大問1:ばねと台の運動(運動量保存と重心運動)

解法の指針

直感的理解
台が固定されていれば小球だけが振動しますが,台が自由だと「反動」で台も動きます。この違いは「重心が動くかどうか」で統一的に理解できます。重心が静止なら全エネルギーが相対運動に使え,重心が動いていると一部が重心の運動に取られます。

この問題は,L字型の台に固定されたばねと小球の運動を扱います。台の固定条件によって運動が大きく変わり,特に重心運動と相対運動の分離が重要な解法となります。

問題設定の確認
・水平な床の上に質量 $M$ のL字型の台が置かれている
・ばね定数 $k$ の軽いばねが台の左端に固定され,右端に質量 $m$ の小球が取り付けられている
・床と台,台と小球の間に摩擦はない
・台と小球は床面上の $x$ 軸に沿って動き,速度は $x$ 軸の向き(右向き)を正とする
Point

3つの設定(台固定/台自由/片側のみストッパー)を通じて,運動量保存則・エネルギー保存則・重心系の分離を使い分ける力が問われています。

数値例:ばね定数 k = 200 N/m、小球の質量 m = 0.50 kg、自然長からの縮み d = 0.10 m のとき、ばねの弾性エネルギーは U = 0.5 × 200 × 0.10 × 0.10 = 1.0 J。台固定なら小球の速さは v = sqrt(2U ÷ m) = sqrt(2 × 1.0 ÷ 0.50) = 2.0 m/s。

図1:台が固定されている場合(問1-3)

直感的理解
台が固定されているので,これは壁に付いたばねの単振動そのもの。縮めた位置で手を離せば,ばねのエネルギーがすべて小球の運動エネルギーに変換されます。

ストッパーA, Bで台が固定されているため,小球のみが運動します。ばねが自然長から $d$ だけ縮んだ位置から小球を静かにはなすと,小球は単振動を行います。

問1:$v_0$ を求める

台が固定されているため,小球は角振動数 $\omega = \sqrt{k/m}$ の単振動を行います。

【解法】エネルギー保存則

初期位置(ばねが $d$ だけ縮んだ位置)と自然長位置でのエネルギーを比較します。 $$ \frac{1}{2}kd^2 + 0 = 0 + \frac{1}{2}mv_0^2 $$ $$ \therefore\ v_0 = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$

答え: $$ v_0 = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$
別解:単振動の速度公式

単振動 $x(t) = -d\cos(\omega t)$(自然長を原点とする)の速度は $$ v(t) = d\omega\sin(\omega t) $$ 自然長位置($x = 0$)を通過するのは $\omega t = \pi/2$ のとき。このとき $$ v_0 = d\omega = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$

問2:自然長に戻るまでの時間

【解法】

単振動の周期は $T = 2\pi\sqrt{m/k}$ です。
振幅の端(縮み $d$ の位置)から平衡点(自然長)までは周期の $1/4$ なので, $$ t = \frac{T}{4} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$

答え: $$ t = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$
補足:位相で考える

$x(t) = -d\cos(\omega t)$ において,$x = 0$ となるのは $\omega t = \pi/2$ のとき。 $$ t = \frac{\pi}{2\omega} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$

問3:ばねが最も伸びたときの小球の速度

単振動において,振幅の端点では速度は $\boldsymbol{0}$ です。
エネルギー保存則からも,ばねの弾性エネルギーが最大のとき運動エネルギーは $0$ となります。

答え: $0$
Point

台が固定された単振動では,自然長が振動中心,振幅は初期変位 $d$ です。エネルギー保存則 $\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}mv_0^2$ で速度が即座に求まります。

【重要】重心運動と相対運動の分離

直感的理解
ばねの力は「内力」なので,台と小球を1つの系としてみれば重心は動きません。個々の動きは複雑でも,重心の動きは極めてシンプルです。「全体の動き」と「内部のブルブル」を分けて考えるのがこの手法の本質です。

図2と図3を解く前に,重心運動と相対運動の分離という強力な解法を理解しておきましょう。

重心の定義と性質

質量 $M$ の台と質量 $m$ の小球からなる系の重心位置 $x_G$ は, $$ x_G = \frac{Mx_M + mx_m}{M + m} $$ ここで $x_M$ は台の位置,$x_m$ は小球の位置です。

重心の運動方程式は, $$ (M + m)\frac{d^2 x_G}{dt^2} = F_{\text{外力}} $$ となります。ばねの力は内力(系の内部で作用・反作用の関係にある力)なので,重心の運動には影響しません。

Point

外力がはたらかない系では,重心は等速直線運動(または静止)する。
図2では初期に台も小球も静止しているので,重心は永久に静止したままです。

相対運動の解析

小球の台に対する相対位置を $\xi = x_m - x_M$ とおくと,これは換算質量 $$ \mu = \frac{mM}{m + M} $$ を用いた単振動として記述できます。相対運動の運動方程式は, $$ \mu\frac{d^2\xi}{dt^2} = -k(\xi - \ell_0) $$ ここで $\ell_0$ は自然長です。角振動数は $$ \omega' = \sqrt{\frac{k}{\mu}} = \sqrt{\frac{k(M + m)}{mM}} $$

各物体の運動の導出

重心位置 $x_G$ と相対位置 $\xi$ が分かれば,各物体の位置は, $$ x_M = x_G - \frac{m}{M + m}\xi, \quad x_m = x_G + \frac{M}{M + m}\xi $$ 速度も同様に, $$ v_M = v_G - \frac{m}{M + m}\dot{\xi}, \quad v_m = v_G + \frac{M}{M + m}\dot{\xi} $$

まとめ:重心系の利点
・重心の運動は外力のみで決まる(内力は無関係)
・相対運動は換算質量を用いた単振動になる
・運動量保存則は「重心速度一定」と等価
・エネルギーは「重心の運動エネルギー」+「相対運動のエネルギー」に分離可能

図2:台も自由に動ける場合(問4-7)

直感的理解
台も自由に動けるので,小球が右に飛び出せば台は左に反動を受けます。「宇宙空間で2人が押し合う」のと同じ状況です。重い方はゆっくり,軽い方は速く動きます。

ストッパーA, Bの両方を取りはずし,台も床の上を動けるようにします。外力がはたらかないため,系の運動量は保存され,重心は静止したままです。

問4:$V_1/v_1$ を求める

【解法】運動量保存則

初期状態で台も小球も静止しているので,運動量は常に $0$ です。 $$ MV_1 + mv_1 = 0 $$ $$ \therefore\ \frac{V_1}{v_1} = -\frac{m}{M} $$ 符号を考慮して,速度の大きさの比は $\displaystyle\frac{m}{M}$(向きは逆)。

答え: $$ \frac{V_1}{v_1} = \frac{m}{M} $$ (符号を含めると $-m/M$,つまり台と小球は逆向きに動く)
別解:重心系で考える

重心は静止しているので,$v_G = 0$。相対速度を $\dot{\xi}$ とすると, $$ V_1 = -\frac{m}{M + m}\dot{\xi}, \quad v_1 = \frac{M}{M + m}\dot{\xi} $$ したがって, $$ \frac{V_1}{v_1} = -\frac{m}{M} $$

問5:$v_1$ を求める

【解法】エネルギー保存則と運動量保存則の連立

エネルギー保存則: $$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}MV_1^2 + \frac{1}{2}mv_1^2 $$ 運動量保存則 $V_1 = -\frac{m}{M}v_1$ を代入: $$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}M \cdot \frac{m^2}{M^2}v_1^2 + \frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}mv_1^2\left(\frac{m}{M} + 1\right) = \frac{m(M + m)}{2M}v_1^2 $$ $$ \therefore\ v_1 = d\sqrt{\frac{kM}{m(M + m)}} $$

答え: $$ v_1 = d\sqrt{\frac{kM}{m(M + m)}} $$
別解:換算質量を用いた相対運動のエネルギー

重心が静止しているので,系の全運動エネルギーは相対運動のエネルギーに等しい: $$ K = \frac{1}{2}\mu\dot{\xi}^2 = \frac{1}{2} \cdot \frac{mM}{m + M} \cdot \dot{\xi}^2 $$ エネルギー保存則: $$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}\mu\dot{\xi}_1^2 $$ $$ \dot{\xi}_1 = d\sqrt{\frac{k}{\mu}} = d\sqrt{\frac{k(M + m)}{mM}} $$ これは相対速度なので, $$ v_1 = \frac{M}{M + m}\dot{\xi}_1 = \frac{M}{M + m} \cdot d\sqrt{\frac{k(M + m)}{mM}} = d\sqrt{\frac{kM}{m(M + m)}} $$

補足:図1との比較

図1では $v_0 = d\sqrt{k/m}$ でしたが,図2では $$ v_1 = d\sqrt{\frac{kM}{m(M + m)}} = v_0 \cdot \sqrt{\frac{M}{M + m}} < v_0 $$ 台も動くため,小球の最大速度は小さくなります。これはエネルギーが台にも分配されるためです。

問6:ばねが最も伸びたときの小球の速度

【解法】

ばねが最も伸びたとき,相対速度が $0$ になります(伸びの変化が止まる瞬間)。
相対速度 $\dot{\xi} = v_m - v_M = 0$ より,$v_m = v_M$。
運動量保存則 $Mv_M + mv_m = 0$ と合わせると, $$ (M + m)v_m = 0 \quad \therefore\ v_m = 0 $$

答え: $0$
別解:重心系で考える

重心速度 $v_G = 0$(静止)のとき,相対速度 $\dot{\xi} = 0$ ならば $$ v_m = v_G + \frac{M}{M + m} \cdot 0 = 0 $$

問7:ばねの伸びの最大値

【解法】エネルギー保存則

ばねが最も伸びたとき,台と小球は速度 $0$(問6より)なので,運動エネルギーは $0$。 $$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}kX_{\max}^2 $$ $$ \therefore\ X_{\max} = d $$

答え: $d$
別解:相対運動の振幅

相対運動は自然長を中心とした単振動で,初期のずれが $-d$(縮み)なので振幅は $d$。
したがって最大伸びも $d$。

補足:重心系での解釈

相対運動のエネルギーは $$ E_{\text{rel}} = \frac{1}{2}\mu\dot{\xi}^2 + \frac{1}{2}k(\xi - \ell_0)^2 = \frac{1}{2}kd^2 $$ で一定です。$\dot{\xi} = 0$ のとき $(\xi - \ell_0)^2 = d^2$,つまり伸びまたは縮みの最大値は $d$ です。

Point

台が自由な場合は換算質量 $\mu = mM/(m+M)$ を使った相対運動が単振動になります。重心静止 → 運動量保存 → 速度比 $V_1/v_1 = -m/M$ がすぐ出ます。

図3:ストッパーAのみの場合(問8-11)

直感的理解
ストッパーAのみ → ばねが縮んでいる間は台は固定(図1と同じ),ばねが伸び始めると台が引っ張られて動き出す(図2的な状況に切り替わる)。2つのフェーズの「つなぎ」がこの設問の要です。

ストッパーAのみが取り付けられており,台は右方向のみ動けます。
ばねが縮んでいる間は,ばねが台を左に押すのでストッパーが反力を出し,台は静止。
ばねが自然長より伸びると,ばねが台を右に引くので台が動き始めます。

問8:$v_2$ を求める

【解法】

ばねが縮んでいる間(フェーズ1)は,台がストッパーに固定されているため,図1と同じ状況です。
ばねが自然長になったときの小球の速度は,問1と同じ計算から, $$ v_2 = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$

答え: $$ v_2 = d\sqrt{\frac{k}{m}} $$

問9:台が動き始めるまでの時間

【解法】

台が動き始めるのは,ばねが自然長より伸び始める瞬間です。
これは問2と同じで,小球が自然長位置に達する時間: $$ t = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$

答え: $$ t = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$
補足:なぜこの瞬間に台が動き始めるか

ばねが縮んでいる間($\xi < \ell_0$):ばねは台を左に押す → ストッパーが反力 → 台は静止
ばねが自然長より伸びる($\xi > \ell_0$):ばねは台を右に引く → ストッパーは反力を出せない → 台が動く

問10:$v_3/v_2$ を求める

【解法】運動量保存則

フェーズ2(台が動き始めた後)では,外力がなくなるので運動量保存則が成り立ちます。
フェーズ2の開始時点:小球の速度 $v_2$,台の速度 $0$,運動量 $= mv_2$

ばねが最も伸びたとき,相対速度が $0$ なので台と小球は同じ速度 $v_3$ になります。 $$ mv_2 = (M + m)v_3 $$ $$ \therefore\ \frac{v_3}{v_2} = \frac{m}{M + m} $$

答え: $$ \frac{v_3}{v_2} = \frac{m}{M + m} $$
別解:重心系で考える

フェーズ2開始時の重心速度は, $$ v_G = \frac{M \cdot 0 + m \cdot v_2}{M + m} = \frac{mv_2}{M + m} $$ ばねが最も伸びたとき相対速度 $0$ なので,全物体は重心速度で動きます: $$ v_3 = v_G = \frac{mv_2}{M + m} $$ $$ \therefore\ \frac{v_3}{v_2} = \frac{m}{M + m} $$

補足:図2との違い

図2では最大伸び時の速度は $0$ でしたが,図3では $v_3 \neq 0$ です。
これは図3のフェーズ2開始時に系の運動量が $mv_2 \neq 0$ だからです。重心が動いているため,相対速度が $0$ になっても各物体は重心速度で動き続けます。

問11:ばねの伸びの最大値

【解法】エネルギー保存則

フェーズ2の開始時と最大伸び時でエネルギー保存則を適用:
(開始時)運動エネルギー $\frac{1}{2}mv_2^2$,弾性エネルギー $0$
(最大伸び時)運動エネルギー $\frac{1}{2}(M+m)v_3^2$,弾性エネルギー $\frac{1}{2}kX_{\max}^2$

$$ \frac{1}{2}mv_2^2 = \frac{1}{2}(M + m)v_3^2 + \frac{1}{2}kX_{\max}^2 $$ $v_3 = \frac{m}{M+m}v_2$ を代入: $$ \frac{1}{2}mv_2^2 = \frac{1}{2}(M + m) \cdot \frac{m^2}{(M+m)^2}v_2^2 + \frac{1}{2}kX_{\max}^2 $$ $$ \frac{1}{2}mv_2^2 = \frac{m^2v_2^2}{2(M+m)} + \frac{1}{2}kX_{\max}^2 $$ $$ kX_{\max}^2 = mv_2^2 - \frac{m^2v_2^2}{M+m} = mv_2^2 \cdot \frac{M}{M+m} $$ $v_2^2 = kd^2/m$ を代入: $$ kX_{\max}^2 = m \cdot \frac{kd^2}{m} \cdot \frac{M}{M+m} = \frac{kd^2 M}{M+m} $$ $$ \therefore\ X_{\max} = d\sqrt{\frac{M}{M + m}} $$

答え: $$ X_{\max} = d\sqrt{\frac{M}{M + m}} $$
別解:重心系でのエネルギー分離

フェーズ2では,全エネルギーは「重心の運動エネルギー」+「相対運動のエネルギー」に分離できます。 $$ E = \frac{1}{2}(M + m)v_G^2 + \frac{1}{2}\mu\dot{\xi}^2 + \frac{1}{2}k(\xi - \ell_0)^2 $$ 重心の運動エネルギー $\frac{1}{2}(M+m)v_G^2 = \frac{m^2v_2^2}{2(M+m)}$ は一定。
相対運動のエネルギー: $$ E_{\text{rel}} = \frac{1}{2}mv_2^2 - \frac{m^2v_2^2}{2(M+m)} = \frac{mMv_2^2}{2(M+m)} $$ 最大伸び時は $\dot{\xi} = 0$ なので, $$ \frac{1}{2}kX_{\max}^2 = \frac{mMv_2^2}{2(M+m)} = \frac{mM}{2(M+m)} \cdot \frac{kd^2}{m} = \frac{kd^2 M}{2(M+m)} $$ $$ \therefore\ X_{\max} = d\sqrt{\frac{M}{M + m}} $$

補足:最大伸びの比較

・図1, 図2:$X_{\max} = d$(重心静止)
・図3:$X_{\max} = d\sqrt{\frac{M}{M+m}} < d$(重心が動いている)

図3では重心の運動エネルギーにエネルギーが取られるため,相対運動に使えるエネルギーが減り,最大伸びが小さくなります。

Point

図3のフェーズ2では重心速度 $v_G = mv_2/(M+m) \neq 0$ なので,相対運動に使えるエネルギーは全体から重心運動分を引いた $\frac{mMv_2^2}{2(M+m)}$ だけです。そのため最大伸び $d\sqrt{M/(M+m)} < d$ と図2より小さくなります。