この大問は、Aさんの仮説「物体の速さ \(v\) は力 \(F\) に比例し質量 \(m\) に反比例する(\(v \propto F/m\))」を実験で検証・反論し、運動量の考え方へと発展させる探究型の問題です。前半は実験条件の設定と結果の解釈、後半は運動量保存則の応用が問われます。
Aさんの仮説 \(v \propto F/m\) は「速さが力に比例し、質量に反比例する」という主張。これをグラフにすると:\(v\)-\(F\) グラフは原点を通る直線(\(m\) が大きいと傾きが小さい)、\(v\)-\(m\) グラフは反比例の双曲線(\(F\) が大きいと上側)になる。
Aさんの仮説 \(v = k \dfrac{F}{m}\)(\(k\) は比例定数)から、2種類のグラフの形を予測する。
\(v\)-\(F\) グラフ(\(m\) 一定):
\(m\) を固定すると \(v = \dfrac{k}{m} \cdot F\) となり、\(v\) は \(F\) に比例する。したがって原点を通る直線。\(m\) が大きいほど傾き \(k/m\) が小さくなるので、\(m\) 大の線ほど傾きが小さい。
\(v\)-\(m\) グラフ(\(F\) 一定):
\(F\) を固定すると \(v = \dfrac{kF}{m}\) となり、\(v\) は \(m\) に反比例する。したがって双曲線。\(F\) が大きいほど上側に位置する。
以上から、v-F は直線(m大で傾き小)、v-m は双曲線(F大で上側)の組合せを選ぶ。
①:v-F が直線で \(m\) 大の方が傾き大は \(v \propto mF\) を意味し、仮説と矛盾。v-m も直線(比例)で反比例の仮説と合わない。
③:v-F が上に凸の曲線は \(v\) が \(F\) に対して頭打ちになることを意味し、単純な比例関係の仮説と合わない。
④:v-F が上に凸の曲線は③と同じ理由で不適。双曲線は合っているが、片方が合わないので不正解。
比例・反比例のグラフの形を即座に判断する力が問われる。比例 → 原点を通る直線、反比例 → 双曲線。パラメータ(\(m\) や \(F\))が変わると「傾き」や「曲線の高さ」が変わることを確認しよう。
「力と速さの関係」を調べるには、一定の力で台車を引く必要がある。ばねばかりで引く力を測るので、引いている間ずっとばねばかりの目盛りが一定であれば「一定の力」を実現できる。また、力以外の条件(質量)は揃えなければ、力の効果だけを見ることができない。
【実験1】は「いろいろな大きさの力で力学台車を引く測定を繰り返し行い、力の大きさと速さの関係を調べる実験」である。
空欄8:一定の力で引くための条件
ばねばかりで台車を引くとき、ばねばかりの目盛りが常に一定であれば、台車に一定の大きさの力が加わっている。目盛りが次第に増加したり、台車の速さが一定になったりする条件では「一定の力」を保証できない。
空欄9:揃えるべき条件
力と速さの関係を調べたいので、力以外の変数(質量)は統制変数として固定する。したがって力学台車とおもりの質量の和を同じ値にする。
科学実験で「AとBの関係」を調べるときの基本原則:
質量を変えてしまうと、速さの変化が「力の変化のせい」なのか「質量の変化のせい」なのか区別できなくなる。
「一定の力で引く」=「ばねばかりの目盛りが常に一定」。探究実験では制御変数(変えない条件)を意識することが重要。共通テストでは実験計画の妥当性を問う問題が頻出する。
Aさんの仮説「\(v \propto F/m\)」が正しければ、一定の力 \(F\) を加えたとき速さ \(v\) は一定値になるはず。しかし実験2の v-t グラフを見ると、一定の力を加え続けた台車の速さは時間とともに増加し続けている(直線的に増加)。これはニュートンの第二法則 \(F = ma\) が示す「一定の力 → 一定の加速度 → 速度が直線的に増加」と一致し、Aさんの仮説と矛盾する。
【実験2】では、質量の異なる3つの台車(ア: 3.18 kg、イ: 1.54 kg、ウ: 1.01 kg)に同じ大きさの一定の力を加え、v-t グラフを描いた。
Aさんの仮説が正しければ:
\(v = kF/m\) なので、一定の力 \(F\) を加えると \(v\) は時間に依らず一定値のはず。v-t グラフは水平な直線になるはず。
実験結果は:
v-t グラフでは、どの質量の台車でも速さが時間とともに直線的に増加している。一定の力を加えても速さは一定にならない。
これは \(F = ma\)(ニュートンの第二法則)に従い、一定の力 → 一定の加速度 → 速さが時間に比例して増加する現象そのものである。
①「質量が大きいほど速さが大きくなっている」:グラフを見ると、質量が小さい(ウ: 1.01 kg)方が速さの増加が大きく、逆である。事実に反する。
②「質量が2倍になると速さは1/2倍」:仮説の予測としては正しい方向だが、そもそも速さが一定にならないという根本的な問題に触れていない。
③「質量による影響は見いだせない」:グラフでは質量によって傾きが明らかに異なるので、影響は見いだせる。
Aさんの仮説はアリストテレス的な運動観(力 → 速度)であり、ニュートン力学(力 → 加速度)と根本的に異なる。\(F = ma\) では一定の力は一定の加速度を生み、速さは増加し続ける。仮説の反証には「予測と実験結果の食い違い」を指摘することが重要。
運動量 \(p = mv\) に注目すると、力と運動量の関係は「力積 = 運動量の変化」つまり \(F\Delta t = \Delta p\) である。\(F\) が一定なら \(p = Ft + p_0\) となり、p-t グラフの傾き = 力 \(F\)。質量が違っても同じ力を加えているので、すべての質量で傾き(= \(F\))は同じ。
図2の v-t グラフを運動量 \(p = mv\) に変換する。v-t グラフでは各質量ごとに傾き \(a = F/m\) が異なったが、\(p\) に変換するとどうなるか。
計算:
一定の力 \(F\) が作用するとき、運動方程式 \(F = ma\) より \(a = F/m\)。速度は:
$$v(t) = at = \frac{F}{m}\,t$$運動量は:
$$p(t) = mv(t) = m \cdot \frac{F}{m}\,t = Ft$$\(m\) が消えた! 質量に依らず \(p = Ft\) となり、すべての質量で傾き \(F\)(一定)の同じ直線になる。
これは「力積 = 運動量の変化」\(F\Delta t = \Delta p\) からも直ちにわかる。同じ力 \(F\) を同じ時間 \(\Delta t\) だけ加えれば、運動量の変化量は質量に依らず同じ。
力積と運動量の関係式 \(F\Delta t = \Delta p\) を直接使う。
3つの台車すべてに同じ力 \(F\) を加えているので、時間 \(t\) 後の運動量変化は:
$$\Delta p = Ft$$初期状態で静止しているなら \(p_0 = 0\) なので \(p = Ft\)。
この式に質量 \(m\) は含まれないため、3本の線はすべて重なり、傾き \(F\) の同一直線になる。
Aさんの仮説の失敗を受けて、問題文は「速さの代わりに質量と速度で決まる運動量を用いると、物体の運動状態の変化を議論することができる」と述べている。
v-t グラフでは質量ごとに異なる直線だったが、p-t グラフでは全質量で同じ直線になる。つまり運動量を使うと「力の効果」を質量に依存しない統一的な量で記述できる。これが運動量の物理的な意義である。
力が一定のとき \(p = Ft\)。p-t グラフの傾きは力 \(F\) に等しく、質量に依存しない。v-t グラフでは質量ごとに傾きが異なるが、p-t グラフでは同じ傾きの直線に重なる。これが運動量と力積の関係の核心。
台車が水平方向に速度 \(V\) で動いているとき、台車上の装置から小球を鉛直上向きに発射する。鉛直方向の力(ばねの力)は水平方向の運動量に影響しない。発射の前後で水平方向に外力が働かないので、水平方向の運動量は保存される。しかも小球は「鉛直上向き」に発射されるので、小球の水平方向の速度成分は台車と同じ \(V\) のまま。したがって台車の速度も \(V_1 = V\) のまま変わらない。
質量 \(M_1\) の台車が速度 \(V\) で等速直線運動しており、台車上の装置から質量 \(m_1\) の小球を鉛直上向きに速さ \(v_1\) で発射する。
カギ:水平方向に外力なし
小球を発射する力は鉛直方向(上向き)であり、水平方向の成分を持たない。したがって水平方向の運動量は保存される。
発射前の水平方向の運動量:
$$p_{\text{前}} = (M_1 + m_1)V$$発射後:
小球は鉛直上向きに発射されるが、台車に乗っていた慣性から水平方向の速度成分は \(V\) のまま。つまり小球の水平速度 = \(V\)。
$$p_{\text{後}} = M_1 V_1 + m_1 V$$運動量保存則 \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\) より:
$$(M_1 + m_1)V = M_1 V_1 + m_1 V$$ $$M_1 V + m_1 V = M_1 V_1 + m_1 V$$ $$M_1 V = M_1 V_1$$ $$\therefore\; V_1 = V$$台車と一緒に動く観測者から見ると、小球は真上に発射されるだけ。水平方向の力は一切働かないので、台車の水平速度は変わらない。
地上の観測者から見ても、鉛直方向の力は水平方向の運動に影響しない。よって \(V_1 = V\)。
選択肢⑤⑥はエネルギー保存則の式だが、この問題には不適切。
理由:ばねが小球を発射する際に蓄えられたばねの弾性エネルギーが運動エネルギーに変換される。つまり力学的エネルギーは保存されない(ばねのエネルギーが加わる)ので、単純な運動エネルギー保存は成立しない。
一方、運動量保存則は「外力がなければ成立」するので、鉛直方向の内力(ばね)の有無に関係なく水平方向で成立する。
鉛直方向の力は水平方向の運動量に影響しない。「どの方向の運動量が保存されるか」を見極めるのが共通テストの定番パターン。小球の水平速度は発射前の台車の速度 \(V\) のまま変わらない点がポイント。
速度 \(V\) で水平に動く台車の上に、質量 \(m_2\) のおもりを鉛直下向きに落下させる。おもりは鉛直に落下するだけなので水平方向の速度成分は \(0\)。衝突後、台車とおもりは一体となって速度 \(V_2\) で動く。水平方向に外力がないので水平方向の運動量保存則が成立する。
質量 \(M_2\) の台車が速度 \(V\) で水平方向に等速直線運動している。そこに質量 \(m_2\) のおもりを鉛直下向きに速さ \(v_2\) で台車に衝突させ、一体となって速度 \(V_2\) で動いた。
水平方向の運動量保存則を適用:
おもりは鉛直に落下するだけなので、おもりの水平方向の速度成分は \(0\)。
衝突前の水平方向の運動量:
$$p_{\text{前}} = M_2 V + m_2 \times 0 = M_2 V$$衝突後(一体化)の水平方向の運動量:
$$p_{\text{後}} = (M_2 + m_2) V_2$$水平方向に外力がないので \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\):
$$M_2 V = (M_2 + m_2) V_2$$したがって:
$$V_2 = \frac{M_2}{M_2 + m_2}\,V \lt V$$おもりが乗ることで全体の質量が増え、水平速度は減少する。
①「\(V = V_2\)(速度不変)」:おもりが鉛直に衝突しても、おもりの水平速度は \(0\) なので台車はおもりを水平に加速しなければならない。その反作用で台車は減速する。\(V_2 = V\) にはならない。
②「\(M_2 V + m_2 v_2 = (M_2 + m_2) V_2\)」:\(v_2\) は鉛直方向の速度であり、水平方向の運動量保存に含めてはいけない。水平と鉛直を混同している。
④ エネルギー保存(\(\frac{1}{2}M_2 V^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 = \frac{1}{2}(M_2+m_2)V_2^2\)):非弾性衝突(一体化)なので運動エネルギーは保存されない。また鉛直方向の運動エネルギーと水平方向を混同している。
⑤「\(\frac{1}{2}M_2 V^2 = \frac{1}{2}(M_2+m_2)V_2^2\)」:衝突で運動エネルギーの一部が熱や変形に変わるため、保存されない。
問5と問6を比較すると、運動量保存の本質が見える。
| 問5(小球発射) | 問6(おもり落下) | |
|---|---|---|
| 力の方向 | 鉛直上向き | 鉛直下向き(重力) |
| 追加物の水平速度 | 小球: \(V\)(台車と同じ) | おもり: \(0\) |
| 台車の速度変化 | \(V_1 = V\)(変化なし) | \(V_2 < V\)(減少) |
| 理由 | 小球も水平速度 \(V\) を保持 | おもりの水平速度 \(0\) を\(V_2\) に加速する必要 |
鉛直に落下するおもりの水平方向の速度は \(0\)。これが問5(小球の水平速度 = \(V\))との決定的な違い。運動量保存則では方向ごと(成分ごと)に独立に適用する。鉛直方向の運動エネルギーを水平方向の式に混入させないこと。