水平な平行導体レールの上に、2 本の導体棒 S、T が乗っている。レール全体は鉛直方向(紙面奥向き)の磁束密度 $B$ の磁場の中にある。棒 S・T の間隔は $d$。外側には抵抗 $R$ と起電力 $E$ の直流電源がスイッチ付きで接続されている。3 つの図(図1、図2、図3)でそれぞれ回路構成が変わる。
立式: スイッチを入れた瞬間、棒 S の速度は 0 なので誘導起電力 $\varepsilon = B d v = 0$。回路方程式は単純に
$$E = I R \ \Rightarrow\ I = \frac{E}{R}$$その瞬間、棒 S は電流 $I$ を流し、磁場中で力 $F = B I d$ を受けて動き始める(フレミング左手則)。
$$F = BId = \frac{BEd}{R}$$この力が $m a$ に等しいので初期加速度は $a_0 = \dfrac{BEd}{mR}$。
棒が速度 $v$ になると誘導起電力 $\varepsilon = Bdv$ が発生し、回路方程式は
$$E - Bdv = IR$$運動方程式 $m\dfrac{dv}{dt} = BId = \dfrac{Bd(E - Bdv)}{R}$ を解くと指数関数的に近づく:
$$v(t) = \frac{E}{Bd}\left(1 - e^{-t/\tau}\right),\quad \tau = \frac{mR}{B^2 d^2}$$定常条件: 摩擦なしで水平面上を動くので、加速が止まる条件は「棒に働く力がゼロ」。
$$F = BId = 0 \ \Rightarrow\ I = 0$$回路方程式 $E - Bd v_\infty = IR = 0$ より
$$v_\infty = \frac{E}{Bd}$$このとき誘導起電力 $\varepsilon$ が電源 $E$ とちょうど打ち消し合い、電流は流れない。
定常状態では電流 0、抵抗での損失 0、電源のする仕事 0。棒は一定速度で動くので運動エネルギーの変化もない——すべてつじつまが合う。
非定常状態では電源のする仕事 = 抵抗損失 + 棒の運動エネルギー増加、となっている。
運動方程式: 電源を外した図2では、棒 S が速度 $v$ で動くとき回路方程式は
$$Bdv = I R \ \Rightarrow\ I = \frac{Bdv}{R}$$棒に働く力(磁場から受ける制動力、運動と逆向き):
$$F = -BId = -\frac{B^2 d^2}{R} v$$運動方程式:
$$m\frac{dv}{dt} = -\frac{B^2 d^2}{R} v$$これは線形 ODE で、初期条件 $v(0) = v_0$ の解は
$$v(t) = v_0 \exp\!\left(-\frac{B^2 d^2}{m R} t\right) = v_0 e^{-t/\tau},\quad \tau = \frac{mR}{B^2 d^2}$$棒の運動エネルギー $\tfrac{1}{2}mv^2$ は時間とともに抵抗で熱になる。単位時間あたりの熱損失は $P = I^2 R = (Bdv)^2/R$。
$$\frac{d}{dt}\!\left(\frac{1}{2}mv^2\right) = -\frac{(Bdv)^2}{R}$$ $$m v \frac{dv}{dt} = -\frac{B^2 d^2 v^2}{R} \ \Rightarrow\ \frac{dv}{dt} = -\frac{B^2 d^2}{mR} v$$同じ微分方程式が得られる。
誘導起電力の合計: S が速度 $v_{S1}$、T が速度 $v_{T1}$ で同じ向きに動いているとき、2 本の棒で囲まれた領域の磁束の変化は
$$\frac{d\Phi}{dt} = B d (v_{T1} - v_{S1})$$(T が S より速いなら、S-T 間の面積が増えていくので磁束が増加)。誘導起電力はレンツの法則により、電源 $E$ と合わせた回路方程式:
$$E = IR + Bd(v_{T1} - v_{S1})$$電流 $I$:
$$I = \frac{E - Bd(v_{T1} - v_{S1})}{R}$$棒 S、T に働く磁場力: 電流は同じ $I$ だが、S と T で電流の向きが逆(回路を回るから)なので、ローレンツ力は「同じ大きさで反対向き」。S に働く力の向きを速度方向(右向き)として:
$$F_{S,{\rm mag}} = -BId,\quad F_{T,{\rm mag}} = +BId$$($I > 0$ のとき S は後ろに引かれ、T は前に押される。電源が電流を「押し出す」結果)。
定常条件: 外力 $F_S, F_T$ が磁場力を打ち消す必要がある(等速度だから加速度 0):
$$F_S = BId = \frac{Bd[E - Bd(v_{T1} - v_{S1})]}{R}$$ $$F_T = -BId = -F_S$$誘導起電力が 0 になり $I = E/R$。このとき $F_S = BEd/R > 0$(S を右に押す外力が必要)、$F_T = -BEd/R < 0$(T を左に押す外力が必要)。電源からの電流が両棒に力を与えようとするのを、外力で押し返している状況。
回路方程式: 問5 と同じ形で、$v_{S1} \to v_{S2}$、$v_{T1} \to v_{T2}$ として
$$E = IR + Bd(v_{T2} - v_{S2})$$両棒が定常(一定速度)で、合力が 0 の完全無損失の終端状態では電流 $I = 0$(問2と同じ論法:電流が流れ続けるとエネルギーが散逸してしまう)。
$$0 = E + Bd(v_{T2} - v_{S2}) \cdot (-1) \ \Rightarrow\ v_{S2} - v_{T2} = \frac{E}{Bd}$$ $$\therefore\ v_{S2} = v_{T2} + \frac{E}{Bd}$$これが「電源 $E$ が両棒の速度差を $E/(Bd)$ に保つ」という結果。無損失の定常では棒同士の速度差は電源で一意に決まり、絶対速度は外力で自由に設定できる。
定常で $I = 0$ なら、電源 $E$ は電流を流さず仕事をしない。S、T に加える外力もそれぞれ釣り合い 0。完全な無損失の理想状態。
実際に電流 $I \neq 0$ の定常を作る場合、電源から入ってくるエネルギー $EI$ は抵抗での熱 $I^2 R$ と、棒の仕事(両棒の合計)に分かれる。モーター(電源→仕事)、発電機(仕事→電源)のどちらの役割にもなりうる。
電源なしの 2 棒系: 初期状態で S が速度 $u_1$、T が速度 $u_2$($u_1 \neq u_2$)で動いているとする。電流は誘導起電力の差で決まる:
$$I = \frac{Bd(u_2 - u_1)}{R}$$S の運動方程式(磁場力は進行方向を正とすると電流の向きに注意):
$$m \frac{du_1}{dt} = -BId \cdot \text{sign} = \frac{B^2 d^2}{R}(u_2 - u_1)$$T の運動方程式:
$$m \frac{du_2}{dt} = -\frac{B^2 d^2}{R}(u_2 - u_1)$$両者を足すと $m(\dot u_1 + \dot u_2) = 0$:運動量保存。両者を引くと
$$m \frac{d(u_2 - u_1)}{dt} = -\frac{2B^2 d^2}{R}(u_2 - u_1)$$ $$\Rightarrow\ (u_2 - u_1)(t) = (u_2^{(0)} - u_1^{(0)}) e^{-t/\tau'},\quad \tau' = \frac{mR}{2B^2 d^2}$$相対速度は指数関数的に 0 に近づき、共通速度 $\bar v = (u_1 + u_2)/2$ に収束する(ちょうど非弾性衝突と同じ結末、ただし時間をかけて滑らかに)。
初期の運動エネルギー $\tfrac{1}{2}m(u_1^2 + u_2^2)$ のうち、最終的に運動エネルギーとして残るのは $\tfrac{1}{2}(2m)\bar v^2 = \tfrac{1}{4}m(u_1 + u_2)^2$。散逸する熱量は
$$\Delta Q = \frac{1}{4}m(u_2 - u_1)^2$$これは 2 物体の非弾性衝突で失われるエネルギーと同じ式。
典型値での計算: $B = 0.50$ T、$d = 0.20$ m、$E = 6.0$ V、$R = 2.0$ Ω、$m = 0.10$ kg とする。
問1 数値例: スイッチ投入直後、棒が静止なので
$$I_0 = \frac{E}{R} = \frac{6.0\ {\rm V}}{2.0\ {\rm Ω}} = 3.0\ {\rm A}$$棒に働く力:
$$F_0 = B I_0 d = 0.50 \times 3.0 \times 0.20 = 0.30\ {\rm N}$$初期加速度:
$$a_0 = \frac{F_0}{m} = \frac{0.30\ {\rm N}}{0.10\ {\rm kg}} = 3.0\ {\rm m/s^2}$$問2 数値例: 終端速度
$$v_\infty = \frac{E}{Bd} = \frac{6.0}{0.50 \times 0.20} = 60\ {\rm m/s}$$時定数 $\tau$:
$$\tau = \frac{mR}{B^2 d^2} = \frac{0.10 \times 2.0}{0.25 \times 0.04} = \frac{0.20}{0.010} = 20\ {\rm s}$$→ 約 $3\tau \fallingdotseq 60$ 秒で終端速度の 95% に到達する計算。
問3 数値例: $v_0 = 30$ m/s の初速で減衰開始すると、$t = 20$ s で $v = 30/e \fallingdotseq 11$ m/s、$t = 60$ s で $v \fallingdotseq 1.5$ m/s まで減衰する。