前期 大問3(波動:ドップラー効果と回転音源)

解法の指針

音波の波動方程式の基本表現から始まり、一次元直線上を動く音源のドップラー効果、そして円運動する音源が観測者に届く音波の振動数変化(円運動ドップラー)までを扱う波動総合問題。

問題の構成

全体を貫く考え方

問1 (1):原点 O での時刻 t における変位

直感的理解
スピーカーは振動数 $f$、振幅 $a$ で単振動している。初期位相($t = 0$ での位相)が $0$ rad なので、標準的な正弦関数 $a \sin(2\pi f t)$ で表せる。

立式:原点 O の空気の変位 $y$ は、振幅 $a$、振動数 $f$、初期位相 0 の正弦関数:

$$y(0, t) = a \sin(2\pi f t)$$

$2\pi f = \omega$(角振動数)を使うと、$y = a \sin(\omega t)$ とも書ける。

答え:
$$\boxed{\; y(0, t) = a \sin(2\pi f t) \;}$$
補足:周期・角振動数との関係

周期 $T = 1/f$、角振動数 $\omega = 2\pi f = 2\pi / T$。これらの関係は正弦波の標準表記で重要。

$$y = a \sin(2\pi f t) = a \sin\left(\dfrac{2\pi t}{T}\right) = a \sin(\omega t)$$
Point

正弦波の基本形 $a\sin(\omega t)$ は、初期位相 0 の場合。問題文で「$t = 0$ での位相(初期位相)を $0$ rad とする」と明記されているので、$\cos$ や他の位相シフトは不要。

問1 (2):位置 x で振動が遅れる時間

直感的理解
音波は音速 $c$ で進む。距離 $x$ を進むのにかかる時間は $x/c$。これが原点での振動が位置 $x$ に到達するまでの「遅れ」。

立式:音波が原点 O から位置 $x$ へ到達するのに要する時間は、距離を速さで割って、

$$\Delta t = \dfrac{x}{c}$$
答え:
$$\boxed{\; \Delta t = \dfrac{x}{c} \;}$$
補足:波長・振動数との関係

波の基本関係 $c = f \lambda$ を用いると、遅れ時間 $x/c$ は位相のずれ $2\pi f \cdot x/c = 2\pi x/\lambda$ に対応する。これは「距離 $x$ を進むと位相が $2\pi x/\lambda$ だけ遅れる」ことを意味する。

Point

音波の基本原理:同じ振動パターンが、時間的に遅れて伝わる。距離を進む時間は $x/c$。これは直感的で覚えやすい。

問1 (3):時刻 t, 位置 x における変位

直感的理解
位置 $x$ での「時刻 $t$」は、原点での「時刻 $t - x/c$」の振動がそのまま届いたもの。$t$ を $t - x/c$ に置き換えた式を書く。

立式:位置 $x$ での時刻 $t$ の変位は、「原点での時刻 $t - x/c$ における振動」そのもの:

$$y(x, t) = y(0, t - x/c) = a \sin\bigl(2\pi f (t - x/c)\bigr)$$

$\lambda = c/f$ を用いて書き換えると、

$$y(x, t) = a \sin\left(2\pi f t - \dfrac{2\pi}{\lambda}x\right)$$
答え:
$$\boxed{\; y(x, t) = a \sin\bigl(2\pi f (t - x/c)\bigr) \;}$$
補足:進行波の一般形との対応

一次元の進行波(+x 方向)の一般形は

$$y = a \sin(k x - \omega t + \phi)$$

あるいは $y = a \sin(\omega t - k x)$(符号反転)。本問の形は後者で、波数 $k = 2\pi / \lambda$、角振動数 $\omega = 2\pi f$。

Point

進行波の基本: 「$t$ を $t - x/c$ で置換」。この置換で、原点の振動の時刻を $x/c$ だけ過去にする=ちょうどその時刻に原点で起きた振動が、いま位置 $x$ に届いている、と読む。

問1 (4)~(6):音源移動時のドップラー効果(時刻の関係)

直感的理解
音源が動きながら音を発する場合、「点 P で時刻 $t$ に聞こえる音」は「音源が時刻 $t' (< t)$ に居た位置から発した音」に対応する。光や音のように有限速度で伝わる波では、この遅延の方程式を立てて解く。

設定:音源(スピーカー)は $x = 0$ から $x$ 正方向に速さ $v$ で動く。$t = 0$ に原点を通過。点 $P$ は位置 $x = L$ に固定。時刻 $t$ に P で聞こえる音は、時刻 $t'$($0 < t' < t$)に音源から発されたもの。スピーカーは P を通り越さない範囲とする。

(4) 音が進んだ距離 $l'$(音の伝播時間から)

音源から発された音が距離 $l'$ を進むのに要する時間は $t - t'$。音速 $c$ で進むので、

$$l' = c(t - t')$$

(5) 音源と P の距離 $l'$(位置から)

時刻 $t'$ に音源は位置 $x = v t'$ にいた。P の位置は $L$ なので、

$$l' = L - v t'$$

(6) $t'$ を $L, c, v, t$ で表す

(4)式 と (5)式 を等しくおいて $t'$ について解く:

$$c(t - t') = L - v t'$$ $$c t - c t' = L - v t'$$ $$c t - L = c t' - v t' = (c - v) t'$$ $$t' = \dfrac{c t - L}{c - v}$$
答え:
$$\boxed{\; l' = c(t - t'),\; l' = L - v t',\; t' = \dfrac{c t - L}{c - v} \;}$$
補足:$c > v$ の条件

分母 $c - v$ が正($c > v$ つまり音源が音速以下で動く)のとき、$t'$ は意味を持つ。音速を超える場合はソニックブームの領域で、別の扱いが必要。

また、$t' \geq 0$ なら $c t \geq L$、つまり「音源が $x = 0$ から音を発してから時間 $L/c$ 以上経っている」という自然な条件になる。

Point

移動音源のドップラー効果を遅延時間の方程式で扱う方法。2 つの式を連立するだけでよい。この方法は光速の問題(ミンコフスキー時空、宇宙での信号)でも同じ形で応用可能。

問1 (7):P における時刻 $t$ の空気の変位

直感的理解
P で時刻 $t$ に観測される振動は、時刻 $t'$ に音源が放った振動($a \sin(2\pi f t')$)そのもの。これに (6) で求めた $t'$ を代入するだけ。

立式:点 P で時刻 $t$ に観測される変位は、音源が時刻 $t'$ に発した変位と等しい。音源は振幅 $a$、振動数 $f$ で振動しているので、時刻 $t'$ に発する変位は $a \sin(2\pi f t')$。

$$y_P(t) = a \sin(2\pi f t')$$

(6) の結果 $t' = \dfrac{c t - L}{c - v}$ を代入:

$$y_P(t) = a \sin\left(2\pi f \cdot \dfrac{c t - L}{c - v}\right)$$
答え:
$$\boxed{\; y_P(t) = a \sin\left(2\pi f \cdot \dfrac{c t - L}{c - v}\right) \;}$$
補足:観測される振動数(ドップラー効果)

位相を $t$ で微分すると観測角振動数:

$$\omega_\text{obs} = 2\pi f \cdot \dfrac{c}{c - v}$$

観測振動数 $f_\text{obs} = \dfrac{\omega_\text{obs}}{2\pi} = f \cdot \dfrac{c}{c - v}$。これが音源が観測者に近づくときのドップラー効果の公式。$v < c$ なら $f_\text{obs} > f$(音が高く聞こえる)。

補足:具体例

$f = 1000$ Hz, $c = 340$ m/s, $v = 20$ m/s のとき、

$$f_\text{obs} = 1000 \times \dfrac{340}{320} \fallingdotseq 1062.5 \text{ Hz}$$

音源が近づくとき、約 62.5 Hz 高い音として聞こえる。

Point

ドップラー効果の位相シフトによる導出法:$y = a \sin(2\pi f t')$ の $t'$ に「時刻の方程式」を代入することで、観測者から見た見かけの振動数が自動的に得られる。公式を暗記するより、この位相追跡の考え方で解く方が本質的。

問2 (あ):振動数の変化が最大のグラフに対応する回転台

直感的理解
回転する音源からの音は、回転方向の速度成分に応じて振動数が時間変化する。振幅(振動数の最大値 − 最小値)は回転台の接線速度 $r\omega$ に比例、周期は回転周期 $2\pi/\omega$ に等しい。グラフの振幅と周期から、回転台 A, B, C を対応付ける。

物理:回転する電子ブザー(音源)が観測者から見て近づくときは音が高く、遠ざかるときは低く聞こえる。角速度 $\omega$ の円運動なので、観測者方向の速度成分は $v_r(t) = r\omega \sin(\omega t)$(観測者が十分遠く、回転半径 $r$ と比べて距離が十分大きい場合)。ドップラー効果の公式から、

$$f_\text{obs}(t) = f \cdot \dfrac{c}{c - v_r(t)} = f \cdot \dfrac{c}{c - r\omega \sin(\omega t)}$$

$v_r \ll c$ の近似で、

$$f_\text{obs}(t) \approx f\left(1 + \dfrac{r \omega}{c} \sin(\omega t)\right)$$

3 つのグラフ(回転台 A, B, C に対応)から:

問題文の対応から、最も振幅が大きく、かつ最も周期が短いのはC

答え:
(あ) 振動数が最大 → 振幅が最大のグラフは $r\omega$ が最大の回転台
(い) 振動数が最小 → 振幅が最小のグラフは $r\omega$ が最小の回転台
(う) 角速度が最大 → 周期が最短のグラフの回転台
グラフの対応に応じて A, B, C を選ぶ。振幅の順(大→小)と周期の順(短→長)を照合する。
補足:具体例での振動数計算

$f = 1000$ Hz, $c = 340$ m/s, $r = 0.5$ m, $\omega = 10$ rad/s($r\omega = 5$ m/s)のとき、

$$f_\text{max} = 1000 \times \dfrac{340}{340 - 5} \fallingdotseq 1014.9 \text{ Hz}$$ $$f_\text{min} = 1000 \times \dfrac{340}{340 + 5} \fallingdotseq 985.5 \text{ Hz}$$

振動数の振幅は約 $\pm 15$ Hz で、周期は $2\pi / 10 \fallingdotseq 0.63$ s。

補足:半径と角速度の独立性

振動数の振幅(音程の揺れ幅)は $r\omega$ に比例するので、半径 $r$ が 2 倍なら振幅 2 倍、$\omega$ が 2 倍なら振幅 2 倍。しかし周期は $\omega$ にのみ依存し、$r$ は関係ない。グラフの横方向(周期)は $\omega$、縦方向(振幅)は $r\omega$ を反映する。

Point

回転する音源のドップラー効果では、「観測者への視線方向の速度成分」が変化する。振幅 ∝ $r\omega$周期 = $2\pi/\omega$ の 2 つの関係式から、グラフと回転台を対応付ける。振動数が最も大きく変化する(振幅の大きい)のは接線速度 $r\omega$ の大きい回転台。