前期 大問3:傾斜レール上の導体棒と電磁誘導(抵抗線)

解法の指針

鉛直上向きで一様な磁束密度 \(B\) の磁場中に、水平面から角度 \(\theta\) だけ傾いた2本の平行な導体レールが距離 \(l\) だけ離れて固定されています。上端に一様な抵抗線 P'Q'(長さ \(l\))が接続され、質量 \(M\)、長さ \(l\) の導体棒 PQ がレールに垂直に置かれています。

問題の構成

問題設定の確認
・磁束密度 \(B\)(鉛直上向き)の一様な磁場中
・距離 \(l\) 離れた平行な導体レールが角度 \(\theta\) で傾斜
・上端に長さ \(l\) の一様な抵抗線 P'Q' が接続
・質量 \(M\)、長さ \(l\) の導体棒 PQ がレールに垂直に配置
・摩擦・空気抵抗・抵抗線以外の電気抵抗なし
・導体棒は回転しない、回路を流れる電流がつくる磁場は無視
・抵抗線を Q' から P' 方向(=電子と書くとき P から Q の向き)をレールに沿った正の向き
・導体棒の速度の正の向きはレールに沿って下向き
・電子の電荷 \(-e\)(\(e > 0\))、質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)
📌 ポイント

磁場が鉛直上向きで、レールが角度 \(\theta\) で傾いている点に注意。導体棒が斜面下方に速さ \(v\) で動くとき、棒を横切る磁束の変化を正しく計算するために、磁場の斜面に垂直な成分 \(B\cos\theta\) を使うか、あるいは回路面積の水平面への射影を考えます。

問1:誘導起電力

直感的理解
導体棒がレールに沿って下向きに速さ \(v\) で運動すると、回路を貫く磁束が変化し、誘導起電力が発生します。磁場が鉛直方向で斜面が傾いているので、有効な磁束変化に \(\cos\theta\) がかかります。

導体棒がレールに沿って下向きに速さ \(v\) で運動すると、単位時間あたりの回路面積の変化は \(lv\)(斜面上)です。しかし磁場は鉛直方向なので、回路面を貫く磁束の変化には回路面と水平面のなす角 \(\theta\) が関係します。

斜面上で導体棒が距離 \(v\,dt\) だけ移動すると、回路面積の増加は \(l \cdot v\,dt\) です。この面積を水平面に射影すると \(l \cdot v\,dt \cdot \cos\theta\) になります。したがって磁束の変化は:

$$ d\Phi = B \cdot l \cdot v \cdot \cos\theta \cdot dt $$

ファラデーの法則より、誘導起電力は:

$$ \mathcal{E} = \frac{d\Phi}{dt} = Blv\cos\theta $$
🧮 数値例

たとえば \(B = 0.50\) T、\(l = 0.20\) m、\(v = 3.0\) m/s、\(\theta = 30°\) のとき:

$$ \mathcal{E} = 0.50 \times 0.20 \times 3.0 \times \cos 30° = 0.30 \times 0.866 = 0.26 \text{ V} $$
答え:誘導起電力の大きさは \(Blv\cos\theta\)

問2:抵抗線中の電場

誘導起電力が回路に起電力 \(\mathcal{E} = Blv\cos\theta\) を生じ、この起電力が抵抗線 P'Q'(長さ \(l\))の両端にかかります(導体棒やレールの抵抗は0なので)。

抵抗線内部に一様な電場 \(E\) が生じるとすると:

$$ El = Blv\cos\theta $$ $$ E = Bv\cos\theta $$
答え:抵抗線中の電場の大きさは \(Bv\cos\theta\)

問3・問4:抵抗線中の電子の運動

直感的理解
抵抗線中の自由電子は電場から力を受けて加速されますが、速度に比例する抵抗力を受けます。十分時間が経つと加速度が0になり、一定速度(終端速度)で移動します。これがオームの法則の微視的な起源です。

問3:電子1個に対する運動方程式

電子(質量 \(m\)、電荷 \(-e\))が抵抗線に沿って加速度 \(a\) で運動しているとします。電子は:

電子の運動方程式は:

$$ ma = eE - kc $$

ここで \(E = Bv\cos\theta\) を代入すると:

$$ ma = eBv\cos\theta - kc $$
答え:\(ma = eBv\cos\theta - kc\)(\(e, v, B, \theta, m, a, k, c\) を用いた表現)

問4:定常電流での電子の速度 \(c_0\)

十分時間が経つと \(a = 0\) になり、電子は一定速度 \(c_0\) で移動します。

$$ 0 = eBv\cos\theta - kc_0 $$ $$ c_0 = \frac{eBv\cos\theta}{k} $$
答え:\(c_0 = \dfrac{eBv\cos\theta}{k}\)
📌 ポイント

この \(c_0\) は電子のドリフト速度に相当します。電場による加速と散乱(抵抗力)のバランスで決まる定常速度です。

問5・問6:電流と抵抗値

直感的理解
電子の集団が一定速度で移動することが電流です。単位長さあたり \(n\) 個の電子が速度 \(c_0\) で動くと、単位時間に断面を通過する電荷量から電流が求まります。抵抗値はオームの法則 \(V = IR\) から求められます。

問5:電流 \(I\)

抵抗線中の単位長さあたりの電子数を \(n\) とし、電子の速度(ドリフト速度)を \(c_0\) とします。単位時間に抵抗線の断面を通過する電子の数は \(nc_0\) 個であり、1個あたり電荷 \(e\) を運ぶので:

$$ I = enc_0 $$

\(c_0\) を代入すると:

$$ I = en \cdot \frac{eBv\cos\theta}{k} = \frac{ne^2Bv\cos\theta}{k} $$
答え:\(I = enc_0 = \dfrac{ne^2Bv\cos\theta}{k}\)

問6:抵抗線 P'Q' の抵抗値

オームの法則 \(\mathcal{E} = IR\) より:

$$ R = \frac{\mathcal{E}}{I} = \frac{Blv\cos\theta}{enc_0} $$

\(c_0 = \dfrac{eBv\cos\theta}{k}\) を代入すると:

$$ R = \frac{Blv\cos\theta}{en \cdot \dfrac{eBv\cos\theta}{k}} = \frac{Blv\cos\theta \cdot k}{e^2nBv\cos\theta} = \frac{kl}{ne^2} $$

ここで抵抗線の長さ \(l\) が含まれることに注意します。

答え:\(R = \dfrac{kl}{ne^2}\)
💡 抵抗率との関係

一般に、抵抗値 \(R = \rho \dfrac{l}{S}\)(\(\rho\): 抵抗率、\(S\): 断面積)です。今回の結果から、抵抗率は \(\rho = \dfrac{k}{ne^2} \cdot S\) に相当し、これはドルーデモデルの結果と一致します。\(k\) は電子の散乱頻度(衝突率 × 質量)に関係しています。

問7:電子1個あたりの仕事と発熱

直感的理解
電子は電場から仕事を受け取り、抵抗力(格子振動との衝突)によってその運動エネルギーを熱に変換します。定常状態では電場のした仕事がすべてジュール熱になります。

抵抗力が単位時間あたりに電子1個に対してする仕事 \(W_1\):

抵抗力 \(-kc_0\) が電子の速度 \(c_0\) に対してする仕事率(負の仕事)は:

$$ W_1 = (-kc_0) \cdot c_0 = -kc_0^2 $$

この仕事の絶対値が熱に変換されます。電場のする仕事率は:

$$ W_E = eE \cdot c_0 = eBv\cos\theta \cdot c_0 $$

定常状態 \(a = 0\) では \(eBv\cos\theta = kc_0\) なので:

$$ W_E = kc_0 \cdot c_0 = kc_0^2 $$

電場のした仕事がすべてジュール熱になることが確認できます。

単位時間・単位長さあたりに発生する熱量 \(J\):

単位長さあたり \(n\) 個の電子があるので、全体の発熱率は:

$$ J = n \cdot kc_0^2 $$

\(c_0 = \dfrac{eBv\cos\theta}{k}\) を代入すると:

$$ J = n \cdot k \cdot \frac{e^2B^2v^2\cos^2\theta}{k^2} = \frac{ne^2B^2v^2\cos^2\theta}{k} $$

これを \(I^2R\) で検算すると:

$$ I^2R = \left(\frac{ne^2Bv\cos\theta}{k}\right)^2 \cdot \frac{kl}{ne^2} = \frac{n^2e^4B^2v^2\cos^2\theta}{k^2} \cdot \frac{kl}{ne^2} = \frac{ne^2B^2v^2\cos^2\theta \cdot l}{k} $$

これは抵抗線全体(長さ \(l\))の発熱なので、単位長さあたりの発熱は \(J = \dfrac{ne^2B^2v^2\cos^2\theta}{k}\) と一致します。

答え:
・抵抗力が電子1個に単位時間あたりにする仕事: \(W_1 = -kc_0^2\)(抵抗力の向きが負なので負の仕事)
・単位時間あたりに発生する熱量: \(J = nkc_0^2\)(単位長さあたり)

問8・問9:導体棒の終端速度とエネルギー

直感的理解
導体棒が斜面を下るにつれて誘導電流が増加し、電流が磁場から受ける力(ブレーキ力)が重力の斜面成分と釣り合うと、導体棒は一定速度(終端速度)で動きます。

問8:導体棒の終端速度 \(v_0\)

導体棒にはたらく力は:

電磁力の斜面成分について:導体棒に流れる電流 \(I\) が磁場 \(B\) から受ける力は \(BIl\) ですが、この力は水平方向に作用します(磁場が鉛直、電流が水平なので)。斜面方向の成分は \(BIl\cos\theta\) です。

終端速度 \(v_0\) では加速度が 0 なので:

$$ Mg\sin\theta = BIl\cos\theta $$

ここで \(I = \dfrac{\mathcal{E}}{R} = \dfrac{Blv_0\cos\theta}{R}\) を代入すると:

$$ Mg\sin\theta = B \cdot \frac{Blv_0\cos\theta}{R} \cdot l\cos\theta = \frac{B^2l^2v_0\cos^2\theta}{R} $$ $$ v_0 = \frac{MgR\sin\theta}{B^2l^2\cos^2\theta} $$
答え:\(v_0 = \dfrac{MgR\sin\theta}{B^2l^2\cos^2\theta}\)

問9:単位時間あたりのエネルギー変化

終端速度で運動しているとき、導体棒の力学的エネルギーの変化と発熱を考えます。

単位時間あたり、導体棒は距離 \(v_0\) だけ斜面を下降するので、重力のする仕事(=位置エネルギーの減少)は:

$$ P_{\text{重力}} = Mgv_0\sin\theta $$

運動エネルギーは一定(終端速度で一定速度)なので、重力のした仕事はすべてジュール熱に変換されます。

$$ P_{\text{ジュール}} = I^2R = \frac{B^2l^2v_0^2\cos^2\theta}{R} $$

検算:\(v_0 = \dfrac{MgR\sin\theta}{B^2l^2\cos^2\theta}\) を代入すると:

$$ P_{\text{ジュール}} = \frac{B^2l^2\cos^2\theta}{R} \cdot \frac{M^2g^2R^2\sin^2\theta}{B^4l^4\cos^4\theta} = \frac{M^2g^2R\sin^2\theta}{B^2l^2\cos^2\theta} $$

一方:

$$ Mgv_0\sin\theta = Mg \cdot \frac{MgR\sin\theta}{B^2l^2\cos^2\theta} \cdot \sin\theta = \frac{M^2g^2R\sin^2\theta}{B^2l^2\cos^2\theta} $$

一致することが確認できました。

答え:
・力学的エネルギーの変化量(位置エネルギー減少): \(Mgv_0\sin\theta\)(単位時間あたり)
・ジュール熱: \(I^2R = \dfrac{B^2l^2v_0^2\cos^2\theta}{R}\)
・両者は等しい(エネルギー保存)
🔬 発展:導体棒が終端速度に達するまでの過渡的な運動

導体棒の運動方程式は:

$$ M\frac{dv}{dt} = Mg\sin\theta - \frac{B^2l^2\cos^2\theta}{R}v $$

これは1次の微分方程式で、解は:

$$ v(t) = v_0\left(1 - e^{-t/\tau}\right) $$

ここで時定数 \(\tau = \dfrac{MR}{B^2l^2\cos^2\theta}\) です。

すなわち、導体棒は指数関数的に終端速度に近づきます。

📌 ポイント

磁場が鉛直方向であるため、誘導起電力と電磁力の両方に \(\cos\theta\) がかかります。「斜面に垂直な磁場成分」\(B\cos\theta\) を使って計算すると見通しが良くなります。水平なレールの場合(\(\theta = 0\))の結果と比較して、\(\cos\theta\) の因子が追加されていることを確認しましょう。