質量 \(m\) の小球Aと質量 \(M\) の小球Bを扱う問題です。小球Bは、床面上の原点Oの鉛直上方の点Pから長さ \(\ell\) の軽い糸でつるされた振り子で、その最下点を点Qとします。\(\mathrm{OQ}=h\)、\(\mathrm{PQ}=\ell\) で、O・P・Qは同一鉛直線上にあります。原点Oから水平右向きに \(x\) 軸、鉛直上向きに \(y\) 軸をとります。糸が鉛直方向となす角を \(\theta\)(反時計回りが正、ラジアン)で表します。
まず小球Aを原点Oから初速度 \(v_0\) で鉛直上方へ投げ上げると同時に、小球Bを \(\theta=-\theta_1\)(\(\theta_1>0\))で静かに放します。小球Aは点Qで速度0になります。次に、小球Bがはじめて点Qに達したとき、Aに左から衝突します(\(x\) 軸方向の直線衝突とみなす)。衝突後、Bは再びAと衝突することなく \(\theta=\theta_2\) まで到達します。
この大問は 問1〜問8 の8問構成で、投げ上げ → 振り子(単振動)→ x軸方向の衝突 → エネルギー損失と力学の基本テーマが一連の流れでつながっています。各段階でどの保存則・公式を選ぶかを的確に判断する力が問われます。
小球Aは原点O(高さ0)から鉛直上方へ初速度 \(v_0\) で投げ上げられ、点Q(高さ \(h\))で速度0になります。鉛直方向の力学的エネルギー保存則を立てます。
立式:出発点O(速さ \(v_0\)、高さ0)と点Q(速さ0、高さ \(h\))でエネルギー保存:
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + 0 = 0 + mgh $$途中計算:両辺を \(m\) で割って \(v_0^2\) について解きます。
$$ \frac{1}{2}v_0^2 = gh \quad\Rightarrow\quad v_0^2 = 2gh $$ $$ v_0 = \sqrt{2gh} $$数値例:\(h = 1.2\) m、\(g = 9.8\) m/s\(^2\) のとき:
$$ v_0 = \sqrt{2 \times 9.8 \times 1.2} = \sqrt{23.52} \fallingdotseq 4.85 \text{ m/s} $$最高点(点Q)では速度が0、変位が \(h\)。鉛直投げ上げで \(v^2 = v_0^2 - 2gy\) に \(v=0\)、\(y=h\) を代入:
$$ 0 = v_0^2 - 2gh \quad\Rightarrow\quad v_0 = \sqrt{2gh} $$エネルギー保存と同じ結果が得られます。「最高点で \(v=0\)」を使う点が共通です。
点Qで「速度0」というのは投げ上げの最高点を意味します。初速度は \(h\) と \(g\) だけで決まり、質量 \(m\) には依存しません。
立式:鉛直方向の速度は \(v_y = v_0 - gt\)。点Q(最高点)で \(v_y = 0\) になる時刻 \(t\) を求めます。
$$ v_y = v_0 - gt = 0 \quad\Rightarrow\quad t = \frac{v_0}{g} $$代入:問1の結果 \(v_0 = \sqrt{2gh}\) を代入します。
$$ t = \frac{\sqrt{2gh}}{g} $$途中計算:根号の中を整理します。\(\dfrac{\sqrt{2gh}}{g} = \sqrt{\dfrac{2gh}{g^2}} = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}\)。
$$ t = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$数値例:\(h = 1.2\) m、\(g = 9.8\) m/s\(^2\) のとき:
$$ t = \sqrt{\frac{2 \times 1.2}{9.8}} = \sqrt{0.245} \fallingdotseq 0.49 \text{ s} $$高さ \(h\) に到達する時刻を変位の式 \(h = v_0 t - \tfrac{1}{2}gt^2\) から求めます。\(v_0 = \sqrt{2gh}\) を代入:
$$ \frac{1}{2}gt^2 - \sqrt{2gh}\,t + h = 0 $$判別式を計算すると \(D = 2gh - 4\cdot\tfrac{1}{2}g\cdot h = 0\)(重解)。これは「最高点では上りと下りの境目で1点だけ通過する」ことに対応します。重解は:
$$ t = \frac{\sqrt{2gh}}{g} = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$問2の結果と一致します。
最高点到達時間 \(t = v_0/g\) は投げ上げの基本式です。次の問4で「小球Bがこの同じ時間でQに達する」条件が糸の長さを決めます。
小球Bは点Pを支点とする長さ \(\ell\) の振り子で、初期位置は \(\theta=-\theta_1\)。問題文より、角度 \(\theta\) の位置での位置エネルギーは点Qを基準として \(\dfrac{1}{2}Mg\ell\theta^2\) と与えられています。
立式:初期位置 \(\theta=-\theta_1\)(速さ0)と最下点Q(\(\theta=0\)、速さ \(v_x\))でエネルギー保存。Q基準の位置エネルギーは \(\theta=-\theta_1\) で \(\dfrac{1}{2}Mg\ell\theta_1^2\)、Qで0です。
$$ 0 + \frac{1}{2}Mg\ell\theta_1^2 = \frac{1}{2}Mv_x^2 + 0 $$途中計算:両辺を \(\dfrac{1}{2}M\) で割って \(v_x\) について解きます。
$$ v_x^2 = g\ell\theta_1^2 \quad\Rightarrow\quad v_x = \theta_1\sqrt{g\ell} $$小球Bは \(\theta=-\theta_1\)(左下)から振れて最下点Qを右向き(\(x\) 正方向)に通過するので、\(x\) 成分は正です。最下点では速度は水平方向のみで \(y\) 成分は0です。
数値例:\(\ell = 0.5\) m、\(\theta_1 = 0.5\) rad、\(g = 9.8\) m/s\(^2\) のとき:
$$ v_x = 0.5\sqrt{9.8 \times 0.5} = 0.5\sqrt{4.9} \fallingdotseq 1.11 \text{ m/s} $$振り子のQ基準の高さは \(\Delta h = \ell(1-\cos\theta)\)。\(|\theta|\) が小さいとき \(\cos\theta \fallingdotseq 1 - \dfrac{\theta^2}{2}\) なので:
$$ \Delta h = \ell(1-\cos\theta) \fallingdotseq \ell\cdot\frac{\theta^2}{2} = \frac{\ell\theta^2}{2} $$よって位置エネルギーは \(Mg\Delta h \fallingdotseq \dfrac{1}{2}Mg\ell\theta^2\)。問題文の近似式はこのテイラー展開(微小角近似)から来ています。これが「単振動とみなせる」根拠です。
振り子の最下点では速度ベクトルは接線方向=水平方向。速さはエネルギー保存で求め、与えられた近似ポテンシャル \(\tfrac{1}{2}Mg\ell\theta^2\) を素直に使うのがコツです。
立式(Aの到達時間):問2より、小球Aが点Qに達する時間は \(t_A = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}\)。
立式(Bの到達時間):小球Bは \(|\theta|\) が小さいので単振動とみなせます。単振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\dfrac{\ell}{g}}\)。Bは端(\(\theta=-\theta_1\))から中心(\(\theta=0\))まで振れるので、これは周期の \(\dfrac{1}{4}\):
$$ t_B = \frac{T}{4} = \frac{1}{4}\cdot 2\pi\sqrt{\frac{\ell}{g}} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{\ell}{g}} $$同時到達の条件 \(t_A = t_B\):
$$ \sqrt{\frac{2h}{g}} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{\ell}{g}} $$途中計算:両辺を2乗します。
$$ \frac{2h}{g} = \frac{\pi^2}{4}\cdot\frac{\ell}{g} $$両辺に \(g\) を掛け、\(\ell\) について解きます。
$$ 2h = \frac{\pi^2}{4}\ell \quad\Rightarrow\quad \ell = \frac{8h}{\pi^2} $$数値例:\(h = 1.2\) m のとき:
$$ \ell = \frac{8 \times 1.2}{\pi^2} = \frac{9.6}{9.87} \fallingdotseq 0.97 \text{ m} $$単振動で「端から中心へ」は 1/4周期(位相 \(\pi/2\))。投げ上げの放物運動の時間と振り子の1/4周期を等しいとおく、という異なる運動の時間をつなぐ発想が本問のヤマです。
立式:衝突後、小球Bは速さ \(v'_B\) で振れ始め、\(\theta=\theta_2\) まで上昇して速度0になります。問3と同じエネルギー保存(Q基準ポテンシャル \(\tfrac{1}{2}Mg\ell\theta^2\))を使います。
$$ \frac{1}{2}M{v'_B}^2 + 0 = 0 + \frac{1}{2}Mg\ell\theta_2^2 $$途中計算:両辺を \(\tfrac{1}{2}M\) で割って解きます。
$$ {v'_B}^2 = g\ell\theta_2^2 \quad\Rightarrow\quad v'_B = \theta_2\sqrt{g\ell} $$衝突前のBの速度(問3)を \(u = \theta_1\sqrt{g\ell}\)、衝突後のBの速度(問5)を \(v'_B = \theta_2\sqrt{g\ell}\) とします。Aは衝突前静止、衝突後の速度を \(v'_A\) とします。
立式(運動量保存・\(x\) 方向):衝突前後で系の運動量は保存します。
$$ Mu + m\cdot 0 = M v'_B + m v'_A $$途中計算:\(v'_A\) について解きます。
$$ m v'_A = M(u - v'_B) \quad\Rightarrow\quad v'_A = \frac{M}{m}(u - v'_B) $$\(u = \theta_1\sqrt{g\ell}\)、\(v'_B = \theta_2\sqrt{g\ell}\) を代入:
$$ v'_A = \frac{M}{m}\bigl(\theta_1\sqrt{g\ell} - \theta_2\sqrt{g\ell}\bigr) = \frac{M}{m}(\theta_1 - \theta_2)\sqrt{g\ell} $$数値例:\(M/m = 2\)、\(\theta_1 = 0.5\)、\(\theta_2 = 0.25\)、\(g\ell = 4.9\) のとき:
$$ v'_A = 2 \times (0.5 - 0.25)\sqrt{4.9} = 2 \times 0.25 \times 2.21 \fallingdotseq 1.11 \text{ m/s} $$衝突後のBの速度は「\(\theta_2\) まで上がる」というエネルギー条件で先に決まります。Aの速度は運動量保存で逆算。反発係数を使わずに2問が解けるのは、\(\theta_2\) が与えられているおかげです。
立式(反発係数の定義):衝突前のBの速度 \(u\)、Aは静止。衝突後はAが \(v'_A\)、Bが \(v'_B\)。反発係数は
$$ e = \frac{(\text{衝突後 A が B から遠ざかる相対速度})}{(\text{衝突前 B が A に近づく相対速度})} = \frac{v'_A - v'_B}{u - 0} $$代入:問3・問5・問6の結果を入れます。共通因子 \(\sqrt{g\ell}\) を使うと:
途中計算:分母・分子の共通因子 \(\sqrt{g\ell}\) を約分します。
$$ e = \frac{\dfrac{M}{m}(\theta_1-\theta_2) - \theta_2}{\theta_1} $$分子・分母に \(m\) を掛けて整理します。
$$ e = \frac{M(\theta_1-\theta_2) - m\theta_2}{m\theta_1} $$数値例:\(M = 2m\)(\(M/m=2\))、\(\theta_1 = 0.5\)、\(\theta_2 = 0.25\) のとき:
$$ e = \frac{2m(0.5-0.25) - m\times 0.25}{m\times 0.5} = \frac{0.5m - 0.25m}{0.5m} = \frac{0.25}{0.5} = 0.50 $$運動量保存 \(Mu = Mv'_B + mv'_A\) と反発係数 \(e = \dfrac{v'_A - v'_B}{u}\) を連立すると、一般公式:
$$ v'_B = \frac{M - me}{M+m}u, \qquad v'_A = \frac{M(1+e)}{M+m}u $$本問は \(v'_B = \theta_2\sqrt{g\ell}\)、\(u = \theta_1\sqrt{g\ell}\) が分かっているので、\(v'_B = \dfrac{M-me}{M+m}u\) に代入:
$$ \frac{\theta_2}{\theta_1} = \frac{M - me}{M+m} $$これを \(e\) について解くと同じ \(e = \dfrac{M(\theta_1-\theta_2)-m\theta_2}{m\theta_1}\) が得られます。
反発係数は相対速度の比。標的Aが静止しているので分母は単に \(u\)。\(\sqrt{g\ell}\) が約分で消えて、最終的に角度 \(\theta_1, \theta_2\) と質量比だけで表せるのが美しい結果です。
\(m = M\) のとき、問5・問6の結果は次のようになります(\(M=m\) を代入)。共通因子を \(s = \sqrt{g\ell}\) とおきます。
$$ u = \theta_1 s, \qquad v'_B = \theta_2 s, \qquad v'_A = \frac{m}{m}(\theta_1-\theta_2)s = (\theta_1-\theta_2)s $$反発係数(\(m=M\) のとき):問7の式に \(M=m\) を代入すると \(e = \dfrac{m(\theta_1-\theta_2)-m\theta_2}{m\theta_1} = \dfrac{\theta_1 - 2\theta_2}{\theta_1}\)。これより \(\theta_2 = \dfrac{(1-e)\theta_1}{2}\)、\(\theta_1 - \theta_2 = \dfrac{(1+e)\theta_1}{2}\) です。
立式(衝突前後の運動エネルギー):衝突前はBのみ運動、衝突後はAとB両方が運動します。
$$ K_{\text{前}} = \frac{1}{2}m u^2 = \frac{1}{2}m\,g\ell\,\theta_1^2 $$ $$ K_{\text{後}} = \frac{1}{2}m{v'_A}^2 + \frac{1}{2}m{v'_B}^2 = \frac{1}{2}m g\ell\bigl[(\theta_1-\theta_2)^2 + \theta_2^2\bigr] $$途中計算:\(\theta_1-\theta_2 = \dfrac{(1+e)\theta_1}{2}\)、\(\theta_2 = \dfrac{(1-e)\theta_1}{2}\) を \(K_{\text{後}}\) に代入します。
$$ (\theta_1-\theta_2)^2 + \theta_2^2 = \frac{\theta_1^2}{4}\bigl[(1+e)^2 + (1-e)^2\bigr] = \frac{\theta_1^2}{4}\cdot 2(1+e^2) = \frac{\theta_1^2(1+e^2)}{2} $$ $$ K_{\text{後}} = \frac{1}{2}m g\ell \cdot \frac{\theta_1^2(1+e^2)}{2} = \frac{1}{4}m g\ell\,\theta_1^2(1+e^2) $$失われたエネルギー:
$$ \Delta E = K_{\text{前}} - K_{\text{後}} = \frac{1}{2}m g\ell\,\theta_1^2 - \frac{1}{4}m g\ell\,\theta_1^2(1+e^2) $$ $$ = \frac{1}{4}m g\ell\,\theta_1^2\bigl[2 - (1+e^2)\bigr] = \frac{1}{4}m g\ell\,\theta_1^2(1 - e^2) $$数値例:\(m = 0.10\) kg、\(\ell = 0.50\) m、\(\theta_1 = 0.40\) rad、\(e = 0.60\)、\(g = 9.8\) m/s\(^2\) のとき:
$$ \Delta E = \frac{1}{4}\times 0.10\times 9.8\times 0.50\times 0.40^2\times(1-0.36) = \frac{1}{4}\times 0.10\times 9.8\times 0.50\times 0.16\times 0.64 \fallingdotseq 1.25\times 10^{-2}\text{ J} $$1次元衝突で失われる力学的エネルギーは、換算質量 \(\mu = \dfrac{mM}{m+M}\)、衝突前の相対速度 \(u\) を用いて
$$ \Delta E = \frac{1}{2}\mu u^2(1 - e^2) $$と書けます。\(m = M\) のとき \(\mu = \dfrac{m}{2}\)、\(u^2 = g\ell\theta_1^2\) なので:
$$ \Delta E = \frac{1}{2}\cdot\frac{m}{2}\cdot g\ell\theta_1^2 \cdot(1-e^2) = \frac{1}{4}mg\ell\theta_1^2(1-e^2) $$本文と完全に一致します。この公式を覚えておくと検算が一瞬です。
衝突の損失エネルギーは \((1-e^2)\) に比例します。\(e=1\)(完全弾性衝突)で損失ゼロ、\(e=0\)(完全非弾性)で最大。シミュレーションのスライダーで \(e\) を1に近づけると損失(赤)が消えるのを確認しましょう。