第1問(力学)— 斜面つき台と小球の2体運動(糸・衝突・軌跡)

解法の指針

水平レール上を滑らかに動ける質量 \(M\) の台の上面は角度 \(\theta\)、高低差 \(h\) の斜面。質量 \(m\) の小球を下端 Q から上端 P へ向けて発射する 2 体運動の総合問題。I(台固定+糸)は力学的エネルギー保存+糸の衝撃張力、II(台自由)は水平運動量保存+相対運動+軌跡選択という、東大入試レベルの典型題を組み合わせた大問。

着眼点

全体を貫くポイント

数値例で感覚をつかむ

抽象文字式だけでは感覚がつかみにくいので、仮に \(m = 1.0\) kg, \(M = 2.0\) kg, \(\theta = 30°\)(\(\sin\theta=0.50, \cos\theta=0.87\)), \(v_2 = 3.0\) m/s, \(h = 0.50\) m, \(g = 9.8\) m/s² とおいて主要量を計算してみよう:

$$v_0 = \sqrt{v_1^2 + 2 g h} \;\;[\text{I (1)}] \;\;=\; \sqrt{(3.0)^2 + 2\times 9.8 \times 0.50} = \sqrt{9.0 + 9.8} = \sqrt{18.8} \fallingdotseq 4.34 \text{ m/s}$$ $$V_1 = \frac{m v_2\cos\theta}{m+M} \;\;[\text{II (1)}] \;\;=\; \frac{1.0 \times 3.0 \times 0.87}{1.0 + 2.0} = \frac{2.61}{3.0} \fallingdotseq 0.87 \text{ m/s}$$ $$\tan\varphi = \frac{m+M}{M}\tan\theta \;\;[\text{II (3)}]\;\;=\; \frac{1.0 + 2.0}{2.0}\times \tan 30° = 1.5 \times 0.577 \fallingdotseq 0.866 \;\Rightarrow\; \varphi \fallingdotseq 40.9°$$

固定台では \(\varphi = \theta = 30°\) だったのに、台が自由になると ball の加速度がやや鉛直に近く(\(40.9°\) に)傾くことが数値でも確認できる。(5) の条件 \(m = M\) が成り立つ質量比(例: \(m = M = 2.0\) kg)では \(V_{\mathrm{ball},x} = v_2\cos\theta\cdot(m-M)/(m+M) = 3.0 \times 0.87 \times 0 = 0\) m/s となり鉛直落下が実現する。

I (1) 下端 Q で小球に与えた初速 \(v_0\)

直感的理解
台は床に固定されているので台上の斜面もそのまま固定斜面と同じ。ball はなめらかな斜面を登るので非保存力ははたらかず、Q(高さ 0)と P(高さ \(h\))の間で力学的エネルギー保存則が成り立つ。P での斜面方向の速さが \(v_1\) と与えられているので、Q での初速 \(v_0\) を逆算する。

立式:台が固定され、斜面はなめらかなので ball にはたらく非保存力はない。Q(高さ 0、速さ \(v_0\))と P(高さ \(h\)、速さ \(v_1\))で力学的エネルギー保存則を適用する:

$$\frac{1}{2} m v_0^2 = \frac{1}{2} m v_1^2 + m g h$$

整理:両辺を \(\dfrac{2}{m}\) 倍して

$$v_0^2 = v_1^2 + 2 g h$$

よって、下端 Q で ball に与えた初速は

$$v_0 = \sqrt{v_1^2 + 2 g h}$$
答え: \(\displaystyle v_0 = \sqrt{v_1^2 + 2 g h}\)
補足:なぜ \(\theta\) が出てこないのか

重力が ball にする仕事は高低差 \(h\) にしか依存しない(重力は保存力)ため、斜面の角度 \(\theta\) は答えに入らない。斜面を登る経路長は \(h/\sin\theta\) で変わるが、それは加速度の時間変化に影響するだけでエネルギー保存にはきかない。

Point なめらかな斜面+固定台の設定では、力学的エネルギー保存則が最強の武器。\(\theta\) や経路長に惑わされず高さだけで式を立てるのが鉄則。

I (2) 糸が初めて張る瞬間に糸が水平・ball が P と同高度になる糸の長さ \(\ell\)

直感的理解
P に達した ball はそのまま斜面を飛び出し、速度 \(v_1\) で角度 \(\theta\) 上向きに放物運動する。その軌道の最高点では速度が水平になる。最高点の高さが P と同じ、かつその瞬間に糸が水平ということは、「ball が P と同高度で、糸の端から水平方向に出ている」状態。糸の長さは水平方向の最高点までの距離。

立式:P を飛び出した ball は速さ \(v_1\)、水平から角度 \(\theta\) 上向きの放物運動。水平成分 \(v_1\cos\theta\)、鉛直成分 \(v_1\sin\theta\)。最高点までの時間 \(t_{\mathrm{top}}\) は鉛直成分が 0 になる時刻:

$$v_1\sin\theta - g\,t_{\mathrm{top}} = 0 \;\;\Longrightarrow\;\; t_{\mathrm{top}} = \frac{v_1\sin\theta}{g}$$

水平到達距離(P から最高点までの水平変位):

$$x_{\mathrm{top}} = v_1\cos\theta \cdot t_{\mathrm{top}} = \frac{v_1^2\sin\theta\cos\theta}{g} = \frac{v_1^2 \sin(2\theta)}{2g}$$

問題文より、糸が初めて張る瞬間に ball は P と同高度(=最高点)・糸は水平。糸の固定端は P(上方)、ball の位置は P から水平距離 \(x_{\mathrm{top}}\) の地点。糸長 \(\ell\) はこの距離に等しいので

$$\ell = \frac{v_1^2 \sin(2\theta)}{2g} = \frac{v_1^2 \sin\theta \cos\theta}{g}$$
答え: \(\displaystyle \ell = \frac{v_1^2 \sin\theta \cos\theta}{g}\)
補足:最高点で糸が水平になる意味

糸が「初めて」張るのは、ball が固定端 P からちょうど糸の長さ \(\ell\) だけ離れた瞬間。放物線上で P からの距離が最大になるのが最高点とは限らないが、「糸が水平」という追加条件により、その瞬間の ball と P を結ぶ線分が水平 ⇒ ball と P が同高度 ⇒ ball は最高点、と 3 つが等価に結びつく。

Point 放物運動の最高点では速度が水平という事実と、糸が水平に張るという幾何条件を組み合わせて、時刻と位置を同時に決定する。

I (3) 糸が張った直後の台の速度 \(V'\) と ball の鉛直速度成分

直感的理解
糸が張る瞬間、糸の方向(ここでは水平)に衝撃的な張力(撃力)が発生する。これは水平方向だけにはたらくので、ball の鉛直速度成分は変化しない。一方、水平方向については糸が張り続けるために ball と台(糸の固定端が付いた台)の水平速度が一致しなければならない。水平方向に外力なしだから、水平運動量保存で \(V'\) が決まる。

糸が張る直前:ball は最高点にいるので速度は水平成分 \(v_1\cos\theta\) のみ、鉛直成分 0。台は静止。

衝撃張力の性質:糸が水平に張った瞬間、ball と台(糸の固定端)の間に糸方向(水平方向)の撃力が働く。これは瞬間的な大きな力で、微小時間 \(\Delta t \to 0\) でも有限の力積を与える。

立式(ball の鉛直成分):撃力は水平方向のみなので、ball の鉛直速度は保存される:

$$v_y' = v_y(\text{直前}) = 0$$

立式(水平方向:運動量保存):糸を通しての撃力は内力(ball と台の間)で、水平方向に外力はない。さらに糸が張った直後は糸方向の相対速度が 0 ⇒ ball と台は共通水平速度 \(V'\) で運動する。

$$m \cdot v_1\cos\theta + M \cdot 0 = (m + M) V'$$

これより台の速度 \(V'\) は

$$V' = \frac{m v_1\cos\theta}{m + M}$$
答え:
別解:撃力のエネルギー損失で検算

撃力は内力なので運動量は保存するが、機械的エネルギーは失われる可能性がある。損失量:

$$\Delta E = \frac{1}{2}m(v_1\cos\theta)^2 - \frac{1}{2}(m+M){V'}^2 = \frac{1}{2}\cdot \frac{mM}{m+M}(v_1\cos\theta)^2$$

これは「換算質量 \(\mu = \dfrac{mM}{m+M}\) をもつ相対運動の運動エネルギー」がそのまま糸による消散エネルギーになる、という完全非弾性衝突と同じ構造。

補足:糸と垂直方向の速度成分

糸方向(水平)と垂直な方向(鉛直)の相対速度成分は、糸による衝撃では変化しない。直前で ball の鉛直速度 = 0、台の鉛直速度 = 0(台は鉛直に動けない)なので相対鉛直速度も 0 で、直後も 0 のまま。

Point 糸・ばね・壁などの瞬間的な衝撃力(撃力)では「力の方向の成分だけ運動量保存で解く」「垂直な成分は保存」が基本。完全非弾性衝突と同じ数学構造。

II (1) 台と ball の共通速度 \(V_1\)

直感的理解
糸を外し、台は自由に動ける。ball を Q から斜面に沿って上向き(速さ \(v_2\))に発射すると、ball は斜面を登りながら台を前方(右)に押し出す。ball の水平速度は減り、台の水平速度は増える。共通速度 \(V_1\) になった瞬間、ball は台に対して斜面上で一瞬停止=最高点。水平方向には外力がないので運動量保存で \(V_1\) が一発。

立式:ball と台の系には、水平方向に外力が働かない(重力は鉛直、床からの垂直抗力も鉛直)。よって水平運動量は保存する。

初期状態(時刻 0):ball の速度は斜面方向に \(v_2\)、すなわち水平成分 \(v_2\cos\theta\)、鉛直成分 \(v_2\sin\theta\)。台は静止。水平運動量の合計:

$$p_x(\text{初}) = m \cdot v_2\cos\theta + M \cdot 0 = m v_2 \cos\theta$$

「ball と台の速度が等しくなる」瞬間:両者とも共通水平速度 \(V_1\) で運動し、ball の鉛直速度は 0(台の上で ball は水平にしか動けないから)。

$$p_x(\text{共通}) = (m + M) V_1$$

保存則

$$m v_2 \cos\theta = (m + M) V_1$$ $$\therefore\;\; V_1 = \frac{m v_2 \cos\theta}{m + M}$$
答え: \(\displaystyle V_1 = \frac{m v_2 \cos\theta}{m + M}\)
補足:なぜこの瞬間は ball が最高点にあるのか

ball は台に対して斜面に沿って運動する(なめらかな面で、台の外へ飛び出さない限り)。台に対する ball の速度が 0 になる瞬間、台と ball は同じ速度 ⇒ 水平速度も同じ \(V_1\)、鉛直速度も 0。この瞬間が ball の斜面上での最高到達点で、ここから ball は折り返して Q に戻る。

Point 水平方向の運動量保存は「ball の水平速度が台に乗り移る」イメージで覚える。最終的に共通速度になるのは完全非弾性的に「噛み合う」のと同じ構造。

II (2) ball の加速度の大きさと共通速度 \(V_1\)

直感的理解
ball にはたらく力は重力と斜面からの垂直抗力だけ。垂直抗力の大きさは一定(なめらかで相対加速度も一定)なので、ball の加速度ベクトルは大きさも向きも一定。したがって ball は等加速度運動。加速度ベクトルを時間で積分すれば速度変化ベクトルになる。
ball の速度は、時刻 0 に斜面上向き \((v_2\cos\theta, v_2\sin\theta)\) だったものが、時刻 \(T\) に水平方向 \((V_1, 0)\) になる。この速度変化ベクトルを \(T\) で割ったものが加速度ベクトル。

速度変化ベクトル:時刻 0 の ball の速度 \(\vec{v}_0 = (v_2\cos\theta,\, v_2\sin\theta)\)、時刻 \(T\) の速度 \(\vec{v}_T = (V_1,\, 0)\)。その差が \(T\) 時間内の速度変化:

$$\Delta \vec{v} = \vec{v}_T - \vec{v}_0 = (V_1 - v_2\cos\theta,\; -v_2\sin\theta)$$

ball は等加速度運動だから加速度ベクトル \(\vec{a} = \Delta\vec{v}/T\)。各成分は:

$$a_x = \frac{V_1 - v_2\cos\theta}{T}, \qquad a_y = -\frac{v_2\sin\theta}{T}$$

\(\vec{a}\) が水平と成す角を \(\varphi\)(下向きに \(\varphi\) 傾く、\(0\le\varphi\le\pi/2\))とすれば

$$|a_x| = |\vec{a}|\cos\varphi, \qquad |a_y| = |\vec{a}|\sin\varphi$$

鉛直成分から直ちに \(|\vec{a}|\) が出る:

$$|\vec{a}|\sin\varphi = \frac{v_2\sin\theta}{T} \;\;\Longrightarrow\;\; |\vec{a}| = \frac{v_2\sin\theta}{T\sin\varphi}$$

一方、水平成分から

$$|\vec{a}|\cos\varphi = \frac{v_2\cos\theta - V_1}{T} \;\;\Longrightarrow\;\; V_1 = v_2\cos\theta - |\vec{a}| T \cos\varphi$$

\(|\vec{a}| T = v_2\sin\theta/\sin\varphi\) を代入して

$$V_1 = v_2\cos\theta - \frac{v_2\sin\theta \cos\varphi}{\sin\varphi} = v_2\left(\cos\theta - \frac{\sin\theta}{\tan\varphi}\right)$$
答え:
補足:等加速度運動であることの根拠

なめらかな斜面では ball への力は重力 \(-mg\hat{y}\) と垂直抗力 \(N\hat{n}\)(斜面に垂直)のみ。台の加速度も一定(後述 (3) で示す)なので、\(N\) も一定値。よって ball にはたらく合力も一定 ⇒ ball は等加速度ベクトル運動をする。地上系から見ると加速度は「下向き \(\varphi\)」の一定ベクトル。

Point 一定ベクトル加速度の問題では「初速ベクトル・終速ベクトル・\(\Delta\vec{v}\) の三角形」を書くと見通しが立つ。高校範囲でも強力な解法。

II (3) \(\tan\varphi\) の表式

直感的理解
ball の加速度の向きを決めているのは、斜面からの垂直抗力と重力のバランス。台が自由に動くと垂直抗力が小さくなるので、ball の加速度は固定台の場合(角度 \(\theta\) の斜面の下方向)よりもより鉛直に近くなる。結果 \(\varphi > \theta\)。\(M \to \infty\)(固定台)の極限で \(\varphi \to \theta\) に戻るはず、という確認もできる。

立式:ball には重力 \(-mg\hat{y}\) と斜面からの垂直抗力 \(N\) が働く。斜面が右上に上がっているとして、斜面に垂直で上向きの単位ベクトルは \((-\sin\theta,\cos\theta)\) なので、ball にはたらく力は

$$\vec{F}_{\mathrm{ball}} = N(-\sin\theta, \cos\theta) + (0, -mg)$$

ball の加速度:

$$m a_x = -N\sin\theta \;\;\Rightarrow\;\; a_x = -\frac{N\sin\theta}{m}$$ $$m a_y = N\cos\theta - mg \;\;\Rightarrow\;\; a_y = \frac{N\cos\theta}{m} - g$$

台には ball からの反作用 \(+N(\sin\theta,-\cos\theta)\) と床からの垂直抗力、重力が働くが、床は滑らかなので水平方向の台の加速度 \(A_x\) は

$$M A_x = +N\sin\theta \;\;\Rightarrow\;\; A_x = \frac{N\sin\theta}{M}$$

拘束条件:ball は斜面上にあるので、ball の台に対する加速度は斜面方向。斜面方向の単位ベクトル \((\cos\theta, \sin\theta)\) に平行:

$$(a_x - A_x, a_y) \parallel (\cos\theta, \sin\theta)$$ $$\Leftrightarrow\; (a_x - A_x)\sin\theta = a_y \cos\theta$$

代入:

$$\left(-\frac{N\sin\theta}{m} - \frac{N\sin\theta}{M}\right)\sin\theta = \left(\frac{N\cos\theta}{m} - g\right)\cos\theta$$

整理すると(両辺を \(-1\) 倍・展開して)

$$N\sin^2\theta\left(\frac{1}{m}+\frac{1}{M}\right) + \frac{N\cos^2\theta}{m} = g\cos\theta$$ $$\frac{N}{m}(\sin^2\theta + \cos^2\theta) + \frac{N\sin^2\theta}{M} = g\cos\theta$$ $$N\left(\frac{1}{m} + \frac{\sin^2\theta}{M}\right) = g\cos\theta \;\;\Rightarrow\;\; N = \frac{mM g\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}$$

加速度成分を計算する:

$$a_x = -\frac{N\sin\theta}{m} = -\frac{Mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}$$ $$a_y = \frac{N\cos\theta}{m} - g = \frac{Mg\cos^2\theta - g(M + m\sin^2\theta)}{M + m\sin^2\theta} = -\frac{(M+m)g\sin^2\theta}{M + m\sin^2\theta}$$

したがって水平となす角 \(\varphi\) は:

$$\tan\varphi = \frac{|a_y|}{|a_x|} = \frac{(M+m)g\sin^2\theta}{Mg\sin\theta\cos\theta} = \frac{(M+m)\sin\theta}{M\cos\theta} = \frac{m+M}{M}\tan\theta$$
答え: \(\displaystyle \tan\varphi = \frac{m + M}{M} \tan\theta\)
別解:(2) の \(V_1\) 式と (1) の \(V_1\) 式を比較

(1) で \(V_1 = \dfrac{mv_2\cos\theta}{m+M}\)、(2) で \(V_1 = v_2\left(\cos\theta - \dfrac{\sin\theta}{\tan\varphi}\right)\)。両者を等しいとおく:

$$\frac{m\cos\theta}{m+M} = \cos\theta - \frac{\sin\theta}{\tan\varphi}$$ $$\frac{\sin\theta}{\tan\varphi} = \cos\theta \left(1 - \frac{m}{m+M}\right) = \frac{M\cos\theta}{m+M}$$ $$\tan\varphi = \frac{(m+M)\sin\theta}{M\cos\theta} = \frac{m+M}{M}\tan\theta \quad\checkmark$$

この別解は運動方程式を解かず、運動量保存と速度変化ベクトルだけで \(\tan\varphi\) に到達できる。

補足:極限チェック

\(M \to \infty\)(固定台):\(\tan\varphi \to \tan\theta\)、つまり \(\varphi = \theta\)。これは斜面下向きに重力が斜面に沿って分解される古典的結果で妥当。

\(M \to 0\)(台が極めて軽い):\(\tan\varphi \to \infty\)、すなわち \(\varphi \to \pi/2\)。台が瞬時に吹き飛び、ball は鉛直下向きに落下(ほぼ自由落下)する様子と一致。

Point 自由な斜面ではball の加速度が斜面方向ではない(\(\varphi > \theta\))のが最大のポイント。固定台の「斜面に沿う重力成分」の直感はここでは誤り。

II (4) ball の地上系での軌跡(図 1-5 の選択)

直感的理解
(2)(3) で示したとおり ball は一定加速度で運動する ⇒ 地上系での軌跡は放物線。① 〜 ③(直線や折れ線)は論外。次に、ball は Q から斜め上に発射されて最高点を経て再び Q に戻るので、始点と終点が破線(Q 高さ)上にある放物線(④ ⑤ ⑥ のいずれか)。
さらに、台が右へ動くので ball は Q に戻る時には発射点より右に戻る(台も右に移動したため)。④ ⑤ ⑥ のうち始点より右に着地し、かつ上向きに凸な放物線を選ぶ。

軌跡の形状:ball の加速度は一定ベクトルなので、地上系での軌跡は放物線。初速は \((v_2\cos\theta,\, v_2\sin\theta)\)、加速度は (3) で求めた方向の一定ベクトル。

着地点の水平変位:ball が最高点に達する時刻 \(T\) は鉛直速度が 0 になる時刻:

$$v_2\sin\theta + a_y T = 0 \;\;\Rightarrow\;\; T = \frac{v_2\sin\theta}{|a_y|} = \frac{v_2\sin\theta}{(M+m)g\sin^2\theta/(M+m\sin^2\theta)} = \frac{(M+m\sin^2\theta)v_2}{(M+m)g\sin\theta}$$

ball が Q(台)に戻るのは時刻 \(2T\)。その間の ball の水平変位:

$$x_{\mathrm{ball}}(2T) = v_2\cos\theta \cdot 2T + \frac{1}{2}a_x(2T)^2$$

\(a_x = -\dfrac{Mg\sin\theta\cos\theta}{M+m\sin^2\theta}\) を代入し、運動量保存による簡単化を使うと

$$x_{\mathrm{ball}}(2T) = 2V_1 T = \frac{2mv_2\cos\theta}{m+M}\cdot T > 0$$

よって ball は発射点より水平右側に着地する。鉛直位置は 0(破線上)。したがって軌跡は:

④ と ⑤ の差は「着地点の水平距離」。運動量保存より \(x_{\mathrm{ball}}(2T) = 2V_1 T\)、\(V_1 = \dfrac{m v_2\cos\theta}{m+M}\) は \(m < M\) のとき \(v_2\cos\theta\) に比べ小さく、着地距離も小さい(④)。\(m > M\) なら大きく右へ着地(⑤)。
一般的な入試標準条件では ④ を選ぶ。

答え: (発射点より右で破線上に着地する、ball の軌道は上に凸な小さな放物線)
補足:cart frame と ground frame の二重視点

台と一緒に動く視点(cart frame):ball は斜面に沿って直線的に上昇し、瞬間停止して同じ直線を下り、Q に戻る。軌跡は直線(往復)。

地上視点(ground frame):cart frame の直線運動に「cart の水平移動(加速から減速への変化)」を重ね合わせると、上向きに凸な放物線になる。cart frame で直線・ground frame で放物線は、台の加速度が 0 でない(台も動く)ことから生じる。

Point 一定加速度 ⇒ 放物線というだけで選択肢が大幅に絞れる。さらに「運動量保存から ball は右へ着地」で決まり。図形問題でも物理法則の即時適用が鍵。

II (5) Q に戻った後に鉛直落下するための質量 \(m\)

直感的理解
ball が Q に戻った瞬間、それ以降 ball は台から離れて重力だけで落下する。ball が鉛直にまっすぐ落下するためには、その瞬間の ball の水平速度が 0 でなければならない。水平運動量保存から、ball が Q に戻った時刻 \(2T\) における ball の水平速度を求め、これを 0 とおけばよい。

水平運動量保存:発射直後も、ball が Q に戻った直後も、ball と台の水平運動量の合計は保存する。ball が Q に戻った瞬間の ball の水平速度を \(V_{\mathrm{ball},x}\)、台の水平速度を \(V_{\mathrm{cart}}\) とおく。

この瞬間、ball の斜面方向の速さは「発射時の -\(v_2\)」(台に対して下向き)だから、水平方向の相対速度は \(-v_2\cos\theta\):

$$V_{\mathrm{ball},x} = V_{\mathrm{cart}} - v_2\cos\theta$$

水平運動量保存:

$$m \cdot v_2\cos\theta = m V_{\mathrm{ball},x} + M V_{\mathrm{cart}}$$

代入すると

$$m v_2\cos\theta = m(V_{\mathrm{cart}} - v_2\cos\theta) + M V_{\mathrm{cart}} = (m+M)V_{\mathrm{cart}} - m v_2\cos\theta$$ $$2m v_2\cos\theta = (m+M) V_{\mathrm{cart}} \;\;\Rightarrow\;\; V_{\mathrm{cart}} = \frac{2m v_2\cos\theta}{m+M} = 2V_1$$

したがって ball の水平速度は

$$V_{\mathrm{ball},x} = 2V_1 - v_2\cos\theta = \frac{2m v_2\cos\theta}{m+M} - v_2\cos\theta = v_2\cos\theta \cdot \frac{2m - (m+M)}{m+M} = v_2\cos\theta \cdot \frac{m - M}{m+M}$$

鉛直落下条件:ball が Q を離れた後に真下に落ちるには \(V_{\mathrm{ball},x} = 0\)。\(v_2\cos\theta \neq 0\) なので

$$\frac{m - M}{m + M} = 0 \;\;\Longrightarrow\;\; m = M$$
答え: \(\displaystyle m = M\)
別解:重心速度からの理解

系の重心の水平速度は保存で \(V_G = \dfrac{m v_2\cos\theta}{m+M}\)(=\(V_1\))。ball が Q に戻ったとき:

  • ball の水平速度 \(V_{\mathrm{ball},x} = V_G - \Delta\)(何か)
  • 台の水平速度 \(V_{\mathrm{cart}} = V_G + (m/M)\Delta\)

重心系での ball と台の相対運動の対称性から、Q に戻る瞬間に ball の重心系速度は発射時の逆向きになる:\(V_{\mathrm{ball},x} - V_G = -(v_2\cos\theta - V_G) = V_G - v_2\cos\theta\)。よって \(V_{\mathrm{ball},x} = 2V_G - v_2\cos\theta\)、これは上と同じ。ball が鉛直落下 ⇔ \(V_{\mathrm{ball},x}=0\) ⇔ \(2V_G = v_2\cos\theta\) ⇔ \(\dfrac{2m}{m+M} = 1\) ⇔ \(m = M\)。

補足:\(m \neq M\) のときの ball の着地方向
質量比Q を離れた後の水平速度落下方向
\(m < M\)\(v_2\cos\theta\cdot\dfrac{m-M}{m+M} < 0\)左にずれて落下
\(m = M\)0真下に落下 ✓
\(m > M\)\(v_2\cos\theta\cdot\dfrac{m-M}{m+M} > 0\)右にずれて落下

ball が重ければ台は相対的にあまり動けず、ball の水平運動量は右向きに残る ⇒ 右へ着地。ball が軽ければ台が大きく右へ飛び、ball は相対的に左へ残る ⇒ 左へ着地。

Point 「鉛直落下」=「水平速度 0」と読み替えるのが決まり。ball が台から離れる瞬間の水平速度を運動量保存だけで書けるのは物理の美しさ。\(m = M\) という対称的な答えが得られるのはたまたまではなく、全運動量の半分ずつを ball と台が分け合うことを意味する。