前期 大問1(力学:斜面上の摩擦と衝突)

解法の指針

なめらかな斜面(傾角 $\theta$)上に、質量 $M$ の物体 A、その下方 $d$ の位置に質量 $m$ の物体 B が静止。最初は A, B の間で静止摩擦が成立しており、A は斜面から動摩擦係数 $\mu' = \mu/2$ を受ける状態で滑り下り、B に衝突する。衝突後は一体となってさらに滑り続ける。力のつり合い、運動方程式、運動量保存則、エネルギー保存則をすべて使う力学総合問題。$M \gt m$ とする。

問題の構成

全体を貫く考え方

問1 (1):A にはたらく斜面からの垂直抗力

直感的理解
重力を斜面に沿った方向と、斜面に垂直な方向に分解する。垂直方向にはたらく力は「重力の斜面垂直成分 $Mg\cos\theta$」と「垂直抗力 $N$」だけ。この 2 つがつり合う。

立式(A の斜面垂直方向のつり合い):斜面に垂直な方向の力は、重力の垂直成分 $M g \cos\theta$(下向き、斜面に垂直)と、垂直抗力 $N$(上向き、斜面に垂直)。

$$N - M g \cos\theta = 0$$

したがって、

$$N = M g \cos\theta$$
答え:
$$\boxed{\; N = M g \cos\theta \;}$$
補足:垂直抗力の物理的意味

垂直抗力 $N$ は、斜面と物体が互いに押し合う力。物体が斜面を下向きに $M g \cos\theta$ で押す(重力の垂直成分)、その反作用として斜面が物体を上向きに $N = M g \cos\theta$ で押し返す。

もしこの力が釣り合わなかったら、物体は斜面に垂直な方向に加速してしまう(めり込む/浮き上がる)。現実にはこれが釣り合うので、物体は斜面上を滑るだけ。

補足:数値例

$M = 2.0$ kg, $\theta = 30°$, $g = 9.8$ m/s² のとき、

$$N = 2.0 \times 9.8 \times \cos 30° = 2.0 \times 9.8 \times 0.866 \fallingdotseq 17.0 \text{ N}$$

$M g$(重力の全体)と比べて $\cos\theta$ 倍小さい。

Point

斜面の問題では必ず重力を斜面平行・垂直に分解する。垂直成分 $M g \cos\theta$ と垂直抗力 $N$ がつり合う、平行成分 $M g \sin\theta$ と摩擦力が関連する。

問1 (2):A が静止している場合の静止摩擦力

直感的理解
A が静止しているなら、斜面平行方向の力のつり合いが成立。斜面下向きに $M g \sin\theta$ の重力成分、斜面上向きに摩擦力 $f$。これらがつり合うので $f = M g \sin\theta$。

立式(A の斜面平行方向のつり合い):A が静止しているとき、斜面平行方向の合力は 0。斜面下向きに重力の平行成分 $M g \sin\theta$、斜面上向きに静止摩擦力 $f$。

$$f - M g \sin\theta = 0$$

したがって、

$$f = M g \sin\theta$$
答え:
$$\boxed{\; f = M g \sin\theta\; (斜面上向き)\;}$$
補足:静止摩擦の成立条件

静止摩擦力には上限があり、$|f| \leq \mu N = \mu M g \cos\theta$。この条件下で、斜面方向のつり合いが成立する必要がある:

$$M g \sin\theta \leq \mu M g \cos\theta \;\Rightarrow\; \tan\theta \leq \mu$$

$\mu = \tan\theta$ のとき静止ぎりぎり、それ以上の傾きでは滑り始める。

Point

静止摩擦力は物体が静止を保つために必要なだけの値を取り、最大でも $\mu N$。物体の運動が「なぜ起こらないか」を説明する力。

問1 (3):A がすべり下りる場合の動摩擦力の大きさ

直感的理解
A が動摩擦で滑るときの摩擦力は $\mu' N$。問題文より動摩擦係数は $\mu' = \mu/2$。$N = M g \cos\theta$ と合わせて $f_d = (\mu/2) M g \cos\theta$。

立式:A が滑っているとき、斜面からの動摩擦力は運動方向と逆向き(斜面上向き)に、

$$f_d = \mu' N$$

$\mu' = \mu/2$ かつ $N = M g \cos\theta$ を代入:

$$f_d = \dfrac{\mu}{2} \cdot M g \cos\theta = \dfrac{\mu M g \cos\theta}{2}$$
答え:
$$\boxed{\; f_d = \dfrac{\mu}{2} M g \cos\theta \;}$$
別解:運動方程式から加速度を算出

A の斜面方向運動方程式(下向き正):

$$M a = M g \sin\theta - f_d = M g \sin\theta - \dfrac{\mu M g \cos\theta}{2}$$ $$a = g\left(\sin\theta - \dfrac{\mu \cos\theta}{2}\right)$$

滑り降りるには $a > 0$、つまり $\sin\theta > \dfrac{\mu \cos\theta}{2}$ すなわち $\tan\theta > \mu/2$ が必要。$\tan\theta = 1$($\theta = 45°$)なら $\mu < 2$ で滑る。

補足:静止摩擦と動摩擦の違い

静止摩擦係数 $\mu$ は、物体が動き出す限界。動き始めると動摩擦係数 $\mu' < \mu$ に変わる(本問では $\mu' = \mu/2$)。これが「動き出した瞬間に加速する」現象(stick-slip, ビブラートな動き)の原因になる。

Point

動摩擦力は運動と逆向き、大きさは $\mu' N$ で一定(速度によらない)。この問題では動摩擦係数が静止摩擦係数の半分なので、滑り始めたら加速が強まる。

問2 (4):$\theta = \pi/4$ で静止する μ の限界

直感的理解
傾角 $\theta$ で物体が静止する条件は $\tan\theta \leq \mu$。$\theta = \pi/4 = 45°$ なら $\tan 45° = 1$ なので、$\mu \geq 1$ で静止、$\mu < 1$ なら滑り始める。

立式:A が静止するためには、静止摩擦力の最大値が重力の斜面成分を打ち消せる必要がある:

$$M g \sin\theta \leq \mu \cdot N = \mu M g \cos\theta$$

両辺を $M g \cos\theta$ で割る($\cos\theta > 0$):

$$\tan\theta \leq \mu$$

$\theta = \pi/4$ なら $\tan\theta = 1$ なので、

$$\mu \geq 1$$
答え:
$$\boxed{\; \mu \geq 1 \;(限界は \;\mu = \tan\theta = 1 \;)\;}$$
補足:摩擦角

$\tan\theta_\text{限界} = \mu$ を満たす角度 $\theta_\text{限界}$ を摩擦角と呼ぶ。$\mu = 1$ なら摩擦角は $45°$。これ以下の傾斜では物体は自発的に動かない。

身近な例: ゴムの靴底と木の床の $\mu$ は約 $0.7$ ~ $1.0$、摩擦角 $35°$ ~ $45°$。これより急な坂は歩けない(直立では)。

補足:$\mu < 1$ のときの振る舞い

$\mu = 0.5$ とすると、動摩擦係数は $\mu' = 0.25$。A の加速度は

$$a = g(\sin 45° - \mu' \cos 45°) = g \cdot \dfrac{1}{\sqrt 2}(1 - 0.25) = \dfrac{0.75 g}{\sqrt 2} \fallingdotseq 5.2 \text{ m/s}^2$$

かなりの加速で滑り降りる。

Point

静止条件 $\tan\theta \leq \mu$ は超頻出。摩擦角 $\tan^{-1}\mu$ 以下の傾斜では物体は自発的に滑らない。これをもとに動き出す条件を判断する。

問2 (5):A と B が衝突後に一体になる際の共通速度 V

直感的理解
完全非弾性衝突(合体)では、運動量保存則だけが使える(エネルギーは失われる)。A が速さ $v_A$ で B(静止)に衝突し、合体して質量 $M+m$ の塊が速さ $V$ で動く。運動量の変化がなしなので、$M v_A = (M + m) V$。

設定:A が速さ $v_A$ で動いて B(静止)に衝突し、そのまま一体となる(完全非弾性衝突)。一体となった物体の質量は $M + m$。

立式:運動量保存則を斜面方向で適用:

$$M v_A + m \cdot 0 = (M + m) V$$

$V$ について解く:

$$V = \dfrac{M v_A}{M + m}$$
答え:
$$\boxed{\; V = \dfrac{M v_A}{M + m} \;}$$
補足:質量比と速度の関係

$M \gg m$ なら $V \to v_A$(重いA はほぼ速度を変えない)。$M \ll m$ なら $V \to 0$(軽いA は重いB を動かせず、ほぼ停止)。$M = m$ なら $V = v_A/2$。

補足:なぜ運動量保存か

衝突は瞬間的なので、その間の外力(重力、摩擦力)の力積は無視できる。衝突前後で外力の力積 $\int F\,dt \to 0$ なので、系の運動量は保存する。

エネルギーは保存しない:衝突時に形状変化や熱が発生してエネルギーが失われる(問3 で計算)。

Point

衝突問題では、運動量保存則 + 衝突の種類(完全非弾性 or 弾性 or 反発係数 e)の 2 つの情報から、衝突後の速度が決まる。完全非弾性衝突は「一体化」で、情報として最もシンプル。

問3 (11):衝突で失われる力学的エネルギー

直感的理解
衝突前の運動エネルギー $\tfrac{1}{2}M v_A^2$ と、衝突後の運動エネルギー $\tfrac{1}{2}(M + m) V^2$ の差が、熱・音・変形として失われる。$V = M v_A/(M+m)$ を代入して整理する。

立式:衝突前後の運動エネルギーの差を計算する。

衝突前:$KE_\text{前} = \dfrac{1}{2} M v_A^2$

衝突後:$KE_\text{後} = \dfrac{1}{2}(M + m) V^2 = \dfrac{1}{2}(M + m) \cdot \left(\dfrac{M v_A}{M+m}\right)^2 = \dfrac{M^2 v_A^2}{2(M+m)}$

失われるエネルギー:

$$\Delta E = KE_\text{前} - KE_\text{後} = \dfrac{1}{2} M v_A^2 - \dfrac{M^2 v_A^2}{2(M+m)}$$ $$= \dfrac{M v_A^2}{2}\left[1 - \dfrac{M}{M+m}\right] = \dfrac{M v_A^2}{2} \cdot \dfrac{m}{M+m}$$ $$= \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{M m}{M+m} \cdot v_A^2$$
答え:
$$\boxed{\; \Delta E = \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{M m}{M + m} \cdot v_A^2 \;}$$
別解:換算質量による表記

$\mu_\text{red} = \dfrac{M m}{M + m}$ を換算質量と呼ぶ。相対速度の運動エネルギーで表記すると、

$$\Delta E = \dfrac{1}{2} \mu_\text{red} v_\text{rel}^2$$

ここで $v_\text{rel} = v_A - 0 = v_A$(B は静止)。この表式は、2 体問題を 1 体の問題(換算質量粒子)に帰着させる一般的な手法。

補足:エネルギー損失の割合

$\dfrac{\Delta E}{KE_\text{前}} = \dfrac{m}{M + m}$。つまり、B(静止していた方)の質量比が大きいほど、失われるエネルギーの割合が大きい。

  • $M = m$: 50% が熱に変換
  • $M = 9m$(A が重い): 10% が熱に変換(A のエネルギーのほとんどは運動エネルギーとして残る)
  • $m = 9M$(B が重い): 90% が熱に変換(A の運動エネルギーのほとんどが失われる)

身近な例: ボウリングの球がピンを倒すとき、ピンが軽いほど球の速度は保持される(エネルギー損失が少ない)。

Point

完全非弾性衝突では、必ずエネルギーの一部が失われる。損失量は $\dfrac{1}{2} \mu_\text{red} v_\text{rel}^2$(換算質量 × 相対速度の 2 乗)。運動量は保存するが、エネルギーは保存しない、という対照的な特徴を覚える。