大問Ⅰ(力学)— ばねの放出・ループ内拘束運動・反発と非慣性系

解法の指針

本大問は「クレッセント(三日月形)の空洞」内を小球が運動する複合問題です。空洞の外周は半径 \(R\) の半円筒面 bcd(中心 O)、内側に半径 \(R/2\) の半円筒面 deO(中心 O')が「ふくらみ(バンプ)」として張り出しています。

着眼点

全体を貫くポイント

装置全体の幾何(俯瞰)

直感的理解
まず装置の形を頭に入れます。大きな空洞(半径 \(R\) の bcd)の中に、小さなバンプ(半径 \(R/2\) の deO)が出っ張っています。空洞の壁と内側のバンプ表面に挟まれた「三日月形」の隙間が小球 P の通り道です。下のシミュレーションをドラッグして、各点の位置を確認してください。

各点の高さを表に整理します。床の高さを 0 とします。

位置(O 基準)床からの高さ
bO の真下、距離 \(R\)0
O\(R\)
cO の右、距離 \(R\)\(R\)
fO から角度 \(-30^\circ\)、距離 \(R\)\(R - R\sin 30^\circ = R/2\)
O'O の真上、距離 \(R/2\)\(3R/2\)
eO' の左、距離 \(R/2\)\(3R/2\)
dO の真上、距離 \(R\)(O' の真上、距離 \(R/2\))\(2R\)
Point 幾何の鍵:bcd と deO は d で接線が一致します(両者とも d で水平接線)。だから小球は d で滑らかに乗り換えられます。また「\(\angle\text{cOf} = 30^\circ\)」は O を中心とする角度で、f は bcd 上にある点です(\(O'\) ではないので注意)。

設問(1) ばねが小球から離れるまでの時間 \(t\) と縮み \(d\)

直感的理解
ばねを縮めて手を離すと、ばねは「単振動」を始めます。最大の縮み \(d\) からスタートして、自然長になった瞬間に小球はばねから離れます。自然長の位置は単振動の 「振動中心」 なので、そこでの速さが 最大速度 \(v_1\)。最大変位 \(d\) からスタートして振動中心まで動く時間は 4 分の 1 周期です。エネルギー保存で \(d\) を、周期から \(t\) を出します。

立式(縮み \(d\)):ばねは小球を自然長まで押し戻し、そこで小球と離れます(押すだけで引かない接触)。エネルギー保存より:

$$\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}mv_1^2$$

これを \(d\) について解いて

$$d = v_1\sqrt{\dfrac{m}{k}}$$

立式(時間 \(t\)):ばねの単振動の角振動数は \(\omega = \sqrt{k/m}\)、周期は \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)。最大変位(圧縮 \(d\))から振動中心(自然長)まで動く時間は \(T/4\):

$$t = \frac{T}{4} = \frac{1}{4} \cdot 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\dfrac{m}{k}}$$
答え:$$d = v_1\sqrt{\dfrac{m}{k}}, \quad t = \dfrac{\pi}{2}\sqrt{\dfrac{m}{k}}$$
別解:単振動の方程式から直接導く

圧縮を \(x(\tau) = d\cos(\omega\tau)\) と置くと、速度は \(\dot x = -d\omega\sin(\omega\tau)\)、つまり \(|\dot x|_{\max} = d\omega = v_1\)。よって \(d = v_1/\omega = v_1\sqrt{m/k}\)。\(x = 0\) になるのは \(\omega\tau = \pi/2\)、すなわち \(\tau = \pi/(2\omega) = (\pi/2)\sqrt{m/k}\)。同じ結果。

補足:なぜ重力 \(g\) は答えに現れないのか

水平面 ab 上の運動なので、重力は床からの垂直抗力と打ち消し合い、水平方向の力学には現れません。ばねの復元力が 唯一の水平方向の力。よって \(g\) を含めても物理的に意味のある式にならない、ということが「\(g\) を答えに使わない」というヒントになっています。

Point ばねの離脱条件:ばねは「押す」ことしかしないので、小球がばねから離れるのは 「ばねの圧縮が 0 になった瞬間」=自然長。これは振動中心であり、最大速度の点。最大変位から振動中心までは常に \(T/4\)。

設問(2) 点 f での半径方向・接線方向の加速度

直感的理解
点 f は \(\angle\text{cOf} = 30^\circ\) の位置、つまり 水平 Oc から 30° 下にある bcd 上の点。床から高さ \(R/2\) の場所です。半径方向の加速度はいわゆる 向心加速度 \(v^2/R\)(中心 O 向き)。接線方向の加速度は 重力の接線成分のみ(垂直抗力は半径方向だから接線方向に成分なし)。点 f での接線方向は水平から \(60^\circ\) 傾いており、重力(鉛直下向き)の接線成分は \(g\sin 60^\circ = \tfrac{\sqrt 3}{2}g\)。

立式(点 f での速さ \(v_f\)):力学的エネルギー保存(b → f、高さの差 \(R/2\)):

$$\frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}mv_f^2 + mg\cdot\frac{R}{2}$$ $$v_f^2 = v_1^2 - gR$$

立式(半径方向加速度 \(a_r\)):これは円運動の 向心加速度 そのものです。中心 O 向きを正とすると:

$$\boxed{a_r = \dfrac{v_f^2}{R} = \dfrac{v_1^2 - gR}{R} = \dfrac{v_1^2}{R} - g}$$

立式(接線方向加速度 \(a_\theta\)):接線方向に作用する力は重力の接線成分のみ(垂直抗力は半径方向)。点 f での接線方向(運動方向、c へ向かう側)と重力との角度:f の位置ベクトル(O から)は水平から \(-30^\circ\)、接線はそれと \(90^\circ\) ずれて 水平から 60° 上向き(運動方向)。重力 \((0, -g)\) の接線成分は:

$$|a_\theta| = g\sin 60^\circ = \frac{\sqrt 3}{2}g$$

運動方向(c に向かう向き)と逆向き(減速)です。

答え:$$a_r = \frac{v_1^2}{R} - g, \quad a_\theta = \frac{\sqrt 3}{2}g$$
別解:x-y 成分から接線・半径に射影する

点 f の位置(O 基準):\((R\cos(-30°), R\sin(-30°)) = (R\sqrt 3/2, -R/2)\)。 半径方向の単位ベクトル(中心向き):\(\hat r = -(\cos(-30°), \sin(-30°)) = (-\sqrt 3/2, 1/2)\)。 接線方向の単位ベクトル(運動方向、CCW):\(\hat\theta = (-\sin(-30°), \cos(-30°)) = (1/2, \sqrt 3/2)\)。

重力 \(\vec g = (0, -g)\) の各方向の射影:

  • 半径方向:\(\vec g \cdot \hat r = 0\cdot(-\sqrt 3/2) + (-g)(1/2) = -g/2\)(中心とは逆向きに \(g/2\))
  • 接線方向:\(\vec g \cdot \hat\theta = 0\cdot(1/2) + (-g)(\sqrt 3/2) = -\sqrt 3 g/2\)(運動と逆向きに \(\sqrt 3 g/2\))

半径方向は向心加速度 \(v^2/R\)(垂直抗力を含めた合計が向心力)になり、接線方向は重力の射影だけ(垂直抗力に接線成分なし)。同じ結果が得られる。

Point 円運動の力分解:物体が「曲面上を運動」する場合、半径方向は 向心加速度 \(v^2/r\)、接線方向は 重力の接線成分(垂直抗力は半径成分のみ)。これは bcd 上のどこでも使える基本パターン。a_θ の角度は 「位置の角度の余角」と覚えると良い(位置が水平から \(\theta\) なら、接線方向は鉛直から \(\theta\))。

設問(3) bcd から飛び出す位置が O' と同じ高さのときの \(v_1\)

直感的理解
bcd 上を滑る小球は、ある瞬間に 「壁が押す力(垂直抗力 N)が 0 になった瞬間」に壁から離れます。壁から離れたら、あとは 放物運動。問題は「離れた点の高さが O' と同じ(床から \(\tfrac{3R}{2}\))」と指定。これは O から見て高さ \(R/2\)、つまり O から角度 30° 上の位置。そこで N=0 となる v を求め、エネルギー保存で b の v₁ につなげます。

立式(離脱条件):離脱の点を P*(O から角度 \(\alpha\) の位置、\(\alpha\) は水平から測る)とおく。床からの高さ:\(R + R\sin\alpha\)。 問題条件「O' と同じ高さ \(\tfrac{3R}{2}\)」より:

$$R + R\sin\alpha = \frac{3R}{2} \quad \Rightarrow \quad \sin\alpha = \frac{1}{2} \quad \Rightarrow \quad \alpha = 30°$$

離脱の瞬間 \(N = 0\)。点 P* で半径方向(中心 O 向き)の運動方程式は、重力の中心向き成分のみが向心力を担当:

$$mg\sin\alpha = \frac{mv^2}{R} \quad \Rightarrow \quad v^2 = gR\sin\alpha = \frac{gR}{2}$$

(\(\alpha = 30°\) の点では、半径方向=O への向きは「左下向き」で、重力の中心向き成分は \(g\sin\alpha\)。)

立式(エネルギー保存):b(高さ 0、速さ \(v_1\))→ P*(高さ \(\tfrac{3R}{2}\)、速さ \(v\)):

$$\frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mg\cdot\frac{3R}{2}$$ $$v_1^2 = v^2 + 3gR = \frac{gR}{2} + 3gR = \frac{7gR}{2}$$
答え:$$v_1 = \sqrt{\dfrac{7gR}{2}} = \dfrac{1}{2}\sqrt{14gR}$$
補足:もし離脱点が違う高さなら?(一般化)

離脱角 \(\alpha\) のとき、\(v^2 = gR\sin\alpha\)、エネルギー保存より \(v_1^2 = gR\sin\alpha + 2gR(1+\sin\alpha) = gR(2 + 3\sin\alpha)\)。

  • \(\alpha = 0°\)(c 直上):\(v^2 = 0\)(速度ゼロで離脱、これは不自然)。\(v_1^2 = 2gR\)。
  • \(\alpha = 30°\)(本問):\(v_1^2 = 7gR/2\)。
  • \(\alpha = 90°\)(d 到達):\(v^2 = gR\)、\(v_1^2 = 5gR\)。これが 「d まで離れずに到達できる最小の \(v_1\)」。設問4・5 で重要。
🧮 具体数値で検算(\(R = 1.0\) m, \(g = 9.8\) m/s²)

仮に \(R = 1.0\) m、\(g = 9.8\) m/s² として答えを評価してみる。

  • 離脱位置の速さ:\(v = \sqrt{gR/2} = \sqrt{9.8 \times 1.0 / 2} = \sqrt{4.9} \approx 2.21\) m/s。
  • b での初速:\(v_1 = \sqrt{7gR/2} = \sqrt{7 \times 9.8 \times 1.0 / 2} = \sqrt{34.3} \approx 5.86\) m/s。
  • 離脱位置の高さ:\(h = 3R/2 = 1.5\) m。
  • エネルギーチェック:\(\tfrac{1}{2}v_1^2 = \tfrac{1}{2} \times 5.86^2 = 17.17\) J/kg。 \(\tfrac{1}{2}v^2 + gh = \tfrac{1}{2} \times 2.21^2 + 9.8 \times 1.5 = 2.44 + 14.70 = 17.14\) J/kg。一致 ✓
Point 離脱条件:bcd(凹面)上を 上昇する 小球は、上半分(c より上)で 重力の半径成分が中心向きになる。N + 重力_向心 = mv²/R より、v が小さいと N<0 → 離脱。離脱位置は 「N=0 になる点」。問題が「O' と同じ高さ」と指定 → 角度 30° と分かる。

設問(4) 反発後 d を通過する速さ \(v'\)

直感的理解
小球が d を速さ \(v\) で左向きに通過 → 小弧 deO に沿って下りて O の壁に衝突 → 反発係数 \(1/\sqrt 2\) で跳ね返り(速さは \(1/\sqrt 2\) 倍、エネルギーは半分)→ 再び小弧を上って d に戻る。エネルギー保存(小弧上)+ 反発(壁との衝突)+ エネルギー保存(小弧上)の 3 ステップを順に処理します。

ステップ1(d → O 下降):力学的エネルギー保存。d は床から \(2R\)、O は床から \(R\)、高度差 \(R\)。d での速さを \(v\)、O での速さ(衝突直前)を \(v_O\) とすると:

$$\frac{1}{2}mv^2 + mgR = \frac{1}{2}mv_O^2 \quad \Rightarrow \quad v_O^2 = v^2 + 2gR$$

ステップ2(壁との衝突):反発係数 \(e = 1/\sqrt 2\)。衝突直後の速さを \(v_O'\) とすると:

$$v_O' = e\,v_O = \frac{v_O}{\sqrt 2} \quad \Rightarrow \quad (v_O')^2 = \frac{v_O^2}{2} = \frac{v^2 + 2gR}{2} = \frac{v^2}{2} + gR$$

(運動エネルギーは \(\tfrac{1}{2}\) 倍になる、と覚えても良い。)

ステップ3(O → d 上昇):再びエネルギー保存。O での速さ \(v_O'\)、d での速さ \(v'\):

$$\frac{1}{2}m(v_O')^2 = \frac{1}{2}mv'^2 + mgR$$ $$v'^2 = (v_O')^2 - 2gR = \frac{v^2}{2} + gR - 2gR = \frac{v^2}{2} - gR$$
答え:$$v' = \sqrt{\dfrac{v^2}{2} - gR}$$
別解:エネルギーの一括計算

d → 壁の往復で 位置エネルギーは元に戻る(同じ高さ)ので、最終的な KE 変化は 反発による損失だけ。すなわち:

d での KE:\(\tfrac{1}{2}mv^2\)。壁通過時の KE:\(\tfrac{1}{2}mv_O^2 = \tfrac{1}{2}mv^2 + mgR\)。 壁衝突で KE が \(\tfrac{1}{2}\) 倍:壁直後の KE = \(\tfrac{1}{4}mv^2 + \tfrac{1}{2}mgR\)。 O から d へ戻ると重力位置エネルギー \(mgR\) を消費: d での新しい KE = \(\tfrac{1}{4}mv^2 + \tfrac{1}{2}mgR - mgR = \tfrac{1}{4}mv^2 - \tfrac{1}{2}mgR\)。 \(\tfrac{1}{2}mv'^2 = \tfrac{1}{4}mv^2 - \tfrac{1}{2}mgR\)、よって \(v'^2 = \tfrac{1}{2}v^2 - gR\)。同じ。

Point 反発係数の効果:\(e = 1/\sqrt 2\) なら速さは \(1/\sqrt 2\) 倍、運動エネルギーは 正確に半分。これは「\(e\) が \(\sqrt{1/2}\) になっている」と見ると覚えやすい。「同じ高さに戻る往復+衝突」は 反発係数による KE 損失だけを考えれば良い。

設問(5) \(v\) の下限値 \(v_{\min}\) と上限値 \(v_{\max}\)

直感的理解
\(v\) には 3 つの条件がかかります:
  1. 往路で d まで bcd を離れない(ループ最高点条件):\(v^2 \ge gR\)
  2. 復路で d まで戻れる(\(v'\) が実数):\(v'^2 \ge 0\) ⇔ \(v^2 \ge 2gR\)
  3. 復路の d で bcd から離れて空中に飛び出す:\(v'^2 \le gR\) ⇔ \(v^2 \le 4gR\)
最も厳しい下限は条件②、上限は条件③。よって \(v_{\min} = \sqrt{2gR}\)、\(v_{\max} = 2\sqrt{gR}\)。

条件①(往路で bcd を d まで離れない):d はループ最高点。N + mg = mv²/R より N≥0 ⇔ \(v^2 \ge gR\)。

条件②(復路で d まで戻れる):設問(4) より \(v'^2 = v^2/2 - gR\)。実数解条件 \(v'^2 \ge 0\) より:

$$\frac{v^2}{2} - gR \ge 0 \quad \Rightarrow \quad v^2 \ge 2gR$$

条件③(d を通過した直後に bcd から離れる):d で右向きに \(v'\) で通過した直後、bcd の右側を下る場合は 「d 上面で N=0 となる v' = \(\sqrt{gR}\) が境界」。\(v'^2 < gR\) のとき bcd から離れて飛び出す:

$$\frac{v^2}{2} - gR \le gR \quad \Rightarrow \quad v^2 \le 4gR$$

境界の包含について:\(v'^2 = gR\) のとき N=0 で「ぎりぎり接している」状態。物理的には接線方向に飛び出すので、上限は等号を含めて \(v^2 \le 4gR\) と扱う。下限は \(v_O' = 0\) で「壁から離れた瞬間に止まる」極限。これも境界として \(v^2 \ge 2gR\) と等号を含む。

3 条件の共通範囲:\(\max(gR, 2gR) \le v^2 \le 4gR\)、すなわち \(2gR \le v^2 \le 4gR\)。

答え:$$v_{\min} = \sqrt{2gR}, \quad v_{\max} = 2\sqrt{gR}$$
別解:v' の式から直接条件を読む

設問(4) の \(v' = \sqrt{v^2/2 - gR}\) について:

  • \(v'\) が実数 ⇔ \(v^2/2 \ge gR\) ⇔ \(v \ge \sqrt{2gR}\)
  • d で離脱(飛び出す)⇔ d 上面で重力 ≥ 必要向心力 ⇔ \(g \ge v'^2/R\) ⇔ \(v'^2 \le gR\) ⇔ \(v^2 \le 4gR\)

条件①(v² ≥ gR)は条件②に含まれているので不要(②が ① を強める)。

補足:境界 \(v = \sqrt{2gR}\) と \(v = 2\sqrt{gR}\) のときの挙動
  • \(v = v_{\min} = \sqrt{2gR}\):\(v_O = \sqrt{2gR + 2gR} = 2\sqrt{gR}\)、衝突後 \(v_O' = \sqrt{2gR}\)。これでちょうど d まで戻ってきて速さ 0 で止まる(ぎりぎり)。その後は重力で下方向に落下、空中に飛び出す。
  • \(v = v_{\max} = 2\sqrt{gR}\):\(v' = \sqrt{4gR/2 - gR} = \sqrt{gR}\)。これは d 上面で 遠心力=重力 となる速さ、ちょうど離脱限界。実際には接線方向に飛び出す。
境界v意味
下限\(v_{\min} = \sqrt{2gR}\)復路で d までぎりぎり戻れる
上限\(v_{\max} = 2\sqrt{gR}\)復路 d で N=0、ぎりぎり離脱
Point 3 条件の整理:往路の到達条件・復路の到達条件・離脱条件の 共通範囲 を求めるのが基本。3 条件のうち最も厳しい下限と上限を選ぶ。本問では往路条件 \(v^2 \ge gR\) は復路条件 \(v^2 \ge 2gR\) に吸収される(後者が強い)。

設問(6) 台が加速するとき、相対速度最小点 j の高さ

直感的理解
台が右に加速度 \(\sqrt 3 g\) で動くと、台に乗った観測者から見ると小球には 「左向きに大きさ \(m\sqrt 3 g\) の慣性力」が働く。実重力(下向き \(mg\))と合わせると、見かけの重力は 左下向き、大きさ \(m\sqrt{1+3}g = 2mg\)。鉛直からの傾きは \(\arctan\sqrt 3 = 60°\)。

この見かけの重力場で「相対速度が最小」 ⇔ 「見かけの最高点」。bcd 上で見かけの重力ベクトルと最も逆向きに離れている点が j。それは 水平から 30° 上、O から右上の方向に対応します。

立式(見かけの重力):台の加速度 \(\vec a_{\text{台}} = (\sqrt 3 g, 0)\)(右向き)。台に対する小球の運動方程式に現れる慣性力は \(-m\vec a_{\text{台}} = (-\sqrt 3 mg, 0)\)(左向き)。これと実重力 \((0, -mg)\) の合力:

$$\vec F_{\text{eff}} = (-\sqrt 3 mg,\ -mg) \quad \Rightarrow \quad |\vec g_{\text{eff}}| = \sqrt{(\sqrt 3 g)^2 + g^2} = 2g$$

方向:鉛直から左へ \(\arctan\sqrt 3 = 60°\) 傾いた向き(左下方向)。

立式(相対速度最小点):台に固定した座標系で、見かけの重力場におけるエネルギー保存:

$$\frac{1}{2}mv_{\text{rel}}^2 + U_{\text{eff}} = \text{const}$$

ここで \(U_{\text{eff}} = -\vec F_{\text{eff}}\cdot\vec r = mg(\sqrt 3 x + y)\)(O を原点、x 右、y 上)。 \(v_{\text{rel}}\) が最小 ⇔ \(U_{\text{eff}}\) が最大。bcd 上の点 \((R\cos\theta, R\sin\theta)\) で:

$$U_{\text{eff}}(\theta) = mgR(\sqrt 3 \cos\theta + \sin\theta) = 2mgR\cos(\theta - 30°)$$

これが最大になるのは \(\cos(\theta - 30°) = 1\)、すなわち \(\theta = 30°\)。見かけの重力ベクトルと正反対の向きに円周上で最も離れた点。

j の高さ:j の位置は O から角度 30°、つまり O の右上方向。 O は床から高さ \(R\)、j は O より高さ \(R\sin 30° = R/2\) 上。床からの高さ:

$$h = R + R\sin 30° = R + \frac{R}{2} = \frac{3R}{2}$$
答え:$$h = \dfrac{3R}{2}$$
別解:見かけの重力方向の最遠点として直接求める

見かけの重力ベクトルの単位ベクトル:\(\hat g_{\text{eff}} = (-\sqrt 3/2, -1/2)\)(左下)。bcd 上で このベクトルと逆向きの単位ベクトル方向に O から距離 \(R\) 進んだ点が「最高点」:

$$\vec r_j = -R\hat g_{\text{eff}} = R(\sqrt 3/2, 1/2)$$

j の位置(O 基準):\(x = R\sqrt 3/2,\ y = R/2\)。床からの高さ \(R + R/2 = 3R/2\)。同じ。

補足:なぜ角度 30°(鉛直から測ると 60°)?

慣性力 \(\sqrt 3 mg\)(左)と重力 \(mg\)(下)の 比 \(\sqrt 3 : 1\)。よって合力ベクトルの傾きは \(\tan(\text{角度}) = \sqrt 3\) → 角度 \(60°\)(水平からの)または \(30°\)(鉛直からの)と表現の仕方で 2 通り。問題の図 1 で「\(\angle\text{cOf} = 30°\)」とあったのは、実は これと関連した「見かけの最低点」を示唆しているとも読める(f の位置の \(30°\) は本問の「\(j\) の \(30°\)」と対称的)。

Point 非慣性系のテクニック:等加速度運動する系では、「実重力 + 慣性力」を一つの「見かけの重力」と見なすと、エネルギー保存・力のつり合いがそのまま使える。「速度最小」「振り子の最下点」「最大伸び」などの「臨界点」は、見かけの重力場での 最高点・最低点として直感的に求まる。

設問(7) bcd 上を往復するための \(w\) の上限 \(w_0\)

直感的理解
\(w\) が小さいと、小球は bcd 上で振り子のように往復します。振り子(ループ内)の往復条件は「最高点で N≥0」、つまり 「重力(見かけの)と離脱方向が同じ向きの範囲」でしか往復できません。見かけの重力は左下向き(鉛直から 60°)。bcd 上で「重力と直交する位置」より高くは行けない。それを満たす最大の \(w\) が \(w_0\)。

具体的には、bcd 上を b から角度 \(\theta\) まで上昇したとき(\(\theta\) は水平から測る、b は \(\theta = -90°\))、見かけの重力の半径方向成分が 外向きになる範囲(\(\theta \le -60°\))でのみ N≥0 で v=0 で停止できる。

立式(条件の物理的意味):台の系で、bcd 上の点 \((R\cos\theta, R\sin\theta)\) における中心 O 向き(半径方向)の運動方程式:

$$N + (\text{見かけの重力の中心向き成分}) = \frac{mv^2}{R}$$

見かけの重力 \(\vec g_{\text{eff}} = (-\sqrt 3 g, -g)\) の中心向き(\(-(\cos\theta, \sin\theta)\) 方向)成分は:

$$\vec g_{\text{eff}}\cdot(-\cos\theta, -\sin\theta) = \sqrt 3 g\cos\theta + g\sin\theta = 2g\cos(\theta - 30°)$$

よって:

$$N = \frac{mv^2}{R} - 2mg\cos(\theta - 30°)$$

離脱しない条件:\(N \ge 0\) ⇔ \(v^2 \ge 2gR\cos(\theta - 30°)\)。 小球が v=0 で折り返すためには、その点で \(N \ge 0\)、すなわち \(\cos(\theta - 30°) \le 0\)、すなわち \(\theta - 30° \ge 90°\) または \(\theta - 30° \le -90°\)。 bcd の範囲(\(\theta \in [-90°, 90°]\))では \(\theta - 30° \le -90°\)、つまり \(\theta \le -60°\)。

境界 \(\theta_{\max} = -60°\):このとき小球はちょうど高さ \(R + R\sin(-60°) = R(1 - \sqrt 3/2)\)... ではなく 「見かけの重力場での到達高さ」を計算する。エネルギー保存(台の系で見かけの重力場):

$$\frac{1}{2}mw^2 + U_{\text{eff}}(b) = \frac{1}{2}m\cdot 0^2 + U_{\text{eff}}(\theta_{\max} = -60°)$$

ここで \(U_{\text{eff}}(\theta) = 2mgR\cos(\theta - 30°)\)。\(U_{\text{eff}}(b)\) は \(\theta = -90°\) のとき:\(2mgR\cos(-120°) = 2mgR\cdot(-1/2) = -mgR\)。\(U_{\text{eff}}(-60°) = 2mgR\cos(-90°) = 0\)。

$$\frac{1}{2}mw_0^2 + (-mgR) = 0$$ $$w_0^2 = 2gR$$
答え:$$w_0 = \sqrt{2gR}$$
別解:見かけの重力場での「水平面 b」と「等高度面」

見かけの重力ベクトルは左下 60°。それと 直交する平面(等ポテンシャル面)は右下から左上の方向。b(θ=−90°)を通るこの等高度面は、bcd と再び交わる位置が \(\theta = -60°\)(b から見ると 30° 進んだところ)。 この点までは「見かけの水平面」だから、エネルギー保存で \(\frac{1}{2}mw^2 = mg_{\text{eff}}\cdot d\)(\(d\) はその二点間の見かけの高度差)。

見かけの高度差:b と \(\theta=-60°\) の点を結ぶ線分の 見かけの重力方向成分。計算すると \(d = R/2\)(具体的には、両点の位置を \(g_{\text{eff}}\) 方向に射影した差)。 \(\frac{1}{2}w_0^2 = g_{\text{eff}}\cdot d = 2g\cdot R/2 = gR\)。よって \(w_0^2 = 2gR\)。同じ結果。

補足:なぜ \(\theta=-60°\) より上だと飛び出すのか

\(\theta > -60°\) の領域では、見かけの重力が 「中心 O 向き(内向き)」になる。すると bcd の壁は外向き(O から離れる向き)に押す必要がある — これは 引力的な力で、壁にできない。よって N=0 になった瞬間に小球は壁から離れる。 \(\theta < -60°\) では見かけの重力が外向き(O から離れる向き)。壁は普通に内向きに押せばよい(N>0)。だから \(\theta = -60°\) が境界

Point 非慣性系の振り子問題:「ループ・凹面上を往復する」 ⇔ 「見かけの重力で 振り子のような往復」。振り子の最大振れ角は 90°(見かけの水平面)。それを超えると壁から離脱する(凹面の場合)。本問では「見かけの水平面」が θ=−60° に対応 → 飛び出し限界。

答え一覧

設問答え
(1)\(d = v_1\sqrt{m/k},\ \ t = (\pi/2)\sqrt{m/k}\)
(2)\(a_r = v_1^2/R - g,\ \ a_\theta = (\sqrt 3/2)g\)
(3)\(v_1 = \sqrt{7gR/2}\)
(4)\(v' = \sqrt{v^2/2 - gR}\)
(5)\(v_{\min} = \sqrt{2gR},\ \ v_{\max} = 2\sqrt{gR}\)
(6)\(h = 3R/2\)
(7)\(w_0 = \sqrt{2gR}\)

本問は「ばねの単振動」「ループ最高点条件」「反発と境界条件」「非慣性系の見かけ重力」と、力学の主要トピックを 1 題でカバーする総合問題でした。とくに 3〜5 のループ条件と離脱条件6・7 の非慣性系 は名古屋大の傾向にもよく合った典型的な構成です。