前期 大問1(力学:円板の衝突と重ね合わせ面上の摩擦運動)

解法の指針

水平な床の上に円板 P があり、その上に小さい円板 Q が重ねて置かれている。別の円板 R が速さ $v_R$ で P に正面衝突する。衝突後、R は跳ね返り、P は動き出し、Q は P の上を滑る(または P と一体に動く)。PQ 間の摩擦力と P—床間の摩擦力の向きを正しく決めることが最大のポイント。

系の構成

ストーリー

  1. 問1: $v_R$ が小さいとき、衝突直後に P と Q は一体となる条件
  2. 問2: $v_R$ が大きいとき、Q が P 上を滑り始める条件と反発係数 $e$ の最大値
  3. 問3: 区間 $0
  4. 問4: 衝突直後の P の速さ $v_P$、時刻 $T_1$ での P の速さ $V$
  5. 問5: P と Q が一体となってから停止するまでの時刻 $T_2$
  6. 問6: Q が P に対して滑った距離 $d$、Q が P 上からはみ出さない条件
全体を貫くポイント

問1:PQ 一体で動くための条件

直感的理解
衝突で P が急に速さ $v_P$ を得たとき、Q は慣性で「その場に残ろう」とする。しかし PQ 間の静止摩擦が十分大きければ、Q は P とともに引きずられて一体となる。P と Q が一体で動くためには、Q を加速する摩擦力が限界静止摩擦 $\mu_Q m_Q g$ 以内で済めばよい。

立式: 衝突直後、R と PQ 系(一体)の間で反発係数 $e$ を定義する(P と Q は瞬間的に一体とみなす)。運動量保存則と反発係数の定義から $v_P$ を求める。

運動量保存(水平方向、衝突は瞬時で摩擦力の力積は無視):

$$m_R v_R + 0 = m_R v_R' + (m_P + m_Q) v_P$$

反発係数:

$$e = -\frac{v_R' - v_P}{v_R - 0} \ \Rightarrow\ v_R' = v_P - e\, v_R$$

これを連立して解くと:

$$v_P = \frac{(1+e)\, m_R}{m_R + m_P + m_Q}\, v_R$$

一体で動くための条件: Q を加速するのは P からの摩擦力。$Q$ の加速度を $a$ とすると P もまったく同じ加速度 $a$ で動くから、系全体に働く外力は床からの動摩擦 $\mu_P'(m_P+m_Q)g$。

$$(m_P + m_Q) a = -\mu_P'(m_P+m_Q)g \ \Rightarrow\ a = -\mu_P' g$$

Q を単独で考えると $m_Q a = -f_Q$($f_Q$ は P から受ける摩擦力の大きさ)。一体に保つには

$$|f_Q| = m_Q \mu_P' g \leq \mu_Q m_Q g$$

つまり $\mu_Q \geq \mu_P'$ が成立していれば $v_R$ の大きさによらず一体運動を保てる。

答え:衝突直後の共通速度 $v_P = \dfrac{(1+e)m_R}{m_R+m_P+m_Q} v_R$、一体条件は $\mu_Q \geq \mu_P'$。
補足:この条件は $v_R$ に依存しない

一体で動くとき、Q の加速度は床からの摩擦減速 $-\mu_P' g$ に一致する($v_R$ に依らず一定)。したがって PQ 間の必要摩擦力も $\mu_P' m_Q g$ で一定となり、静止摩擦の限界 $\mu_Q m_Q g$ を超えない限り何度でも一体で動く。

逆に言えば、$\mu_Q < \mu_P'$ の場合は、衝突直後に Q が P 上を滑り始める(問2の状況)。

Point 一体条件は「必要摩擦力 ≤ 最大静止摩擦」。ここでは床からの減速を Q に伝えるのが PQ 間摩擦なので、必要な摩擦 $\mu_P' m_Q g$ が $\mu_Q m_Q g$ 以下であることが一体運動の条件となる。

問2:Q が滑り始める条件と $e_{\max}$

直感的理解
$v_R$ を大きくすると、衝突で P が得る速度 $v_P$ も大きくなる。Q は慣性で置き去りにされようとするが、PQ 間摩擦が追いつかないと Q は P 上を滑る。問2は「一体の仮定で解いた結果が自己矛盾する境界」を求める問題。反発係数 $e$ の最大値は、衝突のエネルギー保存の上限 $e=1$ で決まる。

立式: 一体と仮定した問1の式で要求される PQ 間摩擦力の大きさは $\mu_P' m_Q g$($v_R$ に依らず)。したがって $\mu_Q < \mu_P'$ ならば、どんな $v_R$ でも Q は滑り始める。

一方、衝突後に P と Q が独立に動くとき、各加速度は外力と質量から決まるので $v_R$ には依らない

P の加速度: P に働く水平力は(i)Q から P が受ける摩擦の反作用 $-\mu_Q' m_Q g$(Q は P より遅いので P を後ろ向きに引く)、(ii)床からの摩擦 $-\mu_P'(m_P+m_Q)g$:

$$m_P a_P = -\mu_Q' m_Q g - \mu_P' (m_P+m_Q)g$$ $$a_P = -\frac{\mu_Q' m_Q g + \mu_P'(m_P+m_Q)g}{m_P}$$

Q の加速度: Q に働くのは P からの動摩擦 $+\mu_Q' m_Q g$ のみ:

$$m_Q a_Q = \mu_Q' m_Q g \ \Rightarrow\ a_Q = \mu_Q' g$$

これらは $v_R$ に依らない定数で決まるので「$v_R$ に依らず」の条件を満たす。

反発係数 $e$ の最大値: 衝突でエネルギーが増えることはないので $e \leq 1$。$e = 1$(完全弾性衝突)が上限。ただし、R が跳ね返って逆向きに進むためには $v_R' \leq 0$、つまり

$$v_P - e v_R \leq 0 \ \Rightarrow\ e \geq \frac{(1+e)m_R}{m_R+m_P+m_Q}$$

整理すると $e(m_P + m_Q) \geq m_R$、$e \leq 1$ と合わせて

$$e_{\max} = \min\!\left(1,\ \frac{m_R}{m_P+m_Q-m_R}\right) = \frac{m_R - (m_P+m_Q)}{m_R + (m_P+m_Q)}\text{ の符号解釈で境界}$$

物理的には $m_R < m_P + m_Q$ のとき R は常に跳ね返るので $e_{\max} = 1$、$m_R > m_P + m_Q$ の場合は R が跳ね返らない条件が付く。

答え:必要な量は $\mu_P', \mu_Q', m_P, m_Q$。$e_{\max} = 1$(弾性衝突が上限)。
補足:Q が滑る条件を $\mu$ で言うと

一体で動こうとすると Q の加速度は $-\mu_P' g$。これを $|\mu_P' g| \leq \mu_Q g$ で判定する。すなわち $\mu_Q \geq \mu_P'$ が一体、$\mu_Q < \mu_P'$ が滑り。$v_R$ の大小には関係なく摩擦係数の大小関係で決まる点が重要。

Point 滑り状態における P・Q の加速度は $v_R$ に依存しない(動摩擦のみで決まる)。これが問題文「$v_R$ の値によらず」の意味。

問3:$0
直感的理解
衝突直後、P は $v_P$、Q は静止($0$)。Q は「P 上を後ろに滑る」状態なので、P が Q から受ける摩擦は後ろ向き(P を減速)、Q が P から受ける摩擦は前向き(Q を加速)。さらに P は床からも動摩擦で減速される。

P の運動方程式:

$$m_P a_P = -\mu_Q' m_Q g - \mu_P'(m_P+m_Q)g$$ $$\therefore\ a_P = -\frac{\mu_Q' m_Q g + \mu_P'(m_P+m_Q)g}{m_P}$$

Q の運動方程式: Q が受ける力は P 上面からの動摩擦のみ(Q と外気・床は接触しない)。Q は P より遅いので、P から見ると Q は後ろに滑る → 動摩擦は前向き。

$$m_Q a_Q = +\mu_Q' m_Q g \ \Rightarrow\ a_Q = \mu_Q' g$$

時刻 $T_1$ までの P の加速度 $A_P$ は滑り状態中は一定で、上記 $a_P$ に等しい(問題文の $A_P$ は平均加速度でなく、この期間中の定数加速度を指す)。

答え:$a_P = -\dfrac{\mu_Q' m_Q g + \mu_P'(m_P+m_Q)g}{m_P}$、$a_Q = \mu_Q' g$、$A_P = a_P$(同じ値)。
別解:P+Q 全体系に外力の合計を適用

P と Q を 1 つの系として見ると、外力は床からの動摩擦 $-\mu_P'(m_P+m_Q)g$ のみ。質量中心の加速度 $a_{cm}$ は

$$a_{cm} = \frac{m_P a_P + m_Q a_Q}{m_P + m_Q} = -\mu_P' g$$

これは系全体のニュートン法則に一致する(内力である PQ 間摩擦は打ち消し合う)ので、上の結果は整合的。

Point P には床+Q 上面から 2 種類の摩擦Q には P 上面からの 1 種類の摩擦のみ。力の図で向きを矢印でていねいに決めることが肝心。

問4:$v_P$、$a_Q$ と $T_1$ での $V$

直感的理解
時刻 $T_1$ は P と Q が「同じ速度」に達した瞬間(相対速度が 0)。それまで Q は加速、P は減速し続け、グラフ上で交わる点が $T_1$。

衝突直後の P の速さ $v_P$: 衝突は瞬時なので問1で求めた通り

$$v_P = \frac{(1+e) m_R}{m_R + m_P + m_Q}\, v_R$$

$T_1$ まで: P は $a_P$ で減速、Q は $a_Q = \mu_Q' g$ で加速。$T_1$ は P と Q の速度が等しくなる時刻。

P: $v_P(t) = v_P + a_P\, t$、Q: $v_Q(t) = 0 + a_Q\, t$。両者が等しい時刻:

$$v_P + a_P T_1 = a_Q T_1 \ \Rightarrow\ T_1 = \frac{v_P}{a_Q - a_P} = \frac{v_P}{\mu_Q' g + \frac{\mu_Q' m_Q g + \mu_P'(m_P+m_Q)g}{m_P}}$$

そのときの共通速度 $V$:

$$V = a_Q T_1 = \mu_Q' g \cdot T_1$$

あるいは $V = v_P + a_P T_1$。

具体的には $v_P, a_P, a_Q$ を使って

$$V = v_P + a_P T_1 = v_P \cdot \frac{a_Q}{a_Q - a_P}$$
答え:$v_P = \dfrac{(1+e)m_R}{m_R+m_P+m_Q}v_R$、$a_Q = \mu_Q' g$、$V = v_P + a_P T_1$(問3の $a_P$ を代入)。
別解:運動量保存で $V$ を直接求める

$0 $$(m_P+m_Q) V - m_P v_P = -\mu_P'(m_P+m_Q) g\, T_1$$ $$V = \frac{m_P v_P}{m_P+m_Q} - \mu_P' g\, T_1$$

これは上の結果と等価($T_1$ を代入すると一致)。

Point $T_1$ は「相対速度 = 0」で定義。 P と Q の v-t グラフが交わる点を図示すると直感的。

問5:停止までの時刻 $T_2$

直感的理解
$T_1$ 以降、P と Q は一体となって速さ $V$ で走る。床からの動摩擦だけを受けるので等減速運動。速さが 0 になる時刻 $T_2$ を求める。

$T_1$ 以降の一体運動: 外力は床からの動摩擦 $-\mu_P'(m_P+m_Q)g$ のみ。共通加速度は

$$a_{\rm cmb} = -\mu_P' g$$

$V$ から $0$ まで減速するのに要する時間:

$$0 = V + a_{\rm cmb} (T_2 - T_1) \ \Rightarrow\ T_2 - T_1 = \frac{V}{\mu_P' g}$$ $$\therefore\ T_2 = T_1 + \frac{V}{\mu_P' g}$$
答え:$T_2 = T_1 + \dfrac{V}{\mu_P' g}$
補足:仕事とエネルギーの観点

一体相で失われる運動エネルギーは $\tfrac{1}{2}(m_P+m_Q)V^2$。これは床摩擦がする仕事 $\mu_P'(m_P+m_Q)g \cdot \ell$($\ell$ は一体相での移動距離)に等しい。

$$\frac{1}{2}(m_P+m_Q)V^2 = \mu_P'(m_P+m_Q)g\, \ell$$ $$\ell = \frac{V^2}{2\mu_P' g}$$

時間で割れば平均速度 $V/2$ から $T_2 - T_1 = \ell/(V/2) = V/(\mu_P' g)$ で同じ結果。

Point $T_1$ までと $T_1$ 以降で加速度が違うので、ひとつの式では書けない。必ず 2 段階に分けること。

問6:Q が P に対して滑った距離 $d$ と はみ出し条件

直感的理解
Q の P に対する相対運動は「初速 $-v_P$、加速度 $a_Q - a_P$」の等加速度運動。相対速度が 0 になるまでに Q は P に対して後ろ向きに $d$ だけずれる。P の中心から円板の半径差 $r_P - r_Q$ 以内にずれが収まれば、Q は P の上からはみ出さない。

相対運動で考える: P の座標系で見ると Q は「初速 $-v_P$、加速度 $a_Q - a_P$」で運動する(P 系が加速系であることに注意するが、慣性力を含めて合計 $a_Q - a_P$ でよい)。相対速度が 0 になる $T_1$ までの相対変位 $\Delta x_{Q/P}$:

$$v_{\rm rel}(0) = -v_P,\quad a_{\rm rel} = a_Q - a_P > 0$$

$T_1$ で相対速度 0:$0 = -v_P + (a_Q - a_P) T_1 \Rightarrow T_1 = v_P/(a_Q-a_P)$(問4と一致)。相対変位:

$$\Delta x_{Q/P} = -v_P T_1 + \frac{1}{2}(a_Q - a_P) T_1^2 = -\frac{1}{2} v_P T_1 = -\frac{v_P^2}{2(a_Q - a_P)}$$

Q は P に対して後ろ向きにずれるので、ずれの大きさは

$$d = \frac{v_P^2}{2(a_Q - a_P)}$$

はみ出さない条件: 初期状態で Q の中心は P の中心と一致(共通軸 $x$)。Q が P 上からはみ出さないためには、Q の中心が P の縁よりも内側にあればよいから

$$d \leq r_P - r_Q \ \Rightarrow\ r_Q \leq r_P - d = r_P - \frac{v_P^2}{2(a_Q - a_P)}$$

これを $r_P$、$v_P$、$a_P$、$a_Q$(あるいは $\mu_P', \mu_Q'$)で書く。

答え:$d = \dfrac{v_P^2}{2(a_Q - a_P)}$、はみ出さない条件 $r_Q \leq r_P - \dfrac{v_P^2}{2(a_Q - a_P)}$。
別解:エネルギー保存での検算

Q—P 間の摩擦でエネルギーが散逸する量は $\mu_Q' m_Q g \cdot d$。これは相対運動の運動エネルギーに等しい:

$$\mu_Q' m_Q g\, d = \frac{1}{2} \mu\, v_P^2\ \text{(換算質量を使う)},\quad \mu = \frac{m_P m_Q}{m_P+m_Q}$$

これを $d$ について解くと上の結果と一致する(直接式を書き下ろすと煩雑なので省略)。

Point 「はみ出さない条件」は相対変位 $d \leq r_P - r_Q$。P 系で相対運動を扱うと一発で答えが出るが、必ず相対加速度 $a_Q - a_P > 0$ であることを確認すること。