この問題は3つの段階に分かれています。
\(x = 0\) を境に摩擦の有無が切り替わるため、運動方程式が不連続に変化します。各段階での力の状況を正確に把握し、単振動の中心・振幅をそれぞれ求め直すことが解法の鍵です。
台をゆっくり右に動かすので、物体ABは準静的につりあいを保ちます。ABは \(x = 0\) の位置にとどまっており、ばねは自然長 \(l\) から伸びています。
力のつりあい(ABが動き出す直前):
ばねの伸びを \(\Delta l\) とすると、弾性力は \(k\Delta l\)(正の向き=右向き)。一方、物体ABには最大静止摩擦力 \(\mu \cdot 2mg\) が左向きに作用します(ABの質量は \(2m\))。
動き出す条件は、弾性力が最大静止摩擦力と等しくなるときです:
$$ k \Delta l = \mu \cdot 2mg $$ $$ \Delta l = \frac{2\mu mg}{k} $$別解というよりは検算です。この伸び \(\Delta l\) のときのばねの弾性エネルギーは:
$$ U = \frac{1}{2}k\left(\frac{2\mu mg}{k}\right)^2 = \frac{2\mu^2 m^2 g^2}{k} $$このエネルギーが、後の運動のエネルギー源となります。なお、\(x = 0\) から \(x > 0\) の領域に入ると摩擦がなくなるため、動き始めた後はエネルギー保存則がそのまま適用できます。
数値例:\(m = 0.50\,\text{kg}\)、\(k = 100\,\text{N/m}\)、\(\mu = 0.40\)、\(g = 9.8\,\text{m/s}^2\) のとき:
$$ \Delta l = \frac{2 \times 0.40 \times 0.50 \times 9.8}{100} = \frac{3.92}{100} = 0.0392\,\text{m} \fallingdotseq 3.9\,\text{cm} $$質量が \(2m\)(AとBの合計)であることを見落とさないこと。ばねの弾性力が最大静止摩擦力 \(\mu \cdot 2mg\) に達した瞬間に動き出します。\(x \le 0\) の摩擦領域にいることが鍵です。
ABが動き出した瞬間(\(x = 0\))に台を固定する。このとき、ばねの伸びは問1より \(\Delta l = \dfrac{2\mu mg}{k}\) です。
\(x > 0\) では摩擦がないので、ABはばねの弾性力のみで運動します。ばねの自然長の位置(台から自然長 \(l\) の距離)を基準にすると、ABの運動方程式は:
$$ 2m\ddot{x}' = -kx' $$ここで \(x'\) はばねの自然長位置からの変位です。角振動数は \(\omega = \sqrt{\dfrac{k}{2m}}\) です。
ABが最も O から離れるのは、速度が0になるときです。エネルギー保存則を使います。
初期状態(\(x = 0\)):速度 0、ばねの伸び \(\dfrac{2\mu mg}{k}\)
最遠点(\(x = x_{\max}\)):速度 0、ばねの伸び \(\dfrac{2\mu mg}{k} - x_{\max}\)
ばねの自然長位置を原点にして、動き出し時のばねの伸びを \(d = \dfrac{2\mu mg}{k}\) とします。ABは \(x' = -d\)(\(x = 0\)に対応)から出発し、単振動の中心は \(x' = 0\) です。
待ってください。整理しましょう。台が固定され、ばねの右端を原点 O とします。ABの座標 \(x\) は O からの位置です。
台の位置は \(x = d + l\)(O の右側 \(d + l\) の位置に台がある)。ここで台から自然長 \(l\) 離れた位置は \(x = d\) です。
ABに作用する力は、ばねが自然長より \((d + l) - x - l = d - x\) だけ伸びているとき(\(x < d\) のとき)、右向きに \(k(d - x)\) です。
つまり、つりあいの位置(弾性力ゼロ)は \(x = d = \dfrac{2\mu mg}{k}\) であり、ABは \(x = 0\) から出発して \(x = d\) を中心に振幅 \(d\) の単振動をします。
最遠点は \(x = 2d\) です。
$$ x_{\max} = 2d = \frac{4\mu mg}{k} $$到達時間:ABは \(x = 0\)(中心から \(-d\))から \(x = 2d\)(中心から \(+d\))まで移動します。これは単振動の半周期に相当します。
$$ T = \frac{1}{2} \cdot \frac{2\pi}{\omega} = \frac{\pi}{\omega} = \pi\sqrt{\frac{2m}{k}} $$始点(\(x = 0\))でのばねの弾性エネルギーは:
$$ U_0 = \frac{1}{2}k d^2 = \frac{1}{2}k\left(\frac{2\mu mg}{k}\right)^2 = \frac{2\mu^2 m^2 g^2}{k} $$最遠点(\(x = 2d\))でのばねの弾性エネルギーは、ばねの伸びが \(d - 2d = -d\)(つまり縮み \(d\))なので:
$$ U_f = \frac{1}{2}k d^2 = U_0 $$両方で運動エネルギーが 0 なので、エネルギーは保存されています。これは振幅 \(d\) の単振動として矛盾がありません。
数値例:上の数値(\(m = 0.50\,\text{kg}\)、\(k = 100\,\text{N/m}\)、\(\mu = 0.40\))を代入すると:
$$ x_{\max} = \frac{4 \times 0.40 \times 0.50 \times 9.8}{100} = 0.0784\,\text{m} \fallingdotseq 7.8\,\text{cm} $$ $$ T = \pi\sqrt{\frac{2 \times 0.50}{100}} = \pi\sqrt{0.01} = 0.1\pi \fallingdotseq 0.31\,\text{s} $$ABは \(x = 0\) から出発し、ばねの自然長位置 \(x = d\) を中心に振幅 \(d\) の単振動をします。最遠点では速度 0 で、\(x = 2d = \dfrac{4\mu mg}{k}\) に到達します。半周期分の時間がかかります。
問2の直後、ABは最遠点 \(x = 2d\)(\(d = \dfrac{2\mu mg}{k}\))に到達し、速度0で折り返します。この直後にA, Bの接合を解除します。
接合解除の条件:AとBは接合されているだけで、ばねはBにのみつながっています。AはBに押されることで一緒に動きます。
ABは \(x = 2d\) から左向きに加速します(ばねが縮んでいるため復元力が左向き)。ばねの自然長位置は \(x = d\) です。
BがAを押す力(垂直抗力)がゼロになるのは、ばねの弾性力がゼロの瞬間、すなわち \(x = d\)(ばねが自然長)のときです。
分離時のばねの自然長からの伸び = 0
時間の計算:
ABの運動は、\(x = 2d\) を出発(速度0)→ \(x = d\)(自然長位置)まで。これは中心 \(x = d\)、振幅 \(d\) の単振動の \(\dfrac{1}{4}\) 周期に相当します。
最初に \(x = 0\) から \(x = 2d\) に到達するまでに半周期 \(\dfrac{\pi}{\omega}\)、\(x = 2d\) から \(x = d\) まで \(\dfrac{1}{4}\) 周期 \(\dfrac{\pi}{2\omega}\) かかるので:
$$ t_{\text{分離}} = \frac{\pi}{\omega} + \frac{\pi}{2\omega} = \frac{3\pi}{2\omega} = \frac{3\pi}{2}\sqrt{\frac{2m}{k}} $$接合時のAの運動方程式を考えます。AにはBからの水平方向の力 \(N\) のみが作用します(\(x > 0\) では摩擦なし):
$$ ma_A = N $$一方、AB全体の運動方程式は:
$$ 2m a = -k(x - d) \quad \Rightarrow \quad a = -\frac{k}{2m}(x - d) $$よって \(N = m a = -\dfrac{k}{2}(x - d)\)。
\(N = 0\) となるのは \(x = d\) のときで、ばねが自然長に戻る瞬間です。また、\(x < d\) では \(N > 0\)(BがAを右に引く力が必要)ですが、接触力は押すことしかできないため、\(x = d\) で分離します。
AとBの接合は「接着」ではなく「接触」です。BがAを押す力(垂直抗力)が0以下になった瞬間に分離します。ばねが自然長に戻る \(x = d\) で分離することを、力の符号の変化から理解しましょう。
分離は \(x = d\) で起こり、このときばねは自然長です。エネルギー保存則から:
初期状態(\(x = 0\)):速度 0、ばねの弾性エネルギー \(\dfrac{1}{2}kd^2\)
分離時(\(x = d\)):ばねの弾性エネルギー 0、運動エネルギー \(\dfrac{1}{2}(2m)v^2\)
$$ \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}(2m)v^2 $$ $$ v^2 = \frac{kd^2}{2m} = \frac{k}{2m}\left(\frac{2\mu mg}{k}\right)^2 = \frac{2\mu^2 m g^2}{k} $$ $$ v = \mu g\sqrt{\frac{2m}{k}} $$分離直後のAの速さは、分離直前のAB全体の速さと等しい(分離の瞬間に力積はない):
(向きは左向き= \(x\) 軸の負の向き)
単振動 \(x = d - d\cos(\omega t)\) の速度は \(v = d\omega\sin(\omega t)\) です。
分離時は \(x = d\) なので \(\cos(\omega t) = 0\)、\(\sin(\omega t) = -1\)(\(x = 2d\) から戻ってくるとき)。
$$ |v| = d\omega = \frac{2\mu mg}{k} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = \mu g\sqrt{\frac{2m}{k}} $$これは上の結果と一致します。
数値例:\(m = 0.50\,\text{kg}\)、\(k = 100\,\text{N/m}\)、\(\mu = 0.40\)、\(g = 9.8\,\text{m/s}^2\) のとき:
$$ v_A = 0.40 \times 9.8 \times \sqrt{\frac{2 \times 0.50}{100}} = 3.92 \times 0.1 = 0.392\,\text{m/s} $$分離時はばねが自然長なので、全弾性エネルギーが運動エネルギーに変換されています。\(v = d\omega\) は単振動の最大速度(振動中心を通過する速度)に対応します。
分離後、Aにはばねの力も摩擦力も作用しない(\(x > 0\) で摩擦なし)。よって等速直線運動です。
分離を \(t = 0\) とすると、Aは \(x = d\) から左向きに速さ \(v_A\) で動きます。
$$ x_A(t) = d - v_A t $$\(x_A = 0\) となる時刻:
$$ 0 = d - v_A t \quad \Rightarrow \quad t = \frac{d}{v_A} $$ $$ t = \frac{\dfrac{2\mu mg}{k}}{\mu g\sqrt{\dfrac{2m}{k}}} = \frac{2\mu mg}{k} \cdot \frac{1}{\mu g} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = \frac{2m}{k} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = 2\sqrt{\frac{m}{2k}} \cdot \sqrt{\frac{1}{1}} $$計算を整理します:
$$ t = \frac{d}{v_A} = \frac{\dfrac{2\mu mg}{k}}{\mu g \sqrt{\dfrac{2m}{k}}} = \frac{2\mu mg}{k \cdot \mu g} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = \frac{2m}{k} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = 2\sqrt{\frac{m}{2k}} \cdot \sqrt{\frac{m}{1}} \cdot \frac{1}{\sqrt{m}} $$もう一度丁寧に:
$$ t = \frac{d}{v_A} = \frac{2\mu mg / k}{\mu g \sqrt{2m/k}} = \frac{2m}{k} \cdot \sqrt{\frac{k}{2m}} = \frac{2m}{k} \cdot \frac{\sqrt{k}}{\sqrt{2m}} = \frac{2m}{\sqrt{k} \cdot \sqrt{2m}} = \frac{2\sqrt{m}}{\sqrt{2k}} \cdot \frac{\sqrt{m}}{\sqrt{m}} $$ $$ = \frac{2m}{\sqrt{2mk}} = \sqrt{\frac{4m^2}{2mk}} = \sqrt{\frac{2m}{k}} $$\(\omega = \sqrt{\dfrac{k}{2m}}\) とすると、\(d = \dfrac{2\mu mg}{k}\)、\(v_A = d\omega\) より:
$$ t = \frac{d}{d\omega} = \frac{1}{\omega} = \sqrt{\frac{2m}{k}} $$分離後のAが原点に戻る時間はちょうど \(\dfrac{1}{\omega}\) です。
分離後のAは等速直線運動です。\(x = 0\) に達した後は摩擦領域に入るため減速しますが、本問ではそこまで問われていません。時間が \(\mu, g\) に依存しないのは、\(d\) と \(v_A\) が同じ比率で \(\mu g\) に比例するためです。
分離後の物体Bの運動方程式(ばねの自然長位置 \(x = d\) を基準):
$$ m\ddot{x}_B = -k(x_B - d) $$新しい角振動数は:
$$ \omega' = \sqrt{\frac{k}{m}} $$(AB一体のときは \(\omega = \sqrt{\dfrac{k}{2m}}\) だったが、分離後はBだけなので \(\omega' = \sqrt{2}\,\omega\))
初期条件(\(t = 0\) を分離時とする):
一般解は \(x_B = A\cos(\omega' t) + B\sin(\omega' t) + d\) です。初期条件から:
$$ x_B(0) = A + d = d \quad \Rightarrow \quad A = 0 $$ $$ \dot{x}_B(0) = B\omega' = -v_A \quad \Rightarrow \quad B = -\frac{v_A}{\omega'} $$よって:
$$ x_B = -\frac{v_A}{\omega'}\sin(\omega' t) + d $$問題の形式 \(x = C\sin\omega t + x_0\) と比較すると:
$$ C = -\frac{v_A}{\omega'} = -\frac{\mu g\sqrt{2m/k}}{\sqrt{k/m}} = -\frac{\mu g \cdot \sqrt{2m} \cdot \sqrt{m}}{\sqrt{k} \cdot \sqrt{k}} = -\frac{\mu mg\sqrt{2}}{k} $$ただし \(C > 0\) と指定されているか確認すると、問題文では \(\omega > 0\) とだけあります。\(C\) の符号も含めて:
あるいは \(C = \dfrac{\mu mg\sqrt{2}}{k}\) とすれば \(x_B = -C\sin(\omega t) + x_0\) ですが、\(\sin\) の位相をずらして \(x_B = C\sin(\omega t + \pi) + x_0\) とも書けます。
問題の形式に合わせると:
$$C = \frac{\mu mg\sqrt{2}}{k}, \quad \omega = \sqrt{\frac{k}{m}}, \quad x_0 = \frac{2\mu mg}{k}$$(\(C\sin\omega t\) を \(-C\sin\omega t\) と読み替え。符号は速度の向きから \(C < 0\) が自然)
\(d = \dfrac{2\mu mg}{k}\)、\(v_A = d\omega = d\sqrt{\dfrac{k}{2m}}\) を使うと:
$$ C = \frac{v_A}{\omega'} = \frac{d\sqrt{k/(2m)}}{\sqrt{k/m}} = \frac{d}{\sqrt{2}} = \frac{\mu mg\sqrt{2}}{k} $$\(x_0 = d = \dfrac{2\mu mg}{k}\)(振動中心 = ばねの自然長位置)。
振幅が \(\dfrac{d}{\sqrt{2}}\) に減ったのは、B単独では角振動数が大きくなり、同じ速度でもより小さい振幅で振動するためです。
分離後は質量が半分になるので角振動数が \(\sqrt{2}\) 倍に変化します。振動の中心はばねの自然長位置 \(x = d\) のままで、振幅は \(\dfrac{d}{\sqrt{2}}\) に減少します。エネルギーが分離によって変わらないことも確認できます:\(\dfrac{1}{2}m v_A^2 = \dfrac{1}{2}k C^2\) を確かめてみてください。