本大問は「クレッセント(三日月形)の空洞」内を小球が運動する複合問題です。空洞の外周は半径 \(R\) の半円筒面 bcd(中心 O)、内側に半径 \(R/2\) の半円筒面 deO(中心 O')が「ふくらみ(バンプ)」として張り出しています。
各点の高さを表に整理します。床の高さを 0 とします。
| 点 | 位置(O 基準) | 床からの高さ |
|---|---|---|
| b | O の真下、距離 \(R\) | 0 |
| O | — | \(R\) |
| c | O の右、距離 \(R\) | \(R\) |
| f | O から角度 \(-30^\circ\)、距離 \(R\) | \(R - R\sin 30^\circ = R/2\) |
| O' | O の真上、距離 \(R/2\) | \(3R/2\) |
| e | O' の左、距離 \(R/2\) | \(3R/2\) |
| d | O の真上、距離 \(R\)(O' の真上、距離 \(R/2\)) | \(2R\) |
立式(縮み \(d\)):ばねは小球を自然長まで押し戻し、そこで小球と離れます(押すだけで引かない接触)。エネルギー保存より:
$$\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}mv_1^2$$これを \(d\) について解いて
$$d = v_1\sqrt{\dfrac{m}{k}}$$立式(時間 \(t\)):ばねの単振動の角振動数は \(\omega = \sqrt{k/m}\)、周期は \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)。最大変位(圧縮 \(d\))から振動中心(自然長)まで動く時間は \(T/4\):
$$t = \frac{T}{4} = \frac{1}{4} \cdot 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\dfrac{m}{k}}$$圧縮を \(x(\tau) = d\cos(\omega\tau)\) と置くと、速度は \(\dot x = -d\omega\sin(\omega\tau)\)、つまり \(|\dot x|_{\max} = d\omega = v_1\)。よって \(d = v_1/\omega = v_1\sqrt{m/k}\)。\(x = 0\) になるのは \(\omega\tau = \pi/2\)、すなわち \(\tau = \pi/(2\omega) = (\pi/2)\sqrt{m/k}\)。同じ結果。
水平面 ab 上の運動なので、重力は床からの垂直抗力と打ち消し合い、水平方向の力学には現れません。ばねの復元力が 唯一の水平方向の力。よって \(g\) を含めても物理的に意味のある式にならない、ということが「\(g\) を答えに使わない」というヒントになっています。
立式(点 f での速さ \(v_f\)):力学的エネルギー保存(b → f、高さの差 \(R/2\)):
$$\frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}mv_f^2 + mg\cdot\frac{R}{2}$$ $$v_f^2 = v_1^2 - gR$$立式(半径方向加速度 \(a_r\)):これは円運動の 向心加速度 そのものです。中心 O 向きを正とすると:
$$\boxed{a_r = \dfrac{v_f^2}{R} = \dfrac{v_1^2 - gR}{R} = \dfrac{v_1^2}{R} - g}$$立式(接線方向加速度 \(a_\theta\)):接線方向に作用する力は重力の接線成分のみ(垂直抗力は半径方向)。点 f での接線方向(運動方向、c へ向かう側)と重力との角度:f の位置ベクトル(O から)は水平から \(-30^\circ\)、接線はそれと \(90^\circ\) ずれて 水平から 60° 上向き(運動方向)。重力 \((0, -g)\) の接線成分は:
$$|a_\theta| = g\sin 60^\circ = \frac{\sqrt 3}{2}g$$運動方向(c に向かう向き)と逆向き(減速)です。
点 f の位置(O 基準):\((R\cos(-30°), R\sin(-30°)) = (R\sqrt 3/2, -R/2)\)。 半径方向の単位ベクトル(中心向き):\(\hat r = -(\cos(-30°), \sin(-30°)) = (-\sqrt 3/2, 1/2)\)。 接線方向の単位ベクトル(運動方向、CCW):\(\hat\theta = (-\sin(-30°), \cos(-30°)) = (1/2, \sqrt 3/2)\)。
重力 \(\vec g = (0, -g)\) の各方向の射影:
半径方向は向心加速度 \(v^2/R\)(垂直抗力を含めた合計が向心力)になり、接線方向は重力の射影だけ(垂直抗力に接線成分なし)。同じ結果が得られる。
立式(離脱条件):離脱の点を P*(O から角度 \(\alpha\) の位置、\(\alpha\) は水平から測る)とおく。床からの高さ:\(R + R\sin\alpha\)。 問題条件「O' と同じ高さ \(\tfrac{3R}{2}\)」より:
$$R + R\sin\alpha = \frac{3R}{2} \quad \Rightarrow \quad \sin\alpha = \frac{1}{2} \quad \Rightarrow \quad \alpha = 30°$$離脱の瞬間 \(N = 0\)。点 P* で半径方向(中心 O 向き)の運動方程式は、重力の中心向き成分のみが向心力を担当:
$$mg\sin\alpha = \frac{mv^2}{R} \quad \Rightarrow \quad v^2 = gR\sin\alpha = \frac{gR}{2}$$(\(\alpha = 30°\) の点では、半径方向=O への向きは「左下向き」で、重力の中心向き成分は \(g\sin\alpha\)。)
立式(エネルギー保存):b(高さ 0、速さ \(v_1\))→ P*(高さ \(\tfrac{3R}{2}\)、速さ \(v\)):
$$\frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mg\cdot\frac{3R}{2}$$ $$v_1^2 = v^2 + 3gR = \frac{gR}{2} + 3gR = \frac{7gR}{2}$$離脱角 \(\alpha\) のとき、\(v^2 = gR\sin\alpha\)、エネルギー保存より \(v_1^2 = gR\sin\alpha + 2gR(1+\sin\alpha) = gR(2 + 3\sin\alpha)\)。
仮に \(R = 1.0\) m、\(g = 9.8\) m/s² として答えを評価してみる。
ステップ1(d → O 下降):力学的エネルギー保存。d は床から \(2R\)、O は床から \(R\)、高度差 \(R\)。d での速さを \(v\)、O での速さ(衝突直前)を \(v_O\) とすると:
$$\frac{1}{2}mv^2 + mgR = \frac{1}{2}mv_O^2 \quad \Rightarrow \quad v_O^2 = v^2 + 2gR$$ステップ2(壁との衝突):反発係数 \(e = 1/\sqrt 2\)。衝突直後の速さを \(v_O'\) とすると:
$$v_O' = e\,v_O = \frac{v_O}{\sqrt 2} \quad \Rightarrow \quad (v_O')^2 = \frac{v_O^2}{2} = \frac{v^2 + 2gR}{2} = \frac{v^2}{2} + gR$$(運動エネルギーは \(\tfrac{1}{2}\) 倍になる、と覚えても良い。)
ステップ3(O → d 上昇):再びエネルギー保存。O での速さ \(v_O'\)、d での速さ \(v'\):
$$\frac{1}{2}m(v_O')^2 = \frac{1}{2}mv'^2 + mgR$$ $$v'^2 = (v_O')^2 - 2gR = \frac{v^2}{2} + gR - 2gR = \frac{v^2}{2} - gR$$d → 壁の往復で 位置エネルギーは元に戻る(同じ高さ)ので、最終的な KE 変化は 反発による損失だけ。すなわち:
d での KE:\(\tfrac{1}{2}mv^2\)。壁通過時の KE:\(\tfrac{1}{2}mv_O^2 = \tfrac{1}{2}mv^2 + mgR\)。 壁衝突で KE が \(\tfrac{1}{2}\) 倍:壁直後の KE = \(\tfrac{1}{4}mv^2 + \tfrac{1}{2}mgR\)。 O から d へ戻ると重力位置エネルギー \(mgR\) を消費: d での新しい KE = \(\tfrac{1}{4}mv^2 + \tfrac{1}{2}mgR - mgR = \tfrac{1}{4}mv^2 - \tfrac{1}{2}mgR\)。 \(\tfrac{1}{2}mv'^2 = \tfrac{1}{4}mv^2 - \tfrac{1}{2}mgR\)、よって \(v'^2 = \tfrac{1}{2}v^2 - gR\)。同じ。
条件①(往路で bcd を d まで離れない):d はループ最高点。N + mg = mv²/R より N≥0 ⇔ \(v^2 \ge gR\)。
条件②(復路で d まで戻れる):設問(4) より \(v'^2 = v^2/2 - gR\)。実数解条件 \(v'^2 \ge 0\) より:
$$\frac{v^2}{2} - gR \ge 0 \quad \Rightarrow \quad v^2 \ge 2gR$$条件③(d を通過した直後に bcd から離れる):d で右向きに \(v'\) で通過した直後、bcd の右側を下る場合は 「d 上面で N=0 となる v' = \(\sqrt{gR}\) が境界」。\(v'^2 < gR\) のとき bcd から離れて飛び出す:
$$\frac{v^2}{2} - gR \le gR \quad \Rightarrow \quad v^2 \le 4gR$$境界の包含について:\(v'^2 = gR\) のとき N=0 で「ぎりぎり接している」状態。物理的には接線方向に飛び出すので、上限は等号を含めて \(v^2 \le 4gR\) と扱う。下限は \(v_O' = 0\) で「壁から離れた瞬間に止まる」極限。これも境界として \(v^2 \ge 2gR\) と等号を含む。
3 条件の共通範囲:\(\max(gR, 2gR) \le v^2 \le 4gR\)、すなわち \(2gR \le v^2 \le 4gR\)。
設問(4) の \(v' = \sqrt{v^2/2 - gR}\) について:
条件①(v² ≥ gR)は条件②に含まれているので不要(②が ① を強める)。
| 境界 | v | 意味 |
|---|---|---|
| 下限 | \(v_{\min} = \sqrt{2gR}\) | 復路で d までぎりぎり戻れる |
| 上限 | \(v_{\max} = 2\sqrt{gR}\) | 復路 d で N=0、ぎりぎり離脱 |
立式(見かけの重力):台の加速度 \(\vec a_{\text{台}} = (\sqrt 3 g, 0)\)(右向き)。台に対する小球の運動方程式に現れる慣性力は \(-m\vec a_{\text{台}} = (-\sqrt 3 mg, 0)\)(左向き)。これと実重力 \((0, -mg)\) の合力:
$$\vec F_{\text{eff}} = (-\sqrt 3 mg,\ -mg) \quad \Rightarrow \quad |\vec g_{\text{eff}}| = \sqrt{(\sqrt 3 g)^2 + g^2} = 2g$$方向:鉛直から左へ \(\arctan\sqrt 3 = 60°\) 傾いた向き(左下方向)。
立式(相対速度最小点):台に固定した座標系で、見かけの重力場におけるエネルギー保存:
$$\frac{1}{2}mv_{\text{rel}}^2 + U_{\text{eff}} = \text{const}$$ここで \(U_{\text{eff}} = -\vec F_{\text{eff}}\cdot\vec r = mg(\sqrt 3 x + y)\)(O を原点、x 右、y 上)。 \(v_{\text{rel}}\) が最小 ⇔ \(U_{\text{eff}}\) が最大。bcd 上の点 \((R\cos\theta, R\sin\theta)\) で:
$$U_{\text{eff}}(\theta) = mgR(\sqrt 3 \cos\theta + \sin\theta) = 2mgR\cos(\theta - 30°)$$これが最大になるのは \(\cos(\theta - 30°) = 1\)、すなわち \(\theta = 30°\)。見かけの重力ベクトルと正反対の向きに円周上で最も離れた点。
j の高さ:j の位置は O から角度 30°、つまり O の右上方向。 O は床から高さ \(R\)、j は O より高さ \(R\sin 30° = R/2\) 上。床からの高さ:
$$h = R + R\sin 30° = R + \frac{R}{2} = \frac{3R}{2}$$見かけの重力ベクトルの単位ベクトル:\(\hat g_{\text{eff}} = (-\sqrt 3/2, -1/2)\)(左下)。bcd 上で このベクトルと逆向きの単位ベクトル方向に O から距離 \(R\) 進んだ点が「最高点」:
$$\vec r_j = -R\hat g_{\text{eff}} = R(\sqrt 3/2, 1/2)$$j の位置(O 基準):\(x = R\sqrt 3/2,\ y = R/2\)。床からの高さ \(R + R/2 = 3R/2\)。同じ。
慣性力 \(\sqrt 3 mg\)(左)と重力 \(mg\)(下)の 比 \(\sqrt 3 : 1\)。よって合力ベクトルの傾きは \(\tan(\text{角度}) = \sqrt 3\) → 角度 \(60°\)(水平からの)または \(30°\)(鉛直からの)と表現の仕方で 2 通り。問題の図 1 で「\(\angle\text{cOf} = 30°\)」とあったのは、実は これと関連した「見かけの最低点」を示唆しているとも読める(f の位置の \(30°\) は本問の「\(j\) の \(30°\)」と対称的)。
立式(条件の物理的意味):台の系で、bcd 上の点 \((R\cos\theta, R\sin\theta)\) における中心 O 向き(半径方向)の運動方程式:
$$N + (\text{見かけの重力の中心向き成分}) = \frac{mv^2}{R}$$見かけの重力 \(\vec g_{\text{eff}} = (-\sqrt 3 g, -g)\) の中心向き(\(-(\cos\theta, \sin\theta)\) 方向)成分は:
$$\vec g_{\text{eff}}\cdot(-\cos\theta, -\sin\theta) = \sqrt 3 g\cos\theta + g\sin\theta = 2g\cos(\theta - 30°)$$よって:
$$N = \frac{mv^2}{R} - 2mg\cos(\theta - 30°)$$離脱しない条件:\(N \ge 0\) ⇔ \(v^2 \ge 2gR\cos(\theta - 30°)\)。 小球が v=0 で折り返すためには、その点で \(N \ge 0\)、すなわち \(\cos(\theta - 30°) \le 0\)、すなわち \(\theta - 30° \ge 90°\) または \(\theta - 30° \le -90°\)。 bcd の範囲(\(\theta \in [-90°, 90°]\))では \(\theta - 30° \le -90°\)、つまり \(\theta \le -60°\)。
境界 \(\theta_{\max} = -60°\):このとき小球はちょうど高さ \(R + R\sin(-60°) = R(1 - \sqrt 3/2)\)... ではなく 「見かけの重力場での到達高さ」を計算する。エネルギー保存(台の系で見かけの重力場):
$$\frac{1}{2}mw^2 + U_{\text{eff}}(b) = \frac{1}{2}m\cdot 0^2 + U_{\text{eff}}(\theta_{\max} = -60°)$$ここで \(U_{\text{eff}}(\theta) = 2mgR\cos(\theta - 30°)\)。\(U_{\text{eff}}(b)\) は \(\theta = -90°\) のとき:\(2mgR\cos(-120°) = 2mgR\cdot(-1/2) = -mgR\)。\(U_{\text{eff}}(-60°) = 2mgR\cos(-90°) = 0\)。
$$\frac{1}{2}mw_0^2 + (-mgR) = 0$$ $$w_0^2 = 2gR$$見かけの重力ベクトルは左下 60°。それと 直交する平面(等ポテンシャル面)は右下から左上の方向。b(θ=−90°)を通るこの等高度面は、bcd と再び交わる位置が \(\theta = -60°\)(b から見ると 30° 進んだところ)。 この点までは「見かけの水平面」だから、エネルギー保存で \(\frac{1}{2}mw^2 = mg_{\text{eff}}\cdot d\)(\(d\) はその二点間の見かけの高度差)。
見かけの高度差:b と \(\theta=-60°\) の点を結ぶ線分の 見かけの重力方向成分。計算すると \(d = R/2\)(具体的には、両点の位置を \(g_{\text{eff}}\) 方向に射影した差)。 \(\frac{1}{2}w_0^2 = g_{\text{eff}}\cdot d = 2g\cdot R/2 = gR\)。よって \(w_0^2 = 2gR\)。同じ結果。
\(\theta > -60°\) の領域では、見かけの重力が 「中心 O 向き(内向き)」になる。すると bcd の壁は外向き(O から離れる向き)に押す必要がある — これは 引力的な力で、壁にできない。よって N=0 になった瞬間に小球は壁から離れる。 \(\theta < -60°\) では見かけの重力が外向き(O から離れる向き)。壁は普通に内向きに押せばよい(N>0)。だから \(\theta = -60°\) が境界。
| 設問 | 答え |
|---|---|
| (1) | \(d = v_1\sqrt{m/k},\ \ t = (\pi/2)\sqrt{m/k}\) |
| (2) | \(a_r = v_1^2/R - g,\ \ a_\theta = (\sqrt 3/2)g\) |
| (3) | \(v_1 = \sqrt{7gR/2}\) |
| (4) | \(v' = \sqrt{v^2/2 - gR}\) |
| (5) | \(v_{\min} = \sqrt{2gR},\ \ v_{\max} = 2\sqrt{gR}\) |
| (6) | \(h = 3R/2\) |
| (7) | \(w_0 = \sqrt{2gR}\) |
本問は「ばねの単振動」「ループ最高点条件」「反発と境界条件」「非慣性系の見かけ重力」と、力学の主要トピックを 1 題でカバーする総合問題でした。とくに 3〜5 のループ条件と離脱条件、6・7 の非慣性系 は名古屋大の傾向にもよく合った典型的な構成です。