解法】
投入したエネルギー:
$ Q_{\text{in}} = 1.0 \times 3.0 \times 10^7 = 3.0 \times 10^7 \text{ J} $得られた電気エネルギー:\(W = 1.2 \times 10^7\) J
総合効率:
$ \eta = \frac{W}{Q_{\text{in}}} = \frac{1.2 \times 10^7}{3.0 \times 10^7} = 0.40 = 40 \% $ポイント:残り60%は排熱・摩擦・送電損失などで失われる。火力発電の効率は実用的に35〜45%程度で、これは熱力学第二法則の制約による本質的な限界。
滑らかでない水平面で、質量 \(m = 2.0\) kg の物体を初速 \(v_0 = 3.0\) m/s で押し出したところ、\(L = 4.5\) m 進んで止まった。失われた運動エネルギーと、発生した熱エネルギーの関係を示せ。
【解法】
初めの運動エネルギー:
$ K_0 = \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2} \times 2.0 \times 3.0^2 = 9.0 \text{ J} $止まったので運動エネルギーは0になった。失われた 9.0 J は摩擦により熱エネルギーに変換された(エネルギー保存)。
ポイント:運動 → 熱 の変換は自発的に起こるが、熱 → 運動への逆変換は自発的には起こらない。これが不可逆変化の典型例で、エネルギーは保存されるが「質」は劣化している。
身近な装置でエネルギーがどのように変換されているかを、チェーンで表現する問題が頻出。
ポイント:変換段数が少ないほど総合効率が高くなる傾向がある。各段の効率が掛け合わされるため。