大問1(力学)— 台車内の振り子小球と棒のつり合い

解法の指針

本大問は独立した2つのテーマから成る。問1 は「なめらかな床の上の台車」と「台車天井から吊るされた振り子小球」の連成運動を扱う。外力なしの2体系なので水平方向の運動量保存が常に成立し、さらに非弾性衝突以外ではエネルギー保存も使える。問2 は水平な棒と2つの支持台のつり合い問題。支持台を押す力を変えながら静止→すべり始め→途中で停止→再始動の各相転移を静止摩擦・動摩擦の条件から判定する。

着眼点

全体を貫くポイント

問1 (1) 水平方向の運動量保存則

直感的理解
外から水平方向に力がはたらかない(床はなめらか)ので、系全体の水平運動量は静止時(=0)のまま変わらない。小球が右下に加速すれば台車は左に反動で動く——ロケットの反作用と同じ。

系に働く水平外力は 0(床なめらか、糸の張力と重力は水平成分なし/糸張力は水平成分があるが系の内力なので合計 0)。よって水平運動量は時間によらず一定。初期状態(静止)での水平運動量は 0 なので、点Aを通過する直前でも水平運動量の総和は 0。

$$m v + M V = 0$$

この式から \(V = -\dfrac{m}{M}v\) と読み取れる(台車は小球と逆向きに動く、図の左向きを負とすると \(V<0\))。

答え (1): \(\;mv+MV=0\)(水平運動量の総和は 0 で保存)
補足:外力と内力の区別

糸は小球を引き上げるが、同じ大きさの力で台車天井を下に引く。この対は系内の作用反作用なので内力であり、系全体の運動量を変えない。床からの垂直抗力は鉛直方向のみ。重力も鉛直方向のみ。よって水平方向には外力が全く働かず、水平運動量が厳密に保存される。

Point

「なめらかな床+重力のみ」という設定では、水平運動量が常に保存。\(mv+MV=0\) は静止初期条件込みの最強の拘束式で、以降すべての計算の骨格になる。

問1 (2) 点Aにおける小球の水平速度 \(v\)

直感的理解
糸は伸びないので糸の張力は仕事をしない(糸と速度が常に垂直)。床も摩擦なし。よって重力が小球にした仕事だけが系の運動エネルギーに変わる。小球が高さ \(L\) 下がった分のエネルギー \(mgL\) が、(小球+台車)の運動エネルギーに配分される。

小球は点Aで糸の最下点にいる。出発点(糸水平)から点Aまでの小球の高さの低下は糸の長さ \(L\)。力学的エネルギー保存より:

$$m g L = \frac{1}{2} m v^{2} + \frac{1}{2} M V^{2}$$

問(1)の運動量保存から \(V=-\dfrac{m}{M}v\) を代入:

$$m g L = \frac{1}{2} m v^{2} + \frac{1}{2} M \cdot \frac{m^{2}}{M^{2}} v^{2} = \frac{1}{2} m v^{2} \left( 1 + \frac{m}{M} \right) = \frac{m(m+M)}{2M} v^{2}$$

\(v^2\) について解く:

$$v^{2} = \frac{2 M g L}{m+M} \qquad \therefore \qquad v = \sqrt{\frac{2MgL}{m+M}}$$
答え (2): \(\displaystyle v = \sqrt{\frac{2MgL}{m+M}}\)
補足:\(M\to\infty\) の極限

台車が極めて重い極限では \(v\to\sqrt{2gL}\) となり、固定支点の単振り子で自由落下分の速さに戻る。これは「重い台車はほとんど動かない→小球だけが高さ \(L\) 落下」という物理的描像と一致する。逆に \(M\to 0\) の極限では \(v\to 0\)(台車が軽すぎて運動量保存が強く効き、小球がほとんど加速できない)。

Point

「運動量保存式から \(V\) を消す」→「エネルギー保存式に代入して \(v\) を求める」が 2 体系の標準手順。エネルギー配分比 \(\text{KE}_\text{ball}:\text{KE}_\text{cart} = M:m\) となる(軽いものほど速くなり、重いものほどエネルギーをもらう)。

問1 (3) 点Aにおける糸の張力 \(T\)

直感的理解
台車の立場で見ると、小球は糸の長さ \(L\) の円運動をしている。この「台車基準の相対速度」を \(u\) とすると、向心加速度 \(u^2/L\) が鉛直上向き。最下点で張力は上向き、重力は下向き。\(T-mg=m\,u^2/L\) で求まる。

小球の地面系での速度を \(v\)(右向き)、台車の速度を \(V=-\dfrac{m}{M}v\)(左向き)とすると、台車から見た小球の相対速度(水平)は:

$$u = v - V = v + \frac{m}{M} v = \frac{(m+M)}{M}\,v$$

台車系では小球は半径 \(L\) の円運動を瞬時的に行っている(糸の張力は長さ一定を拘束)。最下点Aでは遠心力が鉛直下向き、したがって向心加速度は鉛直上向きで大きさ \(u^2/L\)。台車系は加速系だが、この瞬間は鉛直方向に慣性力はない(水平のみに慣性力)ので鉛直方向の運動方程式はそのまま:

$$T - m g = \frac{m u^{2}}{L}$$

問(2) の結果 \(v^2 = \dfrac{2MgL}{m+M}\) を用いると:

$$u^{2} = \frac{(m+M)^2}{M^2}\,v^{2} = \frac{(m+M)^2}{M^2}\cdot\frac{2MgL}{m+M} = \frac{2gL(m+M)}{M}$$ $$T = m g + \frac{m u^{2}}{L} = m g + \frac{2 m g(m+M)}{M} = m g\cdot\frac{M + 2(m+M)}{M} = \frac{(3M+2m)\,m g}{M}$$
答え (3): \(\displaystyle T = \frac{(3M+2m)\,m g}{M}\)
別解:地面系のニュートン第2法則

地面系で小球の加速度を評価する。点Aでは小球は瞬間的に水平方向に動いているが、円運動の向心成分(鉛直上向き)と台車の加速度(水平)が重なる。鉛直方向の加速度 \(a_y\) は \(u^2/L\)(台車基準の相対向心加速度に等しい、鉛直方向は並進加速度がない)。従って、

$$T - mg = m\,a_y = \frac{m u^2}{L}$$

となり、同じ結果 \(T = mg(3M+2m)/M\) を得る。

Point

動く支点の振り子では「支点から見た相対速度 \(u\)」で向心力を立式する。地面系の \(v\) で \(T-mg=mv^2/L\) とやると誤り。\(u = v(M+m)/M\) の置き換えを忘れない。

問1 (4) 点Aから点Bまでの時間

直感的理解
糸を切った後、台車と小球には互いに力を及ぼさない(弾性衝突を除く)。台車は等速、小球は台車系でただの放物運動。点Aで鉛直速度 0 から落下→弾性衝突で跳ね返り→点Bで再び鉛直速度 0(壁に垂直衝突だから鉛直成分 0)。「上がって戻る」時間の 2 倍が答え

糸を切った直後、小球の地面系での速度は水平成分 \(v\) のみ(鉛直成分 0)。糸の張力は消え、小球は重力のみを受ける→放物運動。台車は外力ゼロで等速直線運動(速度 \(V\))。

台車基準では小球の水平速度は \(u=v-V=\dfrac{M+m}{M}v\) で一定、鉛直方向は点Aで初速 0、加速度 \(g\) で自由落下。Aの高さは \(h\) だから床まで落下する時間 \(t_1\) は:

$$h = \tfrac{1}{2} g t_{1}^{2} \qquad \therefore \qquad t_{1} = \sqrt{\frac{2h}{g}}$$

床との衝突は弾性衝突(反発係数 1)なので、鉛直速度の大きさは保存・向きが反転。水平速度は変わらない。床を離れた後、鉛直上向き速度 \(\sqrt{2gh}\) で上昇、点Bで再び高さ \(h\) に到達した瞬間に鉛直速度が 0 になる(壁に垂直衝突 = 鉛直成分 0)。

上昇にかかる時間も \(t_2 = \sqrt{2h/g}\) なので、A→Bの全時間は:

$$t_{AB} = t_{1} + t_{2} = 2\sqrt{\frac{2h}{g}}$$
答え (4): \(\displaystyle t_{AB} = 2\sqrt{\dfrac{2h}{g}}\) [s]
補足:なぜ「壁に垂直」が「鉛直速度 0」を意味するのか

台車の右壁は鉛直な平面(x軸に垂直な壁)。小球が壁に垂直に衝突する=速度ベクトルが壁に垂直=速度は水平方向のみ。つまり鉛直速度 0。放物運動で鉛直速度 0 になる瞬間は「上昇の頂点」だけなので、壁との衝突が頂点で起こる。これが「ちょうどB点で垂直衝突」という条件の意味。

Point

弾性衝突 (\(e=1\)) で床とぶつかると、放物運動は対称に跳ね返る。「落下時間 = 上昇時間」なので、2 倍して完了。壁に垂直に衝突=鉛直速度 0=最高到達点という置き換えがカギ。

問1 (5) 高さ \(h\) を \(m, M, L\) で表す

直感的理解
Aは台車天井の真下 (=台車の横方向中央)、Bは台車の右壁。A→B の水平移動距離 (台車基準) は台車半分の長さ \(L\)。水平速度 \(u\) は問(2)(3)で計算済。時間 \(2\sqrt{2h/g}\) は問(4)。これらを「距離 = 速度 × 時間」に放り込めば \(h\) が決まる。

台車基準での水平速度:

$$u = \frac{M+m}{M} v = \frac{M+m}{M}\sqrt{\frac{2MgL}{m+M}} = \sqrt{\frac{2g L (M+m)}{M}}$$

A→B の水平移動距離は、Aが台車天井の中央(=台車の横中央)、Bが台車右端なので:

$$\Delta x = L \quad (\text{台車半分の長さ})$$

時間 \(t_{AB}=2\sqrt{2h/g}\) を掛けて移動距離にする:

$$u \cdot t_{AB} = L \quad\Longrightarrow\quad \sqrt{\frac{2g L (M+m)}{M}} \cdot 2\sqrt{\frac{2h}{g}} = L$$

両辺を 2 乗:

$$\frac{2 g L (M+m)}{M} \cdot \frac{8 h}{g} = L^{2} \quad\Longrightarrow\quad \frac{16\,L\,h\,(M+m)}{M} = L^{2}$$

\(h\) について解く:

$$h = \frac{M\,L}{16(M+m)}$$
答え (5): \(\displaystyle h = \frac{M L}{16(m+M)}\) [m]
補足:台車が重い極限

\(M\gg m\) の極限で \(h\to L/16\)。このとき小球はほぼ固定点の振り子と同じで、着地時の水平速度 \(u\to\sqrt{2gL}\)、A→B 距離 \(L\) の放物運動が高さ \(L/16\) で収まる。一方 \(M\ll m\) では台車が軽すぎて小球がほとんど加速できず、\(h\to 0\) に漸近(小球が壁に届く前にエネルギーが枯渇)。

Point

こういう「台車上の放物運動」は必ず台車基準(=台車と一緒に動く慣性系)で考えること。床との衝突が挟まっても、台車はその間も等速で動き続けているので、台車基準で見れば単なる放物運動+弾性反射に過ぎない。

問1 (6) 壁との反発係数 \(e\)

直感的理解
Bで壁と非弾性衝突(水平速度だけ \(e\) 倍になり向きが逆になる)後、ボールは Bから左向きに \(eu\) で戻る。床との衝突は弾性で鉛直成分だけ反転するので、床の衝突間隔は常に同じ \(2\sqrt{2h/g}\)。3 回床にバウンド、4 回目にちょうど台車の左下隅Cに到達。B→C の水平距離 \(2L\) を 7 つの「半周期」で割り切って解く。

A→B の間、1 回床で弾んで B に到達した。B に到達したときの水平速度(台車系)は行きと同じ大きさ \(u\)、向きは +x。壁との衝突で水平速度は大きさが \(e u\) になり、向きが逆(-x)に反転。鉛直速度はもともと 0 だったので反転も変わらず 0。

Bを離れた後、台車基準で水平速度 \(-e u\) で等速、鉛直は A→B と同じ「上がり下がり」パターン。床との半周期(頂点→床 or 床→頂点)の時間は一定で \(\tau=\sqrt{2h/g}\)。半周期あたりの水平移動距離:

$$\Delta x_{\text{half}} = e u \tau = e \cdot \frac{u \cdot 2\tau}{2} = \frac{e L}{2} \quad (\text{∵}\;u\cdot 2\tau = L)$$

床衝突は「Bを離れてから 1 半周期後」「3 半周期後」「5 半周期後」「7 半周期後」…の順。問題文では B の後 3 回床で弾み、4 回目の床衝突がちょうど左下隅 C。つまり床衝突4回目=Bから 7 半周期後。

区間Bからの経過時間B からの水平移動距離
床衝突 1 回目1 半周期\(\tfrac{eL}{2}\)
床衝突 2 回目3 半周期\(\tfrac{3eL}{2}\)
床衝突 3 回目5 半周期\(\tfrac{5eL}{2}\)
床衝突 4 回目 = C7 半周期\(\tfrac{7eL}{2} = 2L\)

B から C までの水平距離は台車長 \(2L\) だから:

$$\frac{7 e L}{2} = 2 L \quad\Longrightarrow\quad e = \frac{4}{7}$$

小数第2位まで:

$$e = \frac{4}{7} = 0.5714\ldots \fallingdotseq 0.57$$
答え (6): \(e \fallingdotseq 0.57\)
別解:反発係数の定義で各回を追う

B 直前の水平速度 (台車系) = \(+u\)、B 直後 = \(-eu\)。床は弾性衝突なので水平成分は変わらない。よって水平速度は B 以降ずっと \(-eu\) で一定。時間で見ると Bから床に1回当たるのに \(\tau=\sqrt{2h/g}\)、その次は \(3\tau, 5\tau, 7\tau,\ldots\)。

床衝突4回目の B からの経過時間 \(7\tau\)、水平移動 \(7 e u \tau\)。一方 A→B は時間 \(2\tau\) で距離 \(L\) なので \(u\tau=L/2\)。代入して \(7 e \cdot L/2 = 2L\) より同じく \(e=4/7\)。

Point

壁との反発係数は水平成分のみに効く。鉛直は弾性衝突のまま。「床衝突N回目 ⇔ Bからの奇数番目の半周期」という対応を間違えないこと。

問2 (7) 棒Cが支持台Bから受ける垂直抗力

直感的理解
棒Cは質量 \(m\)、長さ \(8L\)、一様密度。重心は左端から \(4L\)(=原点から \(4L\))。支持台Aは x=L、支持台Bは x=7L。重心は AB間の真ん中ではなく、B 寄りに偏るので B の負担は…実は A と B の支点距離 6L に対して、重心は A から 3L・B から 3L のちょうど中央!\(N_A=N_B=mg/2\) が答え。

棒Cには重力 \(mg\)(重心 x=4L、鉛直下向き)、Aからの垂直抗力 \(N_A\)(x=L、上向き)、Bからの垂直抗力 \(N_B\)(x=7L、上向き)の3力が働く。鉛直方向のつり合い:

$$N_{A} + N_{B} = m g$$

A まわりのモーメント(反時計回りを正):

$$N_{B}\cdot (7L - L) - m g \cdot (4L - L) = 0$$ $$N_{B}\cdot 6 L = m g \cdot 3 L$$ $$\therefore \;\; N_{B} = \frac{m g}{2}$$
答え (7): \(\displaystyle N_{B} = \frac{m g}{2}\) [N]
補足:対称性からの見方

棒の重心は x=4L、支点は x=L と x=7L。重心は 2 支点の中点(A から 3L、B から 3L)なのでテコの原理が対称。結果 \(N_A = N_B = mg/2\) と均等配分になる。棒の端が支点を超えて張り出していても、両支点の対称中心に重心があれば左右均等。

Point

支点反力を求めるには「力のつり合い+どこか 1 点まわりのモーメントのつり合い」。支点のどちらかを基点にすれば、その支点の反力は式から消え、もう一方が 1 本の式で決まる。

問2 (8) 棒Dの重心の x 座標

直感的理解
質量 \(m\) の物体を x=L の位置にくっつけると、全体(棒D)の重心は左寄りに移動する。合成重心の公式:各質量×位置の加重平均。元の棒C(m, x=4L)と新追加(m, x=L)の 2 点質量で考えればよい。

棒C(質量 \(m\)、重心 x=4L)と新たに固定した質量 \(m\)(点質量、x=L)の合成重心:

$$\bar{x}_D = \frac{m\cdot 4 L + m\cdot L}{m + m} = \frac{5 m L}{2 m} = \frac{5L}{2}$$

棒Dの総質量は \(2m\)、重心の x 座標は \(\dfrac{5L}{2}\)。

答え (8): \(\displaystyle \bar{x}_D = \frac{5L}{2}\) [m]
補足:重心が支点 A (x=L) と支点 B (x=7L) の間に入っていること

重心 \(5L/2\) は A (L) と B (7L) の間にある(\(L < 5L/2 < 7L\))。これは棒Dが静止できる必要条件(重心が両支点間にあれば回転せず)。もし重心が支点の外側にあれば、棒はテコのように回転してしまう。

Point

合成重心は各部分の質量×位置の加重平均。\(\bar{x} = \sum m_i x_i / \sum m_i\)。点質量を加えると、重心は追加質量の方向へ質量比に応じて移動する。

問2 (9)(あ) 棒Dが支持台Aから受ける摩擦力

直感的理解
支持台Aは床と摩擦なし、つまりAに加えた力 \(f\) を横からの抵抗なしに受ける。A は静止しているので、棒D との摩擦力が A に \(-x\) 向きに \(f\) 働いて釣り合う。作用反作用から、A が棒D に及ぼす摩擦力は+x 向きに \(f\)

支持台Aの力のつり合い(水平方向):Aは床と摩擦なしで水平方向の外力は \(f\)(+x 向き)と、棒D から A への摩擦力 \(f'_{D\to A}\) のみ。A は静止している(まだ動き出していない)ので:

$$f + f'_{D\to A} = 0 \quad\Longrightarrow\quad f'_{D\to A} = -f$$

すなわち棒D は支持台A を -x 向きに力 \(f\) で引く。作用反作用の法則より、支持台A が棒D に及ぼす摩擦力は+x 向きに大きさ \(f\)

$$f_{A\to D} = +f \quad(\text{+x 向き})$$
答え (9): \(f\) [N]  (あ): x 軸正(+x 向き)
補足:Aの質量を無視しない場合

問題文ではA の質量は言及されていない。もし A に質量 \(m_A\) があっても、「まだ静止している」という条件から加速度 0。Newton 第 2 法則:\(f - f'_{D\to A} \cdot \text{sign} = m_A \cdot 0 = 0\) となり、質量によらず \(f'_{D\to A}=-f\)。結論は変わらない。

Point

「床なめらか」の台を押す場合、加えた力は全て上の物体との摩擦に転嫁される。従って棒D は支持台A から +x 向きに \(f\) の摩擦を受ける(作用反作用)。

問2 (10) A と棒D が動き出す力 \(f\) の値

直感的理解
問(9) から、棒D は A から +x に \(f\)、B から -x に \(f\)(釣り合いより)の摩擦を受けている。\(f\) を上げていくと、どこかで静止摩擦が限界に達し滑り始める。限界がすぐ来るのは \(N\) が小さい方=B 側(\(N_B=mg/2 < N_A=3mg/2\))。B から棒D への最大静止摩擦は \(\mu_s N_B = (3/5)(mg/2) = 3mg/10\)。

棒D の垂直方向つり合いとAまわりのモーメント(重心 x=5L/2)から、支点反力:

$$N_A' + N_B' = 2mg$$ $$N_B' \cdot 6L = 2 m g \cdot \left(\frac{5L}{2} - L\right) = 3 m g L \quad\Longrightarrow\quad N_B' = \frac{m g}{2}$$ $$N_A' = 2mg - \frac{mg}{2} = \frac{3 m g}{2}$$

棒D に働く水平力:A からの摩擦 \(+f\)(問(9))、B からの摩擦 \(-f\)(つり合いより反対向き同じ大きさ)。この状態が維持できる限界は静止摩擦係数 \(\mu_s=3/5\) を超えない範囲

$$|f| \le \mu_s \cdot N_B' = \frac{3}{5}\cdot\frac{m g}{2} = \frac{3 m g}{10}$$ $$|f| \le \mu_s \cdot N_A' = \frac{3}{5}\cdot\frac{3 m g}{2} = \frac{9 m g}{10}$$

\(N_B'B が先に最大静止摩擦に達する。\(f\) を増やしていって \(f=3mg/10\) の瞬間に B と棒D の間で滑りが始まる。

$$\therefore \quad f = \frac{3 m g}{10}\;\;\text{で A と棒D は一体で +x に動き出す}$$
答え (10): \(\displaystyle f = \frac{3 m g}{10}\) [N]
補足:なぜ「A と棒D が同じ速度で動き出す」のか

A と D の間の静止摩擦限界 \(9mg/10\) はまだ十分余裕があるので、A-D 間は滑らない。一方 D-B 間は滑り始めた直後なので動摩擦 \(\mu_k N_B' = (2/5)(mg/2) = mg/5\) が働く。A は質量が無視できる(か十分小さい)ので f が A-D 間の静止摩擦を通じて D に伝わり、D は \(f - \mu_k N_B' = 3mg/10 - mg/5 = mg/10 > 0\) の合力を正 x 向きに受け、A と一緒に加速していく。

Point

2 箇所の接触面があるとき、「どちらが先に静止限界を超えるか」が相転移の鍵。垂直抗力が小さい側の接触面が先に滑り出す。

問2 (11) 棒Dが停止する位置 \(a\)

直感的理解
A が右に移動するにつれて棒D の重心 (x=5L/2+(a-L)) も右に動く→ N_A' は大きく、N_B' は小さくなる…のではなく、実は A の位置 a が変わると B(x=7L 固定) までの距離 (7L-a) が縮む。この変化でAまわりのモーメント系が変わり、\(N_A'\) と \(N_B'\) も \(a\) に依存する。A-D 間の静止摩擦が限界(=D が B から受ける動摩擦を伝える限界)に達する瞬間に D は A に追従できなくなり、その場で停止する。

A が +x に動く間、棒D も A と一体(=相対静止)で動く。このとき A の位置を \(a\) として、棒D の重心は \(\bar x_D = \dfrac{5L}{2}+(a-L) = a + \dfrac{3L}{2}\)。Aまわりのモーメント:

$$N_B' \cdot (7 L - a) = 2 m g \cdot \left( a + \tfrac{3L}{2} - a \right) = 2 m g \cdot \tfrac{3L}{2} = 3 m g L$$ $$\therefore \;\; N_B' = \frac{3 m g L}{7L - a}, \quad N_A' = 2 m g - N_B' = \frac{m g(11 L - 2 a)}{7 L - a}$$

「ゆっくりと一定速度」で動くので加速度 0。棒D の水平つり合い:

$$f_{A\to D} = \mu_k N_B' = \frac{2}{5}\cdot\frac{3 m g L}{7 L - a} = \frac{6 m g L}{5(7 L - a)}$$

この \(f_{A\to D}\) は A-D 間の静止摩擦であり、最大静止摩擦 \(\mu_s N_A'\) を超えてはならない:

$$\mu_k N_B' \le \mu_s N_A' \quad\Longrightarrow\quad \frac{2}{5}\cdot\frac{3 L}{7L-a} \le \frac{3}{5}\cdot\frac{11L-2a}{7L-a}$$

両辺に \(5(7L-a)>0\) を掛けて:

$$2\cdot 3 L \le 3(11 L - 2 a) \quad\Longrightarrow\quad 6 L \le 33 L - 6 a \quad\Longrightarrow\quad 6 a \le 27 L$$ $$\therefore \;\; a \le \frac{9 L}{2}$$

等号成立=限界の瞬間に A-D 間が滑り始め、その直後に棒D だけが水平面に対して静止する。

答え (11): \(\displaystyle a = \frac{9 L}{2}\) [m]
補足:その後の棒Dの静止条件確認

\(a>9L/2\) では A が D の下を滑って進む。棒D は動摩擦で A から +x に \(\mu_k N_A'\) 受け、B からは静止摩擦(反対向き、最大 \(\mu_s N_B'\))を受けて釣り合う。釣り合い条件 \(\mu_k N_A' \le \mu_s N_B'\) すなわち \(2(11L-2a)/5 \le 3\cdot 3L/5\)、整理すると \(a \ge 13L/4\)。\(9L/2=4.5L > 13L/4=3.25L\) なので条件を満たし、D は確かに静止し続ける。

Point

「A-D 一体で動く」条件は「A から D への駆動力(=D-B 間の動摩擦)が A-D 間の最大静止摩擦を超えないこと」。\(a\) が大きくなるにつれ \(N_A'\) が減って \(\mu_s N_A'\) も減り、限界が近づく。

問2 (12) 再び棒Dが動き出す位置 \(a\)

直感的理解
D が停止してからも A は右に進む。D の重心は \(x=6L\)(前問終了時の位置)のまま固定。A の位置 \(a\) が変わると \(N_A'\) と \(N_B'\) がまた変わり(\(a\) が大→ B に荷重が移り \(N_B'\to 0\)、A への依存大)、やがて D-B 間の静止摩擦が限界になる。D は B 上で滑り始め、A に引きずられて再び動く。

棒D は静止状態で重心 \(\bar x_D = 6L\)(問(11)終了時点の位置)。A だけが +x 方向に進む。Aまわりのモーメント:

$$N_B' \cdot (7L - a) = 2 m g \cdot (6L - a)$$ $$N_B' = \frac{2 m g (6 L - a)}{7 L - a}, \quad N_A' = 2 m g - N_B' = \frac{2 m g L}{7 L - a}$$

A は D の下を +x 向きに滑っている→ A から D への動摩擦は +x 向きで \(\mu_k N_A' = \dfrac{2}{5}\cdot\dfrac{2mgL}{7L-a} = \dfrac{4 m g L}{5(7L-a)}\)。

D は静止のままでいるには、この動摩擦を B からの静止摩擦(-x 向き)で釣り合わせる必要がある。釣り合い条件:

$$\mu_k N_A' \le \mu_s N_B' \quad\Longrightarrow\quad \frac{2}{5}\cdot\frac{2 L}{7L-a} \le \frac{3}{5}\cdot\frac{2(6L-a)}{7L-a}$$ $$\frac{4 L}{5(7L-a)} \le \frac{6(6L-a)}{5(7L-a)} \quad\Longrightarrow\quad 4 L \le 6(6L - a)$$ $$4 L \le 36 L - 6 a \quad\Longrightarrow\quad 6 a \le 32 L \quad\Longrightarrow\quad a \le \frac{16 L}{3}$$

等号=限界、それを過ぎると D-B 間で静止摩擦が破れ、D が B 上を滑り始める=A と同じ速度で再び動き出す。

答え (12): \(\displaystyle a = \frac{16 L}{3}\) [m]
補足:前後の条件関係

(11)で止まった点 \(a_1 = 9L/2 = 27L/6\)、(12) で再び動き出す点 \(a_2 = 16L/3 = 32L/6\)。\(a_1 < a_2\) となり、D が停止している区間は \([27L/6, 32L/6]\) の幅 \(5L/6\) 分。なぜ再始動するかは「\(a\) が大きくなると B が重心より右側にある割合が減り、B の垂直抗力 \(N_B'\) が急速に小さくなる」ためで、最終的には B が重心の左側に来ると梁がひっくり返るリスクすらある(\(a > 6L\) で \(N_B' < 0\)、すなわち実際には浮く→A だけで支える状態)。

Point

D が止まっている間も A は動くので、荷重配分が変化する。\(N_B'\) が減って \(\mu_s N_B'\) が小さくなり、動摩擦(A→D)と静止摩擦(B→D)の均衡が崩れる瞬間が再始動の条件。\(N_A' + N_B' = 2 m g\) は常に成立することを忘れずに使う。

まとめ

直感的理解
大問1は「運動量+エネルギー保存で 2 体連成を解く」問1と、「複数接触面の静止・動摩擦の優先順位で相転移を追う」問2の組み合わせ。どちらも段階ごとの最小方程式を書き下すことが得点のカギ。

問1(小球+台車の連成運動)のストーリー:

問2(支持台 A を動かす問題)のストーリー:

全体のキーポイント
補足:受験対策としての典型パターン

本問は北海道大学・東北大学で頻出の「台車+小球系」と「棒の支持問題」の合体型。(1)-(3) は阪大・東大でも類問が多数。(4)-(6) の「弾性衝突+反発係数のコンボ」は上位国公立向けの難問で、半周期単位で場合分けできるかが差がつくポイント。(9)-(12) は「物体を引きずると摩擦がどこで滑るか」の論理が問われ、静止摩擦 \(\mu_s\) と動摩擦 \(\mu_k\) の違いと、垂直抗力が位置依存になる点の両方を追う必要がある。

Point

力学の総合問題では、「どの保存則が効くか」「どこで摩擦力が限界か」を段階ごとに整理するのが王道。途中式を略さず、運動量式・エネルギー式・モーメント式を 1 本ずつ書き下すこと。