等速円運動する音源と静止した観測者を扱うドップラー効果の総合問題です。円運動の力学とドップラー効果を組み合わせた良問で、幾何学的な理解がカギになります。
数値例:音速 V = 340 m/s、音源の速さ v = 20 m/s、振動数 f₀ = 440 Hz のとき、音源が近づく場合の観測振動数は 340 ÷ (340 - 20) × 440 = 340 ÷ 320 × 440 = 467.5 Hz。遠ざかる場合は 340 ÷ (340 + 20) × 440 = 340 ÷ 360 × 440 ≒ 415.6 Hz。
向心力の大きさ:質量 $m$ の物体が半径 $r$、速さ $v$ で等速円運動するとき、向心力は
$$F = \frac{mv^2}{r}$$向心力がする仕事:向心力は常に速度ベクトルに垂直な方向(円の中心方向)にはたらきます。力が変位に垂直なとき、仕事の定義 $W = F \cdot \Delta x \cdot \cos\theta$ より
$$\theta = 90° \quad \Rightarrow \quad \cos 90° = 0 \quad \Rightarrow \quad W = 0$$これは半周でも一周でも何周でも同じです。等速円運動では向心力が速さ(運動エネルギー)を変えないため、仕事は常にゼロです。
「CからDまで半周する間」と限定されているのは、受験生を「半周だから何かの計算が必要?」と迷わせる意図です。しかし向心力は常に速度に垂直なので、何分の一周でも何周でも仕事はゼロ。「常に垂直」という本質を理解していれば迷いません。
もし「向心力による位置エネルギーの変化」を問われた場合も、等速円運動では運動エネルギーが一定 → エネルギー保存より位置エネルギーも一定(円軌道が水平面内の場合)です。
等速円運動で覚えるべきことは2つ:①向心力 $= mv^2/r$(中心向き)、②向心力は速度に常に垂直なので仕事はゼロ。「力がはたらくのに仕事がゼロ」は力の向きと変位の向きが垂直な場合に起こる典型例です。
ドップラー効果の条件整理:観測される振動数 $f$ は、音源の速度の観測者方向の成分によって決まります。
音源が速さ $v$ で等速円運動しているとき、各位置での速度ベクトルは円の接線方向です。$f = f_0$ となるのは、速度ベクトルの PQ 方向(音源→観測者方向)の成分がゼロになるときです。
各点での速度の向き:
| 位置 | 速度の向き | PQ方向成分 | $f$ との関係 |
|---|---|---|---|
| A | QAに平行(近づく) | $v$(最大) | $f > f_0$(最大) |
| B | QBに平行(遠ざかる) | $-v$(最小) | $f < f_0$(最小) |
| C | OQ に垂直 | 0 | $f = f_0$ |
| D | OQ に垂直 | 0 | $f = f_0$ |
なぜ C と D で成分がゼロなのか:
接点 A での速度ベクトルは円の接線方向です。一方、QA は Q から円に引いた接線そのものなので QA $\perp$ OA。つまり「円の接線 at A」と「直線 QA」は同じ方向です。
したがって、A では速度が観測者 Q の方向にまっすぐ向かう(ドップラーシフト最大)。B では逆にQ からまっすぐ遠ざかる方向です。C, D が $f = f_0$ のポイントになるのは、そこで速度が Q 方向と完全に直交するためです。
座標系を O を原点、OQ 方向を $x$ 軸正にとります。音源の位置を角度 $\theta$ で表すと:
$$\text{音源の位置: } (r\cos\theta,\; r\sin\theta)$$ $$\text{速度: } (-v\sin\theta,\; v\cos\theta) \quad \text{(反時計回り)}$$音源から Q $(d, 0)$ への単位ベクトルの $x$ 成分方向の速度成分は:
$$v_{\text{PQ}} = \frac{-v\sin\theta \cdot (d - r\cos\theta) + v\cos\theta \cdot (-r\sin\theta)}{\sqrt{(d - r\cos\theta)^2 + r^2\sin^2\theta}}$$分子を整理すると $v_{\text{PQ}} = 0$ の条件は $\sin\theta(d\cos\theta - r) = 0$ ではなく...
簡略化のため、$\theta = 0$ (点C) と $\theta = \pi$ (点D) を代入してみましょう:
ドップラー効果 $f = f_0$ ⇔ 音源が観測者方向に「近づきも遠ざかりもしない」瞬間。等速円運動では、速度が常に半径に垂直であることを利用して、「半径が OQ 方向のとき接線は OQ に垂直 → 成分ゼロ」と判断するのが最速。
幾何学的な事実:接点 A における円の接線方向と直線 QA は同じ方向です。
ドップラー効果の公式を適用:
点 A では音源が速さ $v$ で観測者にまっすぐ近づくので
$$f_A = \frac{V}{V - v} f_0 \quad \cdots (1)$$点 B では音源が速さ $v$ で観測者からまっすぐ遠ざかるので
$$f_B = \frac{V}{V + v} f_0 \quad \cdots (2)$$$f_0$ を消去して $v$ を求める:
(1) より $f_0 = \dfrac{(V-v)f_A}{V}$、(2) より $f_0 = \dfrac{(V+v)f_B}{V}$。これらを等置すると
$$(V - v) f_A = (V + v) f_B$$ $$Vf_A - vf_A = Vf_B + vf_B$$ $$V(f_A - f_B) = v(f_A + f_B)$$ $$\boxed{v = \frac{(f_A - f_B)\,V}{f_A + f_B}}$$A では近づいているので $f_A > f_0$、B では遠ざかっているので $f_B < f_0$。よって $f_A > f_B$ であり、$v > 0$ が保証されます。
また、$v < V$(音速より遅い)という条件から $f_A - f_B < f_A + f_B$、つまり $f_B > 0$ であることも整合します。
(1)÷(2) より
$$\frac{f_A}{f_B} = \frac{V + v}{V - v}$$$f_A / f_B = k$ とおくと
$$k(V - v) = V + v \quad \Rightarrow \quad v = \frac{(k-1)V}{k+1} = \frac{(f_A/f_B - 1)V}{f_A/f_B + 1} = \frac{(f_A - f_B)V}{f_A + f_B}$$結果は同じですが、比の形で処理した方が計算ミスが起きにくいこともあります。
この問題の核心は「接点 A, B では速度が QA, QB 方向と一致する」という幾何的事実。これにより通常のドップラー公式(近づく / 遠ざかる)がそのまま使え、2式の連立で $f_0$ を消去して $v$ を求められる。$v = \frac{(f_A - f_B)V}{f_A + f_B}$ は覚えておくと便利な結果。
状況の整理:図3では音源が Q に固定、観測者が時計回りに等速円運動。
観測者が動くときのドップラー公式:
$$f = \frac{V + v_{\text{obs}}}{V} f_0$$ここで $v_{\text{obs}}$ は観測者の速度の音源方向成分(近づく方向を正)です。
各点での観測者の速度方向:
図1(反時計回り)では点 A で「近づく」、点 B で「遠ざかる」でした。図3では時計回りなので、同じ位置での速度方向が逆転します。
| 位置 | 図1(反時計・音源) | 図3(時計・観測者) |
|---|---|---|
| A | Q に近づく | Q から遠ざかる |
| B | Q から遠ざかる | Q に近づく |
| C | $f = f_0$ | $f = f_0$ |
| D | $f = f_0$ | $f = f_0$ |
A, B での速度は接線方向で大きさは $v$。接点では速度がまっすぐ音源方向( or 反対方向)なので:
図1では音源が反時計回りに回っています。点 A は「音源が観測者に近づきながら通過する」点として定義されました。このとき A での速度は QA 方向(Q に向かう)です。
図3では観測者が時計回りに回ります。幾何学的に同じ点 A を通過するとき、時計回りの接線方向は反時計回りとは逆方向です。したがって A ではQ から遠ざかる方向に動きます。
つまり「反時計回り → 時計回り」で速度の向きが逆転し、A, B の「近づく / 遠ざかる」が入れ替わります。
音源と観測者の入替え問題では、①ドップラー公式の分子・分母の役割が変わること(音源速度 → 分母、観測者速度 → 分子)、②回転方向が変わると接点での速度方向が逆転すること、の2点に注意。幾何学的な位置関係は同じでも、物理的な意味が変わる。
各文の正誤判定:
音の速さは媒質(空気)の状態で決まり、音源の運動には依存しません。観測者は静止しているので、音は常に速さ $V$ で到達します。
→ (a) は誤り(A からも B からも音速は同じ $V$)
音源は円の中心 O の周りを等速円運動しています。任意の位置での音源の速度ベクトルは、半径方向(O方向)に垂直です。つまり、O方向への速度成分は常にゼロ。
ドップラー効果がないので、O に向かう波の波長は常に
$$\lambda = \frac{V}{f_0} = \lambda_0$$→ (b) は正しい
図3では音源は Q に固定(静止)しています。音源が静止しているので、媒質中を伝わる音の速さは方向によらず $V$ です。
→ (c) は正しい
図3では音源が静止しているので、音波は全方向に同じ波長 $\lambda_0 = V/f_0$ で伝わります。点 C も点 D も波長は同じです。
→ (d) は誤り(C でも D でも波長は $\lambda_0$)
正しい文は (b) と (c)。
ドップラー効果で混乱しやすいのが「何が変わるか」です。
| 音源が動く | 観測者が動く | |
|---|---|---|
| 音速(媒質中) | 変わらない($V$) | 変わらない($V$) |
| 波長 | 変わる | 変わらない |
| 観測振動数 | 変わる | 変わる |
音源が動くと、波が圧縮・伸長されるため波長が変化します。観測者が動く場合は、波の形は変わらず、観測者が波を「受け取る頻度」が変わるだけなので波長は変わりません。
「O を通過する音波の波長」とは、音源のどの位置から発せられた音でも、O の地点で測定したときの波長が等しいかどうかを問うています。
音源が位置 P(円上の任意の点)にあるとき、PO 方向(中心方向)への音源の速度成分を $v_r$ とすると、O に向かう波の波長は
$$\lambda = \frac{V - v_r}{f_0}$$等速円運動では速度ベクトルは常に半径に垂直なので、PO 方向の速度成分は 常に $v_r = 0$ です。したがって
$$\lambda = \frac{V}{f_0} = \lambda_0 \quad \text{(一定)}$$これは O が円の中心であるからこそ成り立つ特別な性質です。O 以外の点(例えば Q)では、速度の Q 方向成分が位置ごとに異なるため、波長は一定ではありません。
ドップラー効果の本質:音速は媒質の性質(温度・密度)で決まり、音源や観測者の運動では変わらない。音源が動くと波長が変わる(波が圧縮/伸長される)。観測者が動くと波長は変わらず受信頻度だけが変わる。この違いを正確に理解しておけば、正誤問題は確実に解ける。