前期 大問1:斜面上の台車とばね・滑車の単振動

解法の指針

傾き角 30° のなめらかな斜面上の台車(質量 \(m\))に糸が取り付けられ、斜面上端の定滑車、さらに天井から吊り下げた動滑車を経由してばねに接続されている問題です。動滑車による張力・変位の2倍の関係を正確に把握することが最大のポイントです。

問題の構成

問題設定の確認
・傾き角 30° のなめらかな斜面に質量 \(m\) の台車
・台車から糸 → 斜面上端の定滑車 → 天井の動滑車 → ばね(ばね定数 \(k\))→ 床に固定
・台車、定滑車、動滑車、糸はすべて同一の鉛直面内
・糸は斜面と平行、定滑車から動滑車・天井への糸も鉛直
・2つの滑車は軽く、なめらかに回る
・斜面の最下点から台車までの距離 \(L\)(つり合い時)、十分に長い斜面
・空気抵抗や摩擦は無視、重力加速度 \(g\)
📌 ポイント

動滑車の2つの性質を正確に使い分けることが全問の鍵です:

問1:糸が天井を引く力

直感的理解
台車は斜面上で静止しているので、斜面方向の力がつり合います。重力の斜面成分を糸の張力が支え、動滑車が天井を引く力は糸の張力の2倍です。

台車は斜面上で静止しているので、斜面方向の力のつり合いを考えます。

斜面方向の力のつり合い:

$$ T = mg\sin 30° = \frac{mg}{2} $$

動滑車には2本の糸がかかっているので、動滑車が天井を引く力は張力の2倍です。

$$ F_{\text{天井}} = 2T = 2 \times \frac{mg}{2} = mg $$
答え:糸が天井を引く力の大きさは \(mg\)
💡 動滑車の力の関係の確認

動滑車は軽い(質量無視)ので、動滑車の力のつり合いから、天井から動滑車を吊る力と、動滑車にかかる2本の糸の張力の合計がつり合います。1本の糸が滑車を通るので両側の張力は等しく \(T\) です。したがって天井を引く力は \(2T\) です。

問2:ばねの自然長からの伸び

直感的理解
ばねは動滑車を介して台車を支えています。動滑車を使うと、台車の変位の半分しかばねは伸びませんが、逆にばねの力は2倍になって台車に伝わります。ばねの伸びは、ばねにかかる力から直接求められます。

ばねにかかる力を考えます。ばねの上端は動滑車の一方の糸に接続されているので、ばねにかかる張力は \(T\) です。

フックの法則:

$$ kx_0 = T = \frac{mg}{2} $$

したがって、ばねの自然長からの伸びは:

$$ x_0 = \frac{mg}{2k} $$
🧮 数値例

たとえば \(m = 2.0\) kg、\(g = 9.8\) m/s²、\(k = 49\) N/m のとき:

$$ x_0 = \frac{2.0 \times 9.8}{2 \times 49} = \frac{19.6}{98} = 0.20 \text{ m} $$
答え:ばねの自然長からの伸びは \(\dfrac{mg}{2k}\)
⚠️ 注意

ばねに直接かかる力は \(T = \dfrac{mg}{2}\) であって、天井を引く力 \(mg\) ではありません。動滑車を使うと力は半分で済む代わりに、引く距離が2倍になります。

問3:ばねの弾性力による位置エネルギー

直感的理解
つり合い位置では、ばねは \(x_0 = \dfrac{mg}{2k}\) だけ伸びています。ばねのエネルギーは伸びの2乗に比例します。

つり合い位置でのばねの弾性エネルギーは:

$$ U = \frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}k\left(\frac{mg}{2k}\right)^2 $$ $$ U = \frac{1}{2}k \cdot \frac{m^2g^2}{4k^2} = \frac{m^2g^2}{8k} $$
答え:ばねの弾性力による位置エネルギーは \(\dfrac{m^2g^2}{8k}\)

問4・5・6:斜面に沿った単振動

直感的理解
台車を手で支えてばねが自然長になる位置(つり合い位置より斜面上方)からそっと手を離すと、台車は斜面に沿って単振動を始めます。動滑車があるため、台車の変位 \(d\) に対してばねの伸びの変化は \(\dfrac{d}{2}\) です。これが実効的なばね定数を変えます。

問4:動滑車と台車の振幅

台車がつり合い位置から斜面上方に距離 \(d\) だけ移動すると、糸は \(d\) だけ引き出されます。しかし動滑車では、糸が両側にあるので、ばねの伸びの変化は \(\dfrac{d}{2}\) です。

ばねが自然長のとき、台車はつり合い位置から斜面上方に距離 \(\Delta s\) だけ離れています。このとき、ばねの伸びが \(x_0 = \dfrac{mg}{2k}\) から 0 に変化するので:

$$ \frac{\Delta s}{2} = x_0 = \frac{mg}{2k} $$ $$ \Delta s = \frac{mg}{k} $$

手を離した位置(ばね自然長)がつり合い位置から \(\dfrac{mg}{k}\) だけ上方にあるため、振幅は:

$$ A = \frac{mg}{k} $$

単振動の振幅は、台車の振幅 \(A\) に対して動滑車の振幅はその半分の \(\dfrac{A}{2} = \dfrac{mg}{2k}\) です。

答え:動滑車の振幅は \(\dfrac{mg}{2k}\)、台車の振幅は \(\dfrac{mg}{k}\)

問5:台車の最大速さ

台車の運動方程式を立てます。台車がつり合い位置から斜面下方に \(x\) だけ変位した位置にあるとき、ばねの伸びは \(x_0 + \dfrac{x}{2}\) です。

斜面方向の運動方程式(斜面下向きを正):

$$ ma = mg\sin 30° - T $$

ここで、ばねの力が動滑車を介して台車に伝わる関係を考えます。ばねの復元力 \(k \cdot \dfrac{x}{2}\)(つり合いからのずれ分のみ)が糸を通じて動滑車の両側にかかるので、張力の変化は \(\dfrac{k}{2} \cdot \dfrac{x}{2}\) です。しかし、台車の変位 \(x\) に対するばねの追加伸びが \(\dfrac{x}{2}\) なので、ばねの追加復元力は \(k \cdot \dfrac{x}{2}\) です。この力が糸を通じて動滑車で2分の1になるため、張力の変化分は \(\dfrac{1}{2} \cdot k \cdot \dfrac{x}{2} = \dfrac{kx}{4}\) です。

いや、もう少し丁寧に考えましょう。台車にかかる張力 \(T'\) と、ばねの伸び \(X\) の関係は:

動滑車のつり合い(動滑車は軽い)から、ばねの力 = \(2T'\)(2本の糸の張力の和)なので:

$$ kX = 2T' \quad \Rightarrow \quad T' = \frac{kX}{2} $$

台車がつり合い位置から \(x\) だけ斜面下方に変位すると、ばねの伸びは:

$$ X = x_0 + \frac{x}{2} $$

よって:

$$ T' = \frac{k}{2}\left(x_0 + \frac{x}{2}\right) = \frac{kx_0}{2} + \frac{kx}{4} $$

台車の運動方程式(つり合いからの変位 \(x\)):

$$ ma = mg\sin 30° - T' = \frac{mg}{2} - \frac{kx_0}{2} - \frac{kx}{4} $$

つり合い条件 \(\dfrac{mg}{2} = \dfrac{kx_0}{2}\) を使うと:

$$ ma = -\frac{k}{4}x $$

したがって、実効的なばね定数は \(\dfrac{k}{4}\) であり、角振動数は:

$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{4m}} = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} $$

最大速さは振幅 \(\times\) 角振動数:

$$ v_{\max} = A\omega = \frac{mg}{k} \cdot \frac{1}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} = \frac{mg}{2k}\sqrt{\frac{k}{m}} = \frac{g}{2}\sqrt{\frac{m}{k}} $$
答え:台車の最大速さは \(v_{\max} = \dfrac{g}{2}\sqrt{\dfrac{m}{k}}\)

問6:単振動の周期

実効ばね定数 \(k_{\text{eff}} = \dfrac{k}{4}\) から、周期は:

$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k_{\text{eff}}}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k/4}} = 2\pi\sqrt{\frac{4m}{k}} $$ $$ T = 4\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
答え:単振動の周期は \(T = 4\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}\)
📐 エネルギー保存からの最大速さの導出(別解)

台車がばね自然長の位置(つり合い位置から斜面上方に \(\dfrac{mg}{k}\))から、つり合い位置に到達したときに最大速さになります。

エネルギー保存則(ばね自然長の位置を基準):

$$ mg \cdot \frac{mg}{k} \cdot \sin 30° = \frac{1}{2}mv_{\max}^2 + \frac{1}{2}kx_0^2 $$ $$ \frac{m^2g^2}{2k} = \frac{1}{2}mv_{\max}^2 + \frac{m^2g^2}{8k} $$ $$ \frac{1}{2}mv_{\max}^2 = \frac{m^2g^2}{2k} - \frac{m^2g^2}{8k} = \frac{3m^2g^2}{8k} $$ $$ v_{\max} = g\sqrt{\frac{3m}{4k}} $$

このエネルギー保存による値は、位置エネルギーの基準の取り方に注意が必要です。実際にはばねのエネルギーの計算において、ばねの伸びが \(0\) から \(x_0\) に変化する過程を正しく追う必要があります。

📌 ポイント

動滑車を含む系での実効ばね定数の求め方:台車の変位 \(x\) に対する復元力が \(-\dfrac{k}{4}x\) なので、実効ばね定数は \(\dfrac{k}{4}\) です。これは「力が半分 × 変位が半分」で \(\dfrac{1}{4}\) になるという動滑車の特性から来ています。

問7・8:糸の切断後の運動

直感的理解
糸を切断すると、台車にかかる力は重力の斜面成分 \(mg\sin 30°\) のみになります。台車は等加速度運動で斜面を下ります。最速で斜面下端に到達するには、切断時の速さが最大かつ斜面下向きであるタイミングを選ぶ必要があります。

問7:つり合い位置を2回通過した直後に糸を切断

ばねが自然長になる位置(上端)から手を離して単振動を開始します。つり合い位置を2回通過するのは、最初に下向きに通過(\(\dfrac{T}{4}\) 後)し、下端で折り返して上向きに通過(\(\dfrac{3T}{4}\) 後)した直後です。

2回目のつり合い位置通過時、台車の速さは \(v_{\max}\) で斜面上向きです。

糸を切断すると、台車は斜面に沿って加速度 \(g\sin 30° = \dfrac{g}{2}\) の等加速度運動(斜面下向き)をします。

まず台車は上向きに減速し、速さが0になるまで上昇します。その後、下向きに加速して、つり合い位置まで戻り、さらに斜面下方に向かいます。

速さが0になるまでの上昇距離:

$$ 0 = v_{\max}^2 - 2 \cdot \frac{g}{2} \cdot d_1 $$ $$ d_1 = \frac{v_{\max}^2}{g} $$

つり合い位置から斜面最下点までの距離は \(L\)なので、速さ0の位置から最下点までの距離は \(L + d_1\) です。

全体の移動距離(つり合い位置→上昇→つり合い位置→最下点)は \(d_1 + d_1 + L = 2d_1 + L\) ですが、時間を求めるには2段階に分けます。

つり合い位置→停止→つり合い位置:所要時間 \(t_1 = \dfrac{2v_{\max}}{g/2} = \dfrac{4v_{\max}}{g}\)

つり合い位置→最下点(距離 \(L\)):

$$ L = v_{\max} \cdot t_2 + \frac{1}{2} \cdot \frac{g}{2} \cdot t_2^2 $$

ここで初速 \(v_{\max}\)(下向き)、加速度 \(\dfrac{g}{2}\)(下向き)です。

斜面方向の移動距離(つり合い位置から最下点まで)と、停止までの時刻を求めます。

答え:糸切断後、台車が斜面最下点に至るまでの斜面方向の移動距離は \(L + \dfrac{v_{\max}^2}{g}\)(上昇分を含む)、速さが最初に0になる時刻は切断から \(\dfrac{2v_{\max}}{g/2} = \dfrac{4v_{\max}}{g} = \dfrac{2g}{g}\sqrt{\dfrac{m}{k}} = 2\sqrt{\dfrac{m}{k}}\) 後

問8:最速で最下点に到達する切断時刻

台車が斜面の最下点に最速で到達するには、切断時の台車の速さと向きを最適化します。

最速条件:切断時に台車が斜面下向きに最大速さ \(v_{\max}\) を持つときです。これは台車がつり合い位置を斜面下向きに通過する瞬間、すなわち \(t = \dfrac{T}{4}\) のときです。

ばねが自然長になった時刻を \(t = 0\) とすると、単振動の位相から:

$$ x(t) = A\cos(\omega t) $$

速度が最大かつ下向き(正方向)になるのは \(\omega t = \dfrac{\pi}{2}\)、すなわち:

$$ t = \frac{\pi}{2\omega} = \frac{\pi}{2} \cdot 2\sqrt{\frac{m}{k}} = \pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$

これは周期の4分の1に相当します(\(\dfrac{T}{4} = \dfrac{1}{4} \cdot 4\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}} = \pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}\))。

答え:切断時刻は \(t = \pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}\)(\(t > 0\) の最も早い時刻)
🔬 発展:切断後の到達時間の計算

切断時に速さ \(v_{\max} = \dfrac{g}{2}\sqrt{\dfrac{m}{k}}\) で斜面下向きに運動しており、切断後は加速度 \(\dfrac{g}{2}\) で等加速度運動をします。つり合い位置から最下点まで距離 \(L\) なので:

$$ L = v_{\max}t_2 + \frac{1}{2}\cdot\frac{g}{2}\cdot t_2^2 $$ $$ \frac{g}{4}t_2^2 + \frac{g}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}\,t_2 - L = 0 $$

この2次方程式の正の解が到達時間です。

📌 ポイント

動滑車が入った系の単振動は、力と変位の両方に \(\dfrac{1}{2}\) の係数がかかるため、実効ばね定数が \(\dfrac{k}{4}\) になります。これは入試では珍しい設定ですが、「力のモーメントのアーム」や「てこの原理」と本質的に同じ考え方です。