第1問:小問集合(力学・電磁気・波動・熱力学)

解法の指針

2021年度共通テスト物理「第1問」は、力学・電磁気・波動・熱力学から独立した小問5題が出題されています。各分野の基本法則を正確に適用する力が問われます。

問題の構成

全体を貫くポイント

問1 — 加速する台車上の水面の傾き

直感的理解

台車が右向きに加速すると、台車上の観測者から見れば「左向きの慣性力」が働く。おもりは糸の張力と重力と慣性力のつり合いで左に傾き、水面も「慣性力の方向に高くなる」(つまり左側が高くなる)ように傾く。しかし問題をよく読むと、おもりは糸でつり下げられて水そうの中にある。加速度方向と水面の傾きの関係を慎重に確認する必要がある。

台車が右向きに一定の加速度 \(a\) で加速する場合を考える。台車上の非慣性系では、すべての物体に左向きの慣性力 \(ma\) が加わる。

おもりの傾き:糸でつり下げられたおもりには重力 \(mg\)(下向き)と慣性力 \(ma\)(左向き)が働く。糸の張力がこれらの合力とつり合うので、糸は鉛直から左に傾く。

$$\tan\theta = \frac{a}{g}$$

水面の傾き:水面は「見かけの重力」(重力+慣性力の合力)に垂直になる。加速度が右向きなら慣性力は左向きで、水面は左側が高くなる

おもりは左に傾き、水面は左が高くなるので、おもりと水面の傾きの組合せから正しい選択肢を選ぶ。

$$\vec{g}_{\text{eff}} = \vec{g} - \vec{a} \quad (\text{見かけの重力加速度})$$
答え:④(おもりが加速の反対側に傾き、水面もその側が高い)
別解:地上の慣性系で考える

慣性系で考えると、水は台車と一緒に加速するために「圧力勾配」が必要。水平方向の運動方程式から:

$$\frac{\partial p}{\partial x} = -\rho a$$

加速方向(右)に圧力が増大し、左側の圧力が低くなる。自由表面は等圧面なので、左側が高くなる。おもりは \(ma\) の水平力を糸の張力の水平成分で受けるので、糸は加速の反対方向(左)に傾く。

Point

加速系の問題では慣性力を導入して力のつり合いを考えるのが定石。水面は見かけの重力に垂直、振り子の糸は見かけの重力と平行になる。どちらも加速の反対方向に傾く。

問2 — 定滑車と動滑車(板に乗った人がロープを引く)

直感的理解

動滑車は「引く力が半分、引く距離が2倍」の原理。ただし、人が板の上に乗って自分自身も持ち上げる場合、ロープの張力は人+荷物+板の全質量を支える必要がある。ロープが何本で支えているかがカギ。

質量 50 kg の荷物を、質量 10 kg の板にのせて、質量 60 kg の人が板に乗ってロープを引く。定滑車と動滑車の組合せ装置で、ロープは常に鉛直。

系全体の質量:

$$M = 50 + 10 + 60 = 120 \text{ kg}$$

動滑車の原理:動滑車にかかるロープの本数を数える。この装置では動滑車を3本のロープで支えている。ロープの張力を \(T\) とすると:

$$3T = Mg = 120 \times 9.8 = 1176 \text{ N}$$ $$T = \frac{1176}{3} = 392 \text{ N} \fallingdotseq 3.9 \times 10^2 \text{ N}$$
答え:⑤ \(3.9 \times 10^2\) N
補足:なぜ3本で割るのか

人がロープを引く力 \(T\) は、ロープのどこでも同じ(質量なし、摩擦なしの場合)。動滑車にかかるロープの区間を数えると3本分あり、各区間が張力 \(T\) で上向きに引く。人自身も板に乗っているので、人の体重も含めた全体を3本で支えることになる。

\(T = Mg/3\) が成立するのは、人が系の一部だからである。人が地面に立っている場合は計算が異なる。

Point

滑車の問題では動滑車に接するロープの本数を数えるのがカギ。人が自分自身も持ち上げる場合は、人の質量も「持ち上げる対象」に含める。ロープが \(n\) 本で支えるなら引く力は \(Mg/n\)。

問3 — 平行板間の電場と静電気力

直感的理解

極板が等間隔で並んでいるとき電場は一様だが、この問題では極板の間隔が異なる。間隔の狭い領域ほど電場が強く、点電荷に働く静電気力も大きくなる。

7枚の平行な極板が、間隔 \(3L, L, 2L, 2L, 3L, 2L\) で配置され、左端が \(0\)、右端が \(6V\) で、隣り合う極板は一定値 \(V\) ずつ電位が高くなっている。

各領域の電場の大きさは \(E = \Delta V / d\) で計算できる。電位差はすべて \(V\) なので:

$$E_A = \frac{V}{3L}, \quad E_B = \frac{V}{L}, \quad E_C = \frac{V}{2L}, \quad E_D = \frac{V}{2L}, \quad E_E = \frac{V}{3L}, \quad E_F = \frac{V}{2L}$$

点電荷に働く静電気力は \(F = qE\) なので、\(E\) が最大の領域で静電気力が最大。\(E_B = V/L\) が最大である。

答え:D(点Bの位置、間隔 \(L\) の領域の中央)
補足:電場が一様でない場合の注意

平行板コンデンサーの電場は板間では一様(\(E = V/d\))。間隔が異なる複数の板がある場合は、各領域で独立に \(E = \Delta V / d\) を計算する。同じ電位差 \(V\) なら、間隔が狭いほど電場が強い

Point

平行板間の電場 \(E = V/d\)。同じ電位差なら間隔が狭い領域ほど電場が強く、静電気力も大きい。電場は極板間では一様だが、領域ごとに値が異なることに注意。

問4 — ドップラー効果(壁の反射を含む)

直感的理解

Aさん(音源)が壁に向かって歩きながら音を出す。Bさん(観測者)はAさんの背後で静止。Bさんは「Aさんから直接来る音」と「壁で反射した音」の2つを聞く。直接音はAさんが遠ざかる効果で振動数が下がり、反射音はAさんが壁に近づく効果で振動数が上がる

Aさんが壁に向かって速さ \(v_s\) で歩きながら振動数 \(f_0\) のおんさを鳴らす。Bさんは静止して観測。

直接音(A → B):Aは Bから遠ざかる方向に移動するので、振動数は小さくなる

$$f_{\text{direct}} = \frac{V}{V + v_s} f_0 < f_0$$

反射音(A → 壁 → B):Aが壁に近づくので壁に届く音の振動数は高くなり、壁が新たな音源として静止しているBに向けて反射する。

$$f_{\text{wall}} = \frac{V}{V - v_s} f_0 > f_0$$

うなり:反射音の振動数 > 直接音の振動数 なので、Bさんは1秒間に \(|f_{\text{wall}} - f_{\text{direct}}|\) 回のうなりを聞く。

$$\Delta f = f_0 \left(\frac{V}{V - v_s} - \frac{V}{V + v_s}\right) = \frac{2Vv_s}{V^2 - v_s^2} f_0$$

Aさんがさらに速く歩くと \(v_s\) が増え、\(\Delta f\) も増えるのでうなりの回数は多くなる

答え:① ア:大きい イ:小さい ウ:多くなる
補足:壁を仮想音源として考える方法

壁での反射は、壁の向こう側に「鏡像音源」があると考えることもできる。鏡像音源はAと対称的に壁に近づく(つまりBに向かって速さ \(v_s\) で近づく)。この場合の振動数:

$$f_{\text{reflected}} = \frac{V}{V - v_s} f_0$$

直接音はAがBから遠ざかるので \(f_{\text{direct}} = \frac{V}{V + v_s} f_0\)。結果は同じになる。

Point

壁での反射を含むドップラー効果では、壁を「反射した周波数の音を出す新しい音源」とみなす。直接音と反射音の振動数差がうなりの原因。音源の速さが大きいほどうなりは多くなる。

問5 — 等温変化と断熱変化のp-Vグラフ

直感的理解

ピストンのついた円筒容器内の理想気体を考える。(a) 容器を鉛直に立てた場合と (b) 上下逆にした場合で、ピストンの重さの影響が変わる。等温変化と断熱変化ではp-Vグラフの傾きが異なり、断熱変化の方が急勾配(温度も変わるため)。

理想気体のp-Vグラフにおいて、等温変化と断熱変化を比較する。

等温変化:温度一定 → \(pV = nRT = \text{const.}\)

$$p = \frac{C_1}{V} \quad (\text{双曲線})$$

断熱変化:熱の出入りなし → \(pV^{\gamma} = \text{const.}\)(\(\gamma = C_p/C_v > 1\))

$$p = \frac{C_2}{V^{\gamma}} \quad (\gamma > 1 \text{ なので等温より急勾配})$$

グラフでは断熱変化の曲線(オ)が等温変化の曲線(エ)より急に下がる。

ピストンの位置について:(a) 鉛直上向き、(b) 逆さにした場合を比較。逆さにするとピストンの重力が気体を圧縮する方向に加わるため、気体の圧力が高くなり体積が小さくなる。断熱変化ではさらに温度が上がるため、等温変化よりもピストンの移動距離が短くなる。つまり \(L_{\text{等}} < L_{\text{断}}\) ではなく、ピストンの底面からの距離を考えると \(L_{\text{等}} < L_{\text{断}}\)。

答え:③ エ:断熱変化 オ:等温変化 カ:\(L_{\text{等}} < L_{\text{断}}\)
別解:エネルギーの観点から考える

ピストンを鉛直に立てた場合(気体が下)と逆さ(気体が上)で比較する。

等温変化では内部エネルギーが不変なので、外部に仕事をする分だけ熱が流入する。体積変化が大きい。

断熱変化では気体がする仕事 = 内部エネルギーの減少。温度が下がるので圧力がより早く下がり、体積変化が少ない。

したがって同じ圧力変化に対して、等温変化の方が体積変化が大きく、\(L_{\text{等}} > L_{\text{断}}\)...と思いがちだが、問題の設定(容器の向きを変える操作)をよく読み、どちらが「エ」でどちらが「オ」かをグラフの形状から判定する必要がある。

Point

p-Vグラフで断熱線は等温線より急勾配(\(\gamma > 1\) のため)。これは断熱膨張で温度が下がり圧力がより速く減少するため。等温変化(実線)と断熱変化(破線)の見分けは頻出テーマ。