なめらかな斜面(傾角 $\theta$)上に、質量 $M$ の物体 A、その下方 $d$ の位置に質量 $m$ の物体 B が静止。最初は A, B の間で静止摩擦が成立しており、A は斜面から動摩擦係数 $\mu' = \mu/2$ を受ける状態で滑り下り、B に衝突する。衝突後は一体となってさらに滑り続ける。力のつり合い、運動方程式、運動量保存則、エネルギー保存則をすべて使う力学総合問題。$M \gt m$ とする。
立式(A の斜面垂直方向のつり合い):斜面に垂直な方向の力は、重力の垂直成分 $M g \cos\theta$(下向き、斜面に垂直)と、垂直抗力 $N$(上向き、斜面に垂直)。
$$N - M g \cos\theta = 0$$したがって、
$$N = M g \cos\theta$$垂直抗力 $N$ は、斜面と物体が互いに押し合う力。物体が斜面を下向きに $M g \cos\theta$ で押す(重力の垂直成分)、その反作用として斜面が物体を上向きに $N = M g \cos\theta$ で押し返す。
もしこの力が釣り合わなかったら、物体は斜面に垂直な方向に加速してしまう(めり込む/浮き上がる)。現実にはこれが釣り合うので、物体は斜面上を滑るだけ。
$M = 2.0$ kg, $\theta = 30°$, $g = 9.8$ m/s² のとき、
$$N = 2.0 \times 9.8 \times \cos 30° = 2.0 \times 9.8 \times 0.866 \fallingdotseq 17.0 \text{ N}$$$M g$(重力の全体)と比べて $\cos\theta$ 倍小さい。
斜面の問題では必ず重力を斜面平行・垂直に分解する。垂直成分 $M g \cos\theta$ と垂直抗力 $N$ がつり合う、平行成分 $M g \sin\theta$ と摩擦力が関連する。
立式(A の斜面平行方向のつり合い):A が静止しているとき、斜面平行方向の合力は 0。斜面下向きに重力の平行成分 $M g \sin\theta$、斜面上向きに静止摩擦力 $f$。
$$f - M g \sin\theta = 0$$したがって、
$$f = M g \sin\theta$$静止摩擦力には上限があり、$|f| \leq \mu N = \mu M g \cos\theta$。この条件下で、斜面方向のつり合いが成立する必要がある:
$$M g \sin\theta \leq \mu M g \cos\theta \;\Rightarrow\; \tan\theta \leq \mu$$$\mu = \tan\theta$ のとき静止ぎりぎり、それ以上の傾きでは滑り始める。
静止摩擦力は物体が静止を保つために必要なだけの値を取り、最大でも $\mu N$。物体の運動が「なぜ起こらないか」を説明する力。
立式:A が滑っているとき、斜面からの動摩擦力は運動方向と逆向き(斜面上向き)に、
$$f_d = \mu' N$$$\mu' = \mu/2$ かつ $N = M g \cos\theta$ を代入:
$$f_d = \dfrac{\mu}{2} \cdot M g \cos\theta = \dfrac{\mu M g \cos\theta}{2}$$A の斜面方向運動方程式(下向き正):
$$M a = M g \sin\theta - f_d = M g \sin\theta - \dfrac{\mu M g \cos\theta}{2}$$ $$a = g\left(\sin\theta - \dfrac{\mu \cos\theta}{2}\right)$$滑り降りるには $a > 0$、つまり $\sin\theta > \dfrac{\mu \cos\theta}{2}$ すなわち $\tan\theta > \mu/2$ が必要。$\tan\theta = 1$($\theta = 45°$)なら $\mu < 2$ で滑る。
静止摩擦係数 $\mu$ は、物体が動き出す限界。動き始めると動摩擦係数 $\mu' < \mu$ に変わる(本問では $\mu' = \mu/2$)。これが「動き出した瞬間に加速する」現象(stick-slip, ビブラートな動き)の原因になる。
動摩擦力は運動と逆向き、大きさは $\mu' N$ で一定(速度によらない)。この問題では動摩擦係数が静止摩擦係数の半分なので、滑り始めたら加速が強まる。
立式:A が静止するためには、静止摩擦力の最大値が重力の斜面成分を打ち消せる必要がある:
$$M g \sin\theta \leq \mu \cdot N = \mu M g \cos\theta$$両辺を $M g \cos\theta$ で割る($\cos\theta > 0$):
$$\tan\theta \leq \mu$$$\theta = \pi/4$ なら $\tan\theta = 1$ なので、
$$\mu \geq 1$$$\tan\theta_\text{限界} = \mu$ を満たす角度 $\theta_\text{限界}$ を摩擦角と呼ぶ。$\mu = 1$ なら摩擦角は $45°$。これ以下の傾斜では物体は自発的に動かない。
身近な例: ゴムの靴底と木の床の $\mu$ は約 $0.7$ ~ $1.0$、摩擦角 $35°$ ~ $45°$。これより急な坂は歩けない(直立では)。
$\mu = 0.5$ とすると、動摩擦係数は $\mu' = 0.25$。A の加速度は
$$a = g(\sin 45° - \mu' \cos 45°) = g \cdot \dfrac{1}{\sqrt 2}(1 - 0.25) = \dfrac{0.75 g}{\sqrt 2} \fallingdotseq 5.2 \text{ m/s}^2$$かなりの加速で滑り降りる。
静止条件 $\tan\theta \leq \mu$ は超頻出。摩擦角 $\tan^{-1}\mu$ 以下の傾斜では物体は自発的に滑らない。これをもとに動き出す条件を判断する。
設定:A が速さ $v_A$ で動いて B(静止)に衝突し、そのまま一体となる(完全非弾性衝突)。一体となった物体の質量は $M + m$。
立式:運動量保存則を斜面方向で適用:
$$M v_A + m \cdot 0 = (M + m) V$$$V$ について解く:
$$V = \dfrac{M v_A}{M + m}$$$M \gg m$ なら $V \to v_A$(重いA はほぼ速度を変えない)。$M \ll m$ なら $V \to 0$(軽いA は重いB を動かせず、ほぼ停止)。$M = m$ なら $V = v_A/2$。
衝突は瞬間的なので、その間の外力(重力、摩擦力)の力積は無視できる。衝突前後で外力の力積 $\int F\,dt \to 0$ なので、系の運動量は保存する。
エネルギーは保存しない:衝突時に形状変化や熱が発生してエネルギーが失われる(問3 で計算)。
衝突問題では、運動量保存則 + 衝突の種類(完全非弾性 or 弾性 or 反発係数 e)の 2 つの情報から、衝突後の速度が決まる。完全非弾性衝突は「一体化」で、情報として最もシンプル。
立式:衝突前後の運動エネルギーの差を計算する。
衝突前:$KE_\text{前} = \dfrac{1}{2} M v_A^2$
衝突後:$KE_\text{後} = \dfrac{1}{2}(M + m) V^2 = \dfrac{1}{2}(M + m) \cdot \left(\dfrac{M v_A}{M+m}\right)^2 = \dfrac{M^2 v_A^2}{2(M+m)}$
失われるエネルギー:
$$\Delta E = KE_\text{前} - KE_\text{後} = \dfrac{1}{2} M v_A^2 - \dfrac{M^2 v_A^2}{2(M+m)}$$ $$= \dfrac{M v_A^2}{2}\left[1 - \dfrac{M}{M+m}\right] = \dfrac{M v_A^2}{2} \cdot \dfrac{m}{M+m}$$ $$= \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{M m}{M+m} \cdot v_A^2$$$\mu_\text{red} = \dfrac{M m}{M + m}$ を換算質量と呼ぶ。相対速度の運動エネルギーで表記すると、
$$\Delta E = \dfrac{1}{2} \mu_\text{red} v_\text{rel}^2$$ここで $v_\text{rel} = v_A - 0 = v_A$(B は静止)。この表式は、2 体問題を 1 体の問題(換算質量粒子)に帰着させる一般的な手法。
$\dfrac{\Delta E}{KE_\text{前}} = \dfrac{m}{M + m}$。つまり、B(静止していた方)の質量比が大きいほど、失われるエネルギーの割合が大きい。
身近な例: ボウリングの球がピンを倒すとき、ピンが軽いほど球の速度は保持される(エネルギー損失が少ない)。
完全非弾性衝突では、必ずエネルギーの一部が失われる。損失量は $\dfrac{1}{2} \mu_\text{red} v_\text{rel}^2$(換算質量 × 相対速度の 2 乗)。運動量は保存するが、エネルギーは保存しない、という対照的な特徴を覚える。