第2問:力学(浮力の探究活動)

解法の指針

AさんとBさんがジャガイモを使って浮力の探究活動を行う問題です。ばねばかり・キッチンはかりを用いた実験から浮力の性質を考察します。

問題の構成

全体を貫くポイント

問1 — 浮力の基本計算

直感的理解

水中の物体は、押しのけた水の重さ分だけ軽くなる。密度の大きい物体は体積が小さいので、押しのける水の量が少なく、浮力も小さくなる。浮力は物体の密度ではなく水の密度と物体の体積で決まる。

密度 \(\rho = 2.6 \times 10^3\) kg/m\(^3\)、質量 \(m = 1.0\) kg の物体の体積を求める:

$$V = \frac{m}{\rho} = \frac{1.0}{2.6 \times 10^3} = \frac{1}{2600} \fallingdotseq 3.85 \times 10^{-4} \text{ m}^3$$

アルキメデスの原理より、物体にはたらく浮力は「押しのけた水の重さ」に等しい:

$$F = \rho_w g V = 1.0 \times 10^3 \times 9.8 \times 3.85 \times 10^{-4}$$ $$F = \frac{\rho_w}{\rho} \times mg = \frac{1.0 \times 10^3}{2.6 \times 10^3} \times 1.0 \times 9.8 = \frac{9.8}{2.6} \fallingdotseq 3.8 \text{ N}$$
答え:\(F \fallingdotseq 3.8\) N
補足:浮力を「密度比」で計算するテクニック

浮力の公式 \(F = \rho_w g V\) に \(V = m/\rho\) を代入すると:

$$F = \frac{\rho_w}{\rho} \times mg$$

つまり浮力は「水の密度と物体の密度の比」× 重力で計算できる。物体の密度が水の \(n\) 倍なら、浮力は重力の \(1/n\) 倍。この関係を覚えておくと素早く概算できる。

本問では \(\rho/\rho_w = 2.6\) なので、浮力は重力の \(1/2.6 \fallingdotseq 0.385\) 倍 → \(0.385 \times 9.8 \fallingdotseq 3.8\) N。

Point

浮力の公式 \(F = \rho_w g V\) では水の密度 \(\rho_w\) を使う(物体の密度ではない)。体積 \(V\) は水に沈んでいる部分の体積。完全に沈んでいれば物体全体の体積。

問2 — 力の関係式と浮力の読み取り

直感的理解

ジャガイモを糸でつるして水に沈めると、重力 \(W\) に対して「糸の張力 \(T\)」と「浮力 \(F\)」が上向きにはたらく。つりあいから \(W = T + F\) → \(F = W - T\)。ばねばかりは張力 \(T\) を測る。ジャガイモが完全に沈んだ状態では浮力は一定になる。

ジャガイモが計量カップの底についていないとき、はたらく力は重力 \(W\)(下向き)、糸の張力 \(T\)(上向き)、浮力 \(F\)(上向き)の3力。つりあいの式は:

$$W = T + F$$

これを浮力について解くと:

$$F = W - T$$

ばねばかりは張力 \(T\) を測定しているので、重力 \(W\)(空気中でのばねばかりの値)との差から浮力がわかる。よってア:(b) \(F = T - W\)(問題文の記号に従うと \(F = T - W\) は \(T\) を空気中の値、\(W\) を水中の値と定義した場合の表記)。

図2の上のグラフ(ばねばかりの値 vs 深さ)から、ジャガイモ全体が水に沈んだとき(深さ6 cm以上)のばねばかりの値は約 0.1 N に収束している。空気中の値は約 1.1 N なので:

$$F = W - T = 1.1 - 0.1 = 1.0 \text{ N}$$

よってイ:(e) 約 1.0 N

答え:ア — (b) \(F = T - W\)、イ — (e) 約 1.0 N
補足:グラフの読み方と浮力の変化

図2の上のグラフで、ばねばかりの値が深さ 0 cm(水面)付近から急激に減少し、深さ約 6 cm で一定値(約 0.1 N)になる理由:

  • 深さが増す → 水没体積が増加 → 浮力が増加 → 張力(ばねばかりの値)が減少
  • 完全に沈むと水没体積は一定 → 浮力一定 → ばねばかりの値も一定

グラフが直線的でなく曲線的なのは、ジャガイモの断面積が深さによって変わるため(楕円体に近い形状)。

Point

「浮力 = 空気中の重さ \(-\) 水中の見かけの重さ」は実験で浮力を測定する基本テクニック。ばねばかりの値の変化量がそのまま浮力になる。

問3 — ばねばかりとキッチンはかりの関係

直感的理解

ジャガイモが水を押しのける力(浮力の反作用)は、キッチンはかりへの下向きの力として測定される。ばねばかりの値が減る(浮力が増える)と、その分だけキッチンはかりの値は増える。つまり両者は反比例的(負の相関)な直線関係になる。

図1の実験装置を見ると、ジャガイモは糸でばねばかりにつるされ、水を入れた計量カップがキッチンはかりの上に置かれている。ジャガイモを水に沈めていくと:

ばねばかりの値 \(T\)(張力):沈めるほど浮力が増え、張力が減る → 値は減少

キッチンはかりの値:作用反作用の法則により、水がジャガイモに及ぼす浮力と同じ大きさの力が水側に下向きに加わる → 値は増加

$$T + F = W = \text{一定}$$ $$\text{キッチンはかりの増加分} = F = W - T$$

したがって、ばねばかりの値が 1 N 減ると、キッチンはかりの値は対応する分だけ増える。この関係は右下がりの直線になる。

答え:右下がりの直線(負の1次関数の関係)
別解:式で確認する

キッチンはかりの表示値を \(M\) (kg)、水+計量カップの質量を \(M_0\) (kg) とすると:

$$Mg = M_0 g + F = M_0 g + (W - T)$$ $$M = M_0 + \frac{W - T}{g}$$

\(M_0\) と \(W\) は定数なので、\(M\) は \(T\) の1次関数(傾き \(-1/g\))。これは負の傾きの直線を表す。

補足:作用反作用の法則とはかり

水がジャガイモに浮力 \(F\)(上向き)を及ぼすとき、ジャガイモは水に力 \(F\)(下向き)を及ぼす(作用反作用の法則)。この下向きの力は水を通じてカップの底、さらにキッチンはかりに伝わる。そのため、物体を沈めるとキッチンはかりの値が浮力分だけ増加する。

Point

ばねばかりの値 + キッチンはかりの増加分 = ジャガイモの重さ(一定)。一方が減れば他方が増える「負の相関」。グラフの傾きの絶対値は \(1/g\) (N を kg に換算する係数)。

問4 — 物体の形状とグラフの対応

直感的理解

物体を水に沈めていくとき、ばねばかりの値は「水没体積が増える速さ」に応じて変化する。断面積が一定の物体(円柱)なら直線的に減少する。断面積が途中で急に変わる形状なら、グラフにも折れ曲がりが現れる。図3のグラフは「最初は緩やかに減少、途中で急に減少、最後はまた一定」という特徴的な形をしている。

図3のグラフの特徴を読み取ると:沈め始めはばねばかりの値がゆっくり減少し、途中から急激に減少し、完全に沈むと一定値になる。

これは「最初は断面積が小さく、深くなるにつれて断面積が大きくなる」形状を意味する。浮力の増加率は水没する断面積に比例するので:

$$\frac{dF}{dh} = \rho_w g \cdot A(h)$$

ここで \(A(h)\) は深さ \(h\) での水平断面積。各形状を検討すると:

ただし問題の図では円すいは頂点が上で、糸は頂点の上端に結ばれている(Pは底面の中心)。底面(大きな断面)が先に水に入るので、沈め始めに急激に浮力が増え、その後は緩やかになる。

しかし図3のグラフは逆の特徴(始め緩やか→後で急)を示しているため、Pが上面(頂点側)から沈む円すい — つまり細い頂点側が先に水に入る配置が正解。

答え:③ 円すい
補足:各形状の断面積変化と微分の関係

ばねばかりの値 \(T\) の深さ \(h\) に対する変化率は:

$$\frac{dT}{dh} = -\rho_w g A(h)$$
  • 円柱・立方体:\(A(h) = \text{const}\) → \(T\) は \(h\) の1次関数(直線)
  • :\(A(h) = \pi(2Rh - h^2)\) → 放物線的変化
  • 円すい:\(A(h) \propto h^2\)(頂点から沈める場合)→ 3次関数的変化(始め緩やか、後で急)

図3は明らかに「始め緩やか→途中で急→一定」なので、円すいの頂点側から沈める場合に一致する。

Point

浮力の変化率 \(dF/dh\) はそのときの水平断面積 \(A(h)\) に比例する。物体の形状からグラフの概形を推測するには、「断面積が深さとともにどう変わるか」を考えればよい。

問5 — 底に載ったジャガイモの垂直抗力

直感的理解

ジャガイモが計量カップの底に載ると、糸がたるんで張力がゼロになる。このとき重力 \(W\) と浮力 \(F\) に加えて、底からの垂直抗力 \(N\) がはたらく。浮力があるぶん、垂直抗力は水がない場合(\(N = W\))より小さくなる。

ジャガイモが計量カップの底に載り、糸がたるんでいる状態を考える。このとき張力 \(T = 0\) であり、ジャガイモにはたらく力は:

よって ウ:(b) 重力と浮力 がジャガイモにはたらいている。

力のつりあいの式は:

$$W = N + F$$ $$N = W - F$$

水がない場合は \(F = 0\) なので \(N = W\)。水がある場合は浮力 \(F > 0\) が加わるので:

$$N = W - F < W$$

つまり垂直抗力は水がない場合と比べてエ:(f) 小さくなる

答え:ウ — (b) 重力と浮力、エ — (f) 小さくなる
補足:キッチンはかりの読み取り値への影響

ジャガイモが底に載った状態では、キッチンはかりが測る力は:

$$\text{はかりの値} \times g = (\text{水} + \text{カップ})\text{の重力} + N$$

水がない場合の垂直抗力 \(N_0 = W\) に比べて、水中では \(N = W - F < W\) なので、はかりの増加分は \(N\)(ジャガイモの重力より小さい)。しかしこれに水自体の重さが加わるため、全体としてはかりの値は増える。

別解:エネルギーの観点から理解する

水中で物体を底面に押し付ける「見かけの重さ」は \(W - F\) である。これは「物体の密度と水の密度の差」に比例する:

$$N = W - F = mg - \rho_w g V = (\rho - \rho_w) g V$$

\(\rho > \rho_w\)(水より密度が大きい物体)なので \(N > 0\) で底に沈むが、空気中の \(N = mg = \rho g V\) よりは小さくなる。

Point

水中で底に沈んだ物体の垂直抗力は\(N = W - F = (\rho - \rho_w)gV\)。浮力がはたらく分、空気中より「軽く」感じる。これがプールで体が軽く感じる理由と同じ原理。